ニーラの逃亡
魔王の娘であるニーラの心の中に入った俺。
重要な記憶を探す為に、ニーラの記憶を掘り返していった。
◇
ある記憶を掘り返すと、目の前にゴブリンクイーンが、ニーラを静かに起こしている。
『キーエ様が貴女をお呼びです。
静かに私に付いて来て下さい、ゴブゥー』
ニーラは驚きながらも起き上がって、ゴブリンクイーンに小さな声で返事をする。
『お姉様は、生きていらしたのですか!』
ゴブリンクイーンは頷いて、少し悲しそうに言う。
『生きてはいるのですが、ゴブゥ……。
キーエ様は儀式よって以前とは違う姿をしていますゴブ。
キーエ様に対して、余りにも魔王様の仕打ちは残酷過ぎると思うのですゴブ。
しかし、私にはキーエ様をお世話する事しかできません、ゴブ。
他言無用にお願いしますよ、ゴブゴブ。
もし、この事が分かったら、私は殺されるのは間違いないですから、ゴブ〜〜!』
ニーラは深く頷くと、ゴブリンクイーンの後を付いて行く。
薄暗い部屋入ると、老婆がベッドに横になっていた。
『キーエお姉様なのですか……!?』
老婆はその声に反応して、ニーラを悲しそうに見つめる。
そして寝たままで、口元がわずかながら、一瞬微笑んだ。
キールは老婆の様な声で、ゆっくりと言い始める。
『まだ逃げてなかったの?
早く逃げないと、私と同じ様になるわよ!』
ニーラは変わり果てた姿のキーエ姉さんに近寄り、涙を流し始める。
そして、怒りの感情と共に、真実を知りたいと強く思って言う。
『どうしてこの様な酷い仕打ちを、お父様は私達異母兄妹にするの?
お姉様は、その理由をご存知なのですか?』
キーラは深いため息を吐いて、言う。
『お父様は闇の神、アーテーを召喚させたのです。
狂気を司るアーテーは、お父様に13人の子供を生贄に捧げるならば、不老不死と、神と同じ能力を与えると言ったのです。
お父様はそれに従い、私達を闇の神に生贄として捧げているのです。
生贄にされた私達の寿命の殆どは、お父様に移されました。
更に最悪なのが、私達の魔法門から、常にお父様に魔法が行く様になったのです。
つまり、子供達の命と魔法を、お父様が独占しているのです。
私達はアーテーの呪いで、死ぬ事も出来ず、このまま永遠に生きなければならない。
お願い、ニーラ!
ここから逃げて、人間に助けてを求めて!
貴女が生贄にされると、アーテーとお父様の間に交わされた契約が完全に成立し、この世は狂気へと変わり誰にも止められなくなる。
今だったらまだ間に合う!
人間界では、ハゲワシに変身できて、空を飛べる強力な魔法を使う人間がいる。
その人に会って、この真実を伝えて!
それが、この世界に残された最後の望み。
全ては貴女に掛かっている。
一刻も早くここから逃げて、ハゲワシに会って!』
キーエは震える手でニーラの手を握った。
そして、追い払う様な仕草でニーラの手を離す。
ニーラはそれ以上何も言えず、涙を流しながら部屋を後にした。
……。
ニーラは俺に会う為に、人間世界に来たんだ……。
魔王の秘密を教える為に!
ニーラが生贄にされると、魔王は更に強くなる。
彼女を、魔王側に渡さないようにしないとな。
アーテーって、ヴァール姉ちゃんがバラードの中で出てきた狂気の神だよな。
その神を召喚したなんて……。
それに、魔王がやっている事は、命力絆の逆か?
命力絆は、与えられた人達は飛躍的に能力が上がる。
けれど、アーテーと魔王との間の契約は、生贄の命と魔法を供給する。
魔王に勝てるのだろうか……?
12人の子供達から魔法を供給でき、強大な魔法を使う事の出来る魔王に……?
……?
まてよ……?
もしかして、命力絆を使って、姉ちゃん達の能力を俺に集中させる事が出来るのでは……?
姉ちゃん達と心で繋がっているので、できる気がする。
それに、モージル妖精王女とも心で繋がっているので、王女の能力も使える……?
更には、王女と妖精達が繋がっているので、全ての妖精達の能力も使える……?
どうやっていいのか今は分からないけれど、できる気がする。
もしそれができたら、魔王と対等に戦う事ができる。
それまで、試行錯誤を繰り返さなければならないのか……。
◇
『こっちだよゴブ〜〜』
迷路のように繋がる狭い隙間を、ニーラはゴブリンの子供と一緒に進んでいる。
『ちょっと待ってよ、ゴブブ。
狭すぎて、通るのに時間がかかるの』
ゴブブは振り向いて言う。
『急がないと、間に合わないゴブ〜〜!
魔王様が寝ている間に、この魔城から出ないと見つかってしまうゴブ!』
既に、膝とすねから血が出ていた。
けれど、ニーラはゴブブの言われて、傷口が開くのもかまわず急いだ。
◇
三日月の薄明かりの中、ニーラが走って行くとワイバーンが待っていた。
『早く、私の背中に乗って下さい。
もうすぐ夜明けで、出来るだけ陸から離れたいのです』
ワイバーンからは、緊張感漂ってきている。
ニーラはワイバーンの背中に急いで乗った。
ワイバーンは力強く羽ばたくと、夜明け前の薄暗い夜空に舞がって行った。
ニーラが後ろを振り向くと、村々の灯りが薄ぼんやりと見える。
村々のはるか先には、一際明るい魔城が浮かび上がって見えている。
もうここには帰ってこないんだなと、ニーラは再び涙を流し始めた。
……。
ニーラが涙を流しす気持ち分かるよ。
俺も、この世界に来た時は泣きたい気分だったもの。
◇
ニーラがワイバーンの背中で眠っていると、朝日が顔に当たり起こされる
『3日目で、ようやく陸地が見えてきました!』
ワイバーンの喜んでいる声が聞こえ、眩いばかりの朝日を見ると、ニーラはすぐに目を瞑ってしまった。
薄眼を開けて朝日を見ると、遠くに陸地が確認できた。
『ニーラ様、人間の住む大陸にもうすぐ着きます。
くれぐれも、お身体を大切にして下さい』
『ありがとう、ワイガー。
帰り、気をつけてね』
……。
ワイバーンって、結構愛情深いんだな……。
と、とにかく、ニーラは間違いなく魔王の情報を俺に届ける為と、庇護を求めて来たのは間違いはない。
これ以上ニーラの心の中に居ても仕方ないので元の世界に戻りますかね。
俺は戻る魔法を発動した。
◇
「良かった〜〜、トルムルが無事に帰って来て」
エイル姉ちゃんが、安心したような顔で俺を見ている。
体に戻ると、疲れからか凄く眠い。
でも、ニーラについて分かった事を伝えないと思って、寝ている彼女を見る。
別の少女が眠っていたので、驚く俺!
っていうか、変身の魔法が解けて、元の姿に戻っただけだよな……。
よく見ると、凄く可愛い6歳ぐらいの女の子。
髪の毛は真っ赤だけれど、その他は人間とは変わらない。
こんなに小さな女の子なのに、背負っているものは余りにも大きい。
俺に会う事はできたけれど、実の父親を止めるのはこれからだ。
俺と協力して、この先、魔王と対峙しなければならない。
重力魔法を発動し、抱いてもらっていたエイル姉ちゃんから離れる。
そして、今までニーラの身に起こった事を紙に書き出す。
エイル姉ちゃんとリトゥルが、書いているのを両脇から目を見開いて見ている。
全て書き終わると、エイル姉ちゃんが緊張した声で言う。
「分かったわ。
ニーラを、魔王から守ればいいのね」
さすが姉ちゃん。
本質を見抜いてるよ。
ふと、リトゥルの頬を見ると、小さな手で引っ叩かれた跡がある。
何で手の跡があるのか不思議そうに俺がジッとそれを見ていると、リトゥルが口を尖らせながら言う。
「こやつの顔から汗が出ていたので、布で拭きはじめたら、思いっきり引っ叩かれたんじゃよ。
小さいくせに、力は大人並みだぞこやつ!」
エイル姉ちゃんはリトゥルに言う。
「リトゥル様は、日頃の行いが悪いから、本能でニーラがそれを嗅ぎ取った。
それで、寝ているにも関わらず、思いっきり引っ叩かれたのではないですか?」
……?
姉ちゃんの言っているのが、正しい気がする。
ニーラとリトゥルの間で、この先、何か起こりそうな予感が……。




