裏切り
数日、ゴゴミの村に滞在して、地下水で形成された透き通る湖で泳いだ。
姉ちゃん達は下着姿だったけれど、温泉に入るよりは俺にとって刺激が少ないので、一緒になって一時期の余暇を楽しむ。
村を出発する時、また……、荷物が増えてしまった……。
当初、隠密行動で魔王城まで行く予定だったけれど、予期せぬ荷物が増えるばかり……。
この大陸に上陸した時に水揚げした魚の干物と冷凍のタコ。
それに加えてゴブリン王の一人娘であるゴーブブから分けてもらった豆類と香辛料。
そして今回は、ゴゴミからは大量のマッシュルームなどのキノコ類をもらった。
お礼としておすそ分けと言っていたけれど、干物とタコをあげた以上に荷物が増えたのは明らかだ……。
巨大なカメを倒し、それに伴う騒動で危険な岩蜂が壊滅状態になったので、キノコ類が沢山ある山に行けるようになる。
更に、村からキノコ類が生えている山々に行く途中にある、断崖絶壁の岩山が完全に無くなって平坦の道が出来、往復にさして時間が掛からなくなったからだ。
その中でも、マッタケらしきキノコもあり、匂いは間違いなくマッタケ。
でもそれは巨大で、俺の頭ほどある大きさなんですが……。
ここまでマッタケが大きいと以前感じていた、ありがたみが全く湧かない。
嬉しいのだけれど、余りにも大きく、量があるので……。
ゴブリンの王都に行く旅は、立ち寄った村々の病人を治しながらだったので日数が掛かったけれど、村人達は喜んでくれた。
更に、俺達の噂が俺達が行くよりも先に伝わっているみたいで、滞在先の村々には病人が大勢待っていた。
闇の神アーチが出していた瘴気を俺が打ち消す魔法を百万年眠亀の魔石に付与したので、治療は順調。
殆どの病人は明らかに栄養失調なので、俺達が運んで来た食料をおすそ分けした。
けれど……、病人を治してもらう為に彼らは食料を持って来て、それを治療代にと俺達にくれる……。
彼等が持って来た食料は単品である事が多く、それらは明らかに栄養が偏っていた。
病人は色々な食料から栄養を摂取する必要があると判断して、俺達が持って来た多くの種類を少しずつ渡した。
結果、王都が見える峠に着いた頃には、食料を分けても増える方が多かったので、更に荷物が増えているんですが……。
ゴブリン族の中で最も偉大な王、ゴーブラ王が居る巨大な城を、峠から見下ろしながら小休憩を取っていると、ゴーブラ王の娘であるゴーブブが俺達に言い始める。
「常に私の近くにいたゴーゴブが居なくなっているのです、ゴブ。
私から離れる時は常に声を掛けていたのに、ゴブゴブ……?
何だか、胸騒ぎがしてなりません、ゴブ」
それを聞いたアトラ姉ちゃんが言う。
「ゴーブブお姫様が故郷に帰るから、一足先に王に知らせる為に先に行ったのでは?」
ゴーブブは顔を軽く振りながら言う。
「既に、護衛係の1人を伝令係として王都に行かせているので、その必要が無いのですが……、ゴブ?」
妙だな……?
必要以上にゴーブブに付きまとっていたゴーゴブなのに、何の理由も言わないで、ゴーブラ王の娘であるゴーブブから去って行くなんて。
ゴーブブが言っていた様に、俺も胸騒ぎがしてくるんですけれど……。
アトラ姉ちゃんに抱かれていたアダラが、命力絆を使って少し緊張した感じで俺に言ってくる。
『トルムルおじさん。
おうとから、かあさんとおなじ、とうきをはっしている、しゅうだんがこちらにむかっている……』
え……?
マジで!?
アダラの指差す方向に意識を向けると、闘気を全開にして近寄ってくる集団が確認できた。
しかも、その中にはさっき話していたゴーゴブの気配も感じる……。
これは間違いなく、ゴーブラ王が命令を下した軍隊だ!
でもどうして、娘であるゴーブブを出迎える為に、闘気を全開にした軍隊を派遣しなければならないのか理解に苦しむ。
唯一考えられるのはゴーブブを裏切って、ゴーブラ王にゴーゴブが報告した……、のか……?
或いは……、ゴーゴブは王の密偵で、ゴーブブを見張っていたとか……?
命力絆を使ってみんなにこの状況を伝える。
しかし、俺達を阻止するには少なくとも100倍の軍隊は必要。
姉ちゃん達1人でも十分に戦えるのは間違いない。
はっきり言って、戦闘訓練にもならないレベルのゴブリン達が、俺達に近付いて来ているだけだ。
しばらくすると、ゴーゴブを先頭にして街道を登ってくるゴブリンの軍隊が見えてくる。
それを見たゴーブブは驚き、俺を見て申し訳なさそうに言い始めた。
「まさか、ゴーゴブが裏切ってお父様に報告するとは、ゴブ。
トルムル様、戦闘になる前にここからお逃げください、ゴブゴブ!
彼等は王を守っている部隊で、ゴブリンの中でも最も戦闘能力が高いのです。
早くお逃げください、ゴブゴブ!」
え〜〜と。
そうは言われても……。
逃げる必要は全くないのだけれど、俺達の本当の戦闘能力を知らないゴーブブは慌てており、俺達をここから逃げる様にと何度も言い始めた。
俺と姉ちゃん達は、ゴブリンの部隊が近付くのを平常心で、の〜んびりと倒木などに座って眺めている。
ゴブリン達が近くまで来た時、初めて俺達は立ち上がって彼等に対峙する。
ゴブリン王の娘であるゴーブブは俺達の前に進み出て、ゴーブラに強い口調で言い始めた。
「貴方は私を裏切ったのですね、ゴブ!
今まで信用していたのに、ゴブゴブ!」
ゴーブラは意に介せず、勝ち誇った顔で言う。
「ゴーブブお嬢様は勘違いなさっておいでです、ゴブ。
私は王に忠誠を誓っている者で、お嬢様に忠誠を誓った覚えはありません、ゴブゴブ。
王の命令で、戦争に反対しているお嬢様を見張るようにと密命を受けていただけです、ゴブ。
それに、今回の騒動を引き起こしたのは、お嬢様ご本人ではありませんか、ゴブゴブ?」
ゴーブラの言っている意味が分からないゴーブブは、首を傾けた。
「ゴーブラの言っている意味が判りません、ゴブ?
今回の騒動とは何なのです、ゴブゴブ?」
「ここまで魔族を連れて来て、目的は1つしか考えられないでしょう、ゴブ?
それは王を殺して、王位を継承する事です。ゴブ」
予想外の返答で、王の娘であるゴーブブは一瞬固まってしまう。
「そ、そんな事をする為に、私がここまで来たと言うのですか、ゴブ?
戦争に反対していますが、そこまで……」
ゴーブラは今度、俺達を睨みつける。
「魔族がゴブリンの領地にいる事が何よりの証拠、ゴブ。
善人ぶって食料を持って来たのは、本来の目的を隠す為だと、私は最初から見抜いていた、ゴブ。
武器を捨てれば、命まで奪わない、ゴブ。
観念するんだね魔族ども、ゴブゴブ」
アトラ姉ちゃんが前に進み出た。
「私達は無益な戦闘は好まない。
けれど、無理に私達を捕まえるのならば、それも仕方ない事」
ゴーブラは闘気を更に出して、アトラ姉ちゃんを威嚇し始める。
「魔族如きが、ゴブリン最強の部隊である私達に勝てるとでも、ゴブ?
私達を、甘く見過ぎているんだよ〜〜、ゴブ!」
そう言ったゴーブラは闘気を最大にして、アトラ姉ちゃんに突進して来る。
姉ちゃんはこの大陸に来て、初めて闘気を全開にした。
姉ちゃんの闘気はゴーブラの闘気を軽く凌駕してる……。
ドォ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!
ビュゥーーーーーーーーー。
ドサァーーーーーーーー!
ゴーブラと姉ちゃんが激しくぶつかった音がしたかと思うと、ゴーブラは遠くに飛ばされて巨木にぶつかって地面に倒れた。
気絶したらしく、起き上がってはこない……。
アトラ姉ちゃんてば、俺が思っている以上に闘気が凄い!
姉ちゃんよりも体格が一回り大きかったゴーブラを、闘気だけで遠くに飛ばして気絶さすんだもの……。
それから戦闘状態になって、他の姉ちゃん達も加わった。
戦闘訓練にもならないけれど、俺も参戦する事に。
魔矢の連射で、的確にゴブリン達を魔石に変えていく。
少しの時間で戦闘は終了して、対峙していたゴブリンの軍隊は全て魔石に変わる。
それを見たゴーブブは驚きの顔で俺達を見た。
「凄い戦闘能力、ゴブ!
最強のゴブリン部隊が、あっという間に全滅するとは、ゴブゴブ……」
えーと。
まだ、俺達は本気出してなくて、アダラ達乳児は今回参戦していない。
俺の最大魔法一回で、今回のゴブリン最強部隊を殲滅出来るし、アトラ姉ちゃんが魔剣を使えば一回振るだけで同じく殲滅出来る。
他の姉ちゃん達やヒミン王女も同じで、一人で対峙しても余裕で勝てる相手だった。
ただ今回の目的が、闇の神によってゴブリン王が意識を支配されているのを元に戻したいのだけれど、既に向こう側に魔族が王を殺しに来たと勘違いして、城の守りを固めているのは間違いない。
穏健に王の近くに行って、支配されたであろう意識を解放したかったけれど、これでは到底無理。
予定を変更して、向かって来る相手には戦闘もやむなしで、俺達は城に続く街道を歩いて行った。
読んでくれてありがとうございます。
今回は簡単に勝てたトルムル達。
でも、巨大な城にいるゴブリン王の元に、トルムル達は行く事が出来るのでしょうか?
次話もお楽しみに。