水の妖精ウンディーネ
魔王の娘ニーラ、ウール王女、水の妖精ウンディーネ、そして俺がリヴァイアタンに近付いて行くと、予想をはるかに上回る大きさに戸惑う俺達。
以前戦った、クラーケンの数倍の大きさだ!
島が、そこにあるのではと思うぐらい巨大。
リヴァイアタンが俺達に気付くと、怒り、狂った声で言う。
「お前は噂のハゲワシ!
ニーラ様を拐かしたのはお前だったのか!
ニーラ様、こちらに早く!
奴から離れるのです」
リヴァイアタンの言葉は耳をつん裂き、大波が周りに発生している。
言葉を発するだけで、大波が起こるなんて!
魔王によって、心を支配されているリヴァイアタンに向かって、ニーラは必至に言う。
「自分の意思で、お父様から逃げて来たのです。
リヴァイアタン、目を覚まして!
貴方はお父様に操られているのです!
お願いだから私を信じて!」
リヴァイアタンは、ニーラの言葉に動きが止まった。
でもリヴァイアタンはすぐに動き出し、大きな口を開けて俺達に襲いかかって来た。
帆船をも丸呑みに出来そうな巨大な口!
しかし、余りにも大き過ぎるリヴァイアタンは、動きが少し遅い。
俺とウール王女は、余裕でニーラを連れて上空に逃げる事が出来た。
「おのれ〜〜、ハゲワシめ〜〜!」
下の方でリヴァイアタンが‘悔しがっている。
俺達を捕まえるのが無理だと判断すると、帆船の方に泳ぎだした。
や、やばい!
リヴァイアタンは巨大だから、泳ぐのが無茶苦茶早いィィィ〜〜!
このままだと、全速で逃げている帆船に追いつく〜〜。
俺は横に居る、ウンディーネに早口で言う。
「おおうずを、おこちゅーー!」
起こすが、い、言えない……。
イヤイヤ、そんなことよりもリヴァイアタンだ!
ウンディーネはリヴァイアタンと帆船の間に、いくつもの大渦をつくった。
さっきよりも泳ぐ速さが落ちたリヴァイアタンだけれど、大渦に飲み込まれる事なく帆船との距離を縮めている。
大渦とリヴァイアサンと同じぐらいの大きさだから、足止めにはなっていない!
このままだと、いずれ追いつかれる。
どうする俺……?
そうだ!
ニーラの能力を使って、リヴァイアタンを魔王の支配から開放するのを忘れていたよ。
きっと、オシャブリを念入りに吸わなかったから忘れたんだ。
俺も、まだまだ若いよな……。
俺は今度、ニーラに早口で言う。
「にーらの、のうりょく〜〜、つかう〜〜!」
お……。
思った以上に早く、しかも正確に言えたよ俺〜〜!
嬉しい〜〜!
って、喜んでいる暇はな〜〜い!
ニーラは頷くと、リヴァイアタンに向かって呪文を唱え始める。
今まで使ったことの無い能力なので、精神統一の為に呪文を唱えているんだ。
呪文を唱え終わると、ニーラは両手をリヴァイアタンに向けて魔法を発動する。
黒い塊がニーラの手から放たれると、リヴァイアタンに向かって行く。
しかし、リヴァイアタンの頭に狙ったであろう黒い物は、リヴァイアタンからそれて、虚しく海の中に消えた。
遠くから狙ったから、リヴァイアタンに当たらなかったんだ。
でも、リヴァイアタンの近くに行けば捕まってしまう。
どうする俺!
そうだ!
絶対零度の魔法だ!
クラーケンを凍らして魔石に変えた魔法があったよ。
オシャブリを念入りに吸って精神を統一すると、俺は手の中でイメージを開始する。
絶対零度のイメージができたので、リヴァイアタンめがけて俺は魔法を発動した。
ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜。
銀色の大きな塊が、リヴァイアタン目掛けて行く。
塊の通った後には、ダイアモンドダストが冬の太陽を浴びてキラキラと輝いている。
カッキィィ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!
下の方で、海面が凍った音がする。
ダイアモンドダストが風に流されて視界が元に戻ると、リヴァイアタンが氷漬けになっていのが見える。
よかった〜〜。
思ったより簡単だったよ。
バッキィィィ〜〜〜〜〜〜!!
バッキィィィ〜〜〜〜〜〜!!
バッキィィィ〜〜〜〜〜〜!!
何度も氷を割る音が聴こえてきている。
氷は割れて、リヴァイアタンが再び泳ぎだした〜〜!
リヴァイアタンの周りの海が凍ったと思っていたら、表層だけだったみたい……。
凍っていなかった巨大な尻尾で、下から氷を壊したんだ。
リヴァイアタンが大きすぎて、全部凍らなかったみたい……。
さっきのが、今の俺に出来る最大の絶対零度。
クラーケンを倒した時みたいに、海が浅かったら全部一度に凍るんだけれど……。
この辺りは大洋なので水深はかなり深い。
どうする俺……?
何か手はないのか。
このままだと帆船が危ない!
そうだ!
水深を半分にすると、リヴァイアタンを一度に凍らせる事ができるはず。
ウンディーネにその事を伝えると、悲しそうに言う。
「リヴァイアタンが余りにも大きいので、その海域の水深を半分にするのは、私の魔法能力では出来ないのです。
魔法能力が高ければ可能なのですが……」
リヴァイアタンがあまりにも大きいため、ウンディーネの能力が使えない。
どうにかして、リヴァイアタンを止めないと!
もしかして、痺れの毒が有効か?
いや、リヴァイアタンが巨体なので、それ相応の毒の量が必要。
今の俺のレベルでは、動きを止める量の毒が出せない。
ウール王女を見ると、真剣な表情で俺を見ている。
トルムルが、きっとリヴァイアタンを止めてくれるという感情と共に!
どうする俺!
もう、手がないのか?
ウール王女を見ていると、王女の体に、俺の心が移動できた事を思い出した。
もしかして、ウンディーネの体に、俺の心が移動できる……?
もし出来れば、俺の魔法とウンディーネの能力が合わされば、水深を半分にできるはずだ!
モージル妖精女王と俺は心で繋がっている。
全ての妖精達は、王女と心で繋がっている。
王女の心を通って、ウンディーネに入る事ができるはずだ!
その間、俺の体はウール王女に守ってもらえればいい。
何かあれば、隼のごとく逃げる事が出来る。
迷っている暇はない。
帆船にリヴァイアタンはもうすぐ追いつく。
俺の考えた事をウンディーネとウール王女に伝える。
それを聞いたウンディーネは驚きながらも言う。
「今まで聞いた事はないですが、もしかしたら可能かもしれません。
トルムル様に、私の体を委ねます」
ウンディーネはそう言うと、目を閉じる。
俺の体は、隣で聞いていたウール王女に渡す。
王女も驚いていたけれど、俺の体をしっかりと重力魔法で受け止めてくれた。
俺はすぐに、モージル妖精王女の心を経由して、ウンディーネの気配を探した。
見つけた!
ウンディーネの気配!
妖精の国に行った要領で、心だけウンディーネに移動する。
……?
体が軽い……。
ウンディーネの体が、こんなにも軽いなんて!
しかも、海水を手足のごとく魔法で動かせるのが分かった。
帆船と大陸に津波がいかないように気をつけて、リヴァイアタンの居る海域を、水深を半分にする為に魔法を発動する。
ゴォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!
リヴァイアタンの泳いでいる海域の海水が、急激に少なくなっていく。
オシャブリを吸って精神を統一すると、俺は手の中で絶対零度のイメージを開始する。
イメージが出来ると、深度が半分になるまで注意深く観察する。
今だ!
リヴァイアタンめがけて俺は、絶対零度を発動した。
ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜。
さっきと同じように、銀色の大きな塊がリヴァイアタン目掛けて行く。
塊の通った後には、ダイアモンドダストが冬の太陽を浴びて、再びキラキラと輝いている。
カッキィィ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!
下の方で、海面が凍った音がする。
ダイアモンドダストが風に流されて視界が元に戻ると、リヴァイアタンが完全に氷漬けになっていのが分かった。
俺はウール王女に、命力絆を使って言う。
『うーるおうじょ、いまだ〜〜』
ウール王女は、俺が言ったと同時にニーラを連れてリヴァイアタンに向かって急降下して行く。
ハヤブサの如く!
ニーラも呪文を再び唱えている。
リヴァイアタンに2人が近くと、ニーラが魔法を発動した。
黒い塊が、凍った海面の少しだけでているリヴァイアタンの頭に当たる。
内部に黒い塊が入り込むと、リヴァイアタンの戦意が急速に無くなっていくのを感じる
成功したのか、俺たち……?




