巫女のおばあちゃん
おばあちゃんの言葉に、妹はしばらく黙っていた。
「おばあちゃん、何を言っているのかサッパリ判らないわ。
去って行く人達は、コスプレをした人達よ。
赤ちゃんを抱っこしたキレイなゴッツイ若いお母さんと、可愛い坊や。
それに、スケベそうなおじいちゃんだけだよ。
この人達が地球を救うって、それ本当なのおばあちゃん?」
スケベそうなおじいちゃんって、リトゥルの本質を掴んでいる妹……。
そうか、妹の感が良いのは、巫女さんであるおばあちゃんの血を引いているからだ。
という事は、気配を探るのが得意な俺も、おばあちゃんの血筋からきているんだ。
でも、おばあちゃんて凄すぎない!?
「葵が判らなくても、いずれ真実が明らかになる日が来るよ。
彼らは間違いなく、地球を救ってくれる人達じゃから。
ところで、パン屋さんでは住み込みの店員さんを募集していたじゃろが。
彼等を雇ってくれぬか?
彼等は今夜の寝る所も無い筈じゃからな。
雇ったら、何かの理由を付けて近い内に連れて来て欲しいんじゃよ。
じゃ葵、宜しく頼んだよ」
「ちょっと待ってよ、おばあちゃん!
あ、電話、切られた……」
しばらく考え込んでいた妹は、俺達の方に走って来る。
「すみませ〜ん、ちょっといいですか?」
俺は姉ちゃんに命絆力を使って、俺のいう通り言ってくれるように頼んだ。
俺達が振り向くと、俺が伝えた通りに姉ちゃんが話す。
「ん?
何か用があるのか?」
普段の姉ちゃんの言葉遣いにしないと、後で怪しまれるので姉ちゃん言葉で伝える俺……。
姉ちゃん言葉って、今まで言った事が無かったから難しい……。
妹は手を合わせながら、どう言おうか迷っている。
「えーと。
私の家はパン屋さんなんですが……。
えーと、住み込みで、働いてもらえる人を募集しているんです。
もしよかったら来てもらえますか?」
「それ、本当なのか?
助かるよ、今夜の寝床を探していた所だったんだ」
姉ちゃんてば、棒読み……。
あ、怪しまれないかな……?
「募集に応じてくれて、ありがとうございます。
荷物を取りに一緒に行って、それからパン屋さんに行った方が良いですよね?」
え……、荷物って……。
アーチと戦う為に地球に突然来たので、荷物は何も無い……。
どう言ったら自然に聞こえる?
考えるんだ俺!
「さっきの騒ぎで、岩の下敷きになったみたいなんだよ。
だから、荷物は全てないんだ」
又しても、棒読みのお姉ちゃん。
荷物が無くなったんだから、もう少し残念そうに言って欲しかった……。
「え〜〜と……。
え〜〜!!
あの騒ぎで、荷物が岩の下敷きになったってことですか!?」
「そうなんだよ。
荷物もお金も、全てあの岩の下にあるんだ」
感情の無い言い方を続ける姉ちゃん……。
姉ちゃんは、役者には向いていないのがハッキリと判ったよ。
近くで聞いていたリトゥルが何かを言いかけた。
彼は通信用の魔石を持っているので、何も話さない様にと、それを使って俺は彼に言った。
ここでリトゥルが余計な事を言って、妹に疑念を与えたくない。
彼のスケベな本質を掴んでいる妹に対しては、何を言っても疑われてしまいそうで尚更だ!
妹は姉ちゃんの言葉に驚き、姉ちゃんに抱かれているアダラを見て言う。
「それは困りましたよね。
赤ちゃんのオシメ、今すぐ必要ですよね?」
オシメって……、アダラは数ヶ月の時には、重力魔法で自力でトイレに行って用を達していたので必要ないんだけれど……。
気遣いは嬉しいのだけれど、どう答えたら良いんだ?
考えるんだ俺!
「この子には必要ないんだ。
躾の甲斐あって、事前に教えてくれるんだよ」
妹は人差し指でアダラを指した。
指されたアダラは、目を丸くして妹を見ている。
「まだ赤ちゃんなのに、事前に教えてくれるなんて、とってもお利口さんなんですね!」
な、何とかなったよ。
これからパン屋に住むんだから、みんなには魔法を使わないように厳重に注意しておかないと。
その後、俺達は妹と一緒にパン屋さんに行く事に。
先頭を歩いている妹は、何かを必死で考えているのか、時々頭を傾けている。
道中、地球で暮らす為の説明を、命力絆を使ってみんなに話しながら歩く。
成り行きでこうなったけれど、とにかく、トラブルだけは避けたい。
すれ違う人達は俺達を見ると、必ずと言っていいほど振り向く。
凄い美人の人だとか、凄く可愛い赤ちゃんだったなどと。
俺を見る人達もいて、人形の様に可愛い坊やで、抱き締めたいと言う人達もいた。
威厳が俺には全くないのか……?
これでも本物の王様なんだけれど……。
もっともっと、威厳を出す訓練が必要だよな。
まだ、4才になったばかりだけれど……。
姉ちゃん達は見慣れない景色に目を丸くさせており、俺に質問の嵐が押し寄せて来る。
特に、電線が何に使われているのか興味津々。
電線は電気を流しており、機械を動かしたり、電球が光を発生させる為に使っている事を説明した。
説明が終わると、機械って何かとか、電球は電気を流すとなぜ光が発生するのとか、質問が止まらない……。
質問を強制的に止めて、前を歩いている女の子は前世における実の妹だから、姉ちゃんにとっては魂の妹だと言った。
姉ちゃんが驚いて言う。
『この子が、トルムルの妹さんなのか!?
すると、この子が魂の妹でもあるのか』
アダラが丸い目を、更に大きく丸くして言う。
『このおねえちゃんが、わたしの、たましいの、おばさまなの?
そういえば、トルムルおじさんと、はっする、きが、にている……』
妹と俺が、同じ様な気を発しているって……。
兄妹だからか……?
リトゥルが腰をさすりながら言う。
『綺麗な、この子がか!?
トルムル王の妹さんとここで会うとは、驚くべき偶然じゃ』
リトゥルが言った偶然は、絶対に有り得ないと思う。
もしかしてこれは、女神様の仕業か……?
それと、仮の家族として各自対応するようにと、みんなに言う。
特にリトゥルには、俺を呼ぶ時にトルムル王と言わないようにと、何度も念を押した…。
これからの共同生活で、多くのトラブルをみんなが起こしそう。
アーチを倒す為に地球に来たのに、それ以外で前途多難だ……。
それに……、ウールに逢えないのがとっても辛い。
ましてや、連絡する事さえ叶わない。
俺は思わず、ため息を漏らした……。
読んでくれてありがとうございます。
ネタバレですが、近い将来、ウールも地球に来ます……。