闇魔石
ワイバーンの城から北に向かった俺達は、山岳地帯に入っていった。
気配で敵方の位置を探ると、円形状に規則正しく居る。
その円形の中心部には魔法力のとても強い個体が居り、城に向かって強力な魔法を発動し続けている。
これだけ強力な魔法を、昨日から発動し続ける事が出来るなんて、想像以上に手強い敵だ!
最初の敵が視野に入って来る。
しかし彼らは、黒い靄の様にしか見えない……。
三体確認でき、何かを守る様にしている。
魔法で視力を上げてあるので、守ってある物をよく見ると魔石に似ている。
しかし……。
似ているけれど、多くの魂が閉じ込められて、負の感情を発散させている様な……?
しかも、膨大な魔法力を円の中心部に向かって供給している。
これってもしかして……、闇魔石なのか……?
ヴァール姉ちゃんが3年前に歌った、バラードの言葉を思い出す。
『神々と、闇の神々との壮絶な戦いの中で、多くの魂を閉じ込めている闇魔石の魔法円が使われた。
神々はこれによって理性を失い、狂気へと誘われる。
貞操の神であるアルテミスは、神々の中で唯一狂気へと誘われなかった。
アルテミスが単身、闇の神々に戦いを挑み、闇魔石の魔法円を打ち砕き、神々の勝利に貢献する』
え〜〜と?
アルテミスって、貞操の神だから闇魔石の魔法陣の強力な魔法にも惑わされなかったんだな。
だから乳児達をはじめ、ウールや俺は惑わされなかった。
少しだけ……、俺は理性を失いかけたけれど……。
と、とにかく、この事をみんなに伝えないとな。
「わかったわ。
それで、私が最初に攻撃しようか?」
そう言ったのはウールだ。
俺の魔法力は魔法円の中心に居る、最高幹部の戦いにとっておきたいので、前哨戦として丁度良いかもな。
ウールは超が何個も付くほど可愛いけれど、魔法力も超が付くほど強力だ!
既にウールは、魔法使いであるイズン姉ちゃんの魔法力を凌駕しており、俺に次いで超〜〜強力な魔法を扱える。
しかも、赤ちゃんの時に命力絆の魔法を、俺がウールにした時から心身共に急成長している。
更に言えば、俺が前の世界で得た知識を姉ちゃん達に言っても理解してもらえない事が多いのに、ウールはスポンジが水を吸う様に、すんなりと受け入れている。
例えば、物質は振動しているから熱を発しており、その振動が止まると絶対零度になったり、温度には上限が無い事を未だに姉ちゃん達は信じていない……。
ウールだけは俺を信じてくれて、理解を示し、最強の魔法を完成させた経過もある程。
今回、最初に戦うには敵の技量が判るので丁度良い。
もしかして、最強魔法を使うのかな……?
「お願いウール。
でも、気を付けて!」
「わかったわ、トルムル」
「ウールおねえちゃん、がんばって」
アダラがそう言うと、他の乳児達もウールに応援の声をかける。
乳児達の方を振り向いていると……。
ゴロゴロ〜〜、ドォッカァ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!
ゴォァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
「「「グゥアァァ〜〜〜〜〜〜!」」」
カッキィィーーーーーーーーーーン!
急いで音のする方に振り向くと、ウールがこちらに向かって来るんですが……。
もう終わったの、戦闘……?
は、早すぎない、ウール……?
って思ったら、目の前に居るウール……。
「ちゃんと、見ていてくれた私の戦いを?
トルムル……?」
おっと、ヤバイ!
こんなに早く終わらせるなんて……、 ウールの戦闘能力は以前よりも、更にレベルアップされている!
見ていません、って言ったら……。
昔……、あったんだよね。
ウールの戦いを見ていなくて、その後、気まずい雰囲気になった事が……。
落ち着け、俺!
聴こえてきた音から、ウールの戦闘場面を再現できる筈だ!
最初は間違いなく雷系の魔法を使って、その後は炎系の魔法。
最後は敵が凍った音が聞こえたので、絶対零度の魔法を使ったのは間違いない!
とすると……。
「もちろん、見ていたよウール。
最後の二重螺旋絶対零度猛火《ダブルフィリックスアブソリュートゼロ ファイア》の威力は流石だね」
「ありがとう、トルムル」
そう言ったウールは俺に微笑んでくれた。
よかった〜〜。
二重螺旋絶対零度猛火《ダブルフィリックスアブソリュートゼロ ファイア》は、ウールが繰り出す最大魔法の1つ。
普通、炎と氷の魔法を同時に使うと、敵に届く前に魔法が混ざり合い、温度が相殺しあって威力が無くなる。
でもこの二重螺旋絶対零度猛火《ダブルフィリックスアブソリュートゼロ ファイア》は強力な魔法力によって、敵に当たるまでDNAの螺旋構造の様に混ざり合う事がなく、敵にねじ込む様に襲いかかるという、超〜〜、超〜〜恐ろしい魔法だ!
二重螺旋絶対零度猛火《ダブルフィリックスアブソリュートゼロ ファイア》を使えるのはウールと俺だけで、絶対零度の概念がないとできないので、普通の魔法使いでは絶対に無理な魔法だ!
何故なら魔法は、イメージできたのを魔法力を使って発動するからだ。
「それでトルムル、闇魔石を破壊した方が良いわよね?」
おっと、今は闇魔石の事を考えないと、今でも城では大変な事になっているし。
ウールの言うように、今はこの闇魔石をどうするか決めないといけない。
俺達は空中を移動して、闇魔石の近くに行く。
そして俺は検査魔法で、詳しく闇魔石を調べる事に。
シュゥーーーーー。
検査魔法を使い、とても静かな音が聞こえたかと思うと、検査の結果が判って驚愕する俺……。
多くの魂が闇魔石に閉じ込められているとはわかっていたけれど、最低でも数百単位の魂が閉じ込められている……。
しかも、それらの魂から魔法力が途切れる事なく魔法円の中心部に注ぎ込まれており、強大な魔法力の1つになっているなんて!
破壊するには最大火炎魔法でも無理で、それ以上の火炎魔法でないと無理だ!
これらの事をみんなに話すと、イズン姉ちゃんの娘であるイビョークが言う。
『わたしが、このませきを、はかいしてもいい?
おとつい、マキシマムウルティメイトファイアをおぼえたんだ。
しろの、ちかふかくにいって、はじめて、このまほうをためしたら、ようがんのみずうみができちゃって、ままがあわてて、ひやしてくれた……。
わたし……、ママをくるしめているこのませきを、こわしたいんだ』
な、なんと、イズン姉ちゃんの最大火炎魔法魔法である極限最大火炎魔法を、まだ乳児であるイビョークが使えるなんて!
俺が思っている以上に、乳児達はそれぞれの能力を伸ばしているんだ。
今回はイビョークに任せるのが適任だ。
俺の声はまだ3才の、1オクターブ高い可愛らしい声だけれど、威厳を込めて……、イビョークに言う。
「それでは今回の任務は、イビョークに任せる。
細心の注意を払って、任務を遂行する様に!」
俺の返答を聞いたイビョークは、背筋を伸ばして言う。
「ありがとうございます、トルムルそうしれいかん。
わたしイビョークは、さいしんのちゅういをはらって、にんむをすいこうします!』
え……?
トルムル総司令官って……。
いつもならイビョークは俺のことを、トルムル叔父さんって呼ぶのに、今回に限って軍の正式名称で俺を呼ぶなんて、俺の威厳が伝わったのか……?
日頃から俺は、威厳を出す為に密かに訓練をしているので、その成果が現れたか……?
って、今はイビョークを見守らないと、闇魔石に閉じ込めれれている魂がこの世界に溢れ出ると、それだけで大きな災いの元になるからな。
イビョークは重力魔法で闇魔石の上空に移動すると、精神集中を始めた。
イメージができたみたいで、両手を闇魔石の方に向ける。
ゴォァァァ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
白色の猛火が闇魔石に向かって行く。
離れていてもかなり熱く、暖炉の近くに居るみたいだ!
白色の猛火は、闇魔石に当たると瞬間で溶かし、更に、余力を残して地下に潜って行く。
魔法の発動が終わると、そこには丸い井戸が出来ており、その中は溶岩で満たされていた。
「「「「「「スゴォーイ!」」」」」」
乳児達が感嘆の声をあげる。
俺のレベルまでには達していないけれど、イビョークの極限最大火炎魔法はそれなりに威力があり、一瞬で闇魔石が溶けて、中に閉じ込められていた魂達が全て焼かれた。
これって、閉じ込められていた魂達にとっては無に帰っていったけれど、苦しみから解放されてよかったよ。
ん……?
どうやら敵に気付かれた様だ。
闇魔石が破壊されたので、こうなるのは予測の範囲内。
闇魔石を守っていた敵が大挙してこちらに向かっている。
そして、魔法円の中心部分に居た最高幹部もこちらに向かって来る……。
最高幹部は、俺が相手をしないとヤバイ!
みんなも異常な気配に気付き、戦闘隊形になっていった。
今まで過酷な戦闘訓練を繰り返してきたので、迫って来る敵を撃破するのは間違いない。
しかし、最高幹部は俺が相手しないと、乳児達では多分無理だろう。
俺はいつもの盾を前面に出すと、モースピードで敵の真っ只中を突き抜けた。
俺が通った衝撃で、敵の数体が命を落としたみたいだ……。
最高幹部に近付くと、驚きの感情が伝わって来る。
「その幼い姿からして、お前は間違いなくトルムル王!
まさか、古の神々が苦しんだ魔法が全く効かないなんて、驚くべき精神力。
だが私は、アーチ様の最高幹部の1人、クレイィーだ!
ここでお前に負けるわけには、いかぬわ〜〜!!」
そう言ったクレイィーは、魔法力を使って何かの魔法を発動した……。
俺は身構えて、クレイィーの攻撃に対して、防御すべく精神を集中して行く。
ん……?
でも……、何も起こらないんですけれど……?
確かにクレイィーは、何かの攻撃魔法を発動した筈なのに、何で攻撃が俺に届かなかったの?
アーチの最高幹部なのに攻撃が失敗したとか……?
んなぁ〜〜、訳ないよな……。
ん……?
何かがおかしい……。
昼間なのに、段々と周りが薄暗くなって行くんですが……?
それに、周りから聞こえる音もしなくなった……。
こ、これって、もしかして……。
鼻から息を吸っても、匂いを全く感じない。
それに、手で体を触っているのに、触った感覚さえしてこないんですけれど……。
お、落ち着け、俺!
ここで慌てたら、クレイィーの思う壺だ!
クレイィーの攻撃は明らかに、五感を奪う魔法なのは間違いない!
悔しいけれど俺の五感は、クレイィーの魔法によって奪われたのは間違いない事実……。
とにかく深呼吸して落ち着かないと、超〜〜ヤバイよ!!
スゥー、ハァー。
スゥー、ハァー。
……?
あれ……、深呼吸したのが判ったよ俺。
それに、俺の心臓が動いているのも判る……。
五感を奪われているのに、何で呼吸と心臓が動いているのが判ったの俺……?
もしかしてこれって……、俺の特殊能力でもある、気配が判るからなの……?
そうだよ!
五感は奪われたけれど、気配を察知する俺の特殊能力まで奪われなかったんだ〜〜。
そうと判った途端に、クレイィーの気配がこちらに向かっているのが判った。
何の警戒心もなく俺に近付いて来る。
クレイィーは俺の五感を奪ったと思い込んで安心し、勝ち誇っているようだ。
油断しているクレイィーに連続して魔矢を矢継ぎ早に射る事に。
シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ。
「グワァ〜〜〜〜!
そ、そんなバカな〜〜!!」
断末魔の声を上げた、クレイィーの気配が消えた。
すると突然、俺の五感が元に戻る。
ふぅ〜〜。
一時はどうなるかと思ったけれど、あっさりと勝ったみたいだ。
乳児達の居る方を向くと、戦闘がまだ続いていたけれど、敵の戦力は数体だけだった。
味方には被害が無く、難なく戦っている様だ。
乳児達の方に戻る頃には戦闘は終わっており、敵を倒したみんなの顔は笑顔でとっても良い。
それに、小さな乳歯が見えて、とっても可愛い……。
ウールを見ると、とびっきりの笑顔を俺にしてくれた……。
って、それよりも城に戻って、元の状態に戻っているのか確かめないと。
城に戻ると、ワイバーン達や姉ちゃん達は、元の精神状態に戻っていたので一安心。
エイル姉ちゃんが寝泊まりしている部屋に行ってみると、姉ちゃんは岩で埋まっており、身動き出来ずに目だけ動かしている。
娘であるエッダは早速、岩を霧散させた。
エイル姉ちゃんは、狐につままれた様な顔で俺を見る。
いつのまにか俺が、部屋中を岩で満たしたと疑った様な目付きで。
娘のエッダが命力絆で、今回起きた事を詳しく言うと、やっと……、俺に対する疑念を無くしてくれた……。
「でも、エッダは凄いわ。
理性を失った私を動かない様にし、戦場でも大活躍したのって、やっぱり私の娘ね」
そう言った姉ちゃんは、エッダを優しく抱きしめる。
エイル姉ちゃんが怒り狂うほど怒ると思っていたから、エッダは拍子抜けしたみたい。
そしてエッダは俺を見て、満面の笑顔になった。
読んでくれてありがとうございます。
やっと投稿できました……。
いつのまにか師走。
次話は来年になりそうです。
皆さん、いいお年をお迎えください。