夜空の中へ
真夜中に、異変を感じて目が覚めた。
地震?
わずかな揺れを感じる。
そして、異常な気配!
気配を斜め上から感じる……?
また地面が揺れた。
攻撃?
近くではないけれど、さほど遠くない場所だ。
父ちゃんが作ってくれた皮の鎧を、重力魔法で手元に来るようにする。
部屋の隅に置いてあった鎧は、ベッドにゆっくりと飛んで来た。
急いで皮の鎧を装着すると、重力魔法で窓を開けた。
城の方から、微かに聞こえる。
父ちゃんとエイル姉ちゃんは、ぐっすりと眠っている。
一人で外に出るのは初めてだけれど、ヒミン王女が気になる。
一昨日、俺を優しく抱いてくれたヒミン王女は、もはや他人ではなく俺の友達だ。
王女が友達というのはおかしな話だけれど、少なくても俺はそう思っている。
「バブブブゥーーーー」
窓を通り抜けると、夜の寒さが肌に感じる。
我慢できる寒さなので、意識を城の方に向けた。
何かいる……?
満月の夜に、何か黒い物が空を飛んでいるのが肉眼で分かった。
鳥にしてはおかしな飛び方。
もしかして……、コウモリ?
本体が大人ぐらいの大きさで、翼を広げるともっと大きい。
火性、土性の魔法を使っていないのに、城の城壁が壊された。
重力魔法か?
城からは、魔法使いが火炎魔法で応酬している。
しかし、魔物はコウモリ特有な動きをしているので命中していない。
時折、コウモリの攻撃が街の中にも及んでいる。
人々の悲鳴も聞こえて来た。
どうする?
俺はどうしたらいい?
明らかに、ゴブリン以上の魔物。
地上からではコウモリの魔物は殺せないと、ここからでも分かる。
もし……、もし俺が攻撃したら、コウモリの魔物を殺せるだろうか?
使うとしたらどんな魔法を選べばいい?
空中にいる敵は狙いにくいと、城からの魔法攻撃で分かる。
進行方向が予測不可能に近い。
ここから見ていてもジグザグに飛んでいるので、魔法を当てるには至難の技だ。
ゴブリンを殺した土性系の魔法だと城にも被害が出る。
風性系の魔法だと遠くに飛ばすだけで、また舞い戻って来る。
重力魔法も、狙うのが大変だ。
え……?
こっちにやって来る。
なんで?
「バブ?」
もしかして、俺に気が付いた?
今、家に帰ったら父ちゃん達が危なくなる。
早い。
一直線に俺に向かっている。
何かの攻撃を俺にしてきた。
とっさに俺は、防御魔法を発動した。
普通の盾を出したつもりが、またしてもオッパイの形をした……、盾だった。
衝撃波が襲って来た。
オッパイの盾は小刻みに揺れて、衝撃を弾力で跳ね返している。
もし硬い盾だったら、壊されていた。
「お前は誰だ?」
「バブブブゥーー」
「……?
赤ん坊?
そんなはずは!
しかし……、この大きさは大人でも、まして子供でもない。
明らかに、赤ん坊の大きさ。
しかも、俺様の攻撃を跳ね返しおった。
俺様は、魔王の幹部に仕えているブルギナン様の部下ベイグル。
お前は何者だ?」
魔王の下の下の下だって?
それって雑魚?
だ・か・ら!
俺はバブゥーとしか言えないんだよ。
「バブゥーーーーー!」
「ぬーーーーー、やはり赤ん坊か!
赤ん坊が、どうしてこのような力があるのか分からない。
生け捕りにして、ブルギナン様に献上しようぞ」
まじ?
俺を生け捕りに!
それってまずいよね。
ど、どうしようか?
やばい!
こっちに来る。
下手な鉄砲でもなんとかで、数で勝負だ〜〜!!
俺は初級火炎魔法の火玉魔法を、雨あられのように連発した。
しかし、コウモリの魔物は俺の攻撃をうまく避けている。
「ヌゥーーーーーーーー。
これだけの中級の火嵐魔法を連発できるとは、やはり只者ではない!
なんとしてでも、生け捕りにせねば!」
俺の攻撃魔法の威力が、1つ上に上がっている。
ヒミン王女の言う通りだ。
アチャーー。
ますます危なくなってきたよ俺。
マジで、どうしよう。
逃げ回っていたら、コウモリの魔物にいずれは捕まる。
え、コウモリ?
コウモリって言えば……?
そうだ、コウモリは自ら超音波を出して、反射した音を聞き分けて物の位置が分かるんだったよな。
それなら、これでどうだ!
俺の手からは、土性魔法の砂嵐魔法の細かな砂が嵐のように魔物に襲いかかって行った。
もちろん、砂だから攻撃力はほとんどない。
目的は、コウモリの魔物を盲目状態にする事。
「おのれーーーー!
これでは何も分からない」
俺は、その隙を逃さなかった。
動きの止まったコウモリの魔物に対して、最大火炎魔法を使った。
超超高温の火炎がコウモリの魔物を襲う。
夜空が、最大火炎魔法で赤く照らされた。
この魔物は一瞬で燃え尽きて、魔石だけが残る。
重力魔法で魔石を回収した。
城や町では、大騒ぎになり始めている。
アチャーーー。派手にやり過ぎた?
早く帰らないと、黙って外出したのがバレて怒られてしまう。
俺は急いで家に帰る。
窓から家に入ると、父ちゃんが心配そうにしていた。
「とー、たん。
バブゥー」
父ちゃん、ただいま。
と言ったつもりが、またしても言葉にならなかった。
父ちゃんは、何かを疑うように思案している。
「もしかして、外の騒ぎはトルムルと関係があるのかい?」
俺は、コウモリの魔石を父ちゃんに見せた。
父ちゃんはそれを見ると、目と口が段々と大きく開いていった。