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魔王の大陸に向けて出航

 いよいよ船団を率いて出発する日がきた。

 港に続く道には多くの人達が見送りに来ている。


 各国の精鋭部隊の家族達や、俺の国に住んでいる人達が見送りに来ているのだけれど、余りにも多くの人達が集まったので全ての人が港に入りきれない。

 港には船に乗る人達の家族だけにしているのだけれど、それでも多くの人が世界中から来ている。


 人類未踏の大陸に行くのだから、これから何が起こるのか誰も判らず、それ故に命の保証は無いので今生の別れかもと多くの人が集まっているという訳だ。

 アンゲイア司令官率いる大部隊の任務は魔物を引き付けてもらう事で、戦線を膠着状態こうちゃくじうたいにし、人間側と魔物側の被害が最小限に抑えられるから。


 無理に押し進めて全面攻撃をすると、どうしても死傷者がうなぎ上りになるのは間違い無いし、魔物を殺すのも最小限に抑えたい。

 魔王の娘であるニーラと、モージル妖精王女の情報から魔物側も本心では人間と戦いたくはないらしく、平和に暮らしたいみたい。


 全ては魔王の為に世界の秩序が乱されている。

 今回の遠征で狙うのは魔王の首だけだ!


 その為に俺と姉ちゃん達や、ヴォルム達乳児の少数部隊で隠密に大陸内部に入り込み魔王城を攻撃する予定。

 ニーラと、偵察に行っていたモージル妖精王女からの情報で侵入するルートもある程度決めているのだけれど、実際にそこに行ってみないと何が起こるのか判らない……。


 各種族の王達は魔王によって心を支配されているからで、支配している地域の王を、魔王の呪縛から解放するにはニーラの特殊能力が必要。

 しかし魔王は、ニーラを闇の神アーチに生贄として捧げて、更なる魔法能力を得てこの世界の支配を目論んでいる。


 ニーラを魔王側に拘束されるのを阻止しないといけないのだけれど、各種族の王達を魔王の呪縛から解放して、俺達が魔王城に行かないことには話が進まない。

 無理に各種族の領地を行くと抵抗が強まって、多くの魔物達が俺達を阻止しようと集まって来るからだ!


 ニーラは今回の戦いのかなめであり、最重要人物。

 まだ子供だけれど、父親である魔王と戦う決心は固い。


 それに、とっても可愛いし……。

 おっと……、これは関係の無い事だった。


 ニーラは既に姉ちゃん達と船に乗っており、俺が来るのを待っている。

 港に着いても、多くの人達が船に乗り込む人達の行進に声援を送っている。


「頑張れよ〜〜!」


「生きて帰って来て!」


「元気でいろよ〜〜!」


「魔王を倒してくれ〜〜」


「トルムル王って、この人形よりもとっても可愛いわ〜〜!」


 ……。

 よく見ると、港に居る若い人達の多くが俺似の人形を持っている。


 でも……、俺が1才の時に似せた人形なので頭でっかちで足が短いんですけれど……。

 今の俺は人形よりも足が長くなって、少しはカッコよくなった気がするんですが……?


 と、とにかく……、その子に手を振ってみる。


「キャァーーーーーーーーーーーーーー!

 トルムル王が私に手を振ってくれたわ!」


 て、手を振っただけであんなに喜んでくれるなんて驚き!

 俺って、そ、そんなに可愛いのかな……?


 とにかく、見送りに来てくれた人達の為に俺は手を振る事に。


「「「「「「「「キャァーーーーーーーーーーーーーーー!

 トルムル王、可愛いーーーーーーーーーーーーーー!!」


 ……。

 カッコいい〜〜、とは誰も言ってくれないんですが……。


 ま、3才だからしかたないか。

 俺は巨大な帆船に乗り込み、船内に足を踏み入れる。


 今回の精鋭部隊の輸送にハーリ商会の船を使っている。

 ハーリ商会はスールさんと俺の共同オーナーであるので、この大船団の殆どが俺の所有物ということになる。


 荷を運ぶ船なので巨大で外洋を航行するのにはうってつけ。

 しかも各船には、巨大蛸足クラーケンレッグの超強力な攻撃魔法を俺が付与した魔石が設置されているので、普通の魔物なら一撃で撃退出来る優れもの。


 風光明媚な港町と知られているここを巨大な船の甲板から眺めるとそんな船で溢れかえっており、壮大な景色が広がってなお一層見応えがある。

 景色を堪能していると、エイル姉ちゃんと友達の儀式をしている風の妖精であるシルフィードが俺に近付いて言う。


『そろそろ、穏やかな陸風を起こしましょうか?』


 風の妖精シルフィードの愛称はシルフで、俺はにこやかに言う。


『お願いします、シルフ』


『分かりましたトルムル王』


 そう言った途端に、穏やかな風が陸から海に向かって吹いて来る。

 心地よい風を頬に受けながら俺は、威厳のある……、可愛い声で言う。


「出航〜〜!」


 横にいる船長が了解の合図を俺にすると、船員達に出航の準備の指示をはじめ、メインマストには出航の旗が上がり、各船には出航する指示を出す。

 少しづつ船が埠頭から離れていき、見送りに来てくれた人達と繋がっていた紙のテープが切れて行く……。


 父ちゃんも見送りに来てくれており、屈強な護衛達に囲まれて心配な顔で俺や姉ちゃん達と孫達に手を振っている。

 でも、遠く離れていても父ちゃんとは魔石を使って会話が出来るので、お互いに安否が確認できて安心だ。


 船は順調に港を離れて行き、外洋の大きな波が巨大な船を揺らし始める。

 俺は船酔いする体質なので重力魔法で浮いて、メインマストににある最も高い見張り台に飛んで行く。


 そこにはエイル姉ちゃんと船員が既に見張りに付いており、周りを見渡していた。

 シルフもエイル姉ちゃんに寄り添うように横に浮かんでいる。


 俺に気が付いた姉ちゃんが少し心配そうにいう。


「右舷前方に魔物が居るのを先ほど確認したわ。

 かなり遠くなんだけれど、海の殺し屋と呼ばれている角鯨アントラーズホエール


 教科書でしか見た事が無いけれど間違いないわ。

 一頭だけなら何も問題ないのだけれど、さっきから仲間を呼んでいる声が微かに聞こえて来るのよ」


 姉ちゃんに言われて右舷前方の方に、魔法で高めている聴覚を最大限にして聞いてみると独特な声が聞こえて来る。


 キュゥ〜〜ウォ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!


 キュゥ〜〜ウォ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!


 キュゥ〜〜ウォ〜〜〜〜〜〜〜〜ン!


 母ちゃんから聞いた角鯨アントラーズホエールを思い出す。


角鯨アントラーズホエールは、リバタリアンと並んで海では最強の魔物なのよトルムル。

 1頭だけなら何とかなるかもしれないけれど、数頭以上だと逃げた方がいいわよ!』


 ……。


 か、母ちゃん……、俺達を襲う為に、今まさに角鯨アントラーズホエールが仲間を呼んでいるんですけれど……。


 前方をよく見ると、地平線には角鯨アントラーズホエール独特なつのが見えてくる。

 数頭どころか、50頭以上確認できる。


 どうやら魔王側も俺達が船団を組んで大洋を渡って来るのを事前に察知していたみたいで、角鯨アントラーズホエールを警戒に当たれせていたみたい。

 リバタリアンとは数日後に合流するの予定なので彼の力を当てには出来ない。


 海での戦いは殆ど経験ないのだけれど、多くの船員や精鋭部隊の命がかかっているので撃退の一択しかない。

 今から逃げても、明らかに帆船よりも角鯨アントラーズホエールの方が早そう。


 俺は命力絆ライフフォースボンドを使って、姉ちゃん達やヒミン王女、それにヴォルム達の乳児小隊に連絡を入れる。


角鯨アントラーズホエールが右舷前方より多数接近中。

 ウールとヴォルム乳児小隊は速やかに旗艦のメインマストの見張り台に集合。

 アトラ姉さん達大人部隊は全船に戦闘隊形に移行するように指示し、接近してくる角鯨アントラーズホエールに攻撃の指揮を取って下さい。


 以上!

 速やかに全員戦闘態勢を!』


『『『『『『『『『了解!』』』』』』』』


『『『『『『『りょうかい!』』』』』』』


 横にいるエイル姉ちゃんが考え込むように、俺に心配そうに言う。


「ヴォルムやヒーバ達は今回の戦闘が初陣になるんだけれど……、本当に大丈夫かしら?」


 娘の初陣で母親として姉ちゃんは心配しているみたいだ。

 姉ちゃん達は戦闘能力が高いのだけれど、重力魔法を使いこなせないので空中移動は難しい。

 その点ヴォルム達は得意中の得意で、今回の様に海での戦いには有利になる。


 それに、今までその為の訓練をしてきたから大丈夫……、の筈だ!


「エイル姉さん、大丈夫ですよ。

 それに……。


 な、何あれ……?」


 続きの話をエイル姉ちゃんにしようとしたら、下の方からカモメの群れが飛んでくる……?

 何で……?


 ど、どうしてカモメなの?

 飛ぶ時は鳥に変身する様に言ってあったのだけれど、まさかカモメにヴォルム達が変身するとは驚き〜〜!


 鷹やハヤブサの様な、カッコいい鳥に変身すると思っていたのに。

 ヴォルムに何でカモメに変身したのか聞いてみると……。


『カモメって、とってもかわいいからだよ。

 それに、ガルドール王のくにの、まものがのっている、ふねをやいたのは、カモメだから。


 トルムルおじさんがカモメにへんしんして、ふねをやいたのしっているよ』


 え〜〜!

 カモメに変身して魔物が乗っていた船を焼いたのを、ヴォルム達は何故か知っているよ……。


 1匹だけ違う鳥になったら規律を乱すので、俺もカモメになって青空に舞い上がって行く。

 今度は、フェロモンを体から出さない様に気を付けて……。



読んでくれてありがとうございます。



次話もお楽しみに。

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