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ヘビのニッキ

 おじいちゃんが経営するパン屋さんに着いた。

 ここの2階は住居になっている。


 両親は交通事故で亡くなっており、父方のおじいちゃんと、妹のあおいだけが今は住んでいる筈だ。

 2階の部屋は4部屋あり、両親の部屋と、俺の部屋だった2部屋が今でも空いている……、と思う。


 店のドアを開けると、パンの香りがしてくる。

 懐かしいおじいちゃんが、何事かと妹に近付いて来た。


 俺達を見ると、瞬きを高速で繰り返しているおじいちゃん。

 俺達の姿って、そんなに可笑おかしいのかな……?


あおいや、この人達は!?」


「あのね、おじいちゃん、住み込みの店員さんに募集して来た人達だよ。

 この人達を雇ってあげて欲しいの。


 魔物が表通りに現れたんだけれど、なぜか突然、岩が現れたの……。

 彼らの荷物とお金が、その岩の下敷きになったんだって」


 それを聞いたおじいちゃんは、妹を凝視する。


「葵の言っている事がよく判らないのだけれど……。

 岩が現れたって、どう言う事かな?」


 妹はスマホを取り出すと、岩の写真をおじいちゃんに見せる。

 それを見たおじいちゃんは、又しても高速で瞬きをした。


「ビルが傾いて、それを止める為に岩が現れたというのか!?

 この騒ぎで、彼らの荷物が下敷きになったという訳だな。


 う〜む、よかろう、彼等を雇う事にするよ。

 困った時にはお互い様だからな」


「ありがとう、おじいちゃん!」


 妹は、おじいちゃんの返事に大喜びだ。

 見知らぬ俺達と一緒にこれから暮らすのに、妹が素直に喜んでくれるのは意外。


 しかも妹の鋭い感で、リトルゥの本質がスケベである事を既に見抜いている。

 それなのに、一緒に住むのを喜んでくれる……?


 妹は、巫女であるおばあちゃんを信用しているからか?

 とにかく、遠くにいるおばあちゃんに会えば、闇の神アーチの手掛かりがきっと何かある筈だ。


 それから俺達は、自己紹介をお互いにした。

 おじいちゃんの名前は新之助という名前なんだけれど、しんちゃんと呼んでくれと言った。


 おじいちゃんて、こんな性格だったか……?

 アニメの名前みたいな呼び名で、馴染むしかないよな……。


 とにかく、俺達の服がコスプレ風なので、このままでは生活出来ないとしんちゃん……、が言って、お金を妹に渡す。


「葵や、このお金でこの人達の服などを買うと良い。

 給料の前借りの形にするから」


 お金を受け取った妹が、アトラ姉ちゃんに振り向いて言う。


「という事で、服を買いに行きましょうか?」


 アトラ姉ちゃんは、初めて会った人達から服を買う様に言われたので少し驚いている。

 しんちゃんと妹が、とても親切なので感銘を受けたみたい。


 姉ちゃんは申し訳なさそうに、しんちゃんに言う。


「初めて会ったばかりなのに、悪いな」


「気にせんで良いよ。

 これから働いてもらうしな」


 キュゥ〜、グルグルゥー。


 突然、姉ちゃんのお腹の虫が鳴った。

 あまりにも大きな音だったので、全員が姉ちゃんのお腹を見た!


 姉ちゃんは平然としてみんなに言う。


「朝から何も食べていなかったからな。

 それじゃ、買い物に行こうか?」


 妹は、姉ちゃんの前に立つと睨みつける。


「昼を過ぎているのに、何か食べないとダメです!

 赤ちゃんにオッパイをあげているんだから。


 この店にあるパンを食べて下さい。

 でないと、一歩も外には出しませんよ!」


 気迫だけなら、姉ちゃんにも勝るとも劣らない……。

 妹って、こんな性格だったか……?


 昔、よく泣いていた印象しかないんだけれど。

 しばらく見ない間、妹も成長したもんだ。


 妙に嬉しくなった俺。


「ありがとうよ、あおいちゃん。

 それじゃ、遠慮なくパンを頂くよ。


 実はこの店に入って、パンの良い香りで食欲をそそられていたんだ。

 知らないパンの種類が沢山あるので、尚更、お腹の虫が食べたくて鳴ったのかもな」


 妹は、弾ける様な笑顔になって行く。


「食べたいだけ、トレイにパンを乗せて下さい。

 どれも美味しいので、きっと満足してもらえますよ。


 トルムルちゃんは、どれが食べたい?

 お姉ちゃんが取ってあげるわね」


 ……。

 思わず、見上げて妹を見る俺……。


 妹から、ちゃん付けで言われるとは思わなかったよ。

 でも仕方ないよな、俺の見かけは4才児なんだから。


 でも……、背が低いので、高い棚にあるパンが見えない……。


 ヒョイ。


 突然、妹が俺を抱き上げた!

 前向きに抱っこされたので、頭の後ろに妹の柔らかい小さな胸が当たる……。


 思わず重力魔法で逃げようと思ったけれど、何とか思いとどまった!

 こ、ここで、変な行動しては妹に怪しまれる!



「あ、あのね、あおい、おねえちゃん。

 むこうにある、あかい、なにかがのったパンを、おねがいします」


 な、何とか言えた。

 たったこれだけの言葉なのに、全力疾走したぐらい疲れるとは!


「イチゴのジャムクロワッサンね」


 妹は俺を下ろすと、イチゴのジャムクロワッサンを取ってくれた。


「あ、ありがとう、あおい、おねちゃん」


「お礼が言えて、トルムルちゃんはお利口さんね。


 あれ……、これって……、お兄ちゃんが大好物だったジャムクロワッサン。

 沢山あるパンの中からこれを選ぶって……、やっぱり……。


 いえいえ、そんな事、絶対に有り得ないわ!


 あ、ごめんねトルムルちゃん。

 お姉ちゃんの独り言だから無視して」


 し、しまったーーーーーーーー!!

 大好物のパンを、思わず言ってしまった!


 妹って、感が良すぎだよ。

 これからは細心の注意を払わないと。


 それから俺達は、店にあるテーブル席に移動した。

 リトゥルは妹に聞いて、甘くないパンを選んでもらった。


 問題はアトラ姉ちゃんで、トレイの上にはパンが山盛りになっており、妹はその山盛りのパンを見たままだ。

 姉ちゃんは以前から食欲が旺盛で、それに加えてアダラに母乳をあげているので、更に、食べる量が増えている。


 俺は姉ちゃんの食べる量を知っていたから驚かなかったけれど、妹にしてみれば驚異的な量に映ったみたい……。

 しかも、食べるスピードが半端でない!


 戦場で食べる時があるので、出来るだけ早く食べる必要がある。

 習慣とは恐ろしいもので、平時でも姉ちゃんの食べる速さは驚異的だ!


 1つのパンを、3口で食べ続ける姉ちゃん。

 俺が1つのパンを食べ終わる前には、姉ちゃんの前にあった山盛りのパンは全て胃袋の中に……。


 姉ちゃんに食べるなとは言えず、俺も姉ちゃんを見つめているだけだった……。


 突然、姉ちゃんの胸の谷間から、偉大なる神々の系譜に繋がるメデゥーサの髪の毛である、ヘビのニッキが顔を出す。


「へ、ヘビィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」


 甲高《かんだか」い声を上げて、その場から逃げ出した妹……。

 店の中に居たお客さん達も何事かと、妹が指を指「さ》した姉ちゃんの巨大な胸の谷間を見る。


「へ、ヘビが、アトラさんの、む、胸の中に!」


 姉ちゃんは、ニッキを手に移動させる。

 ニッキは姉ちゃんの手の上で、トグロを巻いて妹を見た。


 ニッキには、俺達以外の人がいる時には決して話さない様にと既に言っている。

 でもニッキ、何か言いたそうな目付き……。


「このヘビかい?

 私のペットだよ、とっても可愛いだろ?


 あおいちゃん、こいつをニッキと呼んでくれ。

 ニッキは偉大な系譜の子孫の繋がるヘビなんで、決して危害を加えないから安心してくれ」


 姉ちゃんがそう言うと、ニッキは深く頭を妹に下げた。


 メデゥーサのヘビだとは、絶対に妹には言えない。

 神話でしか出てこないメデゥーサが異世界で実在しており、そのメデゥーサの頭に居るヘビの一匹がニッキだという事を。


 爬虫類が大っ嫌いな妹なので尚更だ!

 妹は怯えながらも、頭を下げたニッキを凝視している。


「お、お行儀がとっても良い、へ、ヘビなんですね。

 へ、ヘビに頭を下げてもらったのは、う、生まれて初めてです。


 よ、宜しくね、二、ニッキ」


 妹がそう言うと、ニッキに頭を下げた。

 今度はニッキが妹に呼応するかの様に、再び頭を軽く下げる。


 それを見た妹は、全身を震わせながらもニッキの方に恐る恐る近付いて行く。

 そして、そして……、爬虫類の大っ嫌いな妹が何と、震える手をニッキの方に差し出した!


 ニッキはトグロを巻いた状態から、体をくねらせながら妹の手の上に移動する。

 妹の手が小刻みに震えているけれど、真剣な目でニッキを見ている。


「今までのヘビに、か、感じなかった、り、理性をニッキから感じる……。

 ま、まだ怖いけれど……」


 ニッキも妹に何かを感じたみたいで、お互い見つめたままだ。

 まさか、こうなるとは予想外。


 これって、幸先さいさきが良いのかな?



読んでくれてありがとうございます。

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