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常連さん

 父ちゃんが、すぐに助け舟を出してくれた。


「トルムルは赤ちゃんなので、その言葉は知りませんよ。

 彼は今、バッバとか、バーなど、意味の無い言葉を発しているだけですよ」


 おばさんは、まだ少し疑ったいるようだった。

 しかし、俺の方を向いて笑顔で言う。


「ごめんなさいね、トルムルちゃん。

 私に、ババアと言ったと勘違いして」


 そう言ったおばさんは俺を持ち上げて、豊満な胸の谷間で俺を抱きしめた。

 い、嫌じゃないけれど、……複雑な気持ちがする……。


 この人は、常連客みたいだった。


 笑顔を見せて、また来てもらうようにしなければ、と思った。

 この店に来る客を増やすのに、少しでも役に立つはずだ。


「バブブブゥーーー」


 俺は思いっきり笑って、軽く手足をバタバタさせた。


「あら、トルムルちゃんは私を好きになったみたいね。

 こんなに笑ってくれるなんて」


 しばらく抱いていたおばさんは、俺を椅子に戻してくれた。

 そして、棚の上にあった袋を取ると、父ちゃんの所に行った。


「ナタリーさんがお亡くなりになられて、トルムルちゃんの事を心配していたのよ。

 元気で私に笑顔を見せてくれて、一安心しました」


「最初は泣いていたのです。

 エイルがよく世話をしてくれるので、だんだんと笑うようになったんですよ」


「エイルちゃんは、器量がいい娘さんだからね。

 それでは、また来ますね」


 そう言っておばさんは、笑顔で店を出て行った。


 おばさんが店を出ていくのを父ちゃんが確認をしてる。

 そして、おばさんの姿が見えなくなると、何やら紙に書き始めた。


 《わざと、笑ったのかい?》


 父ちゃんが、書いた紙を見せてくれて思わず笑ってしまった。


「バブブブゥーーー」


 俺は手を上げて、そうだよと伝えた。


 突然、父ちゃんが大笑いを始めた。


 父ちゃんが大笑いするのを、俺は初めて見た。

 父ちゃんがこちらに来て、俺を抱き上げてくれる。


「トルムルのおかげで、久しぶりに笑う事ができたよ。

 それに、さっきの人は常連さんなんだけれども気難しがりやなんだ。

 いつもムスッ、としていて、対応に苦慮していたんだよ。

 トルムルがいれば、これからは上手く対応できそうだ。

 ありがとうトルムル」


 そう言って父ちゃんは、俺を軽く抱きしめてくれた。

 俺の行動が役に立って、とても嬉しかった。


「実は、トルムルにお願いがあるんだ。

 魔法力をくれないか?」


 え……?

 魔法力をくれないかって……?


 俺は首を少し傾けた。


「説明をしないといけないね。

 父さんの仕事は、魔石に魔法を付与するのは知っているよね?」


 手を上げて、知っていると返事をする。


「最近、魔物が急激に増えてきているので、魔石にスキルを付与する仕事が増えてきている。

 しかし、父さんが魔石にスキルを付与するには、個数に限界があるんだよ。

 そこで、トルムルの魔法力を使って、スキルを付与したいのだけれどいいかい?」


 俺は嬉しかった。

 父ちゃんの役に立てるのならば、いくらでも俺の魔法力を使っていいよ、って思った。


 でも、どうやって……?

 とりあえず、賛同の意思を示すために手を上げる。


「ありがとう、トルムル。

 トルムルの体内にある魔法力を、このダイアモンドに移すだけだから。

 すぐにすむからね」


 そう言って父ちゃんは、大きなダイアモンドを俺の額に付けて呪文を唱えた。

 体の中から、魔法力が額を通してダイアモンドのに流れて行くのが分かった。


 しばらくして、体内の魔法力がほとんど空になったのが分る。

 でも、あんなに大きなダイアモンドを初めて見た俺。


「トルムルは本当に凄いね。

 普通の魔法使いの5、6人分の魔法力が、このダイアモンドの中に入って行ったよ」


「バブブブゥーーーー」


 俺は素直に喜んで、手と足をバタバタさせた。


 突然、睡魔が襲ってきた。

 魔法力を放出したからか……?


 やらなくてはいけない事がいっぱいあるのに、余りにも起きている時間が短すぎた。


 父ちゃんの腕の中だからか、俺は安心して寝てしまった。


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