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涙の再会

 ゴーブブお姫様と出城の中に入って行くと、ゴブリンが殆ど居なかった……。

 しかもお姫様が言っていた様に、年老いた兵士達だけで若いゴブリンの姿はどこにも居ない。


 それに、思っている以上に食糧難みたいで兵士達は痩せ細っている。

 そういえばお姫様も痩せており、人間の大陸に来ていた筋肉質なゴブリン達に比べると、別の種族かと思う程。


 唯一筋肉質なゴブリンは、俺達と一緒に歩いて来たゴーゴブだけで、お姫様の護衛係だからか……?

 ゴーゴブは中年の女ゴブリンで、出城の中では他のゴブリンに対しては威張った態度で接し、まるで影の番長みたいだ……。


 すれ違うゴブリン達は丁寧にお姫様に挨拶して行くけれど、魔族の子供に変身している俺には不振の目を向ける。

 どうしてお姫様と、魔族の子供が一緒にいるのかと。


 城の中に入ると、司令官と思われるゴブリンが近寄って来た。


「ゴーブブお嬢様、お帰りなさいませゴブ。

 それで……、魔族の子供が何故ここに、ゴブゴブ……?」


 お姫様は、俺がここに来た経過を説明して、この子を探している姉達を探す人手を出す様に指示する。

 そして、昼食をこの子と一緒にする事も。


 司令官は少し考えてから言う。


「年老いた兵士達ですので、遠くまではこの子のお姉さん達を探す事は出来なと思いますがゴブ、出来る限りの手配をしますですゴブ。

 それと……、魔族の子供が好きなそうな料理を作るのが難しいと思われますゴブ。


 料理長にはお伝えしますが、期待をしないようにおねがいますゴブ」


 お姫様は難しい顔になり、少し肩を落とす……。


「そうですよねゴブ……。

 以前の様にゴブ、肉や魚が手に入る事は殆どありませんからゴブ。


 いつもの食事で良いですから、お願いしますゴブ」


 それを聞いた司令官は、シワがある顔が、更にシワを増やしながら申し訳なさそうに言う。


「申し訳ありません、お姫様ゴブ。

 久しぶりのお客様なのに、ご馳走ができなくてゴブゴブ」


「ゴゴグが謝る事など何もありませんゴブ。

 全ての原因は、無駄な戦争をしている私達なのですからゴブ」


 ゴゴブは、お嬢様を止める様に手振りでする。


「お嬢様ゴブ、その事は口にしない方が宜しいかとゴブ。

 幼いこの子でも、ひょんな事から魔王様に伝わるかわかりませんので、ゴブゴブ」


 お嬢様は俺を優しく見つめると、微笑む。


「この子なら大丈夫ですゴブ。

 既にこの歳で、全てを見通す底知れぬ何かを持っている気がするからですゴブ」


 ゴゴグは驚いて俺を食い入る様に見た。


「私はとてもそうは思いませんが……ゴブ。

 聡明なお嬢様が言うのであればゴブ、何かこの子にはあるのでしょうゴブ」


 そう言ってゴゴグは俺に軽く挨拶をして表に出て行った。

 護衛係のゴーゴブは、お嬢様だけに挨拶して奥に消える。


 どうも俺は、ゴーゴブに嫌われているみたいだ。

 目付きと雰囲気から感じるのだけれど、理由がよくわからない……。


 それから俺とお嬢様は、来た道の見える部屋に行く。

 そしてお姫様は、更に色々な話を俺にしてくれた。


 昼食が運ばれて来ると、余りにも質素な食事に驚く俺……。

 だってそれは、ヒラ豆のスープで野菜が少し入っているだけだった……。


 ヒラ豆は、人間の住んでいる大陸では見たことの無い品種だったけれど、色と大きさが違うだけだ。

 お嬢様は申し訳なさそうに俺に言う。


「肉と魚は、殆ど手に入らないのですゴブ。

 作物も不作が十数年前から続いており、更に人手が足りないので収穫が少なくなっているのですゴブ」


 それでも俺にとってはご馳走で、何故なら魚とタコ以外の食事は久しぶりだからだ。

 一口一口、ヒラ豆の味を堪能しながらスープを木のサジで啜っていった。


 大きめのスープ皿が空になると、俺のお腹も満足したみたいで、久しぶりに身体中が満たされる。


 ヒラ豆のスープだけだったけれど、こんなに満足できる食事は本当に久しぶりだった。

 俺は心から笑顔になり、お姫様に礼を言う。


 3才児の言葉遣いで……。


「ごちぃそうさまでした。

 と〜っても、おいしかったです」


 お姫様はそれを聞いて俺に微笑んでくれる。


 突然、窓の外が騒がしくなった。

 見張りのゴブリンが何かを叫んでおり、塔の上から下に何かを伝えている。


 魔法で俺は聴力を上げてあるので意識を集中して聞いてみると、どうやら姉ちゃん達が見つかってこちらに向かっているみたいだ。

 大量の食料を後に従えて……。


 しばらくすると、部屋の窓からも姉ちゃん達が見える様になり、出城に向かって一列になって道を進んでいる。

 ヴォルム達の乳児はお母さん達に抱きかかえられており、その後には大量の干物と茹ダコが、数珠つなぎの様に重力魔法で浮かんで付いて来ている。


 一緒に移動している時は違和感が無かったけれど、こうして見ると異様な光景だ!

 お姫様を見ると口を大きく開けて、身動き出来なでいる。


 ま、無理も無いよな。

 こんなに大量の食料を持って移動しているなんて、普通では考えられないもの。


 姉ちゃん達が出城の外で止まると、アトラ姉ちゃんと抱かれているアダラだけ吊り橋を渡って来る。

 姉ちゃんが吊り橋を渡る頃には、城の中に居たゴブリン達が一目だけ見ようと建物の中から出て来る。


 吊り橋の向こうに見える大量の食糧を見たゴブリン達は、大騒ぎになっていった。


「さ、魚が山のようにある、ゴブゴブ」


「珍味のタコが、あんなに沢山あるよゴブ〜〜!」


「まさか、あの砂漠を歩いて来たのかゴブゴブ!?」


 アトラ姉ちゃんはアダルを抱き抱えながら、お姫様に近寄って来る。

 軽くお辞儀をした姉ちゃんは挨拶をお姫様と交わすと、困った顔で言う。


「ゴーブブお姫様、トートがお世話になりました。

 弟は腕白わんぱくで、いつのまにか居なくなっていたのです」


 姉ちゃんは今度、俺の方を見ると凄く怖い顔になる。

 そしていきなり俺の頭を叩く!


 ゴン!!


 イッテェ〜〜!


 お芝居で頭を叩く予定だったのに、お姉ちゃんてば本気で叩いたみたいだ。

 あまりにも痛くて、うずくまる俺……。


「あれ程遠くに行ってはダメだって言ったのに!

 今度はお尻を、100回叩くからね!!」


 お、お芝居なのに、姉ちゃんて怒るとこんなにも怖いんだ!

 今まで姉ちゃんに怒られた事は無かったけれど、これからも怒られない様にしないと……。


 ゴーブブお姫様が、アトラ姉ちゃんに申し訳なさそうに言う。


「トートが遠くに行ったのは、私が溺れて悲鳴を聞いたからなのですゴブ。

 トートが私を助けてくれていなかったら、私は死んでいましたゴブ。


 どうぞ、トートを叱らないでやって下さいゴブゴブ」


 アトラ姉ちゃんは命絆力ライフフォースボンドで、事の一部始終を俺から聞いていたけれど、初めて聞きましたと言う顔でゴーブブお姫様を見る。

 父ちゃんは演技が上手かったけれど、姉ちゃんはそれを上回る演技で、余りにも自然な動きなので姉ちゃんを思わず凝視している俺……。


 アトラ姉ちゃんは俺を見ると、優しく言う。


「今回は、私の早とちりだったようだな。

 いつも悪さばっかりすると思っていたけれど、たま〜〜に良い事もするんだなトートは」


 今度は俺の頭を優しく撫でてくれる。

 演技とは思えない様な優しい目付きで。


 俺も姉ちゃんに負けじと、演技を始める。

 姉ちゃんに訴えかける様に……。


「あのね、おひめさまたち、さかなが、てに、はいらないんだって。

 すこしだけ、わけて、あげる、できるねえちゃん?」


 う、上手く言えたかな?

 今回の作戦は、俺達がこの出城に一泊して、夜中に魔王の娘であるニーラとゴーブブお姫様を再会させたいんだよな。


 他のゴブリン達が居ると、ニーラとお姫様を合わせる事が出来ない。

 ニーラの素性は、本当に信頼出来る魔物達にしか言えないからだ!


 お芝居の続きを、アトラ姉ちゃんは名演技で続けて行く。


「勿論だよトート。

 どの種族も、大事な仲間だからな」


 そう言った姉ちゃんは大げさな動きで、吊り橋の向こうにある魚とタコを重力魔法で取り寄せ始める。

 でも本当は、アトラ姉ちゃんは重力魔法を扱うのが得意では無く、姉ちゃんに抱かれている娘のアダラが重力魔法を使っている。


 フゥヨォ〜〜〜〜〜〜〜〜。


 大量の魚とタコが、ゴーブブお姫様の前にうず高く積まれる。

 それでも俺達が運んでいる食料の一部だけれど……。


 ゴーブブお姫様は驚きすぎて、又しても口を大きく開けたままだ。

 周りのゴブリン達は大歓声になっていく。


「「「「「「「「魚だゴブブ〜〜! タコだゴブブ〜〜!」」」」」」」」


 やっと落ち着くを取り戻したのか、ゴーブブお姫様はアトラ姉ちゃんに頭を深く下げて言う。


「貴重な食料をこんなにも分けて頂いてありがとうございますゴブ。

 もしよかったらこの城で一泊して、長旅の疲れを癒してはどうでしょうかゴブゴブ?」


 やったね!

 これでお姫様とニーラを合わせる事が出来るよ。


 アトラ姉ちゃんは演技の続きで、喜んでこの出城で一泊するとお姫様に告げる。

 それから外で待っていた姉ちゃん達も出城の中に入って来て、泊まる部屋に通された。


 夕食は俺達が持ってきた魚にタコ、そしてヒラ豆のスープで豪勢な食事になった。

 何故ならここには、色々な種類の香辛料があるので、味の変化が楽しめたからだ!


 料理長が腕を振るってくれたおかげで、こうして俺達は久しぶりに美味しい食事にありつける。

 勿論、ゴブリン達も大満足の一夜で、喜びの声が止む事はなかった。


 ◇


 問題はこれからだ!

 ゴブリン達は寝静まり、見張りが起きているだけ。


 念には念を入れて、モージル妖精王女に頼んで、塔の上にいる見張りのゴブリンを眠らせる事に。

 モージル王女は雷撃が得意だけれど、横の頭であるドゥーヴルは色々な毒を吐くのが得意なので見張りを眠らせる事ができる。


『トルムル王、見張りは寝たよ』



 ドゥーヴルから心の声で連絡が入った。


『ありがとう、ドゥーヴル。

 助かります』


『いや〜〜。

 こんなの朝飯前さ』


 モージル妖精王女が独り占めして食べる悪い癖が治ったので、ドゥーヴルとマグニは最近、精神的にとても安定している。

 以前は、ひねくれ者と引きこもりだったけれど……。


 おっと、それよりも最後の演技を実行しないと。


 ゴーブブお姫様の部屋にニーラと行くと、ドアの外に警護のゴブリンが居る気配がしたので、見つかる前にドゥーヴルと同じ眠りの毒を、魔法力マジックパワーを使って魔法を発動する。


 シュゥーーーー。


 小さな音と共に、眠りの毒は警護のゴブリンを襲う。

 しばらくすると、警護からは眠っている気配がしたのでニーラと共にゴーブブの扉の前に行く。


 深呼吸して俺は、ドアを静かに叩く。


 コン、コン、コン。


「ぼくです、トートです」


 敏感なゴーブブはベッドから起きて来て、ドアを開ける。

 どうして真夜中に、トートが来たの不思議そうな目をして……。


「どうしたのですかトート、ゴブ?

 何かあったのですかゴブゴブ?」


 隠蔽の魔法で顔を変えていたニーラは元に戻っており、ゴーブブの前に行くと涙目で懐かしそうに見る。


 ニーラの顔を見たゴーブブは、超〜〜驚いて顔色が変わっていき、口を大きく開け始める。

 ニーラは見上げながら、ゴーブブに言う。


「お久しぶりです、ゴーブブ。

 お元気そうで何よりです」


 口を閉じたゴーブブの目からは、大粒の涙が流れ落ちている。

 そしてゴーブブは片膝を床に下ろすと、王族に対する礼儀正しい作法で、顔を床に向けて挨拶をする。


「お久しぶりでございます、ニーラ様ゴブ。

 まさか、ここにニーラ様が居るとはゴブ。


 人間の世界で幸せに暮らしているとばかり思っていました、ゴブ。

 私も後を追って行きたかったのですが……、ゴブゴブ」


 ニーラはゴーブブに近寄ると、肩に手を添えて言う。


「顔を上げて下さい、ゴーブブ」


 そう言われてゴーブブが顔を上げると、ニーラは大粒の涙を流しながら抱きつく。

 ゴーブブもそれに応えるかのように、いとおしむ様に抱き返していた。


読んでくれてありがとうございます。


次話は、トルムルの素性をゴーブブに明かし、ゴブリンの王都に行く話の予定です。



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