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ニーラの食欲

 処女航海に出てから既に一週間が過ぎた。

 リヴァイアタンが帆船を運んでくれているので、予定よりも早く着きそうだと船長が言っている。


 ピッカァァァァーーーーーー!!

 ゴロゴロ、ゴロゴロ。

 ドッカァァァ〜〜〜〜〜〜ン!!


 雷がリヴァイアタンにまた落ちたみたい。

 外は嵐で、暴風雨。


 雷は帆船に落ちて、甚大な被害をだすこともあると聞かされた。

 しかし、今はリヴァイアタンの口の中に帆船が浮かんでいるので安全だ。


 しかも、リヴァイアタンの口の外は大波で荒れ狂っているのに、ここは無風状態で殆ど揺れを感じない。

 これ程、安全な所はないよな。


 更に、帆船の周りの海水はイケス状態。

 リヴァイアタンが、魚、エビ、カニなどの群れを海水ごと汲み上げてくれたので、新鮮な魚介類には困らない。


 帆船がリヴァイアタンの中で浮いているだけなので、何もすることのない船員達は魚釣りをして楽しんでいる。

 エイル姉ちゃんも毎日新鮮な魚介類に、舌鼓を打って満足している。


 しかし、魔王の娘ニーラだけは、好物のエビを丸ごと生で食べれないので最近食欲が落ちてきている。

 人間の世界に慣れるために、エビの中身だけを食べているからだ。


 なんとかしてあげたいけれど、今の俺にもどうする事もできない。

 好物の食材を目の前にして、食べられない気持ちはよく分かる。


 俺がこの世界に来てから長い間、美味しい料理が目の前にあっても食べれなかった。

 俺が赤ちゃんで、ミルクしか飲めないのは分かっていたけれど……。


 今日の昼も魚介類で、魚と貝の身が入ったトマト煮。

 ニーラはそれを見て言う。


「魔族は魚を食べる時、生のまま食べるんです。

 魚介類の身だけを、焼いたり、煮たりする料理は聞いた事がありません。


 作ってくれた人には申し訳ないのですが、食欲がわかないのです。

 トルムル様の考案したクロワッサンだけ食べます」


 それを聞いたエイル姉ちゃんが心配顔で言う。


「ニーラの言うのは理解できるわ。

 けれど、育ち盛りの時期にクロワッサンだけなんて良くない。


 無理してでも色々な食材を食べないと体を壊してしまう。

 クロワッサンは美味しいけれど、栄養的には偏っているのよ。


 トルムル、何か手はないかしら?」


 急に俺に振られても、困るんですけれど……?

 えーと、ニーラの食欲を戻せばいいんだよな。


 何かないかな……?


 まてよ!

 元いた世界では、魚を生で食べていたよな。


 しかも、魚の頭と骨は油で揚げて、お爺ちゃんが酒のツマミとして食べていた。

 更に、エビを潰して丸ごと油で揚げて、煎餅として食べていたお爺ちゃん。


 そうだよ、これだよ。

 何で、今まで気がつかなかったんだろう。


 俺は、可愛い乳歯4本を見せて、微笑みながら言う。


「にーらの、きにいる、りょーり、つくる。

 まかせて」


 それを聞いたニーラが、急に笑顔になった。

 俺を全面的に信じているので。


 言葉では時間がかかるので、早速、紙に作り方を書き始める俺。

 今回は魚介類の煎餅と、刺身。


 エビ煎餅は、手のひらサイズのエビを選ぶ。

 重力魔法で押しつぶして、平たくする。


 そこに塩を適量振りかけて、片栗粉をまぶし、油で二度揚げする。

 とても簡単で、エビを丸ごと味わえるのでニーラも気にいるはずだ。


 小さい魚は、エビと同じ要領で揚げればいい。

 中型の魚は、最初に身を取り外す。

 頭は兜割にして重力魔法でつぶし、平たくすれば後はエビと同じだ。


 問題は魚の身だ!

 そのまま切って刺身のように食べてもいいのだけれど、それだと人間が食べれないし、ニーラだけ食べれば、きみ悪がる。


 そこで考えたのが表面だけ焼いた刺身だ。

 皿に平たく並べた刺身に、弱い火炎魔法で表面だけ焼く。


 それに薬草を加え、柑橘類と酢を混ぜ合わせたソースを掛ける。

 醤油で食べたい所だけれど、この世界にはないし、作り方も知らないので妥協するしかないよな。


 ニーラは、俺が書いたレシピを見ると目を輝き始める。

 火を通しているとはいえ、丸ごとのエビと魚が食べれるのが気に入ったみたいだ。


 エイル姉ちゃんは、慎重に考えを巡らしている。

 何かを閃いたみたいで言う。


「トルムルってば、凄いアイデアを思いついたわね。

 このエビと、魚を揚げた物は商品として売れるわ。


 海の近くでしか食べれなっかったエビや魚を

 、内陸部で売ることができる。

 それに、大量に水揚げされた時に、エビが売れ残る事もあるとスィーアル王子が言っていたけれど、これで解決できるわ。


 夕食で試食しましょう。

 ニーラも、もちろん参加よね?」


 ニーラは高速に瞼を動かしながら言う。


「もちろんお願いします、エイルさん。

 エビが丸ごと食べれるなんて、とても楽しみです」


 良かったよ。

 これでニーラの食欲が戻るはずだ。


 でも、俺とウール王女はエビを試食できないのが残念。

 だって、乳歯4本では、食べたくても食べれない……。


 ◇


 モージル妖精王女も夕食の試食会に誘いたかったけれど、数日前から居ない。

 妖精の国に緊急で帰っている。


 どうやら奪われた3つの国で、不穏な動きがあったらしい。

 確実な情報が入り次第、俺に連絡を入れると言っていた。


 とにかく今は、ニーラの食欲を取り戻すことが最優先だ。

 食欲がなくなって病気にでもなったら大変。


 ニーラの魔法能力は特殊で、魔王に支配された魔物達を正常な状態に戻す事ができる。

 これからの魔物との戦いには、ニーラの能力は絶対必要だ!


 病気でニーラが戦線に行けなくなると、魔物達は魔王に精神を支配されたままだ。

 エビ煎餅でニーラの食欲を取り戻し、魔物達を魔王の手から解放するんだ〜〜〜〜!!


「トルムル、大丈夫なの……?

 もうすぐ、試食が始まるわよ」


 エイル姉ちゃんが現実に引き戻してくれた。

 給仕係が、軽く炙った刺身を俺の前に置いた。


 作り方は教えたけれど、実際に美味しいかは食べてみないと分からない。

 でも、思った以上にいい香りがしてくる。


 俺は、赤ちゃん用の小さな木のスプーンで掬って炙った刺身を食べた。

 俺とウール王女だけは、歯が少ないので細かく切ってある。


 口の中に入れると、程よい酸味と良質のオリーブオイルの味がした。

 咀嚼すると、柔らかな魚の身からは、甘みと旨みを感じる。


 思った以上に、完成された一品だ!

 半生はんなまだけれど、この一品を果たしてニーラが気に入ってくれるのだろうか……?


 ドキドキしながらニーラを見ると、高速に瞬きをしている。

 あの動作は間違いなくビックリしている。


 でも、美味しくてビックリしているのか、不味くて驚いているのか分からない。

 ニーラは俺が見ているのを気が付いて笑顔で言う。


「さすがハゲワシ様です。

 生で魚を食べるよりも、こちらの方が数倍も美味しいです」


 隣にいるエイル姉ちゃんが、満足な顔で言う。


「完全に生だと抵抗があるんだけれど、表面を少し焦がしてあるので食べれたわ。

 それに、とっても美味しい。


 火を通した魚の身と比べると、違った甘みと旨みを感じたわ。

 同じ魚なのに、こんなに味が違うなんて、とても不思議」


 エイル姉ちゃんの彼氏であるスィーアル王子が言う。


「魚料理も大好物だったのですが、この料理で更に好きになりました。

 エイルさんの言うように同じ魚なのに、こんなに味が違って、更に美味しく感じます」


 ヒミン王女もウール王女も気に入ってくれたみたいだ。

 ただし、リトゥルだけは元々魚が嫌いだったみたいで、一口も食べないでいる。


 次に、エビと小魚の煎餅が出されたけれど、俺とウール王女の前に、給仕係が持ってこなかった。

 こればかりは仕方がないなと、諦めるしかない。


 ニーラを見ると、今までで見た中で、最高の笑顔でエビ煎餅の匂いを堪能している。

 そして、ゆっくりと口を開けると、少しだけかじって食べ始めた。


 瞼を高速に動かしながら、二口目をたべる。

 更に三口目と、エビ煎餅が無くなるまで食べる動作を止めなかった。


 余程美味しかったのか、食べ終わると興奮しながら言い始めた。


「こんなに美味しいエビを食べたのは初めてです。

 ハゲワシ様、私の為に本当にありがとうございました」


 そう言って、2枚目のエビ煎餅を食べ始めるニーラ。

 これでニーラの食欲が戻って一安心。


 バリバリ、バリバリ。


 ヒミン王女の方で、何かを細かく砕いている音が聞こえる。

 何をしているのか見ると、エビ煎餅を細かく砕いていた。


 あ、そうか!

 ウール王女がエビ煎餅を食べれないので、細かくしているんだ。


 砕き終わったエビ煎餅を、ヒミン王女はウール王女の皿に半分だけ入れた。

 そして俺の方に向くと言う。


「トルムル様も、細かく砕いたエビ煎餅は要りますか?

 これだと、少ない乳歯でも食べれると思うのです」


 流石、ヒミン王女だ!

 そこまで気が回らなかったよ。


 ヒミン王女にお礼を言う。

 細かく砕かれたエビ煎餅からは、エビを揚げた香ばしい匂いがしてくる。


 スプーンで掬って口の中に入れる。

 咀嚼すると、懐かしい味がする。


 美味しい!

 まさにこれは、お爺ちゃんが作っていた味そのもの。


 突然、モージル妖精王女が現れた。


「ただ今戻りました、トルムル様」


 モージル王女は次を言いかけたけれど、食卓にあったエビ煎餅に釘ずけになる。

 ヒドラ独特な鼻を動かして匂いを嗅いでいる。


『報告の前に、そちらの美味しそうな食べ物を、私も試食してもいいでしょうか?

 重要な報告ですが、そこまで緊急でもないので』


 重要な報告が気になるけれど、モージル妖精王女達も食べたいよな。

 俺は当然だよと言うと、横で聞いていたエイル姉ちゃんがモージル妖精王女達に、エビ煎餅を3つに小さく割ってあげた。


 カリカリ、カリカリ。

 カリカリ、カリカリ。

 カリカリ、カリカリ。


 王女達は体が小さいけれど、丈夫な歯を持っている。

 その音は、まるでネズミがかじっているみたいに聞こえるのは、俺だけだろうか……?


 モージル王女達が、夢中で食べているので気に入ったみたいだ。

 リトゥルは、今度は食べたみたいで、何かを持った様な手のそぶりで言う。


「これは、これは。

 酒が欲しくなるような一品ですな」


 ギク〜〜!


 ま、まさに、これはお爺ちゃんが酒のツマミに食べていた物!

 リトゥルを、俺は侮っていたのか……?


 でも、最初の目的を果たしたから、良いとしますか。

 それから俺たちは、出されたエビ煎餅を全て食べ、堪能した。


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