大賢者の本
ヒミン王女は、目を輝かせながら続きを話す。
「トルムル様から命力絆を受けた人達は、離れた場所でもトルムル様の心がくると思われます。
そして、その膨大な魔力と知識で、窮地を救ってくださるのです。
つまり、トルムル様に命力絆を受けた人達は、常に心で繋がっている事を意味します」
窮地を救うって……、俺のことを過大評価しすぎると思うんだけれど。
魔王の下の下の下であるギガコウモリ戦では、俺が捕まった可能性があったのに……。
でも、心で繋がっていると、いざという時にはいいかもしれない。
俺は、ウール王女の考えていることが分かるからな。
待てよ。俺の考えていることが、ウール王女に分かるのだろうか?
試しに、心で話かけてみようか。
『ウール王女、俺の声が聞こえたら返事してくれ』
……?
返事がない。
言葉ではどうだ。
「ウー、オード」
ウール王女と言えない!
『トームル、トームル』
話した言葉に反応した!
そして俺の呼びかけに、ウール王女がとても喜んでいるのが分かる。
それにしても、ウール王女の体は凄い!
遠くにいる、小さな虫の動く音が聞こえる。
それに、この部屋のカビ臭い匂いの中に、王妃様とヒミン王女の香水の香りの違いが、ここにいてもハッキリと分かるほどだ。
視覚は、俺と同じか……?
ウール王女の手足の運動能力がずば抜けている。
手足が、空気でできているみたいに軽く動く。
これだと、すでに歩いているのかも知れない。
オッと!
下から、みんなが呼んでいる。
ウール王女の体を、元いた王妃様の所に重力魔法を使ってユックリと戻して行く。
そして、王妃様がウール王妃をシッカリと抱き留めたのを確認すると、元の体に意識を戻した。
「バブゥー」
元の体に戻ると、俺はそう言う。
「トルムルの心が戻ったよ!
ふーーー。
一時はどうなるかと、とても心配したんだよ。
トルムルには、驚かされることばかりだ。
そうだ、この本を読みたいために、トルムルは本棚の上に飛んだんだよね?」
「バブゥー」
「やはりそうか。
それで、この本はなんだい。
本を開こうとしても、開かないのだけれど?」
え!
本が開かない?
何で?
王妃様が驚きの目で本を見ながら言う。
「閲覧禁止のこの部屋の中では、一風変わった本なのです。
本なのに、どうやっても開くことができないのです。
それに、作者の名前も書いていないですし、何について書かれたのかも表紙に書かれてはいません。
それなのに、どうしてそれをトルムルちゃんが選んだのか……。
もしかして、大賢者様が書かれた本なのですか?」
それは、これから調べてみないと分からないんだよね。
両手のひらを天井に向けて、エイル姉ちゃんを見る。
「えーと、トルムルにも、それは分からないと言っています。
トルムルは、その本をどうしたいの?」
みんなが俺を見ている。
とりあえずは、その本を手元に寄せて見ないことには始まりません。
重力魔法で手元に持って来て手を触れる。
すると、変化が起こり始めた。
先ほどまで薄ぼんやりと光っていたのが、まばゆい光と共に最初のページが開かれた。
まばゆい光が収まって来ると、文字が現れ始める。
『妖精の国は、最も近くて、最も遠い所にある』
その文字の下には、大賢者の名前が書かれてあった。
妖精の国?
えーと、妖精の国に行きなさいってことなの?
しかし、謎めいた言葉なので、妖精の国がどこにあるのか具体的には分からない。
近くて、遠い所?
みんなが、覗き込むように本に書かれた文を読んでいる。
「これは、どう言う意味でしょうか?
大賢者の名前と、この謎めいた文しか書かれていないのですが」
父ちゃんが、みんなに疑問をなげかた。
すぐに、王妃様が父ちゃんの質問に答える。
「伝説の大賢者様は,仲間たちとヒドラの妖精と共と当時の世界を救いました。
トルムルちゃんがこの本に反応したのは、明らかに彼がそうするように仕向けたと思われます。
一定以上の魔力がないと開けられないような、そんな魔法を掛けたのだと。
しかし、その文は謎めいていて、私には分からないですね」
「そうすると、古の大賢者はトルムルに妖精の国に行くように指示をしていると言う事ですか?」
「それは間違いはないと思います。
それに、ご存知のように、妖精を見れるのは幼い子供だけ。
しかも、妖精の国がどこにあるのかを知っている人は、誰もいないのです」
知っている人が誰もいないってことは、自分で探さなければならないってことだよね。
それに、大賢者の指示が、あまりにも謎めいている。
どう考えていいのかサッパリ分からない。
そもそも、俺にその資格さえあるのだろうか?
でも、ヒドラと友達になれたら、どんなに素晴らしいだろうか。
考えただけでもワクワクしてくる。
次のページを開こうとしても、開くことができなかった。
妖精の国に行かないと、やはり次が開かないのだと直感した。




