筋トレと、胎内教育
神様に言ったことを思い出した。
『なるべく、若い体でお願いします』
どうやら、……俺は胎児に転生をしたらしい。
予想では、10才の子供だと思っていた。
けれど、胎児とは!
少し……、若すぎでないかい?
「貴方、私達の赤ちゃんが生きていたんです。
あきらめていたのに、こんなに嬉しいことはありません。
産婆さんに来て頂いて、お腹の子供を見て頂きました。
最初、彼女が言ったんです。
心音が聞こえていない。お腹の中の子は諦めないとだめだよって。
でも、でも、でも……、奇跡が起きて!
そのあと……、この子、私のお腹を蹴ったんです!」
「本当に!?
良かったねナタリー。
これで7人目の子供が無事に産まれそうだ。
君には感謝しているよ」
え、7人目?
俺の兄弟は6人いるのか。
少し、多くね?
父ちゃーーん。母ちゃんを愛しすぎだよ〜〜。
「でも……。
産婆さんが言うには、『貴女の体が出産に耐えられるか難しい。くれぐれも体には気をつけるんだよ』って言われました」
え、それってマジなの?
母ちゃん、……体が弱いの?
「治癒魔法で、なるべく私も協力するから、丈夫な赤ちゃんを産んでおくれ」
……?
治癒魔法?
魔法って確か言ったよな。
この世界は魔法が使えるのか〜〜。
これは産まれてから楽しみが増えたな。
……?
ちょっとまてよ、俺?
それまでここで、何をすればいいの?
の〜〜んびりと、母ちゃんのお腹で出産まで過ごすのは性に合わないし……?
でも……?
ここでは何もできない。
ウーーーーーー!!
いや、待てよ!
もしかしたら、できる……?
俺は最初に、自分の指が動くのを確認をする。
やったね動いたよ!
それなら最初はグッパー、グッパーからだな。
俺は何度も繰り返し、指の筋力が増すように頑張った。
何度も、何度も繰り返す内に、少しづつ早く、しかも力強くグッパーができるようになっていった。
他の筋トレもできるか考える。
手の先に足の先が当たっている。
これだよ、これ、これ!
手で足の先を握ると、足を伸ばした。
しかし、足の力が強すぎて手から離れ、母ちゃんのお腹を内側から蹴ってしまった。
「貴方。また赤ちゃんが私のお腹を蹴っているわ」
「元気な赤ちゃんみたいで私も安心だよ。
一時はどうなるかと思っていたのでね。
もしかしたら、今度は男の子かもしれないね」
「そうなるといいですね。
女の子ばかり、続けて6人生まれましたから」
俺の弟姉は、お姉さんなのか。
まてよ……?
もしかして、俺も女に生まれるのかな?
た、た、確かめてみないとな!
俺は恐る恐る、チンチンとタマタマの場所を手で確かめる……。
あ、あった〜〜〜〜!!
嬉しい〜〜。
これほど嬉しいことはないね。
っていうか、女として生まれても面白かったかもな。
でも……、男から求愛されると……?
やめ、やめ、やめ。
想像するだけでキモい。
心は男だから、男から求愛されるのだけはダメ!!
とにかく、これで男として俺は生まれる。
母ちゃん父ちゃん、念願の男の子の誕生だよ。
なんたって、体は2人の遺伝子から生まれたんだし。
この体に最初に宿っていた魂は天に召されたらしい。
俺がこの体を引き継いだ。
天に召された魂の分まで頑張らないといけないな、と俺は心に誓った。
◇
翌日、母ちゃんが俺をお腹の上から撫でて話しかけてきた。
「トルムルおはよう」
おはよう母ちゃん。
優しく俺を撫でているのが分かって、とても嬉しい。
え……?
名前で呼んだよね。
俺の名前はトルムルなのか。
うん。なかなかいい名前だ。
ありがとう、母ちゃん。
でも、俺が男の子だと分かったのかな?
「お腹の中の子に話しかけると、頭が良くなるのよ。
これから毎日、色々な勉強をしましょうね。
そして、トルムルには賢者になって欲しいんだ。
もちろんトルムルが望めば、だけれどね」
やったーと。
筋トレだけでは、退屈になるなと思っていたんだよな。
胎内教育をしてくれるんだね、母ちゃん。
ありがとう。
でも、賢者って……?
賢い人?
「この世界はね、魔法が使えるのよ。
魔法は、手の中でイメージできたことを、体内にある魔法力を使うことによって発動する。
そうすると、イメージと同じ事が起こるのよ」
へーー。意外と簡単に魔法ができるんだ。
「でもね。手の中でイメージができても、レベルが足らなかったら発動しないわ。
それに、イメージに合うだけの魔法力がないと、同じく発動しないのよ」
だよね。
そう簡単に魔法が使えるわけないし。
こうして母ちゃんは、俺に色々な事を教えてくれた。
魔法はもちろんのこと、魔物と魔王の存在。国の仕組みなどなど。
俺は生まれるまで、多くの知識を母ちゃんから教わった。