ツル
エイル姉ちゃんの誕生日を、城で祝う日が明日に迫っていた。
父ちゃんの店は相変わらず忙しく、俺も微力ながら手伝いをしている。
城で、広域治癒魔法を発動してから、治癒魔法のスキル付与もするようになった。
やれる事が増えて、父ちゃんの手助けになっているのでうれしい。
さらに、魔石のスキル付与に興味を掻き立てられ、暇があれば父ちゃんが持っている付与に関する本を読んでいる。
その中で、パンティなどに描かれた絵を、魔石で動画みたいに動かす方法の本を今読んでいる。
《描きたい鮮明なイメージを、紙に埋め込んだ魔石に付与する。
そうする事によって、紙に描きたい絵も描ける。
その時、動くイメージも加えて行う》
《紙の形は自由で、立体的に紙を折って付与する事も可能である》
立体的に折る?
折り紙……?
よく分からなかった。
これは、大先輩である父ちゃんに聞くしかない。
「とーたん。こえー」
『これは』とは言えなくて、『こえー』になるけれども、父ちゃんとエイル姉ちゃんには通じるようになった。
指で示した箇所を、父ちゃんが覗き込んだ。
「えーと、これは難しいんだよ。
そうだ、父さんが作ったのがあるから見せるよ」
父ちゃんはそう言うと、後ろの棚から紙でできた四角い箱を俺の目の前に置いてくれた。
何の変哲も無い、ただの白い紙の箱。
え〜〜と。これが、それ……?
父ちゃんが触ると、劇的な変化が起き始める。
白い箱は消えて、さっきの箱に入るぐらいの植木鉢と可憐な花が現れた。
そして、そよ風に花が吹かれる感じで、花びらや葉が揺れている。
まるで、本物の植木鉢を目の前に置いて、心地よいそよ風が花を躍らせているように見える。
その完成度の高さに、思わず目を大きく見開いている俺。
「気に入ってくれたみたいだね。
ナタリーのために、父さんが作ったんだよ。
それはナタリーのお気に入りで、最初に見た時はトルムルと同じ顔になっていたよ」
そう言う父ちゃんは微笑みながらも、どこか寂しさもにじませていた。
母ちゃんもこれが気に入ったんだ。
そう思うと、なんだか見ているだけで母ちゃんを思い出してくる。
少し、懐かしさがこみ上げてきた。
「トルムルも何か作ってみるかい?」
そう言いながら、父ちゃんは紙を渡してくれた。
「最初は失敗をしてもいいから、思いきってやる事が肝心だよ」
いきなりそう言われても……。
とりあえず、知っているツルを折ることに決める。
というか、俺はそれしか知らなかった。
苦労しながら思い出し、なんとかツルを折ることができた。
「ま、まさか。最初から紙をこのように折れるとは?
紙だけで、これだけ表現できるなんて……」
父ちゃんを見ると、紙のツルを興奮しながら見ている。
えーと……。
普通にツルを折っただけで、父ちゃんを驚かすことになるとは。
この世界には、折り紙がないんだ。
……そうだ、これだよ!
エイル姉ちゃんの誕生日プレゼントは!
でき上がったツルの折り紙に、小さな魔石を父ちゃんに入れてもらった。
オシャブリを吸って、精神を統一する。
動いている本物のツルを鮮明に思い出し始める。
最初は上手く思い出せなかった。
また、オシャブリを吸う。
徐々に細かな所まで思い出していき、ツルが飛ぶ動作もイメージできた。
そうだ!
重力魔法を使って、ツルに触った人の周りを飛ぶイメージも追加した。
すぐに魔石に付与した。
検査魔法で調べると、ツルのイメージで、人の周りを回っていた。
父ちゃんに渡して、評価をもらうことにした。
「トルムルが考えた、イメージの付与が終わったんだね。
それでは、父さんが試してみるよ。いいね?」
上手くできているか分からなかった。
けれど、最初に父ちゃんに試して欲しかった。
もしダメな所があれば、専門家の父ちゃんならその部分を教えてくれる。
父ちゃんは、折ったツルを手に持つと魔法を魔石に流した。
紙のツルは消えて無くなり、そこには本物そっくりのツルが現れた。
そして、父ちゃんの周りを素早く回り始めた。
あ……。
ゆっくり周るイメージを忘れた。
父ちゃんは目を見開いて、ツルをよく見ようと首を左右に激しく振っている。
ご、ごめん父ちゃん。それだと首が痛くなるよね……。
ツルの中にあった魔法がなくなると、静かに机の上に舞い降りた。
そして、元の紙に戻っていった。
「これは素晴らしい。
もちろん、ゆっくり飛ばす必要なあるけれど」
父ちゃんは、前歯を俺に見せて笑う。
トルムルでも、失敗するんだなという表情になっている。
俺は、前歯のないハグキを父ちゃんに見せて笑った。
父ちゃんが、さらに笑っている。
「これは、店で商品として売りに出すことができるよ。
色々な空飛ぶ生き物もこれで応用できるね。
別の鳥とかドラゴンの形に折って、さっきの様に飛ばす。
子供が喜ぶし、プレゼントにも最適だよ」
そう言った父ちゃんは俺をジッと見る。
最後に言った、プレゼントに何かを感じたみたいだった。
「もしかして……、明日のエイルの誕生日プレゼントのために作ったのかい?」
さすが、父ちゃん。
察しがいいので嬉しい。
「ただいま〜」
エイル姉ちゃんが学園から帰って来た。
父ちゃんはすぐに、ツルの折り紙を隠した。
エイル姉ちゃんは、父ちゃんが何か隠したのを見逃さなかった。
「お父さん、何かを隠したでしょう?」
「エイルの気のせいだよ」
そう言って父ちゃんは、前歯を見せて笑った。
エイル姉ちゃんは俺の方も見たので、同じく前歯のないハグキで笑う。
それを見たエイル姉ちゃんは、胡散臭そうに二人を見つめていた。




