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お茶目なリヴァイアタン

 リヴァイアタンからは、邪悪な感情が完全に消えている。

 どうして自分が氷漬けになっているのかと、戸惑いも伝わってきている。


 リヴァイアタンは魔王からの支配を完全に脱したみたいだったので、水深が半分になった海域に俺は海水を戻し始める。

 いきよいよく流れ落ちる海水の衝撃で、氷漬けになったリヴァイアタンの大きな塊が浮上してくる。


 周りと同じ海面に氷漬けになったリヴァイアタンの塊が達した時、俺は海水を操る魔法を止めた。

 ウンディーネの体から、心が元の体に戻った俺。


 思ったよりも、簡単に心が移動できたので自分でも驚いている。

 ウンディーネの能力を俺が操れたと言う事は、全ての妖精に対しても、それぞれの能力を使える事を意味する。


 これって、無茶苦茶凄いよな!


 あ、そうだ!

 氷漬けになったリヴァイアタンは、元のお茶目な性格に戻ったのだろうか?


 でも、あの巨体でお茶目って、ムチャクチャ怖いんですけれど……?

 大きな声を出しただけで大波が発生したし……。


 ウール王女とニーラがいるリヴァイアタンの近くに移動する。

 ニーラが、少し心配顔で言う。


「元のリヴァイアタンに戻ったのですが、トルムル様が凍らしたので動けないみたいなのです。

 リヴァイアタンが動けるように、氷を溶かしてもらないでしょうか?」


 リヴァイアタンを見ると、巨大な目を動かしているだけで、それ以外は身動きが取れないみたい。

 畏怖の目で俺を見ており、氷を溶かしくれと懇願の感情も伝わってくる。


 戦意を感じないので、リヴァイアタンに火炎の魔法を使って、頭の周りの氷を溶かし始める。


 ジュワァァァァ~~~~~~~~!!


 高熱によって、氷が水蒸気になって上空に上がっていく。

 猛火によって、リヴァイアタンにダメージが及ぶと思って意識を向けると、暖かくて気持ちがいい感情しか伝わってこなかった。


 人間だったら一瞬で蒸発する猛火を、気持ちが良いなんて……。

 何という防御力!


 ある程度首が回るようになったリヴァイアタンは自分で猛火を口から吐き、氷を溶かしてゆく。

 半分ぐらい体の周りの氷が溶けたリヴァイアタンは、今度は頭を使って動きの取れない箇所の氷にぶつかって行く。


 ゴォ~~~~~~ン!

 ゴォ~~~~~~ン!

 ゴォ~~~~~~ン!


 大きなヒビが氷に幾重にも入っていくと、リヴァイアタンは体をくねらせ、残りの氷を剥がす。

 リヴァイアタンはニーラに泳いで近付いて行くと小さな声で言う。



「ニーラ様、申し訳ありません。

 不本意ながら、魔王の言いなりになっていたようです。


 正気に戻してくれて、感謝の念にたえません」


 ニーラは俺を見ながら言う。


「全ては、ハゲワシ様のおかげなのです。

 リヴァイアタンからも、お礼を言って下さい」


 リヴァイアタンは俺に近付いて言う。


「姫さま共々お世話になった。

 これは、私からのお礼です」


 そう言うとリヴァイアタンは、巨大な口を大きく開き始めた。

 お礼が、口を大きく開ける事……?


 口の奥から、何かが急速に迫っている。

 でも、危害を加える気配を全く感じなかったので、少し怖かったけれどそこに踏み止まった。


 喉の奥から、霧のようなものが出てきて俺を覆う。

 リヴァイアタンの魂なのか……?


 シットリとした霧で、リヴァイアタンの心が、俺の心と同調している感覚!

 もしかして、これは……?


 ニーラは、にこやかな笑顔で俺に話しかける。


「ハゲワシ様、良かったですね。

 これで、リヴァイアタンと遠く離れていても会話ができ、必要であれば彼を呼べるようになりました。


 それに、リヴァイアタンの霧は、お肌の艶が格段とよくなるんですよ。

 私もしてもらって、数年は持続するんです」


 ……?

 リヴァイアタンと会話ができるって?


 その意味するところは、もしかして……?

 リヴァイアタンに、俺の心を移動できるって事だよね!


 それに、皮膚を触ったらスベスベしている。

 これで俺も、皮膚のうるおいを保てるのか?


 ヒミン王女が、いつも俺の肌の艶を心配していたから丁度いいよね。

 リヴァイアタンは、俺と心が繋がった事を確かめて、心で話しかけてくる。


『世界を救うのは、ハゲワシ様しかいません。

 私も微力ながら協力したいと思います。


 魔王を倒すまで、どんな協力も惜しみません。

 宜しくご指導のほど、おねがいいたします』


 リヴァイアタンを微力なんて、誰も思わないよ。

 それに、伝説上のリヴァイアタンが、俺にご指導をおねがい……?


 俺、まだ赤ちゃんなんですけれど……。


 ◇


 帆船に戻って窓から部屋に入ると、エイル姉ちゃんが待っていた。

 ハゲワシから赤ちゃんに俺は戻ると、服を着替える。


 甲板かんばんに出ると、巨大なリヴァイアタンが大口を開けて帆船に近付いて来ている。

 船員達はパニック状態。


 リヴァイアタンが帆船を目的地近くまで運んでくれると言ってくれたのでお願いをした。

 けど、どうやって帆船を運ぶのだろうか?


 命力絆ライフフォースボンドを使って、エイル姉ちゃんとヒミン王女には、リヴァイアタンが帆船を運んでくれる事を予め伝えていた。

 船員達にもそれが伝わっているはずなのに……。


 まぁ、あの巨大な口が迫って来るのは、迫力があるのは間違いない。

 更に近づいて来ると、帆船を飲み込むが如く、更に大きく口を開けるリヴァイアタン。


 歯の大きさが、半端ないんですけれど……。

 もしかして、口の中に帆船を入れて運ぶの?


 完全にリヴァイアタンの口の中に帆船が入ったよ!

 帆船を海水ごと口の中に入った状態で、リヴァイアタンは俺に連絡をしてくる。


『ハゲワシ様、これでよろしいですか?』


 なんと、帆船がリヴァイアタンの口の中で浮かんでいる!

 帆船が口の中に収まるなんて、どれだけ大きいんだリヴァイアタンは!


 驚いてばかりはいられないので、リヴァイアタンに連絡をいれる。


『これで、いいと、おもう。

 よろしゅく』


 宜しくが、い、言えない。

 ここは、カッコよく決める所なのに……。


『それでは出発をする』


 リヴァイアタンは海水ごと帆船を持ち上げると泳ぎだす。

 その速さといったら、帆船が出せる最大船速の数倍の速さだ!


 近くにいるエイル姉ちゃんが、口を両手で抑え、大きな目を更に大きくして言う。


「トルムルは凄いと思っていたわ。

 でもまさか、伝説のリヴァイアタンを友達にするなんて!


 しかも、リヴァイアタンに帆船を運ばせるなんて、後世に残る出来事よこれ!」


 エイル姉ちゃんに褒めてもらうと嬉しい。

 元賢者の長、リトゥルがヒミン王女に近付きながら言う


「儂は夢を見ているのか?

 伝説のリヴァイアタンの口の中に、儂は本当に居るのか?」


 リトゥルは右手を出しながら、ヒミン王女に近付いた。

 王女は怪しい動きのリトゥルを、いきなり遠くに投げ飛ばす。


 投げ飛ばされたリトゥルは起き上がって言う。


「なんと、これは夢ではない!」


 リトゥルって、それを確かめたくてワザと投げ飛ばされたの……?

 ヒミン王女が目を輝かせながら言う。


「流石、トルムル様です。

 大賢者もしたことのない偉業を成し得ました!」


 これって偉業なの?

 自覚が全く無かった俺。


 エイル姉ちゃんの彼氏でもある、スィーアル王子が言う。


「流石です。

 リヴァイアタンを味方につけた今、海は安全に航行できそうです」


 海で最強だと言われていたリヴァイアタンを味方につけたからな。

 これで、安心して航行できる。


 ウール王女が俺に抱きついて、頬にキスをしてくれる。


「トルムル、大好き。

 いっしょう、ついていきます」


 え……?

 一生って言ったの、ウール王女?


 それって、意味がとっても深い。

 まだお互い、一才を迎えてないんですけれど……?


 リヴァイアタンが言う。


『船旅は長いので、面白い事を考えました。

 楽しんで下さい』


 面白い事って何?

 更に何かするの、リヴァイアタン?


 突然リヴァイアタンの頭が下がると、いきよいよく海水ごと前方に帆船を吐き出す。

 帆船は、その勢いで海面を滑るように進んで行く。


 勢いで、水しぶきが帆船の両脇で高く上がり、太陽の光を浴びて虹が出現する。


 ワァーオ!

 これって、最高に気分がいいよ。


 船足が遅くなると、再び帆船を口の中に入れて同じ事を繰り返すリヴァイアタン。


 最初、怖がっていた乗組員達。

 でも、リヴァイアタンの嬉々とした笑い声に、彼らの大きな歓声が巻き起こっていった。


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