実感
ゴブリンの魔石に、中級の魔法を付与する方法が分かった。
俺は、父ちゃん、エイル姉ちゃん、そしてヒミン王女に一個ずつ魔石を渡した。
「私達も、試してっていうことなの?」
エイル姉ちゃんは、目を輝かせながら聞いてきた。
姉ちゃんの卒業試験の課題で、ゴブリンの魔石にスキルを付与するって言ったのを思い出した俺。
俺と同じようにできれば、高評価が得られるはず。
父ちゃんの商売もこれで売り上げが増えるし、使ってくれる人も喜ぶ。
「とー、たん。
エー、ねーたん。
ヒー、ねーたん。
バブゥー」
エイル姉ちゃんの問いかけに、俺は名前を言う。
右手を上げて、そうだよと意思表示をした。
「分かったわ。
中級の魔法は最近覚えたばかりだけれど、やってみるわ」
父ちゃんとヒミン王女もやる気みたいで、精神を統一している。
最初に父ちゃんが魔石に付与した。
シューーーー。
静かな音と共に、スキルが魔石に入っていった。
父ちゃんは検査の魔法で確かめる。
「なんと!
トルムルの方法でやると、私にもできたよ。
ゴブリンの魔石に、中級のスキルが安定して有る。
これは凄いことだ!」
父ちゃんは興奮しながら言った。
パリィーーーーーン。
パリィーーーーーン。
エイル姉ちゃんと、ヒミン王女の魔石が壊れた。
なんで?
父ちゃんにはできて、なんで二人にできない?
「え〜〜、どうして壊れるの!
ヒミンのも壊れている」
「私にも分かりません。
同じように、3つのスキルを付与したのですが……?」
二人はどうして壊れたのか不思議がっている。
でも、どうしてなんだろうか?
もしかして、イメージが足らない……?
アトラ姉ちゃんの胸で受けた苦しさを、二人は知らないからか?
も、も、もしかしたら……?
アトラ姉ちゃんと、エイル姉ちゃん達と比べて、胸の弾力がかなり違うのか?
ありえる!
アトラ姉ちゃんに抱いてもらった時の方が、はるかに弾力があったのを思い出す。
でも、それをどうやって伝えたらいい?
「エー、ねーたん。ぶーー。
アー、ねーたん。バブゥー」
言った後に、俺はエイル姉ちゃんの胸を指で指した。
「えーと、トルムルが言おうとしているのは……?
私の胸はダメで、アトラ姉さんの胸でないとダメだってことなの?」
「バブゥー」
「そうだよって言われても……。
そうだ。
成功したお父さんはどう思う?」
エイル姉ちゃんに言われて、父ちゃんの目線が宙を泳いでいる。
何かを考えているのが分かる。
「えーと。
アトラとエイルの胸の違いは、お父さんには分からない」
父ちゃんがキッパリと言うと、エイル姉ちゃんが頭を下げた。
そして、呆れ返った顔つきで言う。
「お父さんは、違いが分からないのに成功したの?」
「いや、そうではないんだよ。
ナタリーとアトラは同じ魔法剣士。
体格もほぼ同じ二人なので、そのう〜〜。
アトラは、ナタリーと同じ胸なのかなと思って……。
ナタリーの胸の弾力をイメージしたんだよ」
「お母さんの?
そういえば、お母さんの胸は鍛え上げられていて、ゴブリンを跳ね返して殺す程の弾力がある。
魔法剣士の特色でもある弾力のある胸!
そうか、私の胸をイメージしたから魔石が壊れたんだわ。
ヒミンはどう思う?」
「私も、自分の胸をイメージして付与しました。
だからなんですね。
もっと弾力があって、ゴブリンを跳ね返して殺す程のイメージが必要なのですね」
「もう一回やってみようよ、ヒミン!」
「もう一度、ぜひやりたいです!
ドールグスヴァリさん、よろしいでしょうか?」
父ちゃんは当然だよと思って、二人に追加の魔石を渡した。
「みんなで協力して得た魔石だ。
成功するまで使っても構わないよ」
父ちゃんはそう言うと、俺の方を見る。
「バブゥー」
「トルムルも賛成みたいだ。
さ、やってみて」
二人は魔石を受け取ると、精神を統一する。
魔石にスキルを付与する為に、行動を最初にしたのはエイル姉ちゃんだ。
シューーーーー。
魔石に、スキルが入ったわずかな音がする。
シューーーーーー。
ヒミン王女も、魔石にスキルを付与した音が聞こえてきた。
父ちゃんは2つの魔石を取ると、検査の魔法を使った。
エイル姉ちゃんとヒミン王女は、真剣な眼差しで父ちゃんを見ている。
「2つの魔石には、中級の魔法が安定して入っている。
スキル付与は成功だ!」
「やったわ!
成功したのよ私達」
エイル姉ちゃんは、素直に大喜びをして飛び跳ねている。
ヒミン王女は、目を輝かせながら言う。
「これは、本当に凄いことです。
これでしたら、中級のスキルが入る魔石には、上級のスキルが入る事を意味しています。
魔石の数がたらない現在において、これは画期的な成功です。
国が抱えている問題でもある、上級スキルを付与した魔石の供給に対して、これで緩和されます。
トルムルちゃん、本当にありがとう」
そうなんだ。
国に貢献したんだ……。
なんか、実感がないんだけれど……?
そう言うと、ヒミン王女は俺を椅子から出して、その大きな柔らかな胸で抱いてくれた。
前に感じた恐怖心は、少し減っていた。
やはり、アトラ姉ちゃんの胸とだいぶ違うと、こちらを実感した俺がそこにいた。