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わずかな希望

「アトラ。その爪を噛む癖は直っていないのかい?」


 つ、爪?

 てっきり、指をオシャブリのように吸っているのかと……。


 そうか!

 見る角度で、そう見えていただけなんだ。


 これは、いい教訓かもな。

 どんな場合でも、多角的に見なければ、ということだよな。


「あ……。ごめん、父さん。

 直っていたんだけれど……。


 罠にはまって以来、緊張すると爪をいつのまにか噛んでいるんだ」


「アトラは謝らなくてもいいのだけれど……。


 罠にはまった事が余程ショックだったんだね。

 家でゆっくりして、心の傷を治せばいいよ」


 父ちゃんは心配そうにアトラ姉ちゃんを見ている。


 アトラ姉ちゃんに罠にはめた貴族の令嬢方は、本当に許せない!

 ここまで姉ちゃんを追い詰めているなんて、悲しすぎる。


 本当に、どうにかしてあげたい。


 姉ちゃんが爪を噛むのは、オシャブリを吸って精神を落ち着かせるみたいなものかな……?


 でも……、爪を噛むのは良くないよ。

 爪が変形するし、変な癖だし。


 お、俺のオシャブリは……、ふ、ふ、普通だよな。

 俺、まだ赤ちゃんだし……。



 父ちゃんは、今まで俺がしてきたことをユックリとアトラ姉ちゃんに話し出す。


 母ちゃんの体内教育の話。


 かなり難しい本でも読める話。


 ゴブリンとゴブリンクイーンの話。


 ゴブリンの魔石付与に関する話。


 ギガコウモリの話。


 多くの人を一度に治療した話。


 ウール王女の命を助けた話。


 さらに、禁断書の部屋での話などを。


 話し終えると、アトラ姉ちゃんが俺をみる目が大きく変わった。


 期待の目?


 それとも希望?


 もしかして……。

 アトラ姉ちゃんまでも、ヒミン王女と同じことを考え始めている?


 俺、まだ赤ちゃんなんだよ!


 ウール王女にした命力絆ライフフォースボンドが、アトラ姉ちゃんの怪我を治すとは限らないし。


 大賢者の本を読み始めたばかりだし。

 それに、妖精の国に行きたいのに場所が分からなくて頭を悩ましている。


 さらに、ウール王女に一日何十回も呼ばれるし。

 えーと……。超可愛いウール王女に呼ばれるのはそのう……。


 嫌いじゃないか……な。


 とにかく、赤ちゃんの俺にそんな目で見られても……。


「トルムルが、そこまで能力が高くなっているとは知らなかったよ。

 母さんがトルムルした胎内教育は凄いな。


 わたしは父さんが持っている本は数冊しか読んでいない。

 でも、トルムルは半分以上既に読み終えている。


 若いから……。

 赤ちゃんだから、スポンジのように知識を吸収しているんだろうな。


 今読んでいるのが大賢者の本なのかい?」


「とう」


「私も読んでもいいかい。

 治療に関する事が書かれている本がいいのだけれど……」


 やはり、アトラ姉ちゃんは怪我を治したがっている。

 俺は、治療に関する本を渡した。


「ありがとうな、トルムル。

 大賢者の書いた直筆の本が、まさか家で読めるとは思わなかったよ。


 それで、妖精の国に行く目安はついたのかい?」


 あー、なんて答えたらいいか。

 全く分からないんだよな。



「いらっしゃいませ」


 アトラ姉ちゃんが店に入って来たお客さんに言う。

 3歳ぐらいの女の子を連れて来た若いお母さんだ。


「こちらで、小さなツルを……」


「母さん。あれ、見て!」


 女の子は、ゴブリンの魔石の上を飛んでいるツルを指でさした。

 お母さんはツルに近寄って来て、驚いた顔で見ている。


「これは、売っていただけるのでしょうか?

 子供の誕生日祝いにあげたくて」


 アトラ姉ちゃんが俺の方を見る。

 軽く頷いた俺は、姉ちゃんに合図を送った。


「もちろんです。

 これは新しい商品でして、下にある魔石がツルに魔法を供給しています。

 一日中飛べるので誕生日祝いに最適かと思いますよ」


「このツルが、一日中飛べるのですか?

 さすが、付与師として名高いドールグスヴァリさんですね。


 それではこれを買いたいと思いますので、宜しくお願いします」


「ありがとうございます。

 会計はあちらでお願いします」


 アトラ姉ちゃんは父ちゃんが座っている机に顔を向ける。

 お若いお母さんは、とても喜んでいる。


 それに、女の子の目がキラキラと輝いているのが分かる。

 俺の作ったツルを心底喜んでいる。


 アトラ姉ちゃんを、あの女の子のように目をキラキラと輝かせてあげたい。

 大賢者の本の中から、俺は魔法剣士に関する箇所を探し始めた。




 あった。

 魔法剣士に関する箇所だ。


『魔法剣士は一刀流が主流で、二刀流を使う人は殆どいない。しかし、二刀流を使いこなせれば破壊力が増し、最強の魔法剣士が生まれる』


『魔法剣士の剣に付与するスキルは、以下の魔石が優れている』


 その下には、強い魔物の名前と魔石の特徴が書かれてある。

 最後に方に、見慣れた言葉が出てきて嬉しくなった。


『ギガコウモリの魔石は、独特な攻撃で硬い鎧などを破壊する』


『ただし、この独特な攻撃のスキルを魔石に付与するのは至難の技』


 これらの文章から、アトラ姉ちゃんにわずかな希望があるのが確認できる。


 怪我をしていない腕で剣を持つ。

 努力家のアトラ姉ちゃんなら、問題なく以前のように剣を振るうことができるはずだ。


 それに、超音波による破壊のスキルをギガコウモリの魔石に付与できれば、強力な武器になる。




「ただいまー」


 エイル姉ちゃんが買い物から帰って来た。


「見て見て、みんな。

 アトラ姉さんの好きな物が安く手に入ったので買って来たわよ。


 トルムルも、お城で出た離乳食のフルコースの中で美味しくスプーンで食べていたしね」


 エイル姉ちゃんがカゴの中を見せてくれる。

 カゴの中では、それらがうごめいていた。


「美味しそうでしょう。

 アトラ姉さんと、トルムルの好きなミルキーモスラだよ」


 いきなり固まった俺。

 蛾の幼虫だ!


 は、吐き気がしてきた。

 や、やばい!


 さっき、ミルクを飲んだばかりだ。


 あの、離乳食のフルコースの中に入っていたとは全く気が付かなかった。

 ウール王女のことを考え過ぎていたから……。


 エイル姉ちゃんは、生きているミルキーモスラを一匹掴んだ。

 そして、俺が喜ぶと思ったのか、わざわざ顔の近くで見せてくれる。


「どう、トルムル。

 新鮮で、丸々と太っていて美味しそうでしょう?」


 も、もう……。これ以上我慢できない〜〜〜〜。


 ドピュー〜〜〜〜〜。


「あ〜〜〜〜。

 ト、トルムルが、だ、大事なミルキーモスラに、は、吐いた〜〜!」


 吐く勢いがよくて、吐いたものがカゴの中にまで飛んで行った。


 そのあと3人は、俺の吐いた片ずけに追われている。


 もちろん、俺の晩ご飯はミルクだけになりました。


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