これも立派な魔物退治
ハーリ商会のオーナーであるスールさんと別れた後、重大な決心を俺はする。
それは、カリュブディスを退治すること。
そして、各国にいる姉ちゃん達を呼ぶことにした。
一週間後に集まるようにと、命力絆を使って連絡。
姉ちゃん達は快く返事をしてくれる。
姉弟が、また一緒に戦うようになるね、とも言ってくれた。
ヴァール姉ちゃん、ディース姉ちゃん、イズン姉ちゃん達は、命力絆で基礎能力が飛躍的に上がったので、戦闘で使いたくてウズウズしているのが伝わって来た。
城に着くと、シブ姉ちゃんが迎えに来てくれた。
「みんな、ありがとう。
こんなに遠くに来てくれて。
着いたばかりで申し訳ないのだけれど、トルムルに患者さんを診て欲しいの?
患者さんは子供で、重体なんだ。
トルムル、すぐに動いて大丈夫?
少し、休憩してから診る?」
大丈夫もなにも、カリュブディスを倒す決心をしたあと、馬車の中で熟睡していたんだよな。
以前のように、思い悩む必要性がなくなったからかな?
「だー、じょー、ぶ。
み、るー」
シブ姉ちゃんは笑顔になっていく。
「ありがとう、トルムル。
そう言うと思ったわ。
私の師匠に、トルムルの秘密を話してある。
トルムルの話をした時に、腰を抜かす程師匠は驚いていたわ。
うふふ、当然よね。
まだ9ヶ月の赤ちゃんが、人の命を救ったり、怪我人を治したり。
それと、第一王子と王様にもトルムルの秘密を話してあるわ。
もっとも、第一王子はヴァール姉さんの件で、ある程度知っていたけれど……。
さらに、王子にトルムルの事を詳しく話したのよね。
そのあと彼……、固まってね。目をパチパチさせて私を見ていたわ。
とっても可愛い〜〜、彼の仕草を発見したんだ。
……あ……?
これ……、余分よね」
シブ姉ちゃんと第一王子、予測通り付き合っているんだ。
姉ちゃんの、あの幸せそうな笑顔。
あ……、急に渋い顔付きになった。
「これから、患者さんの所に行くわよ」
そう言うとシブ姉ちゃんは、柔らかな胸で俺を抱いてくれる。
俺達が病室に入って行くと、年老いた治療師が椅子に座ってうたた寝をしている。
疲れ果てて、体力の限界を超えて治療にあたっていたみたいだ。
「へプティ師匠、弟を連れて来ました。
師匠……?
大丈夫ですか?」
へプティ師匠は、右手で頭に手をやると、そのまま顔を横にして俺を見る。
だんだんと目が見開いていき、一気に目が覚めたみたいに背筋を伸ばした。
「うたた寝をしてしまったようで申し訳ない。
この子が、シブの言っていたトルムル君かね?」
「はいそうです。
それで、患者さんの具合はどうですか?」
「同じじゃよ。
血尿が続いており、魔法で止血治療しても、しばらくすると血尿の再発。
さっき痛がっていたので、痛み止めと、眠りを深める薬草を飲ましたところだ」
この子は血尿なのか。
そうすると、膀胱か腎臓。
あるいは、それらを繋いでいる菅から出血している可能性が高いよな。
それにしても、さっきから魔物の気配がしているんだけれど……?
病室の外ではなくて、患者の中から……。
でも……、俺の勘違いかな……?
「悪いがトルムル君。さっそく患者を診てくれないかね」
「わーた」
俺はそう言うと、重力魔法を使って患者の所に行く。
フョ〜〜、フョ〜〜、フョー。
事前に俺のことを知らされていても、へプティ師匠は感嘆の声を漏らす。
俺にとっては普通のことなんだけれど……。
色々と俺に関して聞かされていても、免疫がない人達は最初にこれを見ると驚くんだよな。
ま、普通。赤ちゃんは空中を移動しないしな。
小さな男の子に近付くと、さらに魔物の気配が強くなっていく。
やはり、魔物がこの子の体内に居るんだ。
でも、そんなに小さな魔物の話、母ちゃんからも、誰からも聞いたことがない。
もしかして新種の魔物なのか?
検査魔法を使って魔物の場所を特定する。
右の腎臓辺りに、かなりの数を発見。
でもこれって、取り出すのに苦労しそう。
使える魔法は重力魔法。
この魔法を使えば、何とかなるのではと思った。
オシャブリを念入りに吸って、精神を統一。
魔物が非常に小さいので、特定するのに時間がかかる〜〜。
あ、コイツ。抵抗して、腎臓の細胞にしがみ付いている。
このまま引き剥がすと出血してしまう。
コイツはここで魔石に変えてと。
重力魔法を強めて、細胞にしがみ付いていた魔物を押しつぶす。
魔物は魔石になって、無害な状態に安定した。
重力魔法を使って集めているところに移動させる。
ふー。これって、ゴマを箸で掴んで、一箇所に集める感じだよな。
この魔物、ゴマよりも小さいんだけれど……。
かなりの時間を使って集めた魔物を、ひと塊りにする。
そして、尿道の中を通して……、そして外へ。
テーブルの上に置いてあったコップの中にそれを入れた。
中では水が入っていて、魔物は中で活発に動き出した。
しかし、あまりにも小さいので、点が動いているようにしか見えない。
どうにかして拡大して見る方法はないかな……?
シブ姉ちゃんが聞いてきた。
「トルムル?
患者さんのチンチンから出て来た小さな物は何?
もしかして、それが病の原因なの?
それに、魔物の気配をそれから感じるんだけれど……?
私の錯覚かな?」
シブ姉ちゃん、いい感している。
命力絆の影響で、感覚が飛躍的に高まっているから分かるんだね。
普通だったら、こんなに小さな魔物を認識できないよ。
「とう。
こえ。まー、もー、のー」
へプティ師匠は、目を見開いてコップに入っている魔物を見ている。
首を傾げて、不思議そうに俺とシブ姉ちゃんを見る。
この小さな魔物を、へプティ師匠は認識できないんだ。
「シブ。これは本当に魔物なのかね?
儂には、小さな点が水の中を動いているようにしか見えないのだけれど」
シブ姉ちゃんは、コップに入っている魔物を観察して驚いて言う。
「これは間違いなく魔物ですね。
余りにも小さくて、ハッキリとは見えません。
ですが、魔物の気配がしているのは間違いありませんよ師匠。
この魔物が内蔵を食い荒らして、患者を死に陥れるのだと思うのです」
シブ姉ちゃんの推測は当たっていると思う。
まさか、こんなに小さな魔物が存在していたなんて驚きだよね。
ん〜〜。
どうにかして、魔物をハッキリと見たいよね。
この世界には、顕微鏡がないし。
虫眼鏡でさえもないんだよな……。
……?
虫眼鏡?
そうだよ。なければ作ればいいんだよな。
虫眼鏡ならできる気がする。
幸い、原料になるガラスはこの世界にもある。
「シーねーたん。
がー、らー、ちゅー。あるー?」
またしても、ちゃんと言えない。
どうにかならないのか、俺の舌!
「がらちゅー?
えーと……、よく分からないわ。
何かが欲しいのよね。トルムルは。
治療に使うんでしょう?」
病室を見回すと、花瓶に花を生けてあった。
その花瓶は間違いなく透明なガラスで出来ている。
俺は重力魔法を使って、花瓶を手元に移動させた。
「がー、らー、ちゅー」
「トルムルは、ガラスが必要だと言っているのね。
でも、ガラスを何に使うの?」
う〜〜、説明が難しい。
実際に作って、見せるしかないよな。
俺は花瓶から花を抜くと、近くのテーブルに重力魔法で移動させた。
中に入っていた水は、同じく重力魔法で窓の外から捨てる。
窓の外から人の声が聞こえてくる。
「晴れなのに、雨が降っているよ?」
あ……。
二階の窓から水を捨てたので、下を歩いている人が雨だと勘違いして……。
ま、たいしたことないよな。
水しか捨ててないので……。
俺は気をとりなおして、オシャブリを吸う。
手の中に、イメージを開始。
ガラスを重力魔法で空中に浮かす。
高温でガラスを溶かして、回転しながら楕円形にしていく。
表面は滑らかにして、前の世界で使っていた虫眼鏡の形を念入りにイメージした。
全てのイメージが完了したので、俺はガラスの花瓶に魔法を発動した。
花瓶は宙に浮いて、赤く高温になって塊になる。
回転を始めて、徐々に虫眼鏡の形になっていく。
理想的な虫眼鏡の形になると、回転が止まった。
急に冷やすとヒビが入るので、そのままの状態でしばらく放置した。
「トルムルはこれを作りたかったのね。
それで、これは何に使うの?」
「まー、もー、のー。
みー、る」
へプティ師匠は、花瓶から虫眼鏡を俺が作ったのでビックリしている。
ま、普通。赤ちゃんはガラスを溶かして、別の物に作り変えないよな。
魔物を一匹だけ取り出して、白い陶器の皿があったのでその上に置いた。
そして、まだ熱い虫眼鏡を重力魔法で魔物の上に持ってくる。
虫眼鏡を覗き込みながら位置を調節すると、魔物がハッキリと見えてきた。
カニみたいな魔物で、怒ってこっちを見ている。
ヤッパリ魔物だったんだ。
でも、これって退治するに大変だよ……。
「しー、ねーたん。へぷー、ししー。みるー」
シブ姉ちゃんが、不思議そうに俺を見ながら言う。
「さっき作ったガラスを、上から見てってことなの?」
「とう」
「分かったわ。
とにかく見てみるわね」
シブ姉ちゃんは虫眼鏡を覗くと、いきなり仰け反った。
「な、何。これ?
カニの魔物が、ガラスの中に居るの?」
違うよ〜〜!
えーと、何て説明しようか?
「まー、もー、のー。
おお、きー、く。みー、えー、る」
シブ姉ちゃんは、俺と虫眼鏡を交互に見て言う。
「このガラスは、大きく見れる。
つまり、この小さな魔物を、ガラスを使って大きく見ることができると。
凄いわ、トルムル。
こんな便利な治療具、始めてみたわ。
師匠も見て下さい。
このガラスの上から覗くと、下にいる小さな魔物が大きく見えますから」
へプティ師匠は疑った感じで虫眼鏡を覗き込んだ。
師匠もいきなり仰け反ってビックリをする。
「こ、この動いているカニの魔物は、大きく見えるだけで……。
本当は、この小さな魔物を、このガラスが大きく見せているというのかね?」
「はい、その通りなんですよ師匠」
へプティ師匠は俺を見て、信じられないといった表情になる。
そして、今度はユックリと虫眼鏡を覗いて魔物の観察を始める。
「まさにこれは、カニの魔物。
こんなに小さな魔物が居るなんて、今までに聞いたことがない。
これが原因で、疫病が流行っていたというのかねトルムル君」
「とう。こえー」
「トルムル君は、儂が思っている以上に凄い治療師だ。
長い月日を費やしても分からなかった疫病を、こんなに短い時間で原因を見つけ出すなんて。
しかも、この素晴らしい治療具を、簡単に作り出してしまう能力は桁外れ。
まさに、賢者の名に相応しい。
分かっておる。
まだ生後9ヶ月で、賢者と名乗ったら大変な事になってしまう。
それにしても、賢者の塔にいる奴らは、全く役に立たない。
トルムル君の爪の垢を煎じて、飲ましてやりたいわ!」
爪の垢を煎じて飲ます……?
エイル姉ちゃんが、俺の爪を手入れしてくれているので垢は無いんだけれど……。
それにしても、ここでも賢者の塔に関して悪評。
一体、賢者の塔って何なの?
「それで、トルムル。
この魔物を食い止める方法はあるの?」
それを説明するのが難しいんだよな。
言葉では長くかかり過ぎるし……。
そうだ! 紙に書けばいいんだよな。
人体の図もかけるし、感染経路も図なら分かりやすい。
さらに、魔物の侵入を食い止める方法も書けば理解してもらいやすい。
「シー、ねーたん。
かみー、あるー?」
「紙ね。
それだったら、私が使ってあるのを使って。
それで、魔物の侵入を食い止める方法を書くのよね。
分かりやすく、図も描いてくれると助かるわ」
やった。一回で通じたよ。
それに、図を描く発想が俺と同じなので、何となく嬉しい。
姉弟だから、発想が似るのかな?
感染経路と、魔物を体内に取り込まない為の方法を紙に書いていく。
図も、分かりやすいように描く。
シブ姉ちゃんとへプティ師匠は、俺が書いているのを横から眺めながら感想を言っている。
治療師の2人なので、感想は具体的だ。
書き終わると、2人の方に差し出して検討してもらう。
真剣に見ていたへプティ師匠が言う。
「これは、完璧な対策だ!
今まで、野菜をキレイに洗う発想は全く無かった。
内陸部に広がっている感染経路が糞尿だったとは、誰も今まで考えた事がない!
それに、川や湖の水を、一度沸騰せて使用するのは理にかなっておる。
これらを人々が実行すると、魔物の侵入を食い止める事ができる。
ありがとう、トルムル君。
これで、世界的に広まらずに済みそうだ」
あ、やっぱり。世界的に広まる懸念を持っていたんだね。
でも、これで、一件落着かな?
「トルムルって、本当に凄いわね。
凄いとは思っていたけれど、ここまでとは思わなかったわ。
ありがとう、トルムル」
そう言って、シブ姉ちゃんは再び俺を柔らかな胸で抱いてくれる。
そして、目がだんだんと鋭くなっていく。
「24名の似たような患者さんがこの城にいるから、これから魔物退治に行くわよ!」
……?
24名も、患者さんが居るの?
あのう〜〜。
少しだけ、休憩してもいいですか〜〜〜。
俺、赤ちゃんなんですけれど……?




