今日もまた魚……。
リヴァイアタンの便秘が治ってからは、俺達の食料は来る日も来る日も魚ばかり……。
調味料も一切無く、唯一あるのは塩だけ。
ウールが大きなため息を吐いて言う。
「今度の食事も焼き魚だよねトルムル?
食欲が湧かないから私の食事はいいわ」
え〜〜〜〜〜〜!
育ち盛りの超可愛いウールが食べないって、大事件だ〜〜!
と言っても、魚が好きな俺でも食欲が落ちている……。
来る日も来る日も、食べれるのは魚だけ。
姉ちゃん達も母乳を出すために、変顔にしながらも無理矢理に食べている。
本来ならば、持って来た携帯用の食料で過ごす予定だったのだけれど、武具以外は全てリヴァイアタンのお腹の中に移動してしまって……。
美味しいビスコッティとかクロワッサンなどを持って来ていたのだけれど、リヴァイアタンの食料になってしまって元にはもう戻らない……。
食料は現地調達が基本だと言っても、こう毎日魚だけだと飽きてしまう。
南海岸に上陸すれば魚以外の食料が見つかるかもしれないけれど、予定している場所は砂漠地帯……。
魔物達を避ける為だけれど、そこはサボテンが生えているぐらいで、生き物は殆ど居ない死の世界。
しかも日中は暑くて夜はとっても寒いと、偵察に行って来たモージル妖精王女が言っている。
砂漠地帯では食料が現地調達出来ないので、魚の干物を作って食料にするしか手が無い。
それが分かるから、育ち盛りのウールでも食欲が湧かないみたいだ。
塩以外の調味料が有れば、スープなどにして味の変化が楽しめるのだけれど、大海を移動している俺達には選択肢が全く無い。
リヴァイアタンが色々な種類の魚を取って来てはくれているのだけれど……。
俺は新鮮な魚を刺身で食べたいのだけれど、試しに塩だけで切り身を食べたら不味かった。
やはり、刺身には醤油が必要だと実感……。
俺が生の魚を食べたのでその時、それを見たウールがとっても気持ち悪がっていた……。
せめてここに醤油があればと思うのだけれど。
『トルムル王よ、助けてくれ〜〜!
タコを捕まえようとしたら抵抗されてしまった〜〜!」
魚を取る為に海に潜っていたリヴァイアタンから緊急の連絡が入ってきた。
海面が盛り上がって来たと思うと、リヴァイアタンが海から逃げる様に大きくジャンプしたのだけれど……?
な、なんと!
頭には巨大なタコが絡まって、降り落とせないでいる。
クラーケンよりは小さいけれど、リヴァイアタンの頭を覆う程の巨大なタコだ!
リヴァイアタンは再び潜って行ったけれど、巨大なタコはそのまま頭を覆っている。
ウールが興奮して俺に言う。
「トルムル、タコよ!
これで、魚以外の食料にありつけるわ!」
ウールが食べる事に関して、こんなに興奮するのを初めて見た俺……。
ウールは王族として生まれて、今まで何不自由なく過ごしてきたからな。
超可愛いウールから言われたら、ここは何としてもタコを捕まえたい!
それにタコって茹でると、とっても美味しいよね。
ウールじゃないけれど、夜の食事には茹でたタコが俺は食べたい!
近くに重力魔法で浮いている姉ちゃん達も、ウールと同じ様に目がキラキラと輝いている。
みんなの思いが一つになって戦闘意欲が高まって行く。
って、相手はタコだけれど……。
海面が盛り上がって来ると、再びリヴァタリアンが海面から大きくジャンプした!
その時を待ち構えていた俺は、魔法力を使って大きな魔矢をタコの頭目掛けて射る。
バッシュ〜〜〜〜〜〜!!
頭に命中すると、タコはもがき苦しんでリヴァタリアンから離れて海面に落ちて行く。
タコをよく見ると、俺だけでなく姉ちゃん達やヴォルム達も攻撃したみたいで、ズタボロになっている……。
既に細切れになっている足もあり、ヴォルム達が重力魔法で回収を始め出す。
残りの足もみんなで協力して細かくしていき、一箇所に集める。
海水でタコを茹でるには塩味が強くなり過ぎるので水の妖精であるウインディーネに頼んで真水を海水から取り出してもらった。
空中で真水に海水を入れて、丁度良い塩味にしてタコを茹で始める。
ここには火の要請であるサラマンダーや、モージル妖精王女の横の顔である火炎が得意なマグ二、そして俺がいるのであっとゆう間に沸騰してタコを茹で上げて行く。
しばらくして茹で上がったと思う頃、小さなタコの塊を重力魔法で取り寄せて、鎌鼬の魔法で一口大に切り刻んで行く。
切ったタコをみんなに配ると、早速味見をする為に口の中に……。
モグモグモグ。
うん、思っていた以上に美味しい。
焼き魚が続いていたので尚更美味しく感じたのかもしれないけれど、こんなに美味しい茹たタコを食べたのは初めてだ!
ウールを見るとタコを噛みながら笑顔になっていく。
姉ちゃん達も満足した様子で、しきりに顔を小刻みに縦に振っている。
姉ちゃん達全員が同じ動作をしているので、思わず心の中で笑っている俺。
でも……、俺も縦に顔を振っていて、思わず声を出して笑ってしまった。
ヴォルム達が欲しそうにしているけれど、まだ乳児なのでタコを食べるのにはまだ早い。
姉ちゃん達が娘達の為に細かく噛んで、タコを口移しで上げている。
元いた世界では見た事がない光景だったけれど、この世界では当たり前の光景で微笑ましい。
ヴォルム達も笑顔になって、みんなが久しぶりに満足した時間を過ごせた。
◇
航海も終わり、目指す南海岸にたどり着いたので、リヴァイアタンとお別れの時になった。
航海中に作った魚の日干しと、茹でたタコを持ってリヴァイアタンの口から重力魔法で出る。
リヴァイアタンが、名残惜しそうに言う。
「今回もトルムル王と楽しく時間を過ごせた。
それに、儂の十数年来の便秘を治してくれて感謝しておるのだが、どうやらトルムル王達の荷物を飲み込んでしまって申し訳ないと思っておる。
そこで、トルムル王達はこれから砂漠地帯の移動になるので儂からの心ばかりのお礼をと思っておる」
そう言ったリヴァイアタンは口を大きく開け始める……?
そして口の奥から、何かが急速に迫っている。
でも、危害を加える気配を全く感じなかったのだけれど、以前に同じ様な事があった様な……?
喉の奥からは、霧のようなものが出てきて俺達を覆う。
確かこれは肌をシットリさせて、数年は効果がある優れものだけれども、今回は以前よりも肌に絡んでしっとり感が半端無いんですけれど……?
リヴァイアタンの巨大な顔が、笑っている様になって言う。
「今回の濃霧はトルムル王に以前したのよりも、もっと強力だ!
砂漠地帯の乾燥した環境下でも肌の潤いを保つ強力な効果がある。
それと日焼けを防ぎ、美白効果も数年は続く。
更にだ、火炎と冷気魔法のダメージを半減してくれる効果もある。
トルムル王達には今回便秘の治療でお世話になったので心ばかりの礼と、魔王に対抗する為でもある。
トルムル王よ、ニーラ様を頼みましたぞ。
そして魔王を倒して、この世界を平和にしてくだされ!」
姉ちゃん達は濃霧の事を聞いて驚いている。
失われた荷物の中に、俺が発明した肌の潤いを保つ化粧品を大量に持って来たみたいだけれど、リヴァイアタンに飲み込まれてしまったから諦めていたと姉ちゃん達が話していたからだ。
これで姉ちゃん達は、肌の心配がしなくなって良かったよね。
それにしても、これで火炎と冷気のダメージが半減出来るなんて凄い!
でも……、魚の日干しと、冷凍してある茹でたタコが大量にあるので、前よりも荷物が増えたんですが?
これって、元の木阿弥って確か言うんだよね。
いやむしろ、大量の食料を見ながら、悪化したと思っているのは俺だけか……?
読んでくれてありがとうございます。
大量の荷物が無くなったと思ったら、又々増えちゃいましたね……。
次話もお楽しみ。