怒り
ゴクゴクゴク、ゴクゴクゴク。
プゥワァ〜〜〜〜。
う〜〜ん。生き返る〜〜。
戦闘中のミルクが、こんなにも美味しいなんて!
でも……、いつもと違って、格段に美味しいミルクだよね。
何でだろう?
待てよ!
この味、どこかで飲んだ覚えが……。
あーーーーーーーーーー。
王妃様のぼ、母乳。
嘘ぉ〜〜〜〜!
マジで!
それに……。
俺のいる場所が危険なことも承知。
それでもウール王女に、母乳を持って行きなさいと言ったんだ。
なんという心遣いなんだろう。
普通、8ヶ月の娘を戦場に出さないよね。
しかも、王女だよ。
普通の市民の俺に、ここまでしてくれるなんて。
頑張るぞう〜〜。
それにしても、ウール王女がハヤブサに変身したのは、俺にとっては朗報。
ウール王女の髪の毛ぐらいあれば、俺もハヤブサになれるってことだよね。
あと、数ヶ月?
いや。半年かな。
待ちきれないよ〜〜。
「トームル、たたうー」
ウール王女がそう言って、俺を現実の世界に戻してくれた。
そうだよね。今は戦闘中なんだから、頭の毛はあとで考えよう……。
ようし、行くぞう〜〜。
と思ったら、ウール王女が先に急上昇して行く。
え、何でウール王女が上昇しているわけ?
ま、まさか……?
俺はウール王女に緊急連絡する。
『ウー、オード。
ダー、メー!』
お、初めてダメと言えた。
イヤイヤ、そんなことよりもウール王女からの返事がない。
まずいよ、どうしよう……。
あ、急降下した。
1匹のワイバーンめがけて降下しているのが分かる。
でも、死角から降下していないので、あれでは見つかってしまう。
やばい!
ワイバーンに見つかった。
ワイバーンは首を上に向けた。
ワイバーンの口から巨像鎌がウール王女にめがけて襲いかかる。
俺はとっさに防御魔法を発動した。
王女にワイバーンの攻撃が命中したと思ったら、俺の防御魔法が間一髪で間に合った。
盾は震えながらもワイバーンの攻撃に耐え、ウール王女は無傷だった。
よかったよ〜〜〜〜〜〜。
ウール王女が怪我したら大変だった。
俺は、重力魔法でウール王女を強制的に城に移動させる。
ウール王女が抵抗を試みていたけれど、俺の重力魔法の方が上だった。
これが、ウール王女の方が上だったらと思うと……。
そもそも、まだ8ヶ月なんだから戦闘できるはずないよな。
……?
俺も……、8ヶ月だった。
お、俺は特別だよな。
……?
とにかく、王妃様を探し出さないと。
あ……、いた。
心配顔でこちらを見ている。
そして、ウール王女が近ずくと、だんだんと怒った顔になっている。
わぁー、怖そう。
これは、怒られるよウール王女。
想像したくないけれど、か・な・り、厳しく怒られるよ!
でも、命に関わることだからね。
ウール王女のことが、逆に心配になってきた。
ウール王女を王妃様の所に届けると、俺は一目散に戦場に戻って行く。
ウール王女が叱られるのを見たくありません!
あの、超可愛いウール王女が泣いているのを見たくない。
俺の、心臓が早まっているのが分かる。
それほど、俺はウール王女のことを心配しているのか?
でも、今は戦闘中。気持ちを変えないと俺が今度はヤバくなる。
ワイバーンが城に再び近付いて来ている。
オシャブリを吸って精神統一。
ようし、気持ちを入れ替えて。
俺は急上昇を開始した。
狙いを定めたワイバーンの死角から、急降下。
初級の風魔法を発動。中級の風魔法、死神鎌になった。
ワイバーンは皮膜が切り裂かれボロボロになって、なすすべもなく今回も落下していく。
今度は急上昇して、別のワイバーンを同じようにして落としていった。
何度も俺は繰り返して、全てのワイバーンを叩き落とし。
かなり時間がかかったけれど、これで戦いやすくなった。
今度は、地上にいるワイバーンめがけて、初級の爆発魔法、圧力爆発を発動した。
俺の初級魔法はワンランク上がるので、中級の高圧爆発になってワイバーンに襲いかかる。
ワイバーンの鱗が剥がれ落ち、そこから大量の血が流れ落ちている。
そして、苦痛で地面に倒れ魔石になって行く。
戦っている人達が、驚愕の目で俺を見ている。
エイル姉ちゃんと、ヒミン王女が手を振ってくれた。
嬉しいよね。
こうやって知っている人達が応援してくれて。
時々、ワイバーンからの攻撃はあった。
けれど、すぐに防御魔法を発動したので怪我をすることはなかった。
ドッゴォーーーーーーーーーーン!!
この音は、アトラ姉ちゃんが超音波破壊剣を再び使った音だ!
ワイバーンが少なくなってきたので、掃討戦になりつつあった。
ピンクダイアモンドから、魔法を俺の体内に再び移動させた。
そして俺は、ワイバーンめがけてハゲワシのごとく飛んでいった。
「トルムル。起きてくれないか?
ヴァールが大変なんだ!」
アトラ姉ちゃんの緊張した声で起こされる俺。
……?
えーと、確かワイバーンとの戦いが終わったのは間違いない。
疲れたので、窓から部屋に戻ってベッドに横になったら……。
いつのまにか、寝てしまっていたみたい。
ワイバーンは全滅して、怪我人も今回は少なかった。
城の被害もそんなにはひどくはない。
えーと、アトラ姉ちゃん、さっき何て言った?
ヴェール姉ちゃんが大変だってーーーーー!!
俺は起き上がって、アトラ姉ちゃんを見た。
「ヴァールが、戦闘中に食べた物の中に毒が入っていたらしい。
治療師の人達がヴァールを診ているけれど、思わしくないんだ。
シブも言っていたけれど、とても危険な状態で、いつ心臓が止まってもおかしくないそうだ。
トルムル、頼む!
命力絆をヴァールにしてくれないか?
このままだと、ヴァールが……」
ヴァール姉ちゃんに、誰かが毒を食べ物に混ぜたってことだよな。
う〜〜。怒りが湧いてくる。
予想通り、ヴァール姉ちゃんに嫉妬を抱いている人が居た!
しかも今夜、婚約披露宴があるから、その前に殺すつもりだったんだ。
なんと卑怯な奴!!
犯人を探して、それ相当の罰を受けてもらわないと気が収まらない!
でも、犯人探しは後にして、ヴァール姉ちゃんを先に助けないと。
姉ちゃんの命の方が大切だからな。
「いー、くー!」
俺はそう言って、アトラ姉ちゃんの方に両腕を出した。
アトラ姉ちゃんは俺を優しく抱いてくれて、急ぎ足でヴァール姉ちゃんの部屋まで連れて行ってくれる。
部屋に入ると大勢の人達がヴァール姉ちゃんのベッドの周りにいた。
アトラ姉ちゃんが言う。
「悪いけれど、治療師の人達は退出をお願いしたい。
これ以上の治療は難しい」
年老いた治療師の人が言う。
「はっきり申し上げて悪いが、手遅れなのは間違いない。
あとは時間の問題だけで、心臓がいつ止まってもおかしくない状態だ。
申し訳ないとは思うが、これ以上の治療はできない。
我々の力不足で、妹さんを助けられないのは無念だ。
これで失礼をする。
最後の時間を、姉弟で過ごされるのがよかろう」
年老いた治療師の人は、深々と頭を下げて部屋から出て行った。
治療師のシブ姉ちゃん以外の治療師達も、頭を下げ出て行った。
残されたのは姉達と父ちゃん、そして若い男性が2人。
それと王妃様にヒミン王女とウール王女がいる。
えーと……?
2人のどちらかが、ヴァール姉ちゃんの婚約者の人だよね。
あとの1人は誰だろう?
「トルムル。こちらの人はヴァールの婚約者で、この国の第一皇子エイキンスキャルディ。
私の横にいる方は、その〜〜」
アトラ姉ちゃんの頬が赤くなっていく。
あ、この人なんだ。アトラ姉ちゃんに、愛の告白をした王子は。
「この人は、エルラード国の第一王子ストゥルルング。
えーと、家にいる時に話した彼だ」
2人の王子は、俺に軽く会釈をした。
ヴァール姉ちゃんの婚約者であるエイキンスキャルディは、心痛な面持ちだ!
「2人の王子には、ヴァールの命に関わるので、トルムルに関しての秘密をすでに言った。
王妃様の許可も頂いている。
トルムル、命力絆をヴァールに頼む!」
アトラ姉ちゃんが俺に頭を下げる。
ちょっと待ってよ、姉ちゃんが頭を下げなくてもいいのに。
緊急なので、俺は重力魔法を使ってヴァール姉ちゃんの近くに行く。
フョ〜〜、フョ〜〜、フョ〜〜。
それを見た2人の王子からは、小さな感嘆な声が漏れた。
アトラ姉ちゃんから聞いていても、目の前で赤ちゃんが浮いているのは衝撃的だったみたい。
2人の王子のことは後から考えるとして、ヴァール姉ちゃんだ!
今回も、念入りにオシャブリを吸う俺。
毒に対して、命力絆が有効かどうかは分からない。
けれど、今はヴァール姉ちゃんのことを考えて全力を出すだけだ!
オシャブリを、さらに念入りに吸う。
今まで以上に時間をかけた。
俺は意識を集中して、ヴァール姉ちゃんの体を活性化させるイメージを手の中で作る。
俺の寿命を、少し分けるのも忘れずに追加する。
手の中でイメージができあがったので、魔法を発動した。
俺の手の中から、キラキラ光り輝く命の水みたいな透明なものが溢れ出した。
そして、ヴァール姉ちゃんの体に静かに入っていった。
フゥーー。
これでいいはずだけれど、今回はどうなるかわからない。
ヴァール姉ちゃんの手を取って脈を診る。
心拍が異常に遅い。
今にも、心臓が止まりそうだ。
ヴァール姉ちゃん、頼むから目を開けてよ。
竜巻でワイバーンを飛ばした時に見せてくれた笑顔、もう一度見たいんだよ俺。
優しく俺に子守唄を歌ってくれた優しい姉ちゃん。
一週間も一緒に暮らしたことないのに、このまま死んじゃ嫌だー!
身内がなくなるのは、母ちゃんだけで十分だ!
もうこれ以上亡くなるのを見たくはない。
それに、ヴァール姉ちゃん、婚約したばかりなのに……。
婚約者との素晴らしい人生が、これから始まろうとしているのに。
それに……。
伝説の魔弓、真空弓を俺は姉ちゃんにプレゼントしたいんだ。
戦闘中に、この魔弓の作り方が分かったんだ。
ワイバーンの魔石もあるし、付与の仕方も理解した。
あとは作るだけで、真空弓を姉ちゃんに使ってほしい。
お願いだから……、お願いだから目を開けてよ〜〜!!
ヴァール姉ちゃんの手首を握っていた俺。
少し、指の筋が動いた気が……?
指を見ると、中指が少し動いている。
もう一度脈を診た。
さっきよりは、はるかに脈拍が早くなっている。
俺の心臓よりも、少しだけ遅いぐらいだ。
これは、もしかして……。
ヴァール姉ちゃんの、眼球が動いているのが分かる。
瞼を開けようとしている。
少しづつ瞼が開いて、辺りを見回している。
どうして私の周りに、こんなに人が居るのか不思議みたいに見回している。
俺は思わず、柔らかな姉ちゃんの胸に抱きついた。
「トルムル、どうして泣いているの?
それに……、ワイバーンとの戦いは終わったの?
私の体……、感覚が敏感になっている!
下の階で、話している声が聞こえるわ!」
部屋では大きな歓声が上がって、姉妹達はお互いに抱き合っている。
「ヴァールが毒で死ぬところを、命力絆をトルムルがして救ってくれたんだよ」
アトラ姉ちゃんが涙を流しながら言う。
そして……。
「これから、犯人探しだよ!!」
アトラ姉ちゃんの目が鋭くなっていき、魔物を追い詰める目になっていく。
そして、魔物を跳ね返す闘気が最大になり、アトラ姉ちゃんは怒りに燃えていた。
俺も怒りに燃え、何としてでも犯人を捕まえたいと心に誓った。
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おいおい、もっと頑張れ〜〜〜!
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