広域防御魔法
パシィ、パシィ、パシィ〜〜!
精神を統一する為に、俺は両手で顔を叩いた。
徹夜明けの俺は寝不足で、いつもの様に魔法がすぐに発動出来ない……。
顔を強く叩いても、心がフワフワしている感じがする。
尤も、重力魔法で空中に浮いているのだけれど……。
と、とにかく時間が無いのは明らかで、早く何とかしないとゴゴミの村が全滅してしまう!
アトラ姉ちゃん以外の姉ちゃん達やヒミン王女などは、対人ぐらいの魔物相手では強力な攻撃を繰り出せるけれど、百万年眠亀ぐらい巨大な魔物相手では全く相手にならない……。
モージル妖精王女やアダラ達乳児も同じで、アトラ姉ちゃん以上の攻撃力を繰り出せるのは俺しかいない。
一旦、目を閉じて心を落ち着かせる。
そして……、自分の心臓の音を聞きながら精神集中を徐々に高めて行く。
アトラ姉ちゃんみたいに闘気を俺は出せないけれど、俄然やる気が増して行き、精神を集中する事も出来そうだ!
アトラ姉ちゃんは伝説の魔剣である超音波破壊剣を使った攻撃を繰り返しても、甲羅に亀裂が5、6ヶ所できただけだ!
最初に試す攻撃魔法は、それ以外の魔法が良いと判断。
首と頭は甲羅に覆われていないので、この箇所を攻撃をする事に決め、魔王城攻略の切り札である巨大な魔矢を射るイメージを始める。
この魔矢は、俺の胴体ぐらいある巨大な矢で、頑丈な塔も一撃で崩れ去った実績がある。
巨大な魔矢のイメージを始めると、いつもよりは時間が掛かったけれど細部まで思い浮かぶ事が出来、魔法力を使って魔法を発動すると……。
バッシュゥゥーーーーーーーー!
空中に巨大な魔矢が現れたかと思うと、百万年眠亀に、目で追っていけないぐらいの速さで飛んでいく……。
ガッキィ〜〜〜〜〜〜ン!
え〜〜〜〜〜〜!
う、嘘だろ……!?
百万年眠亀の首に魔矢が間違いなく当たったのに、弾かれた〜〜!
常識では考えられないくらい、首の防御力が高いんだ!
これでは……、首や頭を何度攻撃しても結果は同じだろう……。
あぁ〜〜、ヤバイ!
流石に百万年眠亀は異変を感じてか、俺達の方を振り向いたよ。
俺と目が合った……、と思うと、百万年眠亀の口から猛火が俺達に迫って来るんですが?
予期せぬ突然の出来事で、いつもの様にオッパイ型の盾はすぐに出現せず、目と鼻の先で猛火が迫って来た時にやっと間に合った……。
ふぅ〜〜、危なかったぁ〜〜〜〜!
オッパイ型の盾は震えながら猛火を凌いでいるけれど、周りの空気が急速に熱くなって行き、まるで火の中にいるみたいだ!
アダラ達乳児が冷気魔法を使って俺達の周りを冷やし始めたので、やっと蒸し風呂ぐらいの暑さになる。
この猛火って、以前戦ったテューポーンと同じレベルだ!
神々と同じ攻撃力と言われているテューポーンと同じ猛火を吐き出すなんて、百万年眠亀はまさに強敵!
魔矢が通じないのであれば、今度は俺の魔法の中では最強の部類に属する石化魔法を使う時だよな。
こっちを見て猛火を吐き続けているのでチャンスだ!
俺は再び精神を統一して、石化魔法を百万年眠亀に向けて発動する。
……?
え……?
何も起こらない……?
何で……?
石化魔法は、メデゥーサの血筋に繋がる神々の系譜の魔物達には通じないのだけれど、もしかしたら百万年眠亀も神々に繋がる系譜なの……?
確かめようがないけれど、石化魔法が通じないのは間違いない……。
ヤバイ!
更に猛火の威力が増しており、このままでは俺達は熱さに耐えきれなくなってしまう!
ど、どうすれば百万年眠亀を倒せるんだ……?
アトラ姉ちゃんの娘であるアダラが、命力絆を使って緊迫した口調で俺に言う。
『トルムルおじさん!
ママがつくった、こうらのヒビわれ、りようしたら!?』
ン……?
甲羅のヒビ割れだって!?
そうだよ!
せっかくアトラ姉ちゃんが作った甲羅にできたヒビ割れ、これを利用しない手はないよ〜〜。
硬くて巨大な石でも、クサビを打ち込んでハンマーで叩き続ければひび割れは長く大きくなって行く。
百万年眠亀の甲羅にできたヒビ割れに魔矢を打ち込み続ければ、きっとひび割れが大きくなって行き、いずれは甲羅が崩壊する……、筈だ!
何で気がつかなかったのだろうか?
乳児であるアダラから指摘されるなんて、俺もまだまだ若いよな……。
って、まだ3才だけど……。
今回はすぐに魔矢のイメージできたので、魔法力を使って魔法を発動する。
バッシュゥゥーーーーーーーー!
ザクゥ〜〜〜〜!!
鈍い音が聴こえて、アトラ姉ちゃんが作ったヒビに魔矢が突き刺さり、ほんの少しだけれどひび割れが長く、更に幅も広がったよ。
この調子で行けば、間違いなく甲羅を破壊できる!
俺はそれから魔矢の連射を始めた。
バッシュゥゥーーーーーーーー!
バッシュゥゥーーーーーーーー!
バッシュゥゥーーーーーーーー!
何度も何度も魔矢を連射していると、ひび割れとひび割れが繋がって行き、突然甲羅の一部が陥没した……。
グォーーーーーーーーー!!!
百万年眠亀が猛火を吐くのをやめて苦しみ始める。
陥没した甲羅の隙間から、痩せた胴体らしき物が見えるけれど……、まさか……、中身か……?
アトラ姉ちゃんが、みんなに向かって大きな声で言い始めた!
「みんな!
甲羅の隙間から見える、百万年眠亀の本体に向かって総攻撃開始〜〜!」
姉ちゃんの言葉を合図に、みんな一斉に攻撃を開始する。
攻撃している箇所は甲羅が無いので全ての攻撃は効果を示しており、百万年眠亀は苦しいのか手足をバタつかせている。
って思ったら、百万年眠亀が突然消えて、そこには人間ぐらいある、今まで見た事が無いような巨大な魔石が現れる。
それを見たみんなが、命力絆を使って一斉に歓声を上げ始める。
『『『『『『『『『『『『『ヤッタァ〜〜! 流石、トルムル様ですね。一時は死を覚悟……。魔石が沈んじゃう……。熱さで汗びっしょり……。この魔石、どうすれ……。おじさん、すごい……。ありがとうね、トルムル……。トルムルが居なかったら焼かれていた……。あの魔石、使い道があるの……。温泉入りたい……』』』』』』』』』』』』
俺達、勝ったんだ〜〜。
やったね。
でもあの魔石って、誰かが言っていたけれど使い道あるのかな……?
百万年眠亀が居た所が周りよりも低くなっていたので、地下水がイキヨイよく流れ込み、湖を形成しようとしている。
このままだと魔石が湖の底に埋没してしまって勿体無い気がする……。
でも、この余りにも大きすぎる魔石は使い道が無いので、それも仕方ないか……。
今回だけは、誰かが言った温泉に入って大量に出た汗を流したい。
もちろん、1人だけで……。
でも、この騒ぎで本来の目的であった岩蜂の魔石を採取出来なかった。
せっかくここまで来たのに、無駄足になってしまった……。
ん……?
待てよ……!?
万年眠亀の魔石は瘴気を打ち消す魔法を付与出来たんだよね。
とういう事は、この魔石も同じ事が出来るって事だよ!
ただ余りにも大きいので、もしかしたらこの大陸全土の瘴気を打ち消せるかもしれない。
しかし、俺1人の魔法力では間違いなく足らないので、みんなの協力を得た方が上手くいく気がする。
以前、俺の国で広域治癒魔法を使った時は、心で繋がっている姉ちゃん達に加えて妖精達も参加して大成功を収めたけれど、全ての魔法力を使って俺はそれから半日寝てしまった……。
今回は半分に抑えても、魔法力は足りると思う。
何故なら、瘴気の影響は少しなので、それを打ち消すのに強大魔法が必要ないからだ。
それに、アダラ達乳児の魔法力を足せば膨大な量なので、今回は彼女達の魔法力だけで十分だ。
それをアダラ達乳児に伝えると、彼女達の目の輝きが増してくるんですが……?
『『『『『『『『これで、まものたち、げんきに……。あのでんせつの、こういきちゆまほう……。わたしもさんかできてうれしい……。はじめてだけど、うまくいくかな……? ワクワクする〜〜! トルムルおじさん、すき〜〜』』』』』』』』
同時に話し始めてよく分からなかったけれど、どうやらアダラ達は、瘴気を打ち消す広域防御魔法に参加出来るのが嬉しいみたいだ。
人って、他人の役に立てる事が出来ると嬉しいからな。
それから俺達は広域防御魔法を発動する準備をして、俺とアダラ達乳児の魔法力の半分を使って巨大魔石に魔法を付与する。
シュゥーーーーーーーーーーーー!
魔石に瘴気を打ち消す魔法が付与された。
俺は早速、検査魔法で調べると思っていた魔法が付与されていたので一安心する。
しかしその後すぐ……、魔王城のある方角から憎悪の感情が一瞬だけ伝わって来た……。
もしかしたら、瘴気を打ち消す防御魔法に気が付いて、闇の神アーチが憎悪を大陸の全域に吐き出したのかもしれない。
瘴気を打ち消す防御魔法を発動すれば、最初に気が付くのは、瘴気を出している闇の神、アーチ本人だからだ!
遠く離れていても、増悪がここまで感じるなんて、何という増悪のパワーだ!
乳児達を見ると、アダラだけが怯えた様に体を小さくして、目をキョロキョロさせて怯えている……。
俺と同じ様に、アーチの増悪を感じたようだ。
俺はアダラの近くに重力魔法で移動して、そっとハグする。
『あ〜〜、ずるい〜〜!
わたしも〜〜!』
近くに浮いていたディーヴァが言って、俺に抱き付いてきたかと思うと、乳児達全員が集まって来て抱き付いて来る。
アダラは他の乳児達にもみくちゃにされながら、元の可愛らしい笑顔に戻っていった。
読んでくれありがとう。
トルムルの活躍で巨大なカメと瘴気を打ち消す事が出来ましたね。
めでたしめでたし。
次話はゴブリンの王都の話の予定です。
お楽しみに。