夜の戦い
今夜は三日月で、夜空は満天の星。
地上は、月の明かりでボンヤリと見える程度。
しかし、見る能力を上げている俺には地上がハッキリと見えた。
学園の方に飛んで行くと、弓矢隊の人達が所定の場所で待機している。
その他大勢の人達は、弓矢隊の後ろで剣を持って待機。
今回の作戦を予め言ってあるので、殆ど動きがない。
みんな黒や、黒に近い服なので、時折光る矢じりや剣が見える程度だ。
ヒミン王女がこれらの隊を率いている。
今回の作戦は連帯感が大切で、連絡がすぐにできる王女にうってつけだ。
更に王女は、伝説の弓、真空弓を持っているので連射ができる。
矢を射ると、魔法で矢の先が真空状態になり、獲物に向かって一直線に進んで行く。
更に、真空の性質で矢は飛べば飛ぶほど早くなって行く。
矢が標的に当たると、自動で矢筒に戻ってくる魔法も付与してある。
エイル姉ちゃんは1人だけ学園の校舎の屋上に上がってもらった。
俺のサポート役と、多角的に戦況を見る為だ。
姉ちゃんは命力絆によって、身体の機能が飛躍的に上がっている。
視覚も上がっていて、遠くの山にいるリスが、何をしているのか分かるほど。
更に、エイル姉ちゃんも真空弓を持っているので、多少遠くてもケンタウルスに命中させることができる……、はず?
姉ちゃんが弓矢を射る所を見た事がないので、ハッキリ言って分からないんだよな……。
でもここは、やはり姉ちゃんを信じてみようと思う。
今回はウール王女も初参戦する。
空高く飛んで、敵の動きを報告してもらう。
戦いには加わらないけれど、これも重要な役目だ。
ケンタウルスの位置をヒミン王女に伝えて、弓矢で攻撃する時の目になってもらう。
俺1人でも、ケンタウルスを倒す自信はあるのだけれど、それだとこの町に住んでいる人達には本当の意味では寄与しない。
自らの手で町を守ることの方が、重要だと俺は思う。
それに、俺1人で倒したら、ケンタウルスの魔石を俺が独り占めにする事になってしまう。
国の経済から見れば、明らかにマイナスだ!
多くの人達にケンタウルスの魔石を家に持って帰ってもらう。
そうすれば、魔石を売ればお金になるので、その人達の家計が潤うし、やり甲斐も出てくる。
その事によって、その人達が家族に褒めてもらうのはとても重要なことだ。
大賢者を目指す俺は、多角的に見る目を養わなければと最近思っている。
戦闘も大事だけれども、国の経済も同時に考えなければ、これからの魔物との戦いに勝利できない。
『トームル、トームル?』
おっと、ウール王女が俺を呼んでいる。
『ウー、おうど。
トームル。がくー、えん。の、うえー』
およその場所を言ったので、これでウール王女はここに来れる。
城の方を見ると、バルコニーからハヤブサが飛び立ったところだ。
王女は、こちらに一直線に飛んで来ている。
王女が来る時、いつも俺の鼓動が早くなってゆく。
昨夜、食事が終わる頃、ウール王女から連絡があった。
もちろんクラーケンのお土産の話で、王女も早速離乳食を作ってもらい、とても気に入ったらしい。
あれだけの量を苦労してクラーケンの足を持って帰った甲斐があったよな。
あまりにも量が多いので、ラーズスヴィーズルが馬車が壊れるのではと終始心配していた……。
しばらくすると、ハヤブサに変身したウール王女が来た。
「わたしー、はじめてー、さんかー。ドキドキ、するー」
今回、初めて戦闘に参加するウール王女は興奮ぎみだ。
王妃様が、よく許可をしてくれたと思う。
それにしても、なんて滑らかに話せるんだろうか?
俺と同じ誕生日なのに……。
既に、ウール王女の役割を言ってあったので、王女は更に高く舞い上がって行った。
少したった時、王女から連絡がきた。
『トームル。
ケンタウルス、見える。
おかの、あたりー』
ケンタウルス達は、既に丘の辺りに来ているのか。
ここからだとまだ見えないけれど、もうすぐ見えるはずだ。
校舎の屋上には、エイル姉ちゃんの姿が見えた。
『トルムル。
所定の場所にいるわよ。
ウール王女からの連絡で、ケンタウルスは丘の辺を移動中ですって。
もうすぐ戦闘が始まるね。
トルムル、怪我だけはしないようにね』
エイル姉ちゃんとウール王女、そしてヒミン王女達は命力絆によって、お互いに遠く離れていても連絡できる。
俺が中継しなくても、お互いに密に連絡し合えるのでとても便利だ。
俺の横にはモージル妖精王女も控えている。
戦闘が始まるせいか、今まで殆ど話さなかった、内気なマグニが積極的に話しかけてくる。
「トルムル、何でオレの出番がないんだ。
火炎攻撃なら、誰にも負けない火力が出せるんぜ」
……?
口調まで攻撃的になっている。
そう言えば、モージル妖精王女が言っていたよな。
戦闘になると、マグニは人が変わった様になると。
右の頭であるドゥーベルが左の頭であるマグニに言う。
「マグニが興奮するのは分かるけれど、お前の火炎は強力過ぎて、地上に生えている草花などが焼けるのをトルムルは憂慮しているんだぜ。
草花の妖精達が悲しまない様に」
え……?
どうして、俺の考えていた事がドゥーベルには分かるの?
誰にも言っていなかったんだけれど……。
ドゥーベルの言う様に、俺1人で戦わないもう1つの理由がそこにある。
弓矢や剣などで戦うと、草花にはダメージが少ない。
踏みつけても、草花はまた生えてくる。
しかし、俺が火炎魔法とか、音波魔法などを使うと、その場所の草花が全滅する。
地表だけでなく、根にもダメージがいくからだ。
マグニの火炎が必要な時は余程の時か、空中戦の時だよな。
空中戦……?
……?
待てよ……。
ケンタウロスの攻撃って単調過ぎないか?
一直線にこちらに向かっている。
ミノタウルスと違って、ケンタウロスは頭が良いと母ちゃんが言っていた。
俺なら、どうするだろうか?
もしかすると、両面攻撃?
来るとすれば……。
空からだ!
夜空で飛べるのはフクロウかコウモリ……。
分かったぞ!
空からギガコウモリが襲って来るんだ。
以前、俺が倒したギガコウモリの仲間か?
ケンタウロスが仇と言っていたけれど、当然ギガコウモリ達も仇を取りに来るはず。
危なかった〜〜。
もう少しで、ウール王女を危険な目に合わす所だったよ。
たった1人で王女は居るからな。
安全だと思っていたけれど、もっとも危険な空間だった。
明らかにこれは陽動作戦。
本命はギガコウモリだ!
今からギガコウモリの来る方向が分かれば、迎え撃つことができる。
地上のケンタウロスは他の人達に任せて、俺とモージル妖精王女達でギガコウモリを迎え撃つ。
「ギガー、コーモモー、くるー」
ギガコウモリの、リが、い、言えない……。
王女に伝わったか?
「まさか!?
ギガコウモリが襲ってくると、トルムル様は言っているのですか?」
モージル王女には伝わって良かったー。
王女は意外とでも言うように、俺を見ている。
「そう。
さが、すー」
俺はそう言って、オシャブリを吸う。
精神統一して感覚を研ぎ澄ませる。
四方に意識を伸ばしてみた。
居た!!
ケンタウロスが襲ってくる真反対の方向から、かなりの高度を取ってこちらに向かっている。
地上から見えない程の高高度、ウール王女と同じくらいの高さを飛んでいるのが分かる。
今なら、俺とモージル王女達で行って迎撃できる。
「いたー。ギガー、コーモモー。
トームル。もー、じる。いくー」
ギガコウモリが本当に来ているので、王女が驚いて言う。
「ギガコウモリが襲って来ているのですか!?
それで、私達と、トルムル様で迎え撃つと」
「そうー。
マグニー、ドーベルー、モージールー。
たたかうー」
それを聞いたマグニが興奮しながら言う。
「オレも戦えるんだな!
やったぜ、オレは頑張るぜ、トルムル!」
マグニって、本当に性格がコロッと変わるよね。
普段の、内気な性格からは想像もできない……。
エイル姉ちゃん、ヒミン王女、そしてウール王女にこの事を連絡した。
たどたどしい俺の言葉だったけれど、やっと彼女達に伝えた。
エイル姉ちゃんが言う。
『分かったわ、トルムル。
ケンタウロスは私達に任せて』
ヒミン王女が言う。
『流石トルムル様です。
ギガコウモリが襲って来るとは、誰も思いませんでしたから』
最後に、ウール王女が言う。
『トームル。
きをー、つけてー。
わたしも、がんばーるー』
ウール王女の優しい気遣い。
王女の為にも頑張らないとな。
俺とモージル妖精王女達は、ギガコウモリが来る方向に急いで飛んで行く。
見えてきた。
ギガコウモリの群れがこちらに向かっている。
まだ遠くなので、俺達に気が付いていない。
ギガコウモリはまだ散開していないので、今なら効率的に迎撃できる。
俺はオシャブリを吸い、精神統一する。
そして、最大火炎魔法を発動した。
ゴォア〜〜〜〜〜〜〜〜!!
轟音と共に、火炎がギガコウモリを襲う。
辺りは火炎の光で、真昼の様に明るくなる。
突然の攻撃で、何も出来ないまま魔石になって落ちて行くギガコウモリ達。
今の魔法で、ギガコウモリの半分を落とした。
予想以上の戦果に、ビックリする俺。
え……?
以前よりも、遥かに威力が増している。
10倍以上の威力はある。
何で……?




