又してもカメ……?
食料を持って来て喜んでもらったけれど、病気の村人達が大勢居るってゴゴミが言っていたので、とっても気になる……。
3才児の俺が病人の事を言うと怪しまれるので、代わりにアトラ姉ちゃんに言ってもらった。
俺とシブ姉ちゃんは治療をする事ができるので、二手に分かれて病人の居る家々を回る。
勿論、俺1人では村人に怪しまれるので、アトラ姉ちゃんと一緒に回る事に。
見かけは、アトラ姉ちゃんが治療をしている様に……。
最初に言った家は悪臭が漂い、幼いゴブリンが干し草で出来た粗末なベッドの上でうずくまって寝ている。
明らかに食料不足でガリガリに痩せているので、このままだと衰弱死するのは時間の問題だ!
広域治癒魔法を使うと、一回の治療で病人全員の治療が完了するのだけれど……。
魔族の中でも広域治癒魔法を使える者は誰も居ないと魔王の娘であるニーラが言っていたので、ここで使う訳にはいかない。
俺の素性が分かってしまうからだ。
時間はかかるけれど、個別に治療をするしか手立ては無い。
尤も、寝不足の俺にとってこれでも、かなり精神を集中しなければいけなかった……。
「ありがとうごぜ〜ます、ゴブゴブ。
魔族の方に、孫を治療してもらえるとは嬉しい限りですごぜえます、ゴブ」
ゴブリンの老婆はアトラ姉ちゃんに礼を言っていたけれど、幼いゴブリンはある程度しか回復していない。
何故なら、栄養不足は食事療法しか手はなく、しかも瘴気の影響で俺がこの村から居なくなると、再び悪化するのは火を見るよりも明らかだ!
食料は俺達が持って来た魚とタコで、ある程度の栄養とカロリーは補えるとしても、問題は体から徐々に奪われる瘴気。
ここに魔石があれば、瘴気を打ち消す魔法を付与して各自に持ってもらうといいのだけれど、残念ながら魔石は持っていない……。
予備の魔石はカバンに詰め込んで持って来ていたのだけれど、リバタリアンの便秘の件で全て失ってしまったから……。
少し時間が掛かるかもしれないけれど、魔石をこの土地で調達しないと、せっかく小健を取り戻せたのに再び彼等は寝込んでしまうだろう。
岩蜂ぐらいの小さな魔石で十分で、もしかしたらこの辺りにも生息しているかもしれない。
もし居れば、岩蜂を魔石に変えて瘴気を打ち消す魔法を付与できる。
アトラ姉ちゃんにその事を命力絆で伝え、老婆にこの辺りに岩蜂が居ないか聞いてもらう。
「岩蜂かえ、ゴブ?
向こうに見える断崖絶壁の山に居るだが、奴らはかなり凶暴で、これくらいの大きさだが大丈夫かえ魔族さん、ゴブゴブ?」
老婆が岩蜂の大きさを手で示したのは人間の頭ぐらいで、父ちゃんと一緒に魔石に変えた岩蜂の大きさと比較できないぐらいない大きい!
アトラ姉ちゃんも驚いたみたいで、俺を凝視する。
本当に、その岩蜂の所に行くのかと!
しかし、家の外に出てみると姉ちゃんは意を決して、命力絆で俺に言う。
『行こう、トート!
魔王の大陸に来てからは、本格的な戦闘訓練をしてこなかったので丁度いいじゃないか。
それに、このままだと多くのゴブリン達が瘴気によって亡くなってしまう!
せっかくトルムルとシブが治したゴブリン達も、私達が居なくなれば、また寝込んでしまうんだろ?』
早速みんなに命力絆を使って、岩蜂の事について意見を聞いてみると、一斉に返事が来る。
しかも、アダラなどの乳児からも……。
『さんせいだよおじさん、でね……。行こうよトルムル、でないと心残り……。さすが、トルムルおじさんだ〜〜! 戦闘訓練になっていいですね、これは一石……。おもいっきり、まほうをつかっていいんだよね……? この大陸の生き物って大きいね、でも……。岩蜂を退治した後、温泉に入りたい……』
みんな賛成してくれて、これで一丸となって岩蜂の魔石をゲットできるよ。
でも、誰かが言った温泉はこの辺りにはない気がするんですが……。
長旅で、体が薄汚れてきたのは否めないからな。
でも……、もし温泉があったら、間違いなく以前の様に強制的に一緒に入らされるかも……?
か、考えない事にしよう……。
病人の治療を終えた俺達は、岩蜂の住んでいる断崖絶壁の山に入っていく事が決まった。
瘴気の事は言えないので、岩蜂が村人を襲うので退治すると言って。
岩蜂を退治する事を村人達に言うと、その山を超えた向こうの山々には、ゴブリンの好物であるキノコ類が沢山生えているという。
それをゴブリン達は採取したいけれど、岩蜂が居る所を通らなければならないので、常に命がけで行っているみたいだ。
食糧難なのでキノコを取りに行っていたみたいだけれど、今年に入って多くの犠牲者が出ているとの事。
岩蜂を退治しに行くのは、まさに一石二鳥だ!
ゴブリンのお姫様であるゴーブブも行きたいと言ったけれど、護衛係達が尻込みしてしまい、結局俺達だけ行く事に。
ま、その方が俺たちの素性がバレないのでいいかもな。
断崖絶壁の岩山に入ると細い山道を縫う様にして登って行くと、近くに岩蜂がいるみたいで、羽音が彼方此方から聴こえて来る。
音の出所を見ると、ゴブリンのお婆さんが言っていたように、人間の頭ぐらいの大きさの蜂が飛んでいる……。
でも狙うのは岩蜂の巣で、戦闘訓練を兼ねるので、最も大きな巣をぶっ叩いて岩から大挙して出て来る無数の蜂を仕留めたい。
と言うか、この巨大な山自体が岩で出来ており、全て岩蜂の巣みたい……。
父ちゃんと一緒に岩蜂の魔石を採取した時は、アトラ姉ちゃんが大きなハンマーを片手で振り回していたけれど、今回はそれが無いので魔法で作り出した巨大ハンマーで山ごとぶっ叩く事に。
ふとアダラを見ると、みんなやる気を出しているのに、1人だけ下を見てしきりに首を傾げている……。
気になったので、みんなには聞こえない様にアダラにだけ、命力絆を使って聞いてみる。
『どうして首を傾げているの、アダラ?
何か、気いなる事でも?」
アダラは自分でも判らないみたいで、俺に口を突き出して言う。
『あのね、トルムルおじさん。
わたしにも、わからないのだけれど、ハンマーでたたかないほうが、いいようなきがしているの……』
え……。
どう言う意味なの……?
昔……、父ちゃん達と岩蜂の魔石を採取に行った時、丘の下に万年眠亀が眠っており、ハンマーで岩を叩いたら目を覚まして大騒ぎになった。
でも今回は岩山なので、万年眠亀の気配は岩の中からはしてこない……。
アダラが感じているのは何か別の事か?
感のいい子だから、俺に感じない何かを探知したのかな……?
『わたしのことは、きにしないで、トルムルおじさん。
みんなまっているから、ハンマーで、やまごとたたいていいよ』
どうも……、アダラの思い過ごしだった様だ。
少し安心する俺。
『分かったよアダラ。
それじゃ行くよ!』
早速、魔法を発動しようとしたけれど、巨大ハンマーのボヤけたイメージしか出てこない……。
これでは魔法を発動しても、心で思っている鉄の大型ハンマーは山の上空に現れない可能性が高い。
寝不足なので、精神を集中するのがやはり難しい……。
目を瞑って肩の力を抜き、自然体で精神集中して行く。
精神集中が進むにつれて、巨大ハンマーのイメージが鮮明になって行く。
今だ!
鮮明な巨大ハンマーのイメージが出来たので、魔法力を使って魔法を発動した。
すると、岩山の上に巨大ハンマーが現れて、岩山に向かって振り下ろされた。
ガガ、ガァァ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!
大地を揺さぶる音と共に、山頂から岩の破片が落ちて来る。
それと同時に、無数の岩蜂が驚いて巣から外に飛び出した!
山頂から降って来る岩の破片と、襲ってくる岩蜂の両方を、俺達は実戦訓練さながら撃退して行く。
さっき首を傾げていたアダラも、得意の魔法を使って、岩と岩蜂を確実に仕留めて行く。
ゴゴゴゴゴゴォォォォォォ〜〜〜〜〜!!!
突然、巨大ハンマーで叩いた以上の音と共に、大地震と思う程の揺れを感じて、俺達は重力魔法で上空に移動した。
上空から岩山を見下ろすと、何と……、岩山だけ揺れている……。
そして……、巨大な何かが目覚める気配が……、山の下……、からしてくるんですけれど……。
も、もしかして……、又してもカメ……、なの……?
岩山が持ち上がり、下の方で超巨大なカメの手足と首が現れた!
近くに居たニーラが、珍しく興奮して言い始める。
「あ、あれは……、伝説上の生き物、百万年眠亀だわ!
まさか、本当に実在していたのは驚き〜〜!」
え〜〜〜〜〜〜!!
マ、マジですか!?
万年眠亀もデカかったけれど、この百万年眠亀はそれよりも10倍はデカイ!!
こんな巨大な生き物、この世界に居るとは驚きだ〜〜!
リバタリアンもデカイけれど、それを軽く凌駕する大きさだ!
みんなも超驚いており、姉ちゃん達は両手で口を塞いで、目をこれ以上大きく出来ないくらいに見開いて百万年眠亀を見ている。
アダラが俺に近寄って来て、興奮して言い始める。
『ゴブリンのむらに、むかっているよ、このカメ!
トルムルおじさん、なんとかしないと、むらがぜんめつする〜!』
アダラが指し示す方には、ゴゴミ達の村があり、百万年眠亀はスピードを上げてそちらの方に移動している。
このままだと村は間違いなく全滅だ!
百万年眠亀は巨大だから、ゴブリンが逃げるスピードより遥かい早い!
でも、こんな巨大なカメを止める事が俺に出来るのか!?
「トルムル、行くよ〜〜!」
アトラ姉ちゃんが伝説の超音波破壊剣を抜いて構えている。
姉ちゃんからは強い闘気が体中から感じられ、これは間違いなく魔剣を使う気だ!
目にも止まらぬほど速く、姉ちゃんは剣を振り抜く。
バッゴォォォーーーーーーーーーンン!!
ドドドドォォ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!
目に見えない超音波が百万年眠亀を襲った!
姉ちゃんが昔使った時よりも数段威力が増しており、甲羅の上に乗っていた岩山が崩れて行く……。
あんなに強い衝撃があったのに、百万年眠亀は何も感じないのか、そのまま村の方に向かっている。
イヤ!
もっと悪化しているよ〜〜!
甲羅に乗っていた岩山が崩れ落ちたので身軽になり、歩くスピードがアップしている。
ど、どうすればいいの俺?
「何度でも行くよ、トルムル〜〜!」
アトラ姉ちゃんは再び身構えると2回目の超音波破壊剣を使う。
バッゴォォォーーーーーーーーーンン!!
今度は甲羅に命中して、少しだけ亀裂が入った
……。
今まで見たアトラ姉ちゃんの攻撃の中では最高の攻撃を繰り出したのに、たったあれだけの亀裂しかできないなんて甲羅の硬さは尋常では無い!
アトラ姉ちゃんは再び構えると、今度は娘のアダラから魔法力を供給して、続けざまに超音波破壊剣で攻撃する。
バッゴォォォーーーーーーーーーンン!!
バッゴォォォーーーーーーーーーンン!!
バッゴォォォーーーーーーーーーンン!!
伝説の魔剣である超音波破壊剣を使った攻撃を5回繰り返しても、甲羅に亀裂が5、6ヶ所できているだけだ!
百万年眠亀は意にも介せず高速で移動している……。
アトラ姉ちゃんは肩を上下させながら、疲れ切った表情を浮かべて俺に言う。
「わ、私では、百万年眠亀の甲羅に亀裂を作る事しか出来ない。
トルムル、何とかしてヤツを止めてくれ!」
あれだけでかいカメの甲羅に亀裂が入っただけでも、アトラ姉ちゃんの攻撃力は凄いと思う。
しかし、百万年眠亀は……、殆どダメージを受けていない……。
眠気で精神集中が難しい俺に、果たして百万年眠亀を止める事が出来るのか……?
読んでくれてありがとうございます。
寝不足なトルムル、lだ、大丈夫かな……?
次話もお楽しみに。