新しい船とメドゥーサ
シブ姉ちゃんと、プラとの間で交わされる友好の儀式が終わった。
これによって、プラナリヤの妖精であるプラとシブ姉ちゃんは心で繋がる。
更に、プラの能力である治癒魔法を高める能力をシブ姉ちゃんに与える事ができる。
シブ姉ちゃんはこの儀式によって、妖精達が見られるようになった。
プラナリヤの妖精であるプラが、シブ姉ちゃんの前に羽ばたいて行って挨拶を交わしている。
シブ姉ちゃんは終始驚いたまま。
そして、ヒドラを見た途端にシブ姉ちゃんは固まってしまう。
あ……、モージル妖精王女と一緒に来ているのを書き忘れた……。
シブ姉ちゃんが固まるわけだ。
なにせ、伝説でしか知らないヒドラの妖精が目の前に居て、挨拶をしているんだから。
ドゥーヴルが、また余計な事を言おうとしている……。
「トルムルのお姉さん達って、スッゴイ美人で、オッパイが大きいんだな」
バァチィィィーーーーー!!
「ご、ごめんなさい。
もう言いませんから」
おっと、また女王の雷撃が落ちたよ。
シブ姉ちゃん、今度は目が点になっている……。
王女が謝るように言う。
「失礼しました。
ドゥーヴルは捻くれた性格をしていますので、つい余分な事まで言ってしまうのです」
周りで見ている姉ちゃん達は何が起きているのか分からず、呆気に取られている。
部屋の中で、雷撃の音だけ響き渡ったので……。
しばらくして、エイル姉ちゃんが俺に言う。
「私に合った妖精をトルムルが探してくれるんだよね。
希望があるんだけれどいいかな?
私のパンティーの絵柄と同じ、風の妖精か、土の妖精がいいんだけれど」
エイル姉ちゃん、感覚が大幅にずれている〜〜。
そんな基準で決められるわけないのに。
「ぶー。
エー、ねーたん。ダメー」
俺が言った途端に、エイル姉ちゃんの口元が歪む。
「え〜〜。ダメなの。
がっかり……」
エイル姉ちゃんには、理性的な妖精を探そうと思っているんだよな。
風の妖精は理性的だよ。
けれど、精神を強化してくれるので、アトラ姉ちゃんに合うのではと思っている。
何故なら、アトラ姉ちゃんの得意な闘気を更に高めてくれるから。
姉ちゃん達の特技を伸ばす妖精を探さないとな。
あ、そうだ。次のページが開けられなかった大賢者の本に、何か書いてあるはず。
家に帰ったら、早速見ないとな。
それに、ゴブリンの魔石の上を飛ぶヒドラの試作品も作らないと。
まじかに見ているので、細かい所までハッキリとイメージできる。
今度こそ父ちゃんを納得させて店で売る。
そして、ヒドラの商品を世界的に売ると、安心感を人々に与えられる。
これって、重要だと思うんだよな。
子供がこれを見るだけで希望が湧いてくる。
なにせ、大賢者と共に当時の世界を救ったヒドラなんだから。
でも、現実のヒドラは、思い描いていたヒドラと少し違った。
頭が3つなのは同じだけれど、性格が3つとも大違い。
モージル妖精王女は理性的。
しかし、ドゥーヴルの捻くれた性格はなんで?
毒を吐くからか……?
長年毒を吐いているので、性格まで毒々しくなったかも……?
えーと、それに。戦争を始める前段階として、この国の経済を立ち直らせないと。
それには、スールさんと話して新しい船の建造を提案し、経済を活性化させないとな。
資金はワイバーンの魔石があるから、これに防御魔法を付与して売れば高値で売れる。
それを元手にして新しい船を作る。
船を作る事によって、それに携わる人達にお金が行く。
船が出来上がると、船員とか港湾関係者にもお金が行き渡るので益々経済が上向きになって行く。
でも……。船の強化もしないと、魔物が襲って沈められたら元も子もない。
……?
そうだ、丁度良い魔石があるよ。
港に襲って来たタコ型の魔物からできた魔石は、巨大蛸足の攻撃魔法が付与できる。
これって超強力だから、強い海の魔物でも撃退できる。
おれは、近くにいたヒミン王女を呼ぶ。
「ヒー、おーど。きーてー」
ヒミン王女はすぐに反応して近くまで来てくれる。
「トルムル様は私に御用なのでしょうか?」
「とう」
そう言った俺は、さっきまで考えていた事を紙に書き始める。
書き終えると、何か加える事がないかと書いた。
「そうですね……。
港湾の防御も強化した方がいいですね。
それと、灯台も必要でしょうか」
流石、ヒミン王女だ!
そこまで気が付かなかったよ。
やはり、全体的に物事を見る能力はずば抜けている。
ハーリ商会のスールさんとの交渉は、ヒミン王女に代弁をしてもらおう。
知り合いみたいだし。きっと上手くいく。
それを紙に書くと、ヒミン王女は笑顔で俺に言う。
「代弁ですね。お任せ下さい。
スールさんとは、お母様に付き添って商談の話を何度もしてきました。
彼は誠実な方なので、きっと上手く話がまとまると思いますよ。
話がまとまり次第契約を作成して、最終的にトルムル様に確認をお願いします」
「ヒー、おうど。あーがとー」
「どういたしまして。
それでは早速行って、話をまとめてきます」
そう言ったヒミン王女は、すぐに部屋を出て行く。
行動力も早いよね。
新しい船を建造する件は、ヒミン王女に任せておけばうまくいきそう。
問題は、奪われた3国を支配しているゴルゴーン姉妹だよな。
この3国を奪え返して、この大陸から魔物の勢力を一掃しないと、この戦いは終わらない。
神の娘達であった彼女達は間違いなく強敵。
しかも、母ちゃんの話によると、末娘のメドゥーサを見ただけで石にされると言っていた。
超強力な魔法で人々を石に変えていって、3国に住んでいる人々を全て石に変えた。
そして、王族の人達は再び生き返らない様に、その石を破壊したって。
メドゥーサを倒すと、石にされた人達は元の人間に戻る。
メドゥーサ本人がそれを言いながら、人々を石に変えていったみたい。
逃げ延びて来た人達が、それを聞いて報告したって。
でも、どうやって戦ったらいいんだろうか?
大賢者の本には、ゴルゴーン三姉妹の事は書いていなかった。
大賢者の時代には彼女達は戦わなかったみたい……。
メドゥーサを倒す方法を自力で探すしかないのか……?
「どうしたんだいトルムル、真剣な表情で悩んでいたようだけれど?」
ふと気がつくと、アトラ姉ちゃんが横にいて俺を覗き込んでいる。
姉ちゃんに近くから見られて、俺は少しドッキっとした。
姉ちゃんって、化粧を全くしていないのに超美人。
王子が求愛するのが分かるよ。
しかも、いつもの甘い香水を付けている。
きっと、王子の好きな香水なんだろうな。
おっと、思考がそれてしまった。
えーと。一人で悩んでも仕方ないので、メドゥーサの事を書いて姉ちゃんに見てもらう。
「トルムルはメドゥーサと戦う方法で悩んでいたのか。
それには解決策はあるんだ。けれど……」
え、解決策があるの?
姉ちゃんの言葉が『けれど……』で止まっているんですけど……?
「鏡を通して見ればメドゥーサを見ることはできるんだ。
でも……、それだと後ろ向きになるので戦いにくい。
それに、他の姉妹達や魔物が猛攻仕掛けて来るから後ろ向きでは戦えない。
振り向くとメドゥーサに石にされてしまう。
各国から援軍に行った人達は、それで石にされてしまったんだ。
私の上官だった人も石にされたと聞いている。
トルムルならメドゥーサを倒してくれるのではと私は信じているよ」
……?
姉ちゃんの期待が大きすぎる気が……。
そうだ、妖精達はメドゥーサを見れるんだろうか?
もし見れたら、妖精達に目の代わりになって戦えるかも。
「もー、じー、る。じょー、おー」
なんとか言えた。
早く、年を取りたいよ〜〜。
「トルムル様、何かご用でしょうか?」
「うん」
そう言って俺は、さっき書いた紙をモージル女王に見せる。
「メドゥーサですか……。
彼女の近くには、妖精達も行けないのです。
百合の妖精と、薔薇の妖精がメドゥーサを見て石にされてしまったのです。
この大陸から魔物を追い出すには、メドゥーサを倒す必要があるのですが……」
妖精もダメなのか。
カギとなるのは鏡か……。
そうだ!!
潜望鏡みたいな構造で眼鏡を作ると、前が見れる。
それを作ったらメドゥーサ戦に臨める。
でも、防毒マスク以上に変な形になるな……。
ディース姉ちゃんが、また何か言いそう……。
でも、ディース姉ちゃんの住んでいる国が、メドゥーサに最も近い。
早急にこれを作って常備してもらわないと。
いざとなってからだと間に合わない。
それと、スキュラの魔石をディース姉ちゃんの槍に組み込むと、凄い武器になる。
1回の攻撃で、6回の攻撃ができるんだから。
これって、伝説の槍にも劣らない武器に変身するよな。
とにかくディース姉ちゃんを呼んで、姉ちゃんの住んでいる第一王子にこの事を伝えなければ。
王位継承者会議で既に2人は顔見知りになっているから、話がしやすいと思うんだよね。
「ディー、ねーたん。きーてー」
ディース姉ちゃんを呼ぶと、他の姉ちゃん達も集まりだした。
「どうしたのトルムル。
私に、何か話でもあるのかしら」
俺は、考えている事を紙に書いていった。
ディース姉ちゃんは真剣にそれを見ている。
潜望鏡のアイデアを図で書いたら、横で見ていたドゥーヴルが言う。
「トルムルって、頭が凄くいいんだな。
流石、モージルが惚れ込んだ赤ちゃんだよ」
また、雷撃が落ちる〜〜。
あれ……?
モージルの雷撃が今度は落ちない。何で?
モージル女王を見ると、真剣に書いた図を見ている。
「これは素晴らしいアイデアですね。
流石トルムル様です」
……。
えーと、ヒミン王女と同じ様な口調になっているんですけれど……。
ディース姉ちゃんも感嘆の声を漏らして言う。
「トルムルってば、凄いアイデアを出すわ!
この眼鏡を作ると、前向きでメドゥーサと戦えるわ。
分かったわ。帰ったら彼に伝えるわね」
彼……?
一国の王子を彼って呼んだよね……。
え〜〜〜〜〜〜!
ディース姉ちゃんの彼氏って、第一王子なの?
俺の姉ちゃん達って凄!
彼氏のいる姉ちゃん達は、彼氏が全員王子だ〜〜!
姉ちゃん達が超美人で、世界的に有名なのは分かるけれど……。
あ、……。
俺の彼女は、王女だったのを忘れていた……。
姉ちゃん達のこと、言えないよな。
思考がまたずれてしまった。
と、とにかく、続きを書かないとな。
最後にスキュラの魔石を、ディース姉ちゃんの槍に組み込む事を書いた。
「スキュラの魔石を、私の槍に組み込んでくれるの?
それって、1回の攻撃で6回攻撃ができるのよね。
私の槍のレベルが大幅にアップするって事だよね」
ディース姉ちゃんは段々と笑顔になっていく。
「ありがとう、トルムル」
そう言ってディース姉ちゃんは俺の頬にキスをしてくれた。
ん……?
何か、頬に付いたような……?
「あら。キスマークがトルムルの頬に付いちゃったわ。
でもトルムル。とっても可愛くなったわよ」
キ、キスマークで可愛くなった……。
これって、喜んでいいのかな……?
「ん〜〜ん。
トルムル可愛いから抱いちゃう」
ディース姉ちゃんは俺を抱き上げてくれる。
そして、その柔らかな大きな胸で抱いてくれて、俺はとても嬉しかった。




