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王位継承者会議の席

 後継者会議の前に、ハーリ商会の今後について、スールさんと話し合いが行われる。

 エイル姉ちゃんの、柔らかな胸に抱かれて、俺は部屋に入って行く。


 化粧をしているエイル姉ちゃんは、本当に別人にしか見えない。

 しかも、言葉使いまでも違う。


 大国のサンラーズ国のスィーアル第一王子を彼氏にしたので、激変した姉ちゃん。

 そのスィーアル王子が、部屋の中に居たのでビックリする俺。


 エイル姉ちゃんは、王子がここに居るのを知っていたみたい……。


 何で俺に話してくれなかったの姉ちゃん。

 それに、ヒミン王女と3人で、何やら話していた雰囲気。


 それよりも、スールさんが困惑したような顔になっている。


「トルムルさん、エイルさんはどうしたのでしょうか?

 一緒に来ると思っていたのですが」


 エイル姉ちゃんがすぐに言う。


「私エイルです、スールさん。

 化粧をすると、別人に見えますか?」


 スールさんが目をパチパチと高速に繰り返している。


「ほ、本当にエイルさんなんですか?」


 ヒミン王女が笑いながら、スールさんに言う。


「スールさん。

 この人は本当にエイルですよ」


「そ、それは失礼をしました。

 お化粧をしたエイルさんを、始めてみたものですから……」


 これには、ヒミン王女とスィーアル王子、そして俺も笑い顔になっていく。


 この後、挨拶を終えると、机の上にあるクロワッサンが気になりだした俺。

 何で、クロワッサンがここにあるの?


 もしかして、スールさんは俺と同じことを考えていた?

 スールさんが、俺とクロワッサンを交互に見ながら言う。


「トルムルさん。

 この新しいパンを試食させて頂きました。


 この、画期的なアイデアを出されたトルムルさんは、流石だと思いました。

 新しいパンを作るアイデアが、もっとあるのではと思ったのですが、いかがでしょうか?」


 モージル女王と、同じ事をスールさんは言っている。

 上に立つ人は、先が読めるんだなと感心した。


「もーとー、あるー。

 エーねえたん、つくるー」


 俺はそう言って、予め書いてきたクロワッサンに関する考えをスールさんに見せる。

 エイル姉ちゃんには、すでにこのことを言ってあって、喜んで引き受けてくれた。


 スールさんとヒミン王女、そしてスィーアル王子達は真剣にそれを読み始める。


「そうですか。

 私達と、全く同じ意見なので驚いています。


 それに、伝説でしか知らなかった妖精女王が、試食係をしてくれるなんて、望外の喜びです。

 料理師の間では、妖精女王の言い伝えの中で、女王は食通であると言われているそうです。


 しかも、大賢者と共に魔物を倒しながら、当時の人達に美味しい料理を人に広めていったと聞いています」


 それって、言い方を変えれば、当時から食いしん坊って事だよね?

 やはり、珍しい料理を食べたい為に俺についてきたんだなきっと。


 でも、モージル女王が食通なら、試食係は適任かも……。

 でも、妖精の女王を、俺はこき使っている気がするんだけれど……。


「スィーアル王子の意見なのですが、船に乗り込む調理師達にも教えてほしいそうなのです」


 王子は俺を見て言う。


「実は、船で出される食事で困っていたのです。


 硬いパンに、塩漬けの肉を焼いた物。

 そして、同じ様なスープが毎回のように出される船内の食事は不評です。


 士気を高める為に、色々と工夫をしているのですが思うようにいきません。

 思い悩んでいた所、お昼にエイルさんから渡されたクロワッサンのサンドイッチに、これだと思ったのです。


 こんなに美味しいパンは初めてで、彼女に聞きましたら、トルムル様が考案したと」


 トルムル様……?

 王子が、俺を様付ですか……?


 え〜〜と、……。

 俺は庶民出の、まだ赤ちゃんなんですが……?


「来月には、ハーリ商会から注文のあった最初の新造船が完成します。

 そこで、処女航海でトルムル様をご招待したいと思っているのです。


 意外と思われるかもしれませんが、これには世界の未来と関係があるのです」


 思わず目を大きく見開いて、王子を見る俺。

 俺が船に乗ることが、何で世界の未来と関係があるの?


 どういうこと……?


「我々後継者は、常に先の事まで考えて行動をしています。

 トルムル様の今の実力では近い将来、この大陸から魔物を一掃してくれると予想しています。


 ですが、魔物を一掃するだけでは、世界の未来は明るくありません」


 ……?

 そうか、魔王を倒さない限り、本当の世界の平和が訪れないんだ。


 魔王を倒すには、船で西の大洋を航海しなければならない。

 船団を率いて、魔王の住んでいる大陸に行くのには船の知識が必要になる。


 その指揮を、俺がした方がいいと王子は思っているんだ。

 何と、遠大な計画!


 この大陸から魔物を追い出したとする。

 もし100年後に俺が死ぬと、再び魔物が攻めて来ると予想しているんだ。


 そこまで俺は気が付かなかった……。

 目先の事ばかり、気を取られすぎていたよ。


 でも、こんなに頭の切れる王子が、エイル姉ちゃんを彼女に……?

 何で……?


 俺はエイル姉ちゃんをチラッと見た後、すぐに王子は言う


「トルムル様は、流石です。

 私の言ったことの真意をすぐに分かってくれました。


 更に、私がエイルさんを彼女に選んだ事に対して、多少の疑問を抱いているのも分かりました」


 凄いよこの王子。

 俺がチラッとエイル姉ちゃんを見ただけで、それが分かるなんて!


 大国の第一王子ともなると、器が全然違う。

 尚更、エイル姉ちゃんを選んだ理由が知りたくなってくる。


 なんたって、エイル姉ちゃんは俺の弟姉きょうだいなんだから。


「私は幼い頃から、王様になる為の勉強をしてきました。

 経済を始め、人の目の動きだけで、その人の考えている事を知る方法とか。


 ですが、私が目の動きだけで人の心が読めるので、私に近付いてくる令嬢達の心理まで分かってしまったのです。

 彼女達は、私の地位にしか興味を示さなかったのです。


 そんな中、エイルさんと出会いました。

 エイルさんは私の地位よりも、私自身に興味を示してくれたのです。


 それに、私は食いしん坊なのですが、その事でもエイルさんと意見があった。

 本当は食いしん坊だった令嬢方は、それが卑しい、下賤の者達の特性だと思っているのです。


 そんな人達とは、私には合うはずが無い。

 ですから、エイルさんは私にとって、とても相性が良いのです」


 ……?

 これは……、考えさせられる。


 高貴な雰囲気を出している大国の王子が、自ら食いしん坊だと言った。

 エイル姉ちゃんとモージル王女を、俺は誤解していたのかもしれない。


 食べ方は真似はできない。

 けれど、食欲は人間の最大の本能なので、それを否定するようなことはおかしいよな。


 それにしてもエイル姉ちゃんって、最高の彼氏を見つけたね。

 弟の俺としても嬉しい。


「わかー、たー。

 ふねー、のるー。


 これからー、もー。エー、ねえたん。よろしーくー」


 俺はそう言うと、自然と頭を下げていた。


「トルムル様が頭を下げる必要は全くありません。

 エイルさんのお父様に、最初に話そうと思ったのですが……。


 結婚を前提として、エイルさんとお付き合いをしたいのでお願い致します」


 そう言うと、スィーアル王子は頭を深く下げる。

 エイル姉ちゃんを見ると、姉妹独特な驚き方をしている。


 両手で口を塞いで、目を大きく見開いた。

 そして、声にもならない声をエイル姉ちゃんは出している。


 俺も驚いたけれど、話の流れから王子がそう言うと思っていた。

 少しは……、驚いたけれど……。


 でも、良かったよね、エイル姉ちゃん。

 理想の彼氏ができて。


 今夜の後継者会議の議長は、この国のヒミングレーヴァ第1王女。

 王女は準備の為に、早めに部屋を出る。


 雑談をしばらくしていると執事が来て、王子とスールさんに会議室の方にお越し下さいと言う。


 えーと、……。

 俺と、エイル姉ちゃんは一緒に行かないのかな?


 エイル姉ちゃんも不思議がっている。

 しばらくすると執事の人が来て、会議室の方にお越し下さいと言われた。


 後を付いて行くと、会議室のドアがゆっくりと開いていく。

 そして俺の名前と、エイル姉ちゃんが入室することを、中に居る人達に告げた。


 部屋の中から、席を立つ音が聞こえてくる。


 ま、まさか、これって……。


 偉い人が、部屋に入る場面の様な気がするんですけれど……。


 中に入ると、後継者の人達が俺と姉ちゃんを見ている。


 えーと、どうすればいいの……。

 俺と姉ちゃん。


 執事の人が、席はヒミングレーヴァ王女の横になりますと言われた。


 え〜〜〜〜〜〜〜〜!!


 そ、そっれて上座。

 しかも、ど真ん中なんですけれど。


 まだ赤ちゃんで、庶民出の俺が、主賓の席に座るの?

 マ、マジですか?


 そのあと、どうやって席に着いたか思い出せなかった俺がそこに居た。


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