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ゴブリン族の王様

 峠を下って盆地に出ると、ゴブリンの城に行く最初の難関が見えてくる。

 それは関所みたいなもので、王都に出入りする魔物達を取り調べをしている建物だ!


 俺の最大魔法を使えば一瞬で吹き飛んでしまうレベルの建物だけれど、余りにも強力な魔法を使うのは避けたい。

 何故なら、それらを使うと魔王に知られて疑念を抱かれ、大軍をこちらに送り込む可能性が高まるからだ!


 それに、建物を最大魔法で壊しても魔法力マジックパワーの無駄になるだけだし……。

 ここは姉ちゃん達に任せる事に。


 ってか、警備のゴブリン達……、俺達を見ると身体中震えている様に見えるんですけれど……?

 何で……?


 あ、そうか。

 ゴブリン最強部隊を俺達が殲滅したのが既に伝わっていて、それで震えているんだ、多分……。


 魔法で聴力を上げてあるので、遠く離れていても彼等の会話が聞こえてくる。


「ど、どうしよう、ゴブゴブ?」


「どうするって、ゴブ……。

 戦っても、俺達に勝ち目はないゴブよ。


 ゴブリン最強部隊が、彼等を捕まえると言ってた筈なのに、ゴブ……。

 それに、王都の住人達は彼等が来るのを待っているゴブよ」


「そうだよな、ゴブ。

 それに、ゴーブブお姫様の人気は王よりもあるし、ゴブ……。


 ゴーブブお姫様は我々の為に大量の食料を持って来てくれているのに、そのお姫様を捕まえるのは王都の住人達を敵に回すのと同じ、ゴブゴブ……」


「わ、わ、わ〜〜、ゴブ!

 話には聞いていたけれど、彼等の後に続く食料の多さときたら……、ゴブ。


 俺は戦わないからな、ゴブ。

 ゴーブブお姫様を信じたい、ゴブゴブ!」


「隊長がそう言うのなら、俺もゴーブブお姫様を信じるゴブよ。

 それじゃ、彼等をすんなりと通すように部下に言いますよ、ゴブ?」


「ああ、そうしてくれ、ゴブ」


 ……。

 え〜〜と……。


 戦闘になると思っていたから、拍子抜けなんですが。


 先に歩いているゴーブブお姫様とお姫様の護衛達は、警備のゴブリン達と少し話をして、何事もなく王都に続く門をくぐり抜けて再び歩き出す。

 俺達も後に続いて門をくぐると、大勢の痩せているゴブリン達が街道の脇に群がっていた。


 彼等は先頭を歩いているゴーブブお姫様に深くお辞儀をしている。

 そして俺達が持って来た食料の多さに、大騒ぎになっていく……。


「噂以上に食料があるわ、ゴブ!」


「珍味のタコがあんなにある、ゴブゴブ!」


「好物のマッタケがあんなに沢山あるとは、話以上だよ、ゴブゴブ!」


「さすが、お優しいゴーブブお姫様、ゴブ」




 更に歩いて行くと、ゴーブブお姫様が立ち止まって年老いた威厳のあるゴブリンと話し始める。

 何事かと思い、俺とアトラ姉ちゃんも話に加わる。


 もちろん俺は、聞くだけ……。


 話を聞いていると、どうやらこのゴブリンは元宰相で、戦争に反対したので辞めさせられたみたい。

 彼は戦争に反対しているので、ゴーブブお姫様と意見が合う様だ。


 魔族に変身している俺達が来たのでゴブリンの王が警戒して、城の全ての門を閉ざし、城の防御が最高レベルにある事を教えてくれた。

 城からの出入りは一切認めておらず、中にいるゴブリン達は家族とも会えないでいる。


 持って来た食料を元宰相であるゴブリンに、平等に王都の住人達に分けてもらう様にアトラ姉ちゃんが言うと、彼は快く引き受けてくれた。

 これで王都に住んでいるゴブリン達の食料事情が、少しは改善するはずだ。


 後は、いかにして城に閉じこもっている王に会うかだよな。


 ここから見える城の正門の扉は頑丈そうな鉄で作られており、普通の攻撃では破壊できそうに無い……。

 最大魔法を使って扉を壊すのは簡単だけれど、使うと魔王に警戒心を抱かせる可能性が否定できない。


 しかし普通に攻めていたら、こちらも怪我人が出るので、短期決戦に持ち込みたいのだけれど……。

 何か良い攻撃方法はないのだろうか……?


 待てよ!


 扉って、ヒンジで支えて開け閉めをしているんだよな。

 という事は、ヒンジのある箇所を少し強めの魔法攻撃で壊せば簡単に扉が倒れるのでは……。


 試してみる価値はありそうだ。

 俺は命力絆ライフフォースボンドを使ってみんなにこの事を伝え、城の正門に移動する。


 城壁からゴブリンの弓矢部隊がこちらを狙っているのが判ったので、射程圏外で立ち止まった。

 アトラ姉ちゃんが魔法を使っている様に偽装して、俺は魔矢のイメージを開始する。


 今回は俺の胴体ぐらいある巨大な魔矢ではなく、腕の太さの魔矢のイメージを作り出す。

 そして、扉の両側にあるヒンジが取り付けてある石の壁に3矢づつ、合計6本の矢を射る事に。


 イメージが簡単に出来たので、魔法力を使って魔矢を射ると。


 シュ、シュ、シュ、シュ、シュ、シュ。


 ボォッガァ〜〜〜〜〜〜ン!


 ボォッガァ〜〜〜〜〜〜ン!


 魔矢で、両脇の壁が崩れ……。


 ドッォ、ドッォーーーーーーーーン!!


 な、なんと!

 思っていた以上に簡単に、丈夫な鉄の扉が城の内側に倒れたよ。


 扉が倒れた事によって、城の中にいるゴブリン達は大騒ぎになっていく。

 こんなにもあっさりと、鉄の扉が破られるとは予想していなかったみたいだ。


 それに、最強部隊が俺達によって殲滅したのが伝わっているので、城内にいるゴブリン達からは戦意が殆ど伝わって来ない。

 俺達は正門から正々堂々と入城して行く。


 時折、弓で攻撃を仕掛けてくるゴブリン達も居たけれど、飛距離が格段に長い真空弓バキュイティーボーを扱えるヴァール姉ちゃん、エイル姉ちゃん、そしてヒミン王女達によって彼らは魔石に変えられていく。

 中央の階段を上がるに従って、攻撃してくるゴブリン達は大勢いたけれど、俺達にとって朝飯前のレベルだ。


 ここにいるゴブリン達は痩せており、しかも歳をとっていているので戦闘能力がとても低い。

 ゴブリン最強部隊は既に殲滅したし、普通に強いゴブリン達は遠くの戦場でアンゲイア司令官達と戦っているからだ。


 王の間に続く長い廊下を歩くと、更に戦闘が激化……。


 してないか……。


 ゴブリン側はゴーブブお姫様に敬意を表して、深くお辞儀をしている。

 王の命令に従っているゴブリン達はもう居ないみたい。


 王の間に続く大きな扉の前に居る警備のゴブリン達は、迷っているそぶりを見せたけれど、ゴーブブお姫様が近くに行くと深くお辞儀をして扉を開けてくれる。


 ギギギィーーーーーーーー!


 装備品で飾ってある王の間に続く重い扉が開くと、玉座からゴブリンの王がこちらを睨んでいた。

 広い王の間には王以外は誰も居なくて、俺達の歩く音だけが響き渡り、後ろでは扉が閉まる音が聞こえてくる。


 俺達が立ちどまると、王はゴーブブお姫様に向かって威嚇する様に言い始めた。


「儂が許可していないのに、何故お前がここにくるのか、ゴブ?

 ゴーブブよ、早々に立ち去れ、ゴブゴブ!」


 王の威嚇する気配からは、以前感じた使い魔の気配を感じる。

 思っていた通り、王は使い魔によって心を支配されていた。


 俺は重力魔法を使って、王から使い魔を引きずり出す。

 黒いもやは悪態をつき始めた……。


「離せ〜〜〜〜!

 クッソォ〜!


 コイツら一体何者だ!?

 何で、オレの存在が判ったんだ〜〜〜〜〜〜!」


 何で判ったかって、以前それで俺は苦労させられたからな。

 今まで沢山捕まえたので、使い魔の気配はすぐに判るんだよ。


 でもこの使い魔、以前捕まえた使い魔よりもかなり強い意志を感じる。

 上級の使い魔なのか……?


 でないと、負の感情が少ない王の心を支配できる筈がない!

 いずれにしても、俺の敵ではないんだけれどな。


 って、それらを使い魔に言うわけにはいかないので、まだ見たことがない仲間の為に、俺達の方に重力魔法で引き寄せる。

 今後の参考にしてもらう為に。


 使い魔を見たゴーブブお姫様が、驚いて俺に言う。


「この黒いもやが、トートが話してくれた使い魔なのですね、ゴブ」


 使い魔が離れた途端に、王は夢から覚めた様な目付きに変わっていく。


「儂は、ゴブ……?

 ゴーブブよ、儂は悪い夢でも見ていたのか、ゴブ……?


 儂の意思に反して、体が今まで勝手に動いていた、ゴブ……。

 魔族の近くに浮いている、儂の頭から出てきた薄気味悪い黒い靄は一体何だ、ゴブゴブ!?」


「それは使い魔で、闇の神アーチがお父様の心を支配する為に送り込んだのです、ゴブ。

 こちらの魔族が、お父様から使い魔を引き剥がしてくれたのです、ゴブ」


 ゴブリンの王は段々と目が大きく見開いていき、今まで心を支配されていた事を納得したみたいだ。


「とすると……、儂が人間との戦争に、いい返事をしなかったので魔王は、闇の神アーチに頼んで儂の心を支配していたというんだな、ゴブゥーー。

 魔王が儂を魔王城に召喚しようと使いの者を送って来ても、体調が優れないと言って行くのを拒んだからか、ゴブゴブ〜〜!」


 呼び鈴を押した王は、王の間に入ってきた警備係にハッキリした強い意志で言う。


「元宰相を呼んで参れ、ゴブゥー!」


 護衛係はそれを聞くと、すっ飛んで扉から出て行き、長いローカを駆け抜けて行く。

 再び扉が閉まると、王は俺達の方を向いた。


「使い魔から儂を解き放してくれて、礼を言う、ゴブ。

 望みの褒美を取らせたいので、欲しい物を言ってくれれば、できるだけ希望に答えようぞ、ゴブゴブ」


 それを聞いたゴーブブお姫様は笑い出す。


「うふふ、ゴブゴブ。

 お父様は、大きな勘違いなさっているようです、ゴブ」


 王は再び大きく目が見開いていく。


「儂が勘違いだと、ゴブ……?

 どう言う意味だゴーブブよ、ゴブ?」


「お父様はトルムル王の名をご存知です、ゴブ。

 もし今、彼と会えるとしらどうしますか、ゴブ?」


 王は少し考え込んで、なごやかな顔つきで言う。


「トルムル王とは一度会いたいと思っておる、ゴブ。

 彼は人間の世界を救う為に戦いをしているだけであり、魔王の様に世界を支配する様には感じないからな、ゴブゴブ」


 それを聞いたゴーブブは少し安心した顔つきになって、俺の方に近付く。


「お父様に、改めてご紹介したいと思います、ゴブ。

 こちらの方は魔族の子供の様に見えますが、実はトルムル王なのです、ゴブゴブ。


 そして他の方達は、トルムル王のお姉様方を含めた賢者の方達なのです、ゴブ」


 それを聞いた王は、俺を見たまま完全に固まっていく……。


 俺は王に近付いて行き、軽く会釈をした。


「ゴブリン族で最も偉大なゴーブラ王に会えて、とても嬉しく思います。

 突然の訪問、今は戦時中なので、どうかご理解の程おねがいします」


 王はそれを聞いて、呪縛が溶けた様になっていき、俺と挨拶をかわす。

 俺は更に、元の姿に戻っている魔王の娘であるニーラをゴーブラ王に紹介する。


「お久しぶりでございます、偉大なゴーブラ王」


 ゴーブラ王は再び驚いた様だったけれど、懐かしそうな顔付きに変わってニーラを見つめる。


「久しぶりだ、ニーラ、ゴブゴブ。

 人間世界に住んでいると思っていたよ、ゴブ。


 トルムル王と一緒に行動しているということは、この戦争も最後に近付いているという事だな、ゴブゴブ。

 儂ができる事があったら何でも言ってくれ、ゴブゴブ」


 それから俺達は、これからの事を話し始めた。


 しばらくすると扉が開き、街道で会った元宰相が王の間に入って来る。

 扉が再び閉まると、それからの元宰相は驚きの連続だったみたいで、何度も状況を整理する為に、急速に目がキョロキョロ動いていた……。


 話し合いの最後で、ゴーブラ王は最終判断を下す。

 それは、戦線に展開しているゴブリンの大部隊を、全面撤退させ事だった。


読んでくれ、ありがとうございます。


これで魔王側の戦力は大幅に減りましたね。


次話は「ワイバーンの第一王子」の予定です。


お楽しみに。

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