表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

165/195

上陸作戦

 航海は順調で、角鯨アントラーズホエールぐらいの強敵は現れなかった。

 それに、見張り役の魔王側の妖精達に会う事なく一週間が過ぎて行く。


 ガルドール王の国に来ていた魔王側の妖精達を多数捕まえて石に変えてあるので、見張りができる妖精達が向こうには殆どいないみたいだ。

 こちら側では人間の大陸に住んでいる妖精達の中で、空中移動の早い妖精を選んで、見張りの為に広く前方に展開している。


 妖精達からは刻一刻と情報が集まっており、もうすぐ陸地が見える事を教えてくれている。

 また、上陸する場所にある海岸にそびえ立つ巨大な城塞都市では、魔物側は油断しているみたいで、のんびりと日向ぼっこしているみたい……。


「陸地が見えるぞ〜〜!」


 メインマストの上から見張が大きな声で興奮しながら言う。

 遂に……、俺達は人類未踏である魔物達の大陸にやって来た。


 船に乗っている全員が甲板に出て来て、遠くの方で見えている山脈の山々を眺める。

 まだ山脈の上の方しか見えなかったけれど、徐々にふもとが見えて来て、海岸にそびえ立つ巨大な城塞都市がハッキリとその姿を表して来た。


 魔法で上げてある視力を最大にして城塞都市を見ると、魔物達が俺達にやっと気が付いて大騒ぎになっている。

 投石機の準備を始め出して、船が近くに来るのを阻止しようとしているのがハッキリと見えた。


 俺はいつもの様に威厳のある、とっても可愛い声で……、命令を出す。


「上陸作戦を開始する〜〜!」


 昨日の時点で、今日上陸する事は既に伝えてあったので、みんなは準備万端だ!

 俺の近くには攻撃の第一段階として、ヴァール姉ちゃんが近くに寄って来る。


「いよいよね、トルムル。

 魔物相手に歌を歌うのは初めてだけれど、頑張るわよ!」


 気合の入った声でそう言うと、姉ちゃんは深呼吸を始める。

 深呼吸が終わると俺の方を向いて姉ちゃんが頷くと、透き通る素晴らしい声で子守唄を歌い始めると同時に、俺は魔法で姉ちゃんの声を魔物側に届ける……。


「ゆりかごのうたを

 ゴブリンが歌うよ

 ねんねこ ねんねこ

 ねんねこよ


 ゆりかごのうえに

 トリカブトの実がゆれるよ

 ねんねこ ねんねこ

 ねんねこよ


 ゆりかごのつなを

 ワニ男が揺するよ

 ねんねこ ねんねこ

 ねんねこよ


 ゆりかごのゆめに

 血色の月がかかるよ

 ねんねこ ねんねこ

 ねんねこよ」


 ……。

 ちょ、ちょっと怖い子守唄……。


 この子守唄は魔物達に親しまれており、巨大城塞都市に居る魔物達が共感出来る……、筈だ!


 セイレーンが東海岸で歌って人間側が行動出来なかったのを俺なりに改良を加えて、魔物側に理性を麻痺させる魔法と共に、この歌をヴァール姉ちゃんに歌ってもらっている。


 効果はてきめんで、魔物側の動きが突然止まった。

 姉ちゃんの素晴らしい歌声に耳を傾けているからだ!


 やったね!

 流石姉ちゃんで、素晴らしい歌声。


 魔物達は動く事が出来ずにボンヤリしており、姉ちゃんの歌う子守唄に釘ずけ。

 巨大船が埠頭に着岸して、上陸部隊が巨大城塞都市に入っても殆ど無抵抗で、予想以上の効果で大満足する俺。


 城塞都市の制圧が終わると、姉ちゃんは子守唄を歌うのを止める。

 そして俺の方を見ると笑顔で言う。


「ふ〜〜!

 これで作戦の第一段階は終了ね。


 それにしても、トルムルの魔法って相変わらず凄いわね。

 魔物達が、本当に身動き出来なかったわ」


 俺の魔法はあくまでも補助で、姉ちゃんの歌声が魔物達の魂を震わせたから成功したと思うんだよね。

 俺が歌っても、魔物側に疑問に思われるだけで成功は難しかった……。


 母ちゃんの素晴らしい歌声の遺伝を受け継いだのはヴァール姉ちゃんだけで、どうも俺では無いみたいだ……。


「ヴァール姉さんの歌声に魔物が感動したんだと思いますよ。

 僕が歌っても、同じ効果は期待できないので……」


「それは……、えーと……。

 トルムルの歌って、音程がズレまくっているからね……」


 え……。

 や、やっぱり!


 声楽の専門家の姉ちゃんに、この様に率直に言われたのは初めてで、やはり俺には声楽の才能は全く無いんだ……。

 お、落ち込む前に、次の指示を出さないと……。


 俺は再び気を取直して、近くにいるアンゲイア司令官に言う。


「作戦通り、アンゲイア司令官の部隊は城塞都市を拠点として、魔物側に圧力をかけて下さい。

 魔石の設置を完了したら、リヴァイアタンに乗って隠密作戦を開始します」


 アンゲイア司令官は俺と姉ちゃんの会話を聞いてきたみたいで、少し笑っている。

 過去に一度だけ、俺が歌っている所をアンゲイア司令官に見られた事があったから、それを思い出していたみたい……。


「うふふ、りょ、了解しました。

 お、お任せ下さい!」


 ……。


 ま、音楽は才能のあるヴァール姉ちゃんに任せて、俺はさっきから気になっている瘴気を無効化する魔石の準備を始めますかね。

 モージル妖精女王が偵察から帰った時に言っていた様に、体から生命力が少しずつ奪われる感じ。


 生気を吸い上げられている様な感覚で、これが闇の神アーチの能力の一部みたいだ。

 でもこれって、人間だけでなくて魔物達も生命力を吸い上げている感じがする。


 個人的には少しだけれど、大陸に住んでいる魔物達から吸い上げると膨大な量の瘴気になるんだけれど、何に使うんだろうか?

 魔法に使えないのは明白で、全く見当もつかない。


 闇の神アーチが、実は慈善事業を始めました……、な〜〜んて事は絶対にありえないし……。

 何か、いや〜〜な予感しかしないんだよね。



 とにかくこの瘴気を無効化する魔法と、強固な防御魔法を万年眠亀テンサウザンドスリーピングタートルの魔石に付与する。


 シュゥーーーーーーーーーーー!


 静かな音と共に魔法が付与された。

 俺は確認をする為に検査魔法で魔石を調べると、思い描いていた魔法が付与されている。


 続いて、クラーケンの魔石に、巨大城塞都市に迫って来る魔物達を攻撃する巨大蛸足クラーケンレッグの魔法を付与した。

 この魔法は魔石にある魔法力マジックパワーが無くなるまで何度でも巨大蛸足クラーケンレッグの攻撃を繰り返す優れもの。


 更に、いざとなれば近くに魔法力マジックパワーを多く持っている魔法使いを配備する予定。

 魔石の魔法力マジックパワーを使い切った時の為に、彼等から魔法力マジックパワーを供給できるからだ。


 これでかなり強力な魔物の群れが襲って来ても対処できる筈だ!


 俺の乗っている巨大船も埠頭に着岸すると、沖の方からリヴァイアタンが静かに泳いでくる。

 彼はかなり高速で泳ぐ事は出来るのだけれど、その余波でこの港に津波が来てしまうので、なるべくユックリと泳いでくる様にと指示を出してある。


 なにせ彼は、この大きな巨大船さえも口の中に入ってしまうほどの大きさだから。

 沖からくるリヴァイアタンに、船に乗っている人達が大騒ぎを始める……。


「見た人達から聞いていたけれど、リヴァイアタンてあんなに巨大とは!」


「リヴァイアタンって、トルムル王が倒して仲間にしたんだけれど、それって凄すぎないか!?」


「よくあんな巨大な生物に……、トルムル王が勝ったよね……?」


 えーと……。

 そんなにビックリする事なのかな……?


 リヴァイアタンとは今は友達で、心で会話もできる。

 彼の心の声はとっても低い低音で、俺に連絡が入った。



『トルムル王よ。

 そろそろ指定の場所に着くが?』


『ありがとうございます。

 そこで待機して下さい。


 こちらの準備が出来次第、防波堤に向かいます』


 俺がそう返事すると、今度は命力絆ライフフォースボンドを使ってウールとヒミン王女、それに姉ちゃん達とヴァール達に言う。


『リヴァイアタンが防波堤に到着しました。

 そちらに至急移動して下さい』


 みんな了解の返事をし、いよいよ俺達は別行動する事に。

 リヴァイアタンの口の中に入って潜ってもらい、そのまま大陸の南海岸に行く予定。


 アンゲイア司令官に魔物達の目を引きつけてもらって、手薄すになった南側から魔王城を目指す作戦。

 手荷物は最小限にして、食料は現地調達になる。


 重力魔法で荷物を牽引しながらニーラと一緒にリヴァイアタンが待っている防波堤に着くと、すでにウールとヒミン王女、それにヒーヴァが居た。

 彼女達の横には、数十個の荷物が目に入ってくる……。


 これから隠密行動でするのに、何でこんなに荷物が多いの……?

 後ろを振り向くと、姉ちゃん達もヴァール達の重力魔法で空中移動しており、その後ろには同じくそれぞれ数十個の荷物が数珠繋ぎみたいに後ろにあった……。


 俺……、ちゃんとみんなに伝えたよね。

 今回は隠密行動なので荷物は少なくして、食料も現地調達になるって……。


 みんなが集まると、荷物の総数が100個を優に超えているんですけれど……。

 お、隠密作戦なのに何でこんなに荷物が多いの……?


 アトラ姉ちゃんが俺に話しかけてくる。


「どうしたんだいトルムル。

 荷物を見て呆然としているみたいだけれど?」


 呆然も何も……。

 な、何でこんなに荷物が多いのか聞かないと!


「今回の作戦は隠密作戦なので、荷物は少なくして下さいと僕は言った気がするのですが……?

 こんなに荷物を持っての移動に困難が生じるし、魔物側に見つかりやすいです」


 アトラ姉ちゃんは、何だぁ〜その事かという様な顔つきで言う。


「ん……?

 これでも、かなり少なくしたつもりだけれど……?


 それに娘達の重力魔法で荷物を牽引するから、私が持たなくても移動は簡単に出来るし、迷彩の魔法を掛けるから目立たない。


 で……、何でこれでトルムルが唖然とするのか分からないんだけれど?」


 し、しまった〜〜!

 姉ちゃん達の能天気な性格を読み間違えた〜〜!!


 今更、荷物を少なくして下さいと言っても聞き入れてくれそうもないし……。

 人類の未来を掛けた大事な隠密作戦なのに、この先が思いやられる〜〜!!


読んでくれてありがとうございます。


北原白秋さん、ごめんなさい。

有名な子守唄を、怖い子守唄に変えてしまいました……。


次話もお楽しみ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ