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歴史的瞬間

 リーダー格のミノタウルス以外は全て倒して、俺はアングルボーサ教授の上空を旋回する。


 下を見ると、リーダー格のミノタウルスとアングルボーサ教授が戦っている。

 どちらも怪我をしており、血が流れながら死闘を繰り広げている。


 ミノタウルスの傷口に数本の矢が刺さっているのが見えた。

 弓使いの教授が、小さな傷口を狙って矢を射ったのだ。


 動く敵に対して射っているので、やはり只者ではないことがわかる。


 しかし、いまだにミノタウルスの戦闘能力は落ちてはいない。

 アングルボーサ教授を見ると、体格の差から来るパワーに負けて後ろに下がっている。


 このままだと危ない!

 

 あ……。アトラ姉ちゃんが少し動いている。

 良かった〜〜。


 ムックっと起き上がって、周りの様子を見ている。

 アトラ姉ちゃんの考えていることが伝わって来た。


 命力絆ライフフォースボンドをアトラ姉ちゃんにしたことにより、アトラ姉ちゃんの思っていることが俺に筒抜けになった。

 緊急とはいえ、これ以外の選択肢はなかった。


 アトラ姉ちゃんは、急に視力、聴覚、臭覚、感覚、などが飛躍的に上がったのでビックリをしている。

 さらに、怪我をした所が治っており、痛みを全く感じないことも戸惑っている。


 アトラ姉ちゃんは、両肩が動くか確認した。

 以前、大怪我をして利き腕が肩以上に上がると激痛が走っていた。


 けれど、今は全く痛みがないので、さらに驚いている。


 いきなり飛び上がるように起き上がると、身の軽さにも驚いて、どうしてこうなったのか疑問に思い出し始めた。

 もしかして、トルムルが……、と思っている。


 ふと、アトラ姉ちゃんはアングルボーサ教授を見る。

 ミノタウルスと戦っており、状況が思わしくない。


 落ちていた伝説の魔剣を利き腕で握ると、闘志を燃やし出す。


 これはもしかして闘気かもしれないと俺は思った。

 上空にいても、アトラ姉ちゃんの気迫が伝わって来る。


 ミノタウルスを軽く凌駕する闘気だ!


 飛び跳ねるようにアトラ姉ちゃんはミノタウルスに近付くと、剣を振る。


 いや!


 剣を振ったのが見えなかった。

 剣を振る前の動作を見ただけで、剣を振る動作はあまりにも早かってので見えなかった。


 そして、剣を振ったと思ったら、そのあとには魔石だけが残っていた。

 圧倒的な剣さばきに、俺は武者震いが起きている。


 俺は……、もしかして……、とんでもない魔法剣士を誕生させたのかもしれないと思った。

 ふと、大賢者が書いた魔法剣士の箇所を思い出す。


『魔法剣士は一刀流が主流で、二刀流を使う人は殆どいない。

 しかし、二刀流を使いこなせれば破壊力が増し、最強の魔法剣士が生まれる』


 アトラ姉ちゃんは左右両方の腕で剣を使えるようになった。

 さらに、命力絆ライフフォースボンドで飛躍的に身体能力が上がっている。


 これらの意味するところは、間違いなく最強の魔法剣士が誕生したことになる。

 俺は、歴史的な魔法剣士の誕生を目の前で見ているのだ!


 アングルボーサ教授も、驚きの目でアトラ姉ちゃんを見ている。


 あれだけ苦戦していたミノタウルスを、あっけなく仕留めたアトラ姉ちゃんに畏怖の眼差しで見ている。


 俺は、ミノタウルスが辺りにいなくなったので、アトラ姉ちゃんの近くに舞い降りた。

 アトラ姉ちゃんは怪しむように、ハゲワシに変身した俺を見ている。


 俺はアトラ姉ちゃんに話しかけた。


『アーねーたん。

 バブゥー』


 俺はそう言って、右の翼を上げた。

 アトラ姉ちゃんは、頭の中で俺の声を聞いて驚いている。


 そして、この怪しいハゲワシがトルムルかもしれないと思っている。


『とう』


『ト、トルムルなのか?

 トルムルが私に話しているのか?』


『アーねーたん。

 バブゥー』


『し、信じられない。

 トルムルの言葉が直接頭の中で聞こえる。


 それに、この身の軽さに加えて、全ての感覚が格段に上がっている。

 しかも、怪我をした利き腕までも完治している。


 これが、ウール王女にしたと同じ、命力絆ライフフォースボンドなのか?』


『バブゥ〜』


 俺はアトラ姉ちゃんにそう言って、右の翼を上げる。

 オット、もう元に戻ってもいいよな。


 俺は元の姿に戻った。

 アトラ姉ちゃんが再び驚いている。


「トルムルは……、ハゲワシに化けれるのか?」


 えーと、……。アトラ姉ちゃんまで化けると言っている。

 姉妹だから、言い方が似るのかな……?


「とう」


 俺はそう言って、右手を上げた。


「トルムルには、驚かされることばかりだ」


 アトラ姉ちゃんがそう言うと、学園の方を見た。


「学園の建物の中から、戦っている音が聞こえる。

 応援に行かなけれな。

 トルムルも行くかい?」


  もう、ほとんど魔法が残っていないので、行っても役に立ちません。

 今の俺は足手まといになるよ。


「ブー」


「そうか。分かった。

 たぶん、私の為に魔法を使いきったんだな。


 アングルボーサ、グルヴェイグ教授も一緒に学園に戻りますか?」


 弓使いの教授、グルヴェイグと言う名前なんだ。

 これから先の人生で何度も会う気がする。感だけれど。


「もちろん行くよ、アトラ。

 それより、あれだけの怪我をしていたのに、もういいのかい?


 それに、さっきの剣さばきは今までに見たことがないような素早さと力だった。

 もしかして、トルムルがアトラに何かをしたのか?」


 アングルボーサ教授が心配してアトラ姉ちゃんに言う。

 それに、アトラ姉ちゃんが突然強くなって、俺が関与してたと思っている。


 アングルボーサ教授の感は当たっているけど、俺はそれを説明できない……。


 アトラ姉ちゃんは、にこやかな笑顔で返答する。


「後で詳しく2人に話すけれど、利き腕もトルムルが治してくれた。

 この事は、他言無用にお願いする。


 トルムルに関しては国家機密に属するので」


 アングルボーサ教授はもちろんのこと、グルヴェイグ教授はさらに驚いている。

 グルヴェイグ教授は俺を凝視して、息をしていない感じだ。


 えーと。小柄で美人な教授に、そんなに見つめられると……。

 俺は、生えかけの乳歯を見せながら微笑んだ。


 グルヴェイグ教授も微笑んでくれた。

 う、嬉しい。



 ここでは、俺は用無しになった。

 俺は父ちゃんが待っている城に向かうことにした。


 でも、俺が行っても怪我をした人達の役に立つだろうか?

 そうだ! ウール王女の体内の魔法が使える。


 俺は再び猛禽類に……。


 ハゲワシに変身すると、雲ひとつない青空に優雅に舞い上がって行った。



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