賢者の長
賢者の塔の最上階に着いた。
部屋の中から、人間の気配が消えて、強力な魔物の気配を感じる。
魔物も俺に気が付いたみたいで、最大限に警戒心を強めているのが伝わってくる。
「みんな退いて!
行くわよ〜〜!」
そう言ったのはアトラ姉ちゃん。
もしかして、いきなり伝説の魔剣を使うの?
アトラ姉ちゃんはそう言うと、伝説の魔剣、超音波破壊剣を使う。
バゴォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!
前方の壁と屋根が吹き飛び、破片がこちらにも飛んでくる。
俺の防御魔法が発動して、直前で破片を食い止めている。
フゥ〜〜。
アトラ姉ちゃんって、戦闘になると、更に荒っぽくなるよ。
他の姉ちゃん達も防御魔法が発動して、破片を食い止めたみたい。
埃が収まってくると、魔物が姿を現した。
あれだけの攻撃なのに、無傷でこちらを睨んでいる。
上半身裸で、見かけは妖麗な若い女性。
下半身は巨大な蛇で、とぐろを巻いている。
「やっと来たね、ハゲワシ!
私は、大王様直属の部下、ラミアー。
お前が来るのを、首を長くして待っていたよ。
お前を倒せば幹部になれるんだ!」
ラミアーだって!
母ちゃんが言っていたのを思い出す。
『ラミアーは、自分の子供を殺されたから、人間の子供を食べる凶悪な魔物にかわったのよ。
魔力が高く、どんな姿にも化けると言われているのよトルムル。
大賢者の時代でも現れたけれど、退治した記録がないの。
もしかしたら、トルムルと対戦するかもしれないわね』
母ちゃん。目の前にいるよ、ラミアー!
魔王直属の部下っていうことは、弱くはないよね……。
ヴァール姉ちゃん、エイル姉ちゃん、そしてヒミン王が、真空弓で攻撃を開始。
しかし、上半身はこちらからは見えなくなり、
下半身の蛇の鱗で塞がれ矢が通らない。
蛇の尻尾が襲って来た。
最前列にいるアトラ姉ちゃんが防いで、剣で攻撃した。
けれど、アトラ姉ちゃん程の怪力でも……。
あ〜〜、ダメだ。
鱗が硬いので、姉ちゃんの剣でも傷を負わせられない。
姉ちゃん達とヒミン王女が、弓矢と剣による攻撃を何度繰り返しても、ほとんど傷を負わす事ができない。
さすが、魔王の直属の部下だけのことはある。
って、感心している場合じゃないよな。
俺はオシャブリを吸いながら考える。
ん……?
一瞬、ラミアーの動きが止まった。
直感で、強力な魔法攻撃が来ると思い、俺達の前に防御魔法を発動すると、大きなオッパイの盾が出現する。
次の瞬間、蛇の隙間から火炎攻撃が俺達を襲ってきた。
いつも通りに、オッパイの盾は小刻みに震えながら耐えている。
周りの空気が段々と熱くなり、サウナに入っているみたいになる。
ラミアーは更に魔法を強めて、俺のオッパイの盾を消滅させようとする。
俺も負けじと、オッパイの盾に魔法を追加して強化する。
周りを見ると、岩の壁が溶け始めている。
何という高温。
スキュラ以上の火炎攻撃だ!
このままでは防戦一方。
どうする俺?
硬い鱗で、物理攻撃が効かないので、魔法攻撃でもたぶんダメだろう。
硬い鱗……?
何か引っかかる……?
もう一度、オシャブリを念入りに吸う俺。
硬い物は、高温にしてから急速に冷やすと、もろくなる。
……?
やってみる価値はありそう。
イズン姉ちゃんは、火炎魔法が得意。
俺と協力すれば、ラミアーの火炎魔法を上回るはず。
ラミアーの火炎を押し返して、俺達の火炎が鱗を高温にする。
すぐに、絶対零度の魔法で急速に冷やす。
もろくなった鱗に、再び攻撃を開始すれば、矢と剣で攻撃ができる。
たぶん……。
とにかく、やってみないとな。
姉ちゃん達とヒミン王女に、俺の考えた計画を命力絆を使って連絡した。
これを使うと、小声でもみんなに伝わる。
大きな声で言うと、俺が赤ちゃんだとバレてしまうからな。
イズン姉ちゃんが言う。
『分かったわ。
このオッパイの盾が消えたら、すぐ最大火炎魔法を発動するのね。
でも、どうして盾がオッパイの形をしているの、トルムル?』
グサ!
それは……、アトラ姉ちゃんの胸の弾力が、この世で最高の防御だと思っているから……?
あるいは、アトラ姉ちゃんの胸で、窒息死しそうになったから……?
本当のことは俺にも分からないけれど……。
か、考えるのは後にしよう。
『イズン、ねーたん。
いくよー』
俺は命力絆を使ってそう言うと、オッパイの盾を消した。
すぐに、最大火炎魔法を右手でラミアーに向かって発動する。
ドォッゴォ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!
同時に、イズン姉ちゃんも最大火炎魔法を発動。
ドォッゴォ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!
2つの最大火炎魔法がラミアーに向かって行く。
俺1人だったら、互角だったかもしれない。
けれど、イズン姉ちゃんが加わったので、ラミアーの猛火を押し返した。
ラミアーは不意を食らって、猛火が襲う。
予定通り、蛇の下半身で猛火を受け止めている。
鱗は赤くなって、高温になっているのが確認できた。
絶対零度の魔法を左手で俺は発動。
ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜。
銀色の大きな塊が、ラミアー目掛けて行く。
塊の通った後には、ダイアモンドダストが真昼の太陽の光を浴びて、キラキラと輝いている。
カッキィィ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!
鱗が凍った音がした。
成功か?
ダイアモンドダストが消えて、視界が戻る。
ヴァール姉ちゃん、エイル姉ちゃん、そしてヒミン王女が、再び真空弓で攻撃を再開。
3人が、3本づつ矢をほぼ同時に射る。
「ギャァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
合計で9本の矢が鱗を突き抜け、そこから血が吹き出している。
3人は攻撃の手を緩めないで、再び矢を射った。
今度も9本の矢が鱗に刺さり、血が流れ出した。
ラミアーは痛さにたえきれないで、のたうち回っている。
不意に、蛇の尻尾がアトラ姉ちゃんに向かって来た。
今度は鱗がもろくなっているので、アトラ姉ちゃんは尻尾の先を軽く一刀両断した。
「ギャァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
再び、ラミアーが悲鳴を上げるのが聞こえる。
大成功だね。
ラミアーは、浮かんで逃げ出した。
すぐに俺は右手で重力魔法を発動して、ラミアーが逃げるのをくい止める。
俺の魔力の方が強いみたいだけれど、止めるのが精一杯。
今度は左手で巨大蛸足の魔法を発動した。
巨大なクラーケンの足がラミアーを襲う。
バァキィィィーーーーーー!!
ラミアーはなすすべもなく魔石になった。
やったね俺。
ガラガラァ〜〜〜〜〜〜!
あれ……?
ヤバイ!!
勢い余って、賢者の塔までクラーケンの足で攻撃してしまったよ〜〜!
足元から塔が崩れ出したので、上下に俺達が入るくらいのオッパイの盾を作った。
ドッシャァ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!
塔は崩れ出し、俺達はオッパイの盾に守られて、全員無事に地上に落ちていった。
そういえば、一人だけ賢者が塔に残っていたのを忘れていた……。
瓦礫の山に意識を向けると、うめき声が聞こえてくる。
重力魔法を使って賢者を助け出す。
軽い怪我をしているけれど、命には別状はない。
ヴァール姉ちゃんが、若い賢者を見て言う。
「この人よ、私の婚約披露宴に来ていた若い賢者。
でも、実力が伴っていなかったのね。
塔が崩壊しただけで、気絶するなんて」
え……、この人が例のワイバーン戦から逃げた賢者なの?
ここまでくると、哀れとしか言いようがないよ。
「おーい。
ハゲワシ殿、無事か〜〜」
飛ばされたリトゥルが、汗をかきながらやっと戻ってきた。
「魔物はどうなったんじゃ?」
俺は、地上の落ちる時に、ラミアーの魔石を重力魔法で引き寄せていた。
それをリトゥルに見せる。
「オオォ〜〜!
流石ハゲワシ殿じゃ。
それにしても、ハゲワシ殿の姉さん達は美人ぞろいだのう」
ヴァール姉ちゃんの方に、鼻の下を長くして近付いて行くリトゥル。
さっき、アトラ姉ちゃんの張り手で、遠くに飛ばされたばかりなのに……。
ヴァール姉ちゃんは、矢筒から一本矢を取り出して、リトゥルに先を向けた。
「それ以上私に近付いたら、矢で攻撃しますよ。
エイルの体を触ったのは、貴方ですよね?」
リトゥルは矢を見て理性が戻ったみたいで、急に真面目な顔になる。
「いや儂は、そんな意味でエイルさんに近付いた……」
ヴェール姉ちゃんは、リトゥルを睨らんで一歩前に出る。
リトゥルは一歩下がって、情けない顔になっていく。
「もうしません。
海よりも深く反省しています」
そう言ったリトゥルは頭を深く下げた。
でもこれって、前に聞いたセリフだよ……。
◇
城に戻って、ヤールンサクサ王女にラミアーの魔石を見せたら、超驚いている。
「この魔石が、大賢者でも倒せなかったラミアーなんですか!?」
エイル姉ちゃんが更に説明を続ける。
「それで、トルムルが強力な攻撃魔法を使ったので、賢者の塔が完全に崩壊しました。
瓦礫の山になってしまい、元の面影は今はありません」
更に、ヤールンサクサ王女は驚いて言う。
「あの頑丈な賢者の塔が、トルムル様の攻撃で瓦礫の山に……。
思っている以上にトルムル様は魔力が強いようです。
今度の後継者会議で、トルムル様を賢者の長に推薦しますので予めご了承下さい。
ちょうど、トルムル様の一才の誕生日に開催されますね。
それと、トルムル様にはフィアンセはいないと聞いています。
それは本当ですか?」
え……?
何でそれを聞くの……?
も、もしかして……?
「もしいなければ、私をトルムル様のフィアンセにして下さいますか?
私は8才になったばかりで、トルムル様とは7才しか違いません。
宜しくおねがいします」
ヤールンサクサ王女はそう言うと、俺に頭を下げた。
えぇ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!
フィ、フィアンセ〜〜!!
まだ、赤ちゃんなですけれどォォォォ〜〜〜〜




