魔王
シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ。
イズン姉ちゃんが先頭になって、地下神殿に行く階段を俺達は降りている。
姉ちゃんはスキュラの魔石を組み込んだヤリを持っているので、ヤリを一回突くたびに、魔石の効果で六回突く事ができる。
アトラ姉ちゃんが先頭になって階段を降りると、階段自体を破壊する可能性が高く、今回は不向き……。
他の姉ちゃん達でも良いのだけれど、一突で強敵のミノタウルスを魔石に変える事が出来るのはイズン姉ちゃんだけだ。
地下神殿を守っているミノタウルスは、今まで戦ってきたどのミノタウルスよりも強敵なのに、イズン姉ちゃんってば凄すぎ!
この大陸に来て、イズン姉ちゃんの出番は少なかったけれど、今回は本領を発揮している。
階段を降りると、狂気が支配する空間に出る。
この狂気は、間違いなく闇の神アーチだ!
前方をよく見ると、巨大な黒い靄が活発に蠢いている……。
ニーラが生贄の台に縛り付けられており、黒装束の魔族達が周りを囲んで何かの呪文を詠唱していた。
無数のローソクが揺れ動き、それぞれのローソクには魔族の文字が刻み込まれている。
そして文字が青白く光り出し、ニーラの周りに魔法円が出現した!
祭壇の中央には魔王らしき魔族が、俺を見て薄気味悪く笑っている。
「お前がトルムル王か?
巨大壁がある限り、お前達では最早、生贄の儀式を止める事は出来ない!
ニーラを生贄にして、儂はこの世界の覇者となるのだ!
お前達の始末はそれからだ!」
まだ儀式は途中で、俺達はどうやら間に合ったみたいだ!
でも……、彼らとの間に、見えない幕を感じるんですが……?
これが魔王がさっき言っていた巨大壁なのか……?
「これでも喰らえ、魔王!」
そう言ったのはアトラ姉ちゃんで、伝説の魔剣、超音波破壊剣を使った。
剣に組み込まれた魔石と、姉ちゃんの魔法力が合わさり、最大級の攻撃が魔王を襲う……。
シュゥーーーーーーーーーーーー!
え……?
あの超音波破壊剣の攻撃が吸収された……?
嘘だろ!
あれだけの攻撃が吸収されるなんて!
他の姉ちゃん達や乳児達、ヒミン王女やウールも攻撃を開始するも、見えない幕に魔法が吸収されて、全ての攻撃が通用しない……。
矢も速度を吸収されて、見えない幕の前に落ちて行く……。
俺は最大魔法である巨大魔矢を射る。
バシューーーーーーーーーーーー!
同じ様に見えない幕で魔矢は止まり……。
シュゥーーーーーーーーーーーー!
霧散した〜〜!
これでは、どんな攻撃しても結果は同じだ!
こんな魔法が存在したなんて!
おそらく、闇の神アーチの出した防御魔法だ!
儀式は進んでおり、ニーラの体が不気味に光り始める。
儀式が最終段階に進んでいるのは疑う余地がない。
色々試したけれど、俺達では攻撃を吸収する巨大壁を突破出来ない。
儀式を阻止するのは、俺達では無理なのか……?
ここまで来たのに、ただ見ているだけなんて……。
「トルムル、唇から血が!」
ウールが俺を見て驚きながら言う。
俺は唇を強く噛んでいたみたいで、唇の周りを舌で舐めると血の味がした。
アトラ姉ちゃんの手を見ると、悔しさで震えている。
魔王が支配する世界の始まりを、何もしないで俺達は眺めるだけなのか……?
読んでくれてありがとうございます。
次話も投稿が遅くなります……。