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ヒドラの妖精女王

「あっ……。

 トルムルは、疑問に思っているよ。


 男と女の両方の性を持った俺達の体がどうなっているか。

 目線が下がったからな」


 バチィィーーーー!


「イテェ〜〜〜〜!

 わ、分かったよ。もう言いません」


 モージル女王は、再びドゥーヴルに雷撃を落とした。

 女王、怖!


 女王が再び話し出す。


「今度言ったら、10倍の威力の雷撃をお見舞いするわよ」


「わ、悪かった。もう言いません」


 モージル妖精女王は、再び威厳に満ちた口調で話し出す。


「動植物の妖精達は、それぞれの種族に指示をだせ、戦闘に参加させる事が可能です。

 私は、ヒドラの種族に指示を出せるので、いざとなったら大きな戦力になります。


 その他の妖精達は、特殊な能力を合わせ持っている者達も居ます。

 例えば、風の妖精は風を操る事ができます。


 そして、この場所に私がいると、多くの妖精達から情報が集まってきます。

 それを、トルムルが得る事が出来るのです。



 情報は、戦争をする上に置いて最も重要であり、不可欠なものです」


 俺は軽く頷いた。


 でも戦争って……。

 規模が、さらに大きくなっている気が……。


 俺、まだ赤ちゃんなんですけれど……。


 それに、動物が戦争に参加って分かるけれど、植物が戦争に参加って……?

 どうやって戦うんだろうか?


「流石ですね。

 トルムルなら分かってくれると思いました。


 既に、後継者会議のメンバーがトルムルを信じていますので、今後の事はやり易いと思いますよ。


 トルムルと私の間で服従の儀式を行うと、貴方は私から情報を得る事ができます」


 服従の儀式だって!

 今まで、自分の行動に対して自由にしてきたのに……。


 例え世界を救う目的でも、会ったばかりの女王に服従したくはない……。


「服従の儀式では、私がトルムルに従う事であり、貴方は私に命令をする事が出来るのです」


 逆ですか!?

 でもそれって、どう考えていいか……?


「更に、他の妖精達にも命令する事ができ、トルムルが妖精国の頂点に立つ事を意味します」


 ……?

 お、俺が妖精国の頂点に……?


 マ、マジですか?

 まだこの世界に生まれて、たった9ヶ月しか経っていないのに……。


「服従の儀式の為に、トルムルについて色々と今まで調べさせて頂きました。

 そして、最後の試練が妖精国に来て、この場所で私と話をする事だったのです。


 少しでも邪心があれば、ここでは心を焼かれてしまいますので。

 トルムルがここに来た事によって邪心が全くない事が証明され、全ての条件を満たしました。


 世界と妖精国を救う為、何卒この儀式を受けて下さるよう心より希望いたします」


 そう言うと、モージル妖精女王と両脇のドゥーヴル、マグ二が深く頭を下げる。

 そして、周りを取り巻いていた妖精達も頭を下げていく。


 いきなり言われても困るんですけれど……。


 でも……、大賢者も同じ儀式をしたのは間違いがない。

 大賢者を目指す俺にとっては避けられない宿命か?


 そう思うと、決心がしやすい。


 俺を生んでくれた母ちゃんを思い出す。

 俺を生んですぐに亡くなった母ちゃん。


 俺は、母ちゃんの意思を継いで大賢者になると心に誓った。

 それが今、大きな一歩を踏み出す事になる。


「わーた。ぎし、きー。するー」


 モージルはそれを聞くと頭を上げて、笑みを浮かべながら言う。


「トルムル様ならそう言うと思っていました。

 それでは、服従の儀式を早速始めましょう」


 モージル女王が呪文を唱え出すと、俺と女王の下に光り輝く魔法円が現れた。


 呪文の続きを女王が唱えだすと、更に魔法円が眩しく光り輝き出す。

 魔法円が2つに分かれ、俺と女王の体に入ってゆく。


 魔法円が体に入って行く時、体が異常に熱くなり焼かれるのではないかと思った。

 そのあと、俺の体と王女の体が光り輝きだしてくる。


 ふと、何かが俺に結び付いた感覚がしてくる。

 それを確かめる為に意識を伸ばす。


 すると、女王と心で繋がっているのが分かった。

 更に、女王からは無数の妖精達とも繋がっており、その情報量の多さに最初圧倒される。


 すぐに俺はオシャブリを吸って精神統一。

 すると、情報画面を見ている様に大量の情報を整理できた。


 ふー。

 こんなに、情報があるなんて……。


 でもこれで、世界で何が起きているのか手に取るようにわかる。

 これは……、すごい武器になる!


 でも……。

 思っている以上に、魔王の勢力は広範囲にわたっている。


 西の大洋に面している4つの国々は、カリュブディスと戦った国以外は全滅。

 3つの奪われた国を拠点として、魔物達は内陸部へと進撃をしている。


 ワイバーンとカリュブディス戦が、魔物の進撃を地理的に止めた重要な拠点だったと分かる。

 そうすると、この国が次の段階では重要になってくる。


 あ……。

 この国は、槍使いのディース姉ちゃんが住んでいる国だ。


「これで、服従の儀式は終わりました。

 お姉さん達とヒミングレバー王女、そしてウールバルーン王女には、妖精達と個別に友好の儀式を近い将来受けてもらう事になります。


 そうすることによって、彼女達は妖精を見られて話ができるようになります。

 妖精の特徴は私を通してすぐに調べられると思います。


 最終的にはトルムル様に決めて頂く事になります」


 そうか、姉ちゃん達にも妖精が見えて話せるようになるんだ。

 でも、姉ちゃん達に合う妖精を探すのは苦労しそうだな。


 あ、このプラナリヤの妖精は治癒能力の魔法を高める能力を持っている。

 シブ姉ちゃんに相性が良さそう。


 シブ姉ちゃんは治療師なので、治癒治療をする時に治癒魔法を更に高めてくれる。


「プラー、ナリー、ヤ。よーちぇい、あう」


 又してもちゃんと言えない……、

 これで、妖精国の頂点に立ったなんて、今でも信じられない……。


「プラナリヤの妖精ですね。

 流石です。彼を推薦しようと思っていた所だったのです。


 彼の名前はプラ。

 私の後ろに居ると思いますよ」


 モージル妖精女王の後ろから、少し寄り目の可愛らしい男の子が羽ばたきながら前に進み出る。


「初めまして、プラです。

 シブお姉さんと僕は相性が良いと、自分でも思っていました。


 もし選ばれたら、皆さんのお役に立てるよう頑張りたいと思います」


 そういうとプラは軽くお辞儀をする。


 どの妖精も見かけは若いけれど、生きてきた年数は俺とは比べ物にならないくらい長いはず。

 それなのに、目上の人に接してくれる様に礼儀正しい。


 彼の性格が現れているのかなと思う。

 決まりだね。シブ姉ちゃんにはプラナリアの妖精、プラに決めよう。


 そろそろ元の体に戻らないと、姉ちゃん達が心配しているはず。

 さっそくプラを連れて帰ろう。


「トームル、かえるー。

 プラ、もー。

 シーね〜たん、と、プラ、ぎし、きー。するー」


 プラが喜びの顔で言う。


「僕を選んでくれて有難うございます。

 ご希望に添える様に頑張りたいと思います」


 モージル女王が、少し驚いた様子で言う。


「トルムル様は的確な判断が早いですね、流石です。

 すぐに決めて頂けるとは予想外でした。


 私もトルムル様に付いて行って、妖精が見えるようになるシブお姉様にご挨拶をしたいと思います」


 モージル王女を見た時、シブ姉ちゃんは驚くだろうな。

 姉ちゃんは、実物のヒドラの妖精を知らないからな。


 あ、……。

 エイル姉ちゃんが、お土産って言っていたけれど……。


 今回は仕方ないよね。

 持って帰るもの何も無いし。


 持って帰っても、波長が違うのでエイル姉ちゃん多分見れないだろうし。



「わーた。

 トームル、いーくー」


 俺はそう言うと、妖精達に手を振った。

 妖精は、俺を見送る様に手を振っている。


 どの妖精も目が光り輝いており、俺に信頼の眼差しを向けている。

 妖精って、純真で一途な性格なのかなと思った。


 ドゥーヴルを除いて……。

 でも……。何で彼は、あんなにひねくれた性格なんだろうか?



 意識を俺の体に向けると、心を体に移動する。



 目が覚めると、アトラ姉ちゃんに抱かれたままだった。


「トルムルが戻って来たよ!」


 アトラ姉ちゃんは凄く喜んで俺を抱きしめる。


 く、苦しい!

 い、い、息ができない……。


 姉ちゃん、またしても強く抱きすぎだ〜〜!!

 新生児の時に受けた恐怖が再び起こってくる。


 俺は思いっきり暴れた。


「アトラ姉さん!!

 トルムルが苦しんでいるわ!


 トルムルはまだ赤ちゃんなのよ!」


 そう言ったのはエイル姉ちゃんだ。


「え……?

 少しだけ強く抱いているだけだよ」


 これが少しだけだって!

 お、俺には致死レベル……。


 だ、ダメだ、意識が……。

 そう思った瞬間に、エイル姉ちゃんが俺を抱いて救ってくれる。


 ふーー。

 た、助かったーー。


「アトラ姉さんの能力が命力絆ライフフォースボンドで、飛躍的に高まっているのを忘れたの?

 少し強めに抱いても、トルムルは赤ちゃんだから命に関わるのよ!」


 そうだそうだ!

 こういう時は、エイル姉ちゃんの判断は正しい。


 しかし……、オッパイ恐怖症が再発したような気が。

 アトラ姉ちゃんの胸を見るのが怖い……。


 手がまだ少し震えている。

 アトラ姉ちゃん、恐るべし。


 アトラ姉ちゃんは、反省をする様に俺を見る。


「ごめんな、トルムル。

 妖精の国からトルムルがなかなか帰らないので、とっても心配していたんだよ。


 それで、妖精の国には行けたのかい?」


 俺が姉ちゃんを心配させていたんだ。

 それで俺を、少しだけ強く抱いてくれたんだね。


 でも、以前より遥かに抱く力が強くなっている!

 胸の弾力も……。


 そうだ、妖精の国に行った報告をしないと。

 口では長くかかるから、紙がいるよね。


「シーねーたん。かみー」


 シブ姉ちゃんは既に用意していたみたいで紙を渡してくれた。

 察しが良いよね、シブ姉ちゃんは。


 妖精の国に行って起きた出来事を俺は書いていった。

 俺の周りに姉ちゃん達とヒミン王女が集まって来た。


 黄金色に輝く草原に居る事が最後の試練だと書くと、姉ちゃん達は驚きの声をあげた。

 そうだよね。もし俺に邪心が少しでもあったら死んでいただろうから。


 妖精の王女と服従の儀式をした事を書くと、更に驚きの声を姉ちゃん達は上げ始める。

 俺以上に姉ちゃん達が驚いている。


 ヒミン王女だけは冷静になって俺の書いているのを見ている。

 客観的に物事を見る能力が、王女はズバ抜けているよな。


 幼少の時から国を治める勉強をしたからだろうな。

 大局を相談するにはヒミン王女が適役かも。


 あれ……?

 俺って、ヒミン王女を参謀にと考えている。


 最後に、プラナリヤの妖精とシブ姉ちゃんが友好の儀式をすることを書いた。

 シブ姉ちゃんは両手で口を押さえ、大きな目を、更に大きく見開きながら驚いて俺を見て言う。


「私にも、妖精が見えるようになるの……?

 とても信じられない……。


 しかも、治癒魔法の能力が更に上がるなんて……。

 ありがとうトルムル」


 そう言ったシブ姉ちゃんは俺を抱き上げてくれて、その柔らかな胸で抱いてくれる。

 ほんのすこしだけ、オッパイ恐怖症が再発した。


 けれど、とっても幸せな気持ちを、姉ちゃんの胸の中で俺は感じた。


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