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ギガコウモリ

「その魔石は間違いなく、ギガコウモリの魔石。

 若い頃に、一度だけ見たことがる。


 とてもレアな魔石で、お金をいくら積んでも手に入らないと聞いている。


 もしかして……?


 いやいや、そんなことがあるはずも?

 でも、トルムルなら殺せるかもしれない。

 んーーー」


 父ちゃんは頭を抱えながら自問自答している。

 意を決して俺に言う。


「もしかして、トルムルはギガコウモリをやっつけたのかい?」


 父ちゃんが、少し取り乱しながら俺に質問をしている。

 この魔物、ギガコウモリって言うのか。


 そういえば、母ちゃんから聞いたことがある。

 とても厄介な魔物で、地上からの攻撃はほとんど当たらない。


 しかも、特殊な攻撃で物や人を殺していくと。

 父ちゃんには、正直に言うしかない。


「バブゥー」


 俺はそう言って、右手を上げた。


「やはり、トルムルがギガコウモリをやっつけたんだ!

 それにしても驚かされるよ、こんなレアな魔石を持ち帰るなんて」


 エイル姉ちゃんが、慌てて部屋に入って来た。


「お父さん大変!

 ギガコウモリが現れて、城と町に大きな被害が出ているんだって!

 でも、誰かがギガコウモリと戦って倒した……。

 あれ……?

 どうしてトルムルは、皮の防具を身に付けているの?」


「バブゥー」


 俺はそう言って、魔石をエイル姉ちゃんにも見せた。


「ウッソーーーーーー!

 それは、教科書で見たギガコウモリの魔石!


 トルムルが……、ギガコウモリをやっつけた……?

 ほ、ほ、本当に……?」


「バブゥー」


 返事をして、俺は右手を上げた。


「エイル。その魔石は間違いなくギガコウモリの魔石。

 トルムルが戦ってやっつけたのは間違いのない事実。


 今でも私は信じられないのだけれど、この魔石が動かぬ証拠。

 外で騒ぎになり、トルムルとエイルが心配になったのでここに来た。


 窓が開いていて、トルムルはすでにここにはいなかったんだよ」


「本当にギガコウモリを倒したんだね。

 ありがとう、トルムル。


 倒さなかったら、被害がもっと増えていたのよ」


 そう言うと、エイル姉ちゃんは柔らかな胸で俺を抱いてくれた。

 俺を怖がると思っていたのに、優しく抱いてくれるエイル姉ちゃん。


 父ちゃんも俺を抱いてくれて、俺に対する二人の愛情の深さが身に染みる。


 そうだ、ヒミン王女は大丈夫か?


「ヒー、ねーたん。

 バブゥー!」


 俺は城の方を指差した。

 窓の外を見ると、東の空がほんのりと明るくなり始めている。


「トルムルはヒミンが心配なのね。

 災害時では、怪我をしている人達の治療が城で行われるわ。

 父さん、行きましょう」


「そうだね。行こう!

 私は多少治癒魔法が使えるので、何かの役に立つはずだ。

 トルムルもいくかい?」


「バブゥー」


 もちろん行きたい。

 興味本位ではなく、心からヒミン王女が心配。


 知っている人が亡くなるのは勘弁してほしい。


「よし、3人で行こう」


 父ちゃんはそう言って、城に行く準備を始める。

 魔法が溜まっているダイアモンドなど、治療に必要な物を袋に入れた。


 父ちゃんが俺を、おんぶ紐で固定すると3人で家を出た。


 城の近くになるに従って、木造の家が破壊された跡が激しくなっている。


 城の城壁も壊されていた。

 石で造られている丈夫な建造物だ。


 それを、まるで豆腐でも壊すように、所々破壊されている。

 俺、これらを破壊した奴を倒したんだ……。


 改めて、ギガコウモリの怖さを認識した俺。

 今になって、身震が起きている。


 城の正門に近付くにつれて、怪我人を連れた人の姿が多くなっていった。

 泣き叫ぶ子供もいる。


 城に入って行くと、怪我の状態によって誰かが行く先を教えている。

 見覚えのある顔だと思ったらラーズスヴィーズルだ。


 ゴブリンの戦いで一緒だった。


 あ……、でも。

 彼は気絶していたので、俺が戦ったのを知らないんだった。


「ドールグスヴァリさんとエイルさん、それと……?」


「息子のトルムルです。

 私は中級の治療魔法ができるので、何かのお役に立てればと思ってここに来ました」


「それはありがたいです。

 治療師の方が少なくて困っていたのです。

 中級の治癒魔法でしたら、あちらの方に行って下さい」


 父ちゃんは了解の返事を彼にすると、3人は指示された方に行った。


 大きな部屋に入って行くと、50人ぐらいの人達が怪我をしていた。

 見ていて痛ましい光景が、そこには広がっていた。


 包帯が血で赤く染まって、うずくまっている老婆。

 痛くて我慢できずに泣き叫ぶ子供。


 通常では考えられない方向に曲がっている腕を、片手で抑えて痛みを耐え忍んでいる若い男性。

 木の破片が足に刺さって、苦痛を訴えている若い女性。


 怪我した人達は大勢いるのに、治療師は二人しか居なかった。

 彼らは懸命に治療をしている。


 けれど、魔法が底をついたのか、普通の治療しかしていなかった。

 能率が悪く、これでは……。


 不意に、母ちゃんの言葉を思い出した。


『治癒魔法には、多くの患者に対して一度で済む魔法があるのです。

 でもねトルムル。この魔法は、上級治癒魔法師でないと使えないのよ』


 思い出したのは良いけれど、それが俺にできるだろうか?

 小さなかすり傷を、自分で治したことはある。


 生まれてすぐに、自分の目の視力を上げたこともある。

 少しだけ上げ過ぎたんだけれど……。


 それ以外には、経験が全くなかった。

 治癒魔法は、攻撃するわけでないので実害がない。


 あるとすれば、俺みたいに視力を上げ過ぎるだけか?


 どうする俺……?


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