魔王城
「遂に……、ここまで来たね、トルムル」
感慨深そうに言ったのはエイル姉ちゃん。
生まれたての俺を世話をしてくれたのは、父ちゃんとエイル姉ちゃん。
俺を生んでくれた母ちゃんが亡くなって、魔法力が劇的に増えた。
それから母ちゃんの思いを達成する為に、今日まで長い年月……、を過ごして来た。
もうすぐ4才の誕生日を迎える俺は、まさかこんな短期間に魔王の居る、魔王城を見るとは思いもしなかった。
魔王城、それはこの世に生まれて、俺の人生における最大の目標!
これまでの俺の人生は、ここに来る為に死ぬ思いで努力してきたのは間違いない。
何度も死ぬ思いをしながら……。
って言うか、マジで4年近くしかこの世界では生きていないけれど……。
4年近くの短い人生だったけれど、俺にとっては何十年とも思える時間を過ごした。
近くに居る他の姉ちゃん達も似た様な思いみたいで、真剣な眼差しで魔王城を睨んでいる。
魔王城は花崗岩の巨大な岩山で、中をくり抜き、周りを何重にも城壁で囲っている。
城壁内には魔族が住んでいるのだけれど、戦火を恐れて多くの非戦闘員の魔族達が脱出をしていた。
今ここに着いたばかりなので、明日、総攻撃を開始する!
それに、俺達に歩調を合わせる様にして、アンゲイア司令官率いる人間達の部隊も巨鳥のジズに乗ってここに来る予定だ!
夕方には合流できそうなので、彼らに会うのがとても楽しみ。
魔物の大陸に上陸して、彼等もきっと一回り……。
いや!
二回り、三回りも成長しているだろう。
魔王城に再び意識を向けると、魔法力の強大な個体を感じる。
1つは魔王に間違いなく、俺と同じか、或いはそれ以上の魔法力を感じる。
しかし、それ以上に魔法力を持った個体が居るのだけれど、発している気は間違いなく闇の神アーチだ!
闇に落ちてもやはり神は神で、魔王の背後にいるアーチを倒さなければ、この戦いは終わらないと強く感じた。
でも、何でアーチは直接俺達に攻撃を仕掛けてこないのだろうか……?
自由に行動出来ない理由が何かありそうだ。
アーチの威圧感は半端なく、乳児達が震えながら怯えている。
彼女達は戦闘能力が非常に高いのだけれど、これ程、強烈に威圧する敵は初めなので仕方のない事なのかもしれない。
それでも彼女達には使命感があるので、身体中の勇気を絞って魔王城を睨みつけている。
睨んでいる彼女達も、ちょと可愛い……。
頼もしいかぎりで、戦闘になれば彼女達は輝かしい戦果を上げるに違いない。
俺達と同行してきた妖精達も魔王城を睨んでいる。
妖精の国を維持するのに、魔王を倒さなければならないからだ。
モージル妖精女王を通じて、全ての妖精達と俺は繋がっているので、彼等の膨大な魔法力を使う事が出来る。
過去に一度だけ使った事があるのだけれど、制御の方法が解らず、体力を使い果たして一昼夜眠り込んだ事があった。
今度は上手にしないと、魔王の前で眠り込んでしまったらそれは即、死を意味する……。
◇
野営地にアンゲイア司令官率いる人間の部隊が到着した。
巨鳥のジズとも久しぶりに再会できたのだけれど、幼かった雛鳥も大きく成長して……、今回の輸送を手伝ってくれる。
って、生まれた時から家ぐらいの大きさだったのが、今では小山ぐらいの大きさに成長している……。
さすがジズの子供で、とてもデカイ!
姉ちゃん達と引けを取らないほどの美人である、アンゲイア司令官とも久しぶりに再会した。
毎日の連絡は、通信出来る魔石を使って、毎日情報交換していたので軽い挨拶を交す。
2人で仮設の指令テントに入って、改めてアンゲイア司令官を見ると、相変わらずの超〜〜美人。
だけれど……、更に……、以前より遥かに輝いて見えるんですが……?
肌の艶といい、目の輝きといい……?
「いよいよですね、トルムル総司令官。
みんなも、この時を来るのを心待ちにしていたんですよ。
それで……」
ここまで言うとアンゲイア司令官は、頬を赤らめて目線を落とした。
頬を赤らめたっていう事はもしかして……。
これってまさか……、恋なの……?
誰かに恋をしている仕草なのは間違いないけれど、相手は誰なんだろうか。
意を決して顔を上げて俺を見ると、恥ずかしげに言い出すアンゲイア司令官。
「この戦いが終わったら、トルムル王に結婚式の仲人をお願いしたいのです」
アンゲイア司令官が言った後、入って来たのが元賢者の長であるリトル。
久しぶりに見るリトルは元気そうで、肌の艶がとても良い……。
ま、まさか!
このリトルとアンゲイア司令官が結婚!?
リトルはとってもスケベで、それでスケベで、そしてスケベ……、そして彼はスケベ。
あ〜〜だめだ、元賢者の長とはいえ、スケベの言葉しかこの人には適切な言葉が思いつかない……。
過去に何度も、姉ちゃん達の体を触ろうとしていた。
アトラ姉ちゃんの体を触ろうとした時には、遠くにぶっ飛ばされた事も。
エイル姉ちゃんの時には実際にお尻に触って、姉ちゃんにぶっ飛ばされて、壁に激突して大穴が空いた事もあった。
戦闘能力は超一級なのに、スケベ度も超一級……。
それなのに、奥手の中でも超〜〜奥手のアンゲイア司令官と結婚するって!?
とても信じられない……?
しかも、しかもだよ、年齢が親子程も違う!
そこに2人の人達が入って来る。
顔見知りで、セイレーンの精神攻撃に対抗する為に、地下牢で俺の警護をしてくれトーナムとアンナだ。
この2人も以前よりは肌の艶といい、目の輝き、そして頬を少し赤くしている。
この2人も結婚するのかな……?
アンゲイア司令官が、うつむ気加減で恥ずかしそうに言い始める。
「こちらのトーナム部隊長と婚約したのです」
え……?
アンゲイア司令官の結婚相手は大男のトーナム……?
という事は、リトルの結婚相手はアンナ!?
う、嘘だろ!
この組み合わせも信じられない!
アンナはアトラ姉ちゃんと同じくらいゴッツイ体で、性格も同じく姉御肌。
スケベなリトルと、どうして結ばれるの……?
「トルムル総司令官、お久しぶりです。
リトル様が既に申し上げたみたいで、この度、彼と婚約しました。
彼の卓越した戦闘能力と、人を思いやる優しい心に惹かれました。
それで、トルムル総司令官に仲人をお願いしに参りました。
勿論、この戦いが終わった後で挙式を上げようと思っております。
宜しくお願いします」
マ、マジなの!?
リトルは確かに卓越した戦闘能力で、優しさは人一倍強いのは認めるけれど……?
長く生きてみるもんだ……。
とつぜん、見張り役のワイバーンの兵が、血相を変えてテントに駆け込んで来る。
「トルムル総司令官、た、大変です。
魔族の奇襲です!」
何だって!?
「奇襲の規模は?」
ワイバーンは、見て来た事が信じられない様に言い始める。
「そ、それが、えーと……。
たった8名の魔族なんです。
でも、めっぽう強くて!
しかも彼等は、大怪我をしても痛みを感じないのか、行進を止めようとはしないんです!」
たったの8名だけで奇襲だって!?
こちらは大部隊なのに、奇襲にしては余りにも少なすぎる。
でも……、大怪我をしても行進を止めないってどういう事なの?
この目で見ないと、状況がよく判らない。
「アンゲイア司令官。
行進している魔族から味方を遠ざけて下さい。
僕が直接、彼等と戦います!」
先程の様子と違って、アンゲイア司令官は真剣な表情になり、了解の返事をすると、テントから出て行った。
他の3人もテントから出て、持ち場に帰って行く。
テントの中に居たウールが俺に声をかける。
「私も行こうか、トルムル?」
ウールも一緒に戦うのは嬉しいけれど、状況が判らないので、最初は俺1人で戦った方がいい気がする。
「状況に応じて、ウールに来てもらうかもしれません。
戦闘準備だけはしておいて、ウール」
ウールはとびっきりの笑顔を俺に向けると、踵を返してテントから出て行った。
俺もテントから出て、割り当てられているテントに入ると、完全武装をする。
すぐに重力魔法で、真冬の曇り空を舞い上がって行くと、野営地の北側から魔族が隊形を組んで行進しながらこちらに向かっている。
魔法で視力を上げてあるので、行進して来る魔族達をよく見ると、まるで機械の様な動きだ!
感情が無く、大怪我をしている魔族もいるのに、顔色一つ変えないで攻撃を繰り返している。
使い魔の気配を彼等から感じないので、魔法によるものか、或いは別の手段で彼等の行動を制御しているみたいだ。
しかも彼等は、魔法のレベルを数段上げる魔法を使っている。
つまり、強敵だった……、ガンダル兄弟が4組いるのと同じ。
しかも、痛みなどを感じないみたいで、機械的に攻撃を繰り返している。
大怪我をしているのに、治癒魔法を使わないのが何よりの証拠で、恐るべき敵の出現だ!
魔物達では彼等に到底は対抗出来ないし、姉ちゃん達でさえ危ないかもしれない程。
もし彼等の様に、魔王城に居る魔族達が同じだったら、苦戦をしいられるのは間違いない。
でも……、彼等を倒さないとこの世界に平和は訪れない。
亡くなった母ちゃんの願いでもある魔王を倒すには、彼等との戦闘は避けられない。
俺は意を決して彼等に近付いて行く。
彼等も俺に気が付いたみたいで、一斉に攻撃を開始してくる。
発動された猛火が増幅魔法によって、更にレベルを上げて俺に襲って来た!
ゴォォォォォォォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!
アトラ姉ちゃんの胸をイメージした、最強の盾を出しているんだけれど……?
小刻みに震えており、更に、震える間隔が早くなっている〜〜!
プルプル、プルプル、プルプル、プルプル、プルプル!
も、もしかして、霧散する……?
ヤ、ヤバイ!
パァ〜〜〜〜〜〜ン!
霧散した〜〜!!
俺はとっさに、対魔王戦に用意しておいた究極の盾を魔法力を使って前面に出した。
これは防弾チョッキと、アトラ姉ちゃんの胸の両方を合わせてイメージした盾。
フゥーーー。
何とか防ぎきったよ。
闇の神アーチに使える将軍と同じレベルの猛火と同じくらいだった……。
って、俺はそれ以上の猛火を発動できるんだけれど、もし使うと、この辺りが溶岩の池になってしまう。
でも、今回は仕方ないよな。
彼等を倒さないと、俺達は魔王城に行く事さえも出来ない!
俺は意を決して……。
ちょっと待てよ!
彼等が使っていた増幅魔法って、俺も使えるかもしれない。
魔法はイメージができて、それに似合う魔法を発動する魔法力さえあればできる……、筈だ。
今までだって、実戦で色々な魔法を発動してきた。
増幅魔法を覚えたら、更に俺の攻撃力が上がるのはまちがいない!
俺は精神を高め、増幅魔法をイメージして行く。
増幅魔法のイメージが出来たので、魔法力を使って、右手で初期の火炎魔法を発動する。
それと同時に、左手で増幅魔法を発動した。
ゴォォォォォォォォォォォォォォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!!
俺が魔法で作り出した超、超、超猛火は、8人の魔族達を襲った!
真っ白な猛火で、しかも想定よりも大きな範囲になっている〜〜!
防御魔法をしていた魔族達を、あっという間に蒸発させた……。
それでも勢いが止まらず、地面に猛火が潜り込んで行くんですが……?
増幅魔法って、初めて発動したけれど凄い威力だ!
大きな溶岩の池ができているのに唖然とした俺……。
「「「「「「「「ワァ、ォ〜〜〜〜〜〜〜〜!!」」」」」」
味方からは大歓声が巻き起こっている。
急速に接近している気配があって、一瞬緊張したけれどけれど、ウールだったの安心する俺。
ウールは満面の笑みを浮かべており、一瞬のうちに俺の横に並んでいた……。
「トルムルって、更に攻撃力を上げたね。
こんなに大きな溶岩の池が出来るんだもの。
ありがと、トルムル」
チュ。
そう言ったウールは、俺の頬に……?
頬に……、柔らかいもの当たった……。
ウールの唇が……。
これって……、も、もしかしてキス……?
突然……、体中の力が抜けて、俺は天にも登る気持ちになって行った。
でも……、地上に急速に落ちて行くのを、ウールが助けてくれるまで気がつかなかった……。
読んでくれてありがとうございます。