ゴブリンの村
「それは本当なのですか、ゴブ!?」
ゴーブブは驚きながら、魔王の娘であるニーラを見つめた。
涙の再会をした後、ゴーブブの部屋で俺達3人は、秘密の話をしている。
それは、魔王は闇の神であるアーチを召喚して、この大陸を瘴気で満たし、全ての生き物から力を少しずつ奪っているとう言う事。
魔王の子供達は、ニーラを除いた全員が生贄にされて、生きる屍になっている事。
ニーラがもし、父である魔王に捕まってしまうと、アーチとの契約により魔王が強大な力を得るという事。
その為、それを阻止すべく今回の行動を起こしているとういう事などを。
「しかしゴブ、魔王に対抗するにはそれなりの戦力が必要だと思うのですがゴブ?
東海岸で人間達が上陸したと報告があったのですが、硬直状態が続いていると、ゴブ……?
それなのに、どうやって魔王を倒せるのでしょうか、ゴブゴブ?」
ニーラは俺の方を向き、ここで初めて俺の素性を明かす。
ニーラはゴーブブを信頼していたとはいえ、人間を率いてこの大陸に進撃してきた総司令官である俺がここにいる事は、真意を確かめないと言えなかったからだ。
「ゴーブブ、戦力的にはトートと彼のお姉さん達がいれば、魔王達と互角以上に戦えるのです。
彼の見かけは魔族の子供ですが、本当はトルムル王なのです。
隠蔽の魔法で姿を変えているだけであり、彼の噂をゴーブブも耳にした事があるのではないでしょうか?」
ゴーブブは俺を見ると驚き過ぎたのか口を大きく開け、完全に固まってしまう。
今日、ゴーブブは何度も驚いていたけれど、今回はよほどおどろいたのか、口をパクパクさせている……。
やっと状況が飲み込めたのか、口を閉じて興奮して俺に言い始める。
「トートの素性は、あの有名なトルムル王なのですね、ゴブ!
だから、今まで私の感じた事のない、何かを感じていたのですねゴブゴブ」
俺は3才児の様な芝居をやめて、いつもの様に言い始める。
「騙して本当に申し訳ありませんでした、ゴーブブ。
これも魔王を倒す為にしていたのでお許しください」
ゴーブブとニーラ、そして俺はそれから、夜明けまで色々な事を話し合った。
これからどの様にしたら、魔王城までの長い道のりを、より安全で早く行けるのかを。
東の空が明るくなって太陽が顔を出す頃、俺は部屋に戻って行った。
3才児の体力では、思っている以上に徹夜はキツイ!
足がふらついており、精神的にも限界を超え、ベッドに倒れこむ様に横になるとすぐに寝ていた……。
◇
「トート、朝ご飯ができたみたいだから起きてしっかりと食べないと!
徹夜したみたいだけれど、みんなと一緒に朝ご飯を食べないとゴブリン達に怪しまれる」
頭が重くて、まだずっと寝ていたい……。
でも、アトラ姉ちゃんの言う通り、起きてみんなと一緒に朝食を取らないとあやしまれる。
徹夜明けが、こんなにもきついとは!
3才児ではやはり、早寝しないと健康に良くないよ……。
徹夜したからなのか、いつもよりお肌の潤いがない……。
お肌の為にも、睡眠は絶対に必要だ!
食堂に行くと、既にみんな食事を初めており、美味しそうな匂いが部屋を満たしていた。
今朝も昨夜同様、魚とタコ、そして豆類の料理だったけれど、昨夜と違う味付けで堪能できた。
けれど寝不足で食欲が無く、ほとんど食べられない……。
昨夜決まったゴブリンの王都に行くまでの話は、命力絆で既にみんなに伝えてあったので旅支度を既に整えており、いつもの様に元気一杯だ!
旅支度といっても、荷物は日干しとタコ、そして豆類と香辛料が加わった。
身に付けているのは武具だけで、長旅にしては変わっているよね……?
とにかく心配なのは、寝不足の俺が、今日一日歩く事が出来るのだろうかということ……?
ゴーブブ達と一緒に王都まで旅をする事になっているので、重力魔法で俺は移動出来ず歩くしかない……。
早く大人になりたいよ。
3才児では体力が続かないし、得意の魔法も、とっても眠いので精神を集中する事が困難だ!
こんな欠点が俺にあったとは、予想外。
ま、3才児だから仕方ないけれど……。
ゴーブブといっしょに王都に行くゴブリン達は護衛係で、その中には、俺を嫌っているゴーゴブも同行する。
何か起こりそうな予感……。
フワァ〜〜〜〜。
城を出て歩いていると、アトラ姉ちゃんが俺を肩車してくれる。
姉ちゃんの腕の中にいるアダラが、心配そうに俺を見ている。
アダラが命力絆を使って俺に言う。
『トルムルおじさんは、まだわかいから、むりしちゃだめだよ!
めに、クマがでてるよ』
マ、マジですか?
姪のアダラから指摘されて、とっても複雑な気分になる……。
アダラはまだ乳児で俺は3才なのに、その姪からまだ若いからと言われてしまった……。
それに徹夜しただけで、この歳で目にクマができるとは予想外だ!
目にクマがでるというのは、世界の命運を背負ってここまで来て、俺は肉体的にも精神的にかなり無理をしていたという事か……?
もし今、強敵が現れたら精神集中できない俺は強力な魔法が使えなくて負けてしまうだろう。
これからは出来るだけ徹夜をするのを控えて、健康的な毎日を送らないと魔王を倒せない。
魔法を発動するのには精神集中が最も大事だからだ!
そう心に決めると、アトラ姉ちゃんが歩く振動が心地よく体に伝わり、いつのまにか眠気が……。
◇
俺は夢の中に居たみたいで、母ちゃんが優しく俺に微笑んでいる顔が、突然アトラ姉ちゃんの顔に変わった。
「トート、ゴブリンの村に着いたから起きて!」
重たい瞼を開けると、道端では年老いたゴブリン達と幼いゴブリン達が、驚く様にして俺達が歩くのを見ている。
先頭にはゴブリンの護衛達が歩いており、村人は敬意を込めてその後を歩いているお姫様であるゴーブブに挨拶をしている。
その後を魔族に変身した俺達が歩き、珍しそうに村人は見た。
更に続く干物とタコが、延々と続く様にして彼等の前を通ると、驚き過ぎて大騒ぎになっていく……。
「さ、魚が行列をなして……、ゴブゴブ!」
「お姫様はもしかして、おら達に魚を、ゴブゴブ?」
「あれは……、もしかして高級品のタコかや、ゴブゴブ?」
予想通り、出城に居た兵士達と同じ様に村人達もやせ細っており、小さな子供達は激ヤセで、見るからに食べ物が不足しているのは明らかだ!
村の家々の中でも、とりわけ大きな家に護衛達が止まった。
ゴーブブとアトラ姉ちゃん、そして抱かれている娘のアドラに肩車から降ろされた俺が家の中に入って行く。
家の中に入ると、今にも倒れそうな老婆がフラフラしながら奥から出てくる。
老婆は懐かしそうにゴーブブを見ながら近寄って言う。
「これはこれはゴブ、ゴーブブお姫様でね〜か、ゴブ。
魔族が一緒とは珍しいけんど、なんかあったのかゴブゴブ?」
ゴーブブは老婆に近寄ると手を取って、懐かしそうに言う。
「お久しぶりですございますゴゴミ、ゴブ。
実は魔族との協力を得て、食料の配給に来ましたゴブ」
ゴゴミは驚いた様にゴーブブを見ると、アトラ姉ちゃんを見て言う。
「そんで魔族がこんな田舎の村まで来てくださったのかえ、ゴブ?
食料が無くて、みんな困っていただよ、ゴブ。
幼い子達の食べるもの少なく、見ての通リ痩せておるゴブ。
それに、栄養がたらないからかゴブ、病気になって寝込んでいる子供達や年老いた者もかなりの数になっておってのう、ゴブ。
この村は、王から見捨てられたのかと思っていた所だったよ、ゴブ。
ありがとうな姫様、ゴブゴブ」
それからゴーブブはゴゴミを家の中ら外に出てもらって、この村に置いていく食料の山を見てもらう。
それを見たゴゴミは、ここで死んでしまうぐらい体を震わせて、超〜〜驚いている……。
ゴゴミの背丈よりも、うず高く積まれた食料に村人達も腰を抜かす程驚いていた。
こんなに喜んでくれるなんて、無理して……、食料を持って来た意味があったよ。
それでも、俺達が持って来た食料のほんの一部だけれど……。
読んでくれてありがとうございます。
次話もお楽しみ。