巨大地震
明け方、エイル姉ちゃんから命絆力を使って緊急連絡が入ってくる。
しかも、今まで聞いた事が無いような超、超、超早口で!
『ニーラが、どこを探しても見つからないの!
さっき、トイレに行くからと一緒に付いて行ったのだけれど、個室から長い間出てこなかったので、心配になって中を覗いたら居なかった……。
ごめん、トルムル。
ニーラの見張り役を頼まれてたのに……』
凄い早口で言い終えたエイル姉ちゃん。
こんなに早く話せるなんて、羨ましい……。
って、それどころじゃ無いよ!
ニーラが居なくなったって〜〜!
ニーラは魔王の娘で、王女が魔王に捕まると、闇の神アーチに生贄として捧げる事になる。
ニーラが生贄になると魔王の力は、今以上に強大になるとニーラが言っていた……。
魔王側に行かない内に大至急に探さないと!
俺はニーラの気配を探して四方に意識を向けて探してみた。
しかし……。
ニーラの気配をいくら探しても、部隊内には既に居なかった。
それに、ニーラの叔母さんで、魔王の妹でもあるムギーナルも居なくなっている。
間違いなく、ムギーナルがニーラを拉致したんだ!
綿密に計画を練って、ニーラが1人になるのを狙っていたに違いない。
トイレの個室に見張り役が一緒に入る事が出来ないので、そこを狙ったんだ!
姉ちゃん達や、通信用の魔石を持っている人達全員に緊急連絡を入れる。
『ニーラが魔王に拉致されました。
予定を早めて、準備の整った部隊から計画通りに魔王城に攻撃を開始して下さい』
最初、突然の事でみんなに動揺が走ったのが伝わって来たけれど、誰もが歴戦の強者なので、その後は冷静になって行動に移してくれた。
俺は最速で完全武装して、太陽が昇りきっていない冬の空に舞い上がって行く。
魔法で視力を上げてあるので、目を凝らして魔王城に目をやると、眠らされたニーラとムギーナルが空中を高速で移動していた。
そして、黒い靄も一緒に……。
ニーラを拉致した真犯人は黒い靄で、闇の神アーチの部下だ!
空中を高速で移動できるのは、人間と魔物達の中では、ワイバーンと俺、そしてウールと乳児達にしかできない。
でも、アーチの部下達は空中を移動する事が出来、俺とさほど違わない速度で飛んで行ける。
ウールが最速で空中を移動できるのだけれど、今から彼等に追いつく事は不可能だ!
魔王城まで残りわずか。
どうする俺……?
魔矢を射るには遠すぎる。
ニーラに当たる可能性が高く、それは避けたい……。
とすると、魔法で阻止する事になるにだけれど、どれもニーラに害が及ぶ。
火炎、吹雪、雷、竜巻などの魔法は使えない。
とすると、物理的に阻止するしか手は無い!
岩石巨人を魔法で出して、行く手を阻むのが良策だ。
俺は集中力を高めて、俺に似の岩石巨人を魔法力を使って空中に作り出した。
ズゥズゥーーーーーーーーン!!!
俺似の岩石巨人が地表に降り立つ音が聞こえ、突然現れた岩石巨人に彼等らの動きが止まった。
岩石巨人を避けるように、魔王城に行こうとするのを俺は魔法力を使って岩石巨人を動かし行く手を遮る。
彼等は何度も方向を変えて岩石巨人のから逃れようとするけれど、巧みな俺の操作で足止めをされている。
乳児部隊と姉ちゃん達が、彼等を捕まえようと高速で移動中。
しかし……?
岩石巨人の後ろに、突然何かが現れた……?
ズゥズゥズゥーーーーーーーーーーーーン!!!
俺似の岩石巨人よりも、数倍はある岩石巨人が現れた〜〜!
魔族に似ており、魔族の誰かが岩石巨人を出したんだ。
岩石巨人の顔を見ると、見覚えのある顔……?
え〜〜と……?
確か……。
あ〜〜、魔王だ!
ニーラの心の中に入っていった事があるのだけれど、過去の記憶で見た魔王にそっくり!
っていうか、魔王がこの岩石巨人を出したのは間違い!
魔王似の岩石巨人は、後ろから俺似の岩石巨人に襲いかかろうとしている。
しかし、俺の方が小さく避ける事が出来た。
次々と殴りかかろうとしている。
でも、魔王似の岩石巨人は破壊力がありそうだけれど、俺似の岩石巨人にダメージを与える事が出来無い 。
俺は岩石巨人を操作して、反撃を開始する。
魔王似の岩石巨人の右足を、拳で攻撃!
ズッガ〜〜〜〜ン!
魔王似の岩石巨人は、俺の攻撃で右足が粉砕された。
でも片足で踏ん張り、倒れるまでに至らなかった。
魔王似の岩石巨人は拳で、更に、俺似の岩石巨人に攻撃をしてくる。
しかし、片足だけで立っているので避けるのは超〜〜簡単。
再び俺は、もう一方の足にも攻撃を加える!
ズッガ〜〜〜〜ン!
ズゥズゥーーーーーーーーーーーン!!!!
魔王似の岩石巨人は地面に倒れ込み霧散した。
やったね俺!
簡単に魔王似の岩石巨人をやっつけたよ。
……?
ちょっと待てよ!
もしかして……?
あ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
ニ、ニーラが居ない……。
魔王城の方を見ると、彼等は今まさに、最初の門を通り抜けようとしていた。
魔矢で彼等を止めようとしても、ニーラに当たる可能性がある。
俺の攻撃を考慮して、彼等はニーラを最後尾にして空中移動しているからだ!
いくら魔法で視力を上げているとはいえ、ジグザグに移動して、尚且つ、ニーラが最後尾ではムギーナルだけ狙うのは不可能だ!
何か、効果的魔法はないのか……?
あった!
絶対零度の冷気魔法だ!
ニーラも凍るかもしれないけれど、すぐに治療すれば蘇生する筈だ……。
でも、蘇生しなかったら……?
え〜〜い、迷っている暇はない!
俺は意を決して、対零度の冷気魔法を使う事に。
絶対零度のイメージができたので、彼等めがけて俺は魔法を発動した。
ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜。
銀色の大きな塊が、彼等目掛けて行く。
塊の通った後には、ダイアモンドダストが……?
いつもは出るのに、ここは既にマイナスの気温なのでダイアモンドダストが出ない……。
って、それよりも、彼等はどうなった?
銀色の大きな塊が、彼等を襲う!
パァーーーン!
え……?
防御魔法で、弾かれた〜〜!
彼等は何事も無かったかの様に、門をくぐり抜ける……。
魔王城の魔法防御圏内に、彼等は既に入っていたんだ。
もう俺には、どうする事も出来ないのか……?
「トルムル、どうしたの?
ニーラを取り戻すチャンスは、あだあるわ。
立ち止まってないでトルムル。
行くわよ!」
そう言ったのはウール。
いつのまに、俺の横に飛んで来ていた……。
ウールが横に居たのに気が付かなかったなんて、俺は少し動揺したのかもしれない。
少しだけ……。
ウールの言うように、ニーラを闇の神アーチに生贄として捧げるには儀式が必要で、すぐにできるものでもない。
今から魔王の所まで猛進すれば十分間に合う!
考えるんだ俺!
今までだって、窮地を乗り越えて来たじゃないか!
ん……?
魔王城と城壁が魔法防御で守られているのならば、もしかして……。
地表の部分だけ防御魔法を発動しているのは間違いなく、地下にまでしている可能性は低い。
とすると、土の妖精であるピクシーの能力を使うと、大ダメージを与える事が可能……、な筈だ!
アトラ姉ちゃんと友達の儀式をしているピクシーに、モージル妖精女王を通じて話しかける。
『ピクシー、魔王城を中心にして、建物が崩壊するぐらいの巨大地震を起こせるか?』
『巨大地震ですか?
私の魔法力ではそこまでは……。
トルムル王が以前なさった、水の妖精ウンディーネの時の様に、私の能力を使って魔法を発動して頂けたら十分可能だと思います。
でも……、ニーラ様も建物の下敷きなって、大怪我をする可能性がありますが?』
ニーラには、最強の防御魔法を付与した魔石を身に付けてもらっている。
建物崩壊したぐらいなら、怪我もしないぐらいの強力な防御魔法を。
『それは大丈夫だよ、ピクシー。
最強の防御魔法を、ニーラは身につけているので。
それじゃ、ピクシーに心を移動するよ』。
『はい、了解しました』
隣で聞いていたウールは、真剣な眼差しで俺を見た。
「トルムルの体は私が守るから、安心してピクシーに心を移動させて」
「ありがとう、ウール」
俺がそう言うと、ウールは俺を抱いてくれた……。
こ、これって、状況が違っていれば、とってもロマンチックなんですが……。
俺を抱いてくれたウールは、頬を赤くしながら言う。
「行ってらっしゃい、トルムル……」
ウールに微笑むと俺は、モージル妖精女王を通じてピクシーを探し始める。
居た!
ピクシーはとても強い気で、アトラ姉ちゃんと友達の儀式をしているからか?
以前感じなかった心の強さを感じる。
魔王の大陸に一緒に来て、数々の戦いを一緒に過ごした。
ピクシーの能力である、大地を自由に動かせる能力で、数々の場面で俺たちを救ってくれた。
妖精達も戦いの中で成長しているんだと実感。
俺は直ぐに、心をピクシー移動する。
目を開けて見ると、さっきいた場所とは違って、横にアトラ姉ちゃんが居た。
姉ちゃん達は乳児部隊と共に、魔王城に向かって高速で空中移動しているところ。
姉ちゃんもさっきの会話を聞いていたので、ピクシーに乗り移った俺に、微笑みかけて言う。
「ピクシーの中に、トルムルの心が移動したのか?」
「はい。
これから巨大大地震を起こすので、その後、崩壊した魔王城に侵入して下さい」
姉ちゃんは少し驚いて言う。
「会話は聞いていたけれど、魔王城を崩壊させるって、私の想定を遥かに超えるよ。
頑張れよ、トルムル」
そう言った姉ちゃんは闘気を最大限に高めて、魔王城侵入に備える。
まじかで感じる姉ちゃんの闘気は半端なく、今まで感じた以上だ!
姉ちゃんも同じく、魔王の大陸に来て更に強くなったんだ。
頼もしい限りで、魔族の攻撃でも、今の姉ちゃんなら楽々と撃破できるだろう。
姉ちゃんから魔王城に目をやると、ピクシーの能力である大地を操る能力で探りを入れる。
花崗岩でできている魔王城だけれど、中は空洞になっているので、巨大地震を起こすと崩壊するのが判った。
俺はすぐに精神の統一を始める、巨大直下型大地震のイメージを。
イメージができたので、俺の魔法力を使って、巨大直下型大地震の魔法を発動した。
ゴォゴォゴォゴォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
大地がうねりを上げ、城壁の周りに亀裂が入った。
そして……。
ドォドォドォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!!
魔王城を含め、城壁の内部が上下左右に激しく動き出す。
イメージ通りの、巨大直下型大地震だ〜〜!
次々と建物が崩壊しているのが見える。
魔王城も例外ではなく、まるで積み木を崩すかの様に脆く崩れ行く……。
思っていた以上に魔王城が崩壊したので、思わず目を見開いていた。
「トルムルは凄いな!
一瞬で魔王城を崩壊させるなんて!
トルムルに負けないように、私も頑張るよ!」
そう言った姉ちゃんは、更に闘気を高めて行く。
姉ちゃんて、どこまで闘気を高められるの……?
おっと、元の体に戻らないと。
『ピクシー、ありがとう』
『ど、どういたしまして。
トルムル王の魔法力が、ここまで凄いとは驚きです』
ピクシーは驚いているけれど、大地を操る能力は俺では出来なかったので、協力した成果だよな。
元の体に心が戻ると、ウールが俺を抱いたままだった……。
頬が急激に熱くなるのを感じたけれど、今は……。
「ウールありがとう、体を守ってくれて」
「う、うん。
一瞬で……、魔王城が崩壊した……。
驚きすぎて言葉にならないけれど、私も頑張るわ」
そう言ったウールは、抱いていた俺の体を、更に強く抱きしめた。
ちょっと痛いくらいに……。
いや……、かなり痛いくらいに……。
俺は軽く抱き返し、ウールの手を取って空中移動を開始する。
ウールの手は柔らかく、とても暖かい。
そして俺に、とびっきりの笑顔をくれる。
東の空に太陽が登り初め、朝日が目に入った。
魔王との直接対決は、もうすぐだ!
読んでくれてありがとうございます。