海賊退治
俺とウール王女が、ハゲワシとハヤブサに変身して、空高く舞い上がる。
俺は船の向きを重力魔法で動かして、進行方向を海賊達の方に向けた。
海賊達の方に船が向くと、エイル姉ちゃんに連絡を入れる。
エイル姉ちゃんは風の妖精と友好の儀式をしたので、微風魔法でも数段レベルが上がっている……、はず。
エイル姉ちゃんに頼んで風の微風魔法を発動してもらう。
『分かったわ、トルムル。
これから、微風魔法を発動するわよ』
返事と共に、初級である微風魔法を姉ちゃんは発動した。
中級である強風魔法を通り越して、上級である突風魔法になる。
ゴォォォーーーーーーーーー!!
ウァオォーーーーー!
凄い風だ!!
無風状態から、突然の突風で船の後ろに当たり、徐々に動き出した。
真後ろからだったので、海賊達の方に進んでいく。
帆はたたんでいたにも関わらず、船足が段々と早くなって行く。
船の上では突風が吹き荒れており、甲板ではみんなが飛ばされないように何かに捉まっている。
甲板に居る人達は大騒ぎをしている。
「風が吹くって言ったけれど、これ程の突風だとは聞いていないぜ」
「誰だ、こんなに強い魔法を使える奴は?」
「王子の彼女である、エイルさんがこれをしたって本当なのか?」
「ああ、間違いなく彼女だ!」
みんな驚くのは当たり前だよね。
弟の俺でも驚いているんだから。
予め、帆をたたんでいて良かった〜〜。
帆を広げていたら、もしかしてマストが折れていたかもしれない……。
海賊達を見ると、大騒ぎになっている。
大型船が勢いを増して向かってきているので、衝突の危険性があるからだ!
海賊達は、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑っている。
海岸近くまで来ると、俺はエイル姉ちゃんに連絡をして、風の魔法を止めてもらった。
風がやむと、船は自然に速度を落としていく。
それを見た海賊達が、再び襲ってくる。
貿易船の近くに海賊達が来ると、今度はウール王女に連絡を入れる。
『ウールおーど。はじめるよー』
『トルムル、わかったー』
俺は右側の上空で、貿易船に一番近い海賊の船を、重力魔法で上空高くまできてもらう。
「「「「「「「「「「ギャァー〜〜〜〜〜〜〜〜!!」」」」」」」」」」
船の中から悲鳴が聴こえて、俺の前に来ると海賊達は怯えながら言う。
「う、噂のハゲワシが、こ、ここにいる〜〜!」
「た、助けてくれー〜〜!!」
「頼むから、殺さないで〜〜!」
俺は船ごと海賊達を海岸上空に移動して、無重力にした。
当然、海賊は自由落下を楽しんで……?
悲鳴を再び上げた。
「「「「「「「「「「ギャァー〜〜〜〜〜〜〜〜!!」」」」」」」」」」
地上スレスレで、再び俺は重力魔法を発動した。
殆どの海賊達は気絶しており、オシッコを漏らした奴もいるみたいで、ズボンの前が濡れている。
一丁上がり〜〜〜〜〜〜!
海賊が逃げないように,モージル妖精王女がそこで見張っている。
もし海賊が逃げようとしたら、雷撃や痺れの魔法を発動する手はず。
ウール王女を見ると、少し遅れて1船目を海岸に落とした。
勿論、自由落下で!!
こうして俺とウール王女は貿易船に近付いて来る海賊の船を、次から次へと同じやり方で海岸に移動させる。
10船ぐらい海岸に移動させる頃には、再び海賊達は蜘蛛の子を散らすように四散している。
仲間の悲鳴が凪の海に響き渡り、それに怯えて海賊達は遠くに逃げようとしている。
俺はウール王女に再び連絡を入れる。
『ウール、オード。
こんどはー、とーくの、かいぞくからー』
『わかったぁー』
ウール王女はそう返事をすると、最も遠くに逃げている海賊が載っている船を、重力魔法で引き上げている。
俺も同じく、反対側の最も遠くの海賊の船を重力魔法で近くまでおいで願った。
「「「「「「「「「ギャァー〜〜〜〜〜〜!!」」」」」」」」」
「ご、ごめんなさ〜〜いぃ〜〜〜!!」
「わ、悪かった、もうしません。
だ、だから食べないで!」
えーと……、この海賊、何かを勘違いしているような……?
……?
え、もしかして……?
あ〜〜あ。
ここでウンコを漏らしているよ、この海賊。
海賊って、怖いイメージがあるんだけれど、こうなると惨めだよね。
ま、俺が恐怖を与えているんだけれど……。
とにかく、次の海賊達をここに招待しないとな。
「「「「「「「「ギャァー〜〜〜〜〜〜!!」」」」」」」」
再び海賊は悲鳴を上げて海岸に移動させ、無重力を味わってもらった。
次から次へと海賊にここに来てもらっては、海岸の上から無重力を味わってもらう。
合計で、20隻ぐらい海岸に移動してもらった頃になると、海にいる海賊達は生気を失っており、混乱している。
俺達に手を合わせている海賊達もいれば、海に飛び込んで泳いでいるのもいる。
必死にオールを動かして、この水域から逃げようとしている海賊達もいた。
泳いでいる海賊には丁寧に船に戻してあげた……。
そして、船ごと同じように繰り返す。
全ての海賊を海岸に移動させると、貿易船の水夫で、屈強な人達を海岸に移動させる。
予め、その人達に重力魔法で海岸まで移動させると言ってあった。
冬になったので少し寒い。
けれど、彼等は他では味わえない景色を堪能している。
雲一つない空に、透き通って海底が見えているコバルトブルーの海。
そこに浮いた一隻の帆船は、見応え満点。
水夫達を移動させると、今度は王族達を移動させる。
同じく空中移動を楽しんでいる。
最後に、エイル姉ちゃんを海岸に下ろした。
予定していた人達の移動が全て終わったので、ウール王女に連絡を入れる。
近くにある出城に飛んで行ってもらって、海賊を連行する為に来てもらう。
スィーアル王子の命令書を持っているので、彼等は急いでここに駆けつける。
俺は海岸上空に移動すると、森林の奥深くに村を発見した。
多分そこが彼等の根城。
海賊は根絶やしにしないと、今後の貿易にも多少影響あるので……?
でも、巨大蛸足の攻撃魔法が付与された魔石が有るのでその心配は既にないか……。
とにかく、海賊達には今までの罪を償ってもらわなければならない。
その先は、貿易船でのただ働き……。
ハーリ商会としては、水夫に払う給金が少なくなって経費が浮くので大賛成。
でも、さっきも考えたけれど、これってセコイ?
大賢者を目指す俺が、セコイ考えでいいのか……?
海賊達を更生させる為の、慈善事業と思えば良いよな……。
ま、とにかく、幹部の海賊達は間違いなく絞首刑だとスィーアル王子が言っていた。
下級の海賊達は、元貿易船の水夫だった人達も多いと聞かされた。
海賊になるか、或いは死の二者択一を選ばなければならなかったみたい。
それで仕方なく海賊になったんだとか。
それは理解できる。
ま、裁判で罪によって振り分けるみたい。
海岸にいる人達が移動をはじめている。
彼らの根城に案内をさせて、拉致されている女、子供達を助ける為に。
俺は誰も見ていない所に舞い降りるとエイル姉ちゃんに連絡して来てもらった。
姉ちゃんは俺を抱いてくれると、綺麗な歯並びを見せながら笑顔で言う。
「トルムル、お疲れ様。
今回も大活躍だったわね」
俺も、 上下の前歯4本を見せて言う。
「エー、ねーたんも、おつかえー」
……。
お疲れが、い、言えない。
やっぱり、歯が全部揃わないと言えないのか?
でも、ウール王女は俺と同じ歯の数で、言える単語数がはるかに多い。
羨ましい……。
そんな事を考えていると、海賊達の根城である村に着く。
その村は漁村で、網とか干し魚を干してある。
海賊はあくまでも副業で、本業は漁師さんみたい……。
隙間だらけの建物から、貧しい漁村だと分かった。
漁村の中央広場に海賊の家族とか、奴隷達に集まってもらった。
女性と子供、そして老人達がほとんど。
ん……?
この人達の中に、何か異常な気配を感じる。
魔物か?
でも、それらしい魔物が見当たらない。
もしかして、人間に化けている魔物か?
ありえる!
魔物の気配を消している。
けれど、完全には消しきれていないで、僅かに魔物独特な気配を感じるのは確かだ!
一人一人、確かめるように俺は意識を伸ばす。
すると、6才ぐらいの少女が俺の意識を跳ね返した。
この少女だ!!
少女は、気付かれたのに気がつくと、俺の方に無防備で近付いて来る。
攻撃魔法を発動しようと、俺の右手の先が少し動いた。
けれど、交戦的な雰囲気は全くなかったので、魔法を発動するのは、とりあえず止めた。
先ずは話し合いたい雰囲気を前面に出している。
エイル姉ちゃんに小声でこの少女は魔物が化けた姿だと教えると、姉ちゃんは最大限に警戒心を強める。
少女が俺達の近くに来ると、俺を見て言う。
「魔王の追ってから、私を保護してくれないでしょうか?
私は魔王の娘、ニーラ」
マ,マジですかぁ〜〜〜〜〜〜〜〜!!




