母ちゃんの死
目がさめると、俺は産んでくれた母ちゃんが亡くなったのを知った。
誰にも教えてもらわなかった。
けれど、なぜだか分かった。
バカな!!
こんな理不尽な話ってあるのか!?
俺をこの世に送ってくれた大事な母ちゃが。
俺を産んだ為に亡くなった。
俺は……、俺は自分の感情が抑えきれずに大泣きした!
「オッギャー! オッギャー! オッギャー!」
俺は、泣いて! 泣いて! 泣いた!
突然、……俺の中にある何かが大きく開いた感覚がして、体が熱くなっていく。
ドアが開く音がして、誰かが急いで入って来た。
そして俺を優しくて抱き上げてくれた。
「トルムルったら、身体が燃えるように熱くなってきている。
早く父さんの所に行かないと、トルムルまで死んじゃう!」
俺を抱いていた女の子も泣いているのが分かった。
けれど、俺は泣くのを止められなかった。
きっと女の子は、姉のエイルだ。
「お父さん!
トルムルの体が燃えるように熱い!
トルムルまで死んじゃうの!?」
父ちゃんは俺を抱いて、何かの魔法を使った。
「トルムルの体内に、魔法力が大量に流入して暴走している!
エイル、そこの魔石を取ってくれないか?」
「これでいいの?」
「多分それでいいと思う」
俺のおでこに、ヒンヤリとした感触がする。
父ちゃんが何かの呪文を唱えると、俺の体から何かの力が急速に抜けていった。
「この魔石にはもう入らない!
けれど、まだトルムルの体内には大量の魔法力が残っている。
エイル、そっちの1番大きなダイヤモンドを渡してくれ!」
「お父さん、これ!?」
「それだよ!
お父さんが持っている中で、1番多く魔法力が入るダイヤモンド!
これなら大丈夫だろう」
再びおでこに、ヒンヤリとした感触を受ける。
父ちゃんは、呪文を再び唱え始めた。
今度は、体から燃えるような物が全て出されていったのを俺は感じた。
「これは驚いた!
ほとんど一杯になっている。
このダイヤモンドには、5、6人分の魔法力が入るのに?」
「お父さん、トルムルはどうしちゃったの?」
「多分トルムルは、お母さんが亡くなったのを本能で感じ取ったらしい。
そして、それに耐えきれなくて、魔法門が大きく開かれたみたいだ」
「お父さん、それって魔法がたくさん使えるって事だよね?」
「おそらく。
この魔法力の量からすると、今の段階でも賢者級の魔法を使えることになる」
「賢者級って、この世界に10人もいないとされている賢者の?」
「間違いなくそうだね。
これから色々な魔法を覚えるに従って、更に使える魔法力の量が増えてくる。
このままトルムルが順調に成長すれば、大賢者も夢でないかもしれない」
「だ、大賢者って!
で、伝説にしか出てこないよお父さん!」
「分かっている。
ナタリーが奇跡を起こしたのかもしれない」
「お母さんが?」
「ナタリーが亡くなった衝撃によって、この子の魔法門が大きく開かれたみたいだ。
普通は、年と共に徐々に大きくなって、使える魔法力の量が増えていくものなんだけれど……。
稀に……。
稀に、爆発的に魔法門が開くことがあるとは聞いてはいたが……」
俺は、父ちゃんの話に驚いている。
神様に、大賢者……? になりたいと頼んだ覚えはないのに……?
どうしてこうなった?
母ちゃんの、最期の願いが……、もしかしてこれ?
「しかし、大賢者になるのは、それ相当の試練が数多くある。
そんな茨の道を、トルムルに歩ませたくはない。
エイル! よく聞いて!
この事は内緒にしなければいけないよ。
トルムルの潜在能力を知ると、上の人達が彼を欲しがるからね」
「ほ、欲しがるって、私達と離ればなれになるってこと?」
「そうなるね」
「そうなったら嫌だわ、私!
弟が生まれたばかりなのに、すぐに離れて暮らすなんて……」
それは俺も嫌だよ。
ありがとう、エイル姉ちゃん。
向こうの世界で、家族と別れたばかりなのに……。
こちらの世界でも繰り返されるのだけは、断固拒否!!
あ……?
無性にお腹が空いてきた。
どうしよう?