表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

168/195

ゴブリンのお姫様

「だ、誰か助けて〜〜、ゴブブ〜〜!」


 砂漠地帯をやっと抜けて休憩をしていたら、誰かが助けを求めている。

 魔物に見つかるのを避けたかったけれど、俺だけ声のする方に重力魔法で空中を高速移動すると、そこは川が流れており若い女のゴブリンが溺れかけていた。


 ゴブリンは浮いたり沈んだりして川下に流されており、このままでは溺れて死んでしまうのは確実。

 俺は重力魔法でゴブリンを川から拾い上げて、川岸に移動させる。


「ゴブブゥ〜〜、ゴブブゥー!」


 水を大量に飲んだみたいで、息を吐きながら水を吐いている。

 俺は意識を集中して、ゴブリンが飲んだ水を外に出すイメージをして、魔法力マジックパワーを使って魔法を発動した。


「ゴブゥーー、ゴブゥーー!」


 魔法を発動すると、ゴブリンの口からは大量の水が吐き出され始めた。

 しばらくすると飲んだ水を全て吐き出したのか、落ち着いて深呼吸を始める。


 ふと俺と目が合って、ゴブリンの目が大きく見開かれて行く。

 何でここに、魔族の子供がいるのかと言う様な目付きで……。


 隠蔽の魔法で俺達は魔族に姿を変えており、もし見つかっても怪しまれない。

 でも……、魔族の住んでいる地域はここからはとても遠い……。



 川上から誰かが大声で叫びながらこちらに近付いて来る。


「お姫様〜〜、ゴブ〜〜!

 お姫様〜〜、ゴブ〜〜!」


 近付いて来るゴブリンは、この大陸特有の大型種。

 アトラ姉ちゃんより大きくて、力は互角かそれ以上だ!


 でも近寄って来るゴブリンは確か「お姫様〜〜」って言ったような……?


「ハァ〜〜、ハァ〜〜。

 お姫様、無事でなによりでしたゴブ〜〜。


 急にお姫様が川に落ちたので、何事が起きたのかとびっくりしましたゴブゴブ」


 お姫様は、俺が溺れているのを助け、飲んだ水を吐き出させたと判ったみたいで笑顔になっていた。

 そして、追っかけてきた大柄なゴブリンに言う。


「ゴーゴブ、この坊やが私を助けてくれたのですゴブゴブ」


 ゴーゴブは、俺がお姫様の近くに居たのを突然認識したみたいで、目の玉が飛び出る程驚いている。

 そしてお姫様と俺の間に入り、胡散臭い目を向けた。


「お姫様を助けた礼はしますが、何故ここに魔族の子供がいるのです!?

 もしかして……、迷子なのゴブゴブ……?」


 え〜〜と、何て説明しようか……?

 適当な事を言って、後で辻褄が合わなくなるのは避けたい。


 それに、年齢に合った言葉で言わないと怪しまれるよな。

 今まで大人の様に話してきたから、細心の注意を払わないと。


「ぼく…、ここは……、はじめて……。

 このおねえちゃんのね、さけびごえがきこえたんだ。


 それでね、たすけたんだ〜。

 ぼくって、とってもえらい?


 それでね、ぼくのねえちゃんたちとはぐれてしまって……。

 ぼくのねえちゃんたち、どこにいるの?」


 う、上手く話せたかな……?

 3才児の話し方って、意外と難しいよ。



 言い終わると俺は、無防備で棒立ちになる。

 これからどうして良いのか判らない様な顔で……。


 ゴーゴブは俺が言った内容と、無防備の姿に納得したのか段々と警戒心を解いていく。


「どうやら坊やはゴブ、迷子みたいですねゴブゴブ。

 たまぁ〜〜にゴブ、魔族がこの辺りに来る事があると聞いていましたからゴブゴブ。


  貴方の助けたゴーブブお嬢様は、ゴブリン王の中でも最も偉大なゴーブラ王の大切な1人娘でございますゴブゴブ。

 坊やはゴブ、私達と一緒に出城に来ますかゴブ?


 もしかしたらゴブ、お姉様方が出城に来ており、坊やを探しているのかも知れませんよゴブゴブ」


 マ、マジですか……?

 この子がゴブリン族を束ねている王の中でも、最も偉大なゴーブラ王の1人娘なの?


 ゴーブラ王は間違いなく魔王に心を支配されており、魔王の娘であるニーラはとても心配している。

 ゴブリン一族を操る為には、ゴーブラ王の心を操るのが手っ取り早いからだ!


 そしてニーラは、娘のゴーブブにもあった事があるみたいで、俺にゴブリン族の事を詳しく話してくれていた。


 これはある意味、チャンスかも知れない。

 出城に行って情報を集めて、ゴーブラ王を魔王の呪縛から解き放す事が出来るかも。


 それによってゴーブラ王は我に返って、魔王の悪行に目覚める……、筈。

 と、とにかく、ゴブリンの支配する地域を抜けるには、ゴブリン王を味方に付けるのが一番だ!


「うん。

 ぼく、いってもいいよ。


 ねえちゃんたちが、ゴブリンのでじろにいるかもしれないし」


 お姫様はそれを聞いて俺に近付いて来て、ヒョイと持ち上げて肩に乗せてくれる。

 明らかにアトラ姉ちゃんの背と同じくらいで力もとっても強い。


「ゴーブブお嬢様、ゴブゴブ!

 いくらその坊やが命の恩人でも、その様な事は良くないゴブゴブ」


 お姫様は優しく俺を見ながら言う。


「いいのですゴブ。

 この坊やはまだ幼いので、私達の歩く速度に付いて来れませんゴブゴブ」


「しかしお姫様、体が弱ってご静養中なのにゴブ、先程の様に急に倒れるかも知れませよ、ゴブゴブ」


 お姫様は、俺を不思議そうに見て言う。


「何故だかは分からないのですがゴブ、今までは常に力が体から少しずつ奪われていた感覚があったのに、この子の近くにいるだけでそれが無くなったのですゴブゴブ。

 まるで、力を奪う何かを打ち消している様な……、ゴブゴブ……?」


 す、鋭い!

 闇の神アーチの影響で、瘴気を打ち消す魔法を俺は常に発動している。


 俺の近くに来るだけで瘴気の影響が無くなるのは間違いなく、それが判るなんて!

 それに、お姫様が川に転落したのは間違いなく瘴気の影響だ!


 瘴気は少しずつ体力を奪うからで、体の弱い女子や子供は影響を受けやすい。

 お姫様はゴブリン族の中でも、敏感な方なのかもしれない。


 俺はお姫様をつぶらな瞳で見つめ返した。

 心に思っている事を疑われない様に、何を言っているのか解りませんと言う目をして。


「何か……、この子にはゴブ……?

 特殊な何かを感じますゴブゴブ。


 透き通る様なつぶらな瞳は邪心を一切感じずゴブ、聡明で何事にも動じず、優しさを兼ね備えていますゴブゴブ。


 将来、王になっても不思議では無く、世界を導いてくれそうな程の器を持っていますゴブゴブ」


 本当に凄いよこのお姫様!

 ズバリ俺の素性を言い当てた!


 既に俺は一国の王であり、賢者の長も兼任しているからだ!

 ゴーブブお姫様って、勘が無茶苦茶鋭いよ。


 ゴブリン族の中で、こんなに勘の鋭いゴブリンが居るなんて驚きだ!

 ゴーゴブはそれを聞いて笑い始める……。


「ゴブゴブ、ブゥ〜〜!

 それは無いですよ、お姫様ゴブゴブー。


 この坊やはまだ4才ぐらいの魔族の子供でしかありませんよゴブ。

 魔法を操るのが少し上手な位で、ゴブ〜〜」


「そうかしらゴブ?

 いずれ判る事だわねゴブ。


 ところで、坊やのお名前何ですかゴブゴブ?」


 歩きながらお姫様は俺に聞いて来た。

 トルムルの名前を言ったら一発で素性がバレてしまうので、魔族にある一般的な名前にしないと……。


「ぼくね、トートていうんだよ」


「いい名前ですねゴブ。

 きっとその名前は,世界中の人が知る日がきっと来るでしょうゴブ」


 それからゴーブブお姫様は色々な事を俺に教えてくれる。

 魔王がゴブリン一族に召集命令を出して、若くて強い者は全て戦線に駆り出されている事。


 その為、食料を生産する人手が大幅に減って、食糧難が深刻であると。

 また、体力が無い年寄りや、子供達が以前より虚弱になっており、特に乳児期の死亡率が高いと。


 出城にはお姫様と同じ考えの年老いた兵士がおり、それは人間の世界に戦争をしている魔王に疑問を抱いているゴブリン達である事。

 更に、人間に対して戦争を仕掛けるのは愚かな事であると父であるゴーブラ王に進言したけれど受け入れてもらえなかったと。


 幼い頃は優しかったゴーブラ王は十数年前に突然人格が変わってしまい、優しさが全く無くなって、まるで誰かに操られているみたいだともお姫様は言った。


 やはりこのお姫様の勘は鋭い。

 予想通りゴーブラ王は魔王に操られているみたいで、呪縛を解くには魔王の娘であるニーラの特殊な能力が必要だ!


 後ろから付いて来ていたゴーゴブは笑いながらお姫様に言う。


「お姫様ゴブ。

 そんな難しい話は、その子には理解できませんよゴブゴブ、ブゥ〜〜」


 お姫様は俺に微笑みながら言う。


「それで良いのですゴブ。

 今のこの子に分からなくても、いずれはこの情報が地肉となって、この子の知識を増やしてくれますゴブ。


 それにゴブ……、何故だか判らないのですがゴブ、この子を見ていると言わなければならない気がしてならないにですゴブ。

 本当に不思議な子供ですゴブ」


 俺……、このお姫様とは友達になれそうな気がする。

 お姫様の話を聞いていると、母ちゃんから色々な事を教わった胎児の頃を思い出したよ。


 俺達は出城に着くと、お姫様は俺を下ろして城に続く吊り橋を渡って行く。

 思っていた以上に頑丈で大きな出城なので驚く俺。


 老いた門番の兵士がお姫様に礼儀正しく挨拶をして出迎える。

 そして俺を見ると門番は不審の目で俺を見る。


「お姫様ゴブ?

 魔族の子供が何故ここに居るのですかゴブゴブ?」


「この子はお姉さま達とはぐれてしまったのですゴブ。

 他の魔族が、ここには来ませんでしたかゴブゴブ?」


 門番は否定の動作をして言う。


「ここ2、3年は魔族を見てないです、お姫様ゴブ」


 お姫様は残念そうに、屈み込む様にして俺に言う。


「トートのお姉様方がここには来てないですが、どうしますかゴブ?

 城で待ってもらえれば、お姉さまを探す人手を出せますがゴブ?」


 それを聞いた俺は、良い作戦を思い付く。

 その作戦の為に、お姫様に笑顔で言う。


「ぼくね、このしろでまってみるよ。

 きっとおねえさんたち、ぼくをさがしてくれるとおもうんだ」


 お姫様は軽く頷いていう。


「それが良いですねゴブ。

 私と一緒にお昼ご飯を食べながら、お姉さまが来るのを待ちましょうゴブ」


 こうして俺は、ゴブリンの出城の中に入って行った。

 作戦の詳細を考えながら……。


読んでくれてありがとうございます。


単独でゴブリンの城に入って行ったトルムルですが、どんな作戦を思いついたのでしょうか?


次話もお楽しみ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ