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クラーケン

 風光明美な港町に馬車で向かっている。

 カリュブディス戦の前に、こちらの魔物と先に戦うことにした。


 シブ姉ちゃんの話によると、魔物が港町を毎日襲っていると聞かされたからだ。

 緊急を要するのは、こちらだと判断する。


 馬車の中で揺られながら、ここ一週間の疲れで俺は寝てしまう。


「トルムル、寝ちゃった。

 でも、仕方ないよね。


 今日までの一週間。この国のあらゆる所に行って、患者さんの体内にいる魔物を退治してきたからね」


「シブ。そんなに小さな魔物がいるなんて、聞いた事がないんだけれど?」


「アトラ姉さんが知らないのも無理もないわ。

 私だって、トルムルが見つけてくれなければ、その存在自体知らなかったんだから。


 それに、へプティ師匠も聞いた事がないと驚いていた。

 それをトルムルが発見して、患者さんの体内から取り出したのよ。


 私も手伝ったけれど、とても大変だったわ。

 道に落ちているゴマを、手で全部拾うような感じかな?


 一粒でも取り残すと、再び増殖していく厄介な魔物だったわ。

 トルムルはそれを、時間を掛けて丁寧に取り除いていた。


 トルムルって魔力が桁違いだけれど、集中力も桁違い。


 まだ9ヶ月なのに、大人顔負けの細かな治療をしていたわ。

 でも、ずっとオシャブリを吸っていて、つらそうだった。


 何度も……。今日はこれで終わりにしましょうと言ったのだけれど……。

 患者さんの命が掛かっているからって、トルムルは治療をやめなかったわ。


 朝起きてから、寝るまでずっとよ。

 トイレと食事以外は治療をしていたわ。


 いつもはしているお昼寝を、一度もしていないのよ。

 そのせいか、少し肌のツヤが無くなったような感じ。


 寝るのも移動の馬車が殆ど。

 ベッドで寝たのは、ここ一週間で一度だけ。


 私は……、頭の下がる思いがして……。


 9ヶ月の弟から、治療師の何たるかを教えてもらうとは思いもしなかった。

 へプティ師匠も言っていたわ。


 トルムルはまさに、賢者の名に相応しい働きをここ一週間してきたと。

 だからせめて……、港町に着くまではグッスリと寝てもらいたいの」


「ここ一週間で、そんな事があったのか……。


 そうだ!

 港町に着いたら、私達だけで魔物を退治しないか?


 カリュブディスは無理にしても、雑魚相手。

 トルムルからもらったこの新たな能力で、簡単に退治できると思うんだよ」


「私もアトラさんに賛成します。

 トルムル様の肌のツヤが、以前よりもないので心配していたのです。


 温泉に入った後は、あんなに肌がツヤツヤとしていたのに……。

 ここ一週間で、こんなになってしまわれて……」


「ありがとうヒミン。王女の貴女が言ってくれると心強いよ。


 みんなはどう思う?」


「「「「賛成〜〜」」」」


「これで決まり。

 今回だけは、トルムルなしで魔物退治!!」


 ◇


 ドッゴォ〜〜〜〜〜〜ン!!


 大きな音で俺は起こされた。

 この音は、アトラ姉ちゃんが伝説の魔剣を使った音だ!


 姉ちゃん達とヒミン王女は、すでに馬車から降りていた。

  魔物の気配を感じて、馬車から外を眺めると姉ちゃん達が魔物と戦っている。


 目的地の港町に着いたことを俺は知る。

 何で起こしてくれなかったのかと、最初は思った。


 でも姉弟きょうだいなので、その行為がすぐに分かって嬉しかった。

 ここ一週間。毎日俺を見てきたシブ姉ちゃんが、きっと俺を休ませるようにと他の姉ちゃん達に言ったんだ。


 町中では、魔物の侵入を食い止めるべく道路のいたる所にバリケードを築いている。

 そのバリケードの前で姉ちゃん達は戦っている。


 港に目をやると、数隻の大きな船が沈められ、無残な姿を海面から覗かせている。

 その港から、続々と魔物が陸に上がって来ている。


 姉ちゃん達は善戦している。

 けれど、これだけの魔物相手に、最後まで戦い抜くのは難しいと俺は判断した。


 もしもの時のために、ハゲワシになって上空に待機することにする。

 ハゲワシ以外には、なれないんだけれど……。


 あ〜〜あ。

 いつになったら、カッコイイたかとかとんびになれるんだろうか?


 すでに皮の防具を付けているので、その上から厚手の服を着る。

 秋も深まってきたので、昼間でも寒い。


 着替えると、馬車の後ろの窓から重力魔法で出る。

 御者が馬車の前に座って港を見ているので、そちらから行かれない。


 ハゲワシに俺は変身すると、空高く舞い上がった。


 外は秋晴れで、空を飛んでいるだけで気持ちがいい。

 さらに高く舞い上がると、遥か彼方に海峡が見えてきた。


 魔王の幹部であるカリュブディスが住み着いた海峡だ!

 ここから見る海峡は絶景で、エメラルドグリーンの海が外海まで続いている。


 ここが観光地だったと、エイル姉ちゃんが言っていた。

 魔物がいなくなれば、ここは再び観光地になると思う。


 下の方では、姉ちゃん達が戦っている。

 けれど、次から次へと海から上がって来る魔物を何とかしないとな。


 ん……?

 海峡から、大型の魔物が近付いて来ている。


 タコ?

 家ぐらいの大きさか?


 いや、もっと大きい。

 エメラルドグリーンの海に、魔物の影がハッキリと見えてきた。


 もしかして、母ちゃんの言っていたクラーケンか?

 もしそうだとしたら、姉ちゃん達が危ない!


 先制攻撃を今仕掛けないと、ヤバイ!!

 今が最大のチャンスで、真上から攻撃を受けるとはまさか思わないだろうし。


 俺は、最大雷魔法アルテメイトライトニングを手の中でイメージを開始する。

 イメージが完了すると魔法を発動する。


 空に積乱雲が現れた。


 ゴロゴロ。


 巨大なイナズマが、光や音と共にクラーケンの真上から襲いかかる。


 ピカァー。ドォカァーーーーーン!!


 やったか?


 クラーケンは驚いて、頭を海面に持ち上げる。

 驚いただけで、致命傷にはなっていないんだ。


 それに……。デ、デカイ!

 万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルと同じくらいの大きさだ!


 母ちゃんから聞いていた大きさよりも、さらに大きい。

 まさか、こんな大きな魔物が内海の中にいたなんて!!


 いや、違う!

 カリュブディスが外海から呼んだんだ。


 クラーケンを見ると、誰が攻撃をしたのか辺りを見回している。

 上空に俺がいるのが分からないみたいで、困惑している感じが伝わってくる。


 チャンスはまだある!


 ユデダコが俺は好きだけれど、焼きダコでもいいよな。

 オシャブリを吸って、いつものように精神を統一する。


 さっき、雷魔法の時にオシャブリを吸うのを忘れたので、威力が下がった気がしたんだよな。

 やはり、こういう時には焦らずにしないと。


 俺は最大火炎魔法ウルティメイトファイアを手の中でイメージをする。

 イメージが完了したので、クラーケンに向かって魔法を発動する。


 ドォッゴォ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!


 以前よりも威力が増しているよ〜〜。

 これなら、やっつけれるはず……?


 頭に直撃をしたのに、次の瞬間には足が攻撃を塞いでいる。

 二本の足は真っ黒焦げになったけれど……。


 だめだ、足二本だけのダメージしか与えられない。

 ……?


 あ、俺を見ている。


「お前はハゲワシ!!

 ワイバーンとミノタウルスをったのはお前だな!


 魔王様からのご命令で、ハゲワシは第一級要注意人物ですぐに殺せと。

 お前を殺すと、魔王様の幹部になれる。


 このクラーケン。絶好のチャンス到来だ!」


 そう言うとクラーケンは長い足を伸ばして俺を捕まえようとした。

 俺はすぐに空高く舞い上がる……。


 あれ……、足に何か絡まって上空に行けない……?


 あ〜〜〜〜、マジ!!

 クラーケンの足が俺の足に絡まって……。


 ひ、引きずられて行く!

 重力魔法を使っても、ひ・き・は・が・せ・な・い!!


 俺はすぐに鎌鼬かまいたちを発動した。

 死神鎌デスゴッドサイスになって、俺の足に絡まっているクラーケンの足に襲いかかる。


 ザク、ザク、ザク、ザク、ザク、ザク。


 クラーケンの足は細かく切られ、海面に落ちて行く。


 いや〜、あぶなかった〜〜。

 クラーケンの足が、あんなに長いとは!


 足の先っぽだから逃げれたよ。

 油断大敵だよな!


「おのれー! すばしっこい奴め!

 降りて来て、俺と勝負しろ〜〜!」


 そう言われて俺が降りて行くと、そのズ太い足で俺を捕まえるくせに……。

 ここにいる限りは安全だよな。


 あ、……?

 俺を諦めて、港町を襲う気だ。


 あんなデカイのが上陸したら、移動しただけで町が壊滅してしまう。

 カリュブディス戦に取って置いた、秘策の魔法を使うしかないな。


 絶対零度アブソリュートゼロの魔法は―273、15度で、全ての熱振動が停止する。

 これ以下の温度は存在しない。


 この環境下では生物活動ができない、……はず。

 クラーケンどころか、周りの海も一緒に氷ずけにしてやるぞ!


 まず最初、オシャブリからだな。

 念には念を入れないとな。


 オシャブリを吸って精神を統一すると、俺は手の中でイメージを開始する。

 絶対零度アブソリュートゼロのイメージができたので、クラーケンめがけて俺は魔法を発動した。


 ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜。


 銀色の大きなかたまりが、クラーケン目掛けて行く。

 かたまりの通った後には、ダイアモンドダストが太陽の光を浴びてキラキラと輝いている。


 カッキィィ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!


 下の方で、海面が凍った音がする。

 ダイアモンドダストが風に流されて視界が元に戻ると、クラーケンが氷漬けになっていのが見える。


 やったね。

 クラーケンを魔石に変えられなかったけれど、取り敢えずはよしとしよう。


 あ、でも……?

 クラーケンを魔石に変えない限りは、また動き出すんだよね。


 姉ちゃん達の方を見ると掃討戦に入っていて、魔物はほとんどいない。


 何で?


 海から町に上ろうとしていた魔物の気配が消えている……?

 クラーケンに使った最大雷魔法アルテメイトライトニングで、おそらく海から上ろうとした雑魚の魔物は魔石なったんだ。


 やったね俺。

 これは、予想外の効果で一石二鳥だった。


 姉ちゃん達が全ての魔物をやっつけると、俺は町に舞い降りて行く。

 町の人達が歓喜している。


 嬉しいよね。

 こうして喜んでもらえるのって。


 アトラ姉ちゃんの肩に舞い降りると、他の姉ちゃん達とヒミン王女が近付いて来る。

 皆んな笑顔で、充実した顔つきだ。


 アトラ姉ちゃんが、小さな声で俺に言う。


「まさか、ここにクラーケンが居るとは思わなかったよ。

 トルムルが凍らしてくれなかったら、どうなっていたか。


 町にクラーケンが上陸するだけで、町は壊滅的になるからな。

 ありがとう、トルムル」


 そう言うとアトラ姉ちゃんは、肩に止まった俺をでてくれる。

 優しく、ゆっくりと……。


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