母ちゃんの奇跡
俺の生まれ故郷、エル・フィロソフィー国に戻って来た。
目的は5つあり、1つはアンゲイアー王妃に会う事。
それと警護を頼んでいた魔王の末娘であるニーラを引き取るのと、王妃様に預かって頂いていた巨大魔石の2つを受け取る為。
この魔石は万年眠亀の魔石と、クラーケンの魔石。
万年眠亀の魔石は町ごと防御魔法が付与できるので、アンゲイア司令官率いる大部隊の防御に使う予定。
クラーケンの魔石は町の範囲にいる敵を、超巨力な攻撃魔法である巨大蛸足で敵をぶっ叩く魔法が付与出来る優れもので、同じくアンゲイア司令官の部隊に使う予定だ。
どちらも俺が若い頃……。
1才にも満たない頃に、両方の魔物を倒して魔石に変えたものだ。
後は母ちゃんのお墓詣りで、姉ちゃん達も久し振りみたいで、ヴォルム達に至っては初めて。
ヒミン王女の娘さんのヒーヴァはこの国で生まれたので、ヴォルム達にこの国の歴史から見所の観光地を馬車の中で教えていた……。
観光地に行くのが今回の目的では無いので、道中の近くにある観光施設を見ただけに留める。
それでも見応えのある大きな滝とか綺麗な湖を観光して、ヴォルム達は初めてそれらを見て感動していた。
城に着くと、王妃様とヒミン王女の夫でもあるラーズスヴィーズルが出迎えてくれた。
でも、ヒミン王女とラーズスヴィーズルが結婚するなんて、最初聞かされた時は誤報かと思った程……。
ラーズスヴィーズルは長い間、ヒミン王女の護衛係として常に王女の近くに影の様に居た人物。
影の様だといっても、俺は人の気配が判るので最初からその存在は判っていたんだけれど……。
でも、ヒミン王女が結婚して本当に良かったよ。
ヒーヴァも生まれて、益々この国は安泰だ。
しかもヒミンは、人類史上最も偉大であり、俺が尊敬する大賢者の子孫でもある。
学園を歴代最高成績で卒業した王女は、大賢者の子孫の系譜を発現させたみたいだ。
さらに言うなら、ヒミン王女の娘さんであるヒーヴァは、ヴォルム達の中では理性的で、知識の吸収が極めて高い。
さすが大賢者の系譜に繋がる子で、既に大人顔負けの知識を持っている。
それに、俺が前の世界で得た知識の全てを教えてはいないので、これから伸びる余地はいくらでもある。
ヒーヴァはお父さんのラーズスヴィーズルの膝に座って、とても幸せそう。
この国に来た目的の1つは、世界各国と連絡が出来る魔石を渡す為。
王妃様とラーズスヴィーズルに1個づつ説明しながら渡すと、2人は俺を見て固まって行く……。
俺が説明を終えると、王妃様は非常に喜んで言う。
「するとこの魔石は、持っている人達と心で会話できるだけでなく、命力絆で繋がっている人達と、更にヒーヴァ達とも心で会話が出来るんですね。
ヒミンとウール、それにヒーヴァまでも魔王の大陸に行ってしまうので最近気持ちが落ち込んでいたのですが、この魔石は私にとって救いとなりました。
トルムル王、本当にありがとうございます」
そう言って王妃様は俺に深く頭を下げる。
ラーズスヴィーズルも同じ様に喜んで俺に礼を言う。
俺はヒーヴァに、かねてより言っていた事を実行する様に目線で合図する。
ヒーヴァはこの時が待ち遠しかったらしく、目を輝かせて頷き、王妃様とラーズスヴィーズルに心の声で会話を始める。
『いだいなるトルムルおうが、このませきにふよしたと、きいたときから、おばあさまと、おとうさまに、ちょくせつこころでかいわができるのを、とてもたのしみにしていました。
これからはいつでも、おばあさまと、おとうさまに、こころでかいわができるのが、とてもうれしいです。
まおうのたいりくにいっても、おなじようにかいわできるので、ヒーヴァはとてもしあわせです。
まいにち、かいわをしてもいいですか?』
うんうん。
ちゃんと王妃様とラーズスヴィーズルに、心で会話が出来て関心関心。
って……、2人ともヒーヴァがここまで心の会話が出来るとは思わなかったみたいで、王妃様は目を大き開いているし、ラーズスヴィーズルは……、感動して涙を流している……?
彼って変わった感動の仕方……。
でも、最愛の娘がここまで言ったら、感動するのは当たり前か。
王妃様は直ぐに笑顔になって、心でヒーヴァに言い始める。
『ヒーヴァがここまで会話が出来るとは思いませんでした。
トルムル王が、ヒーヴァに「祝福の魔法」をして下さったおかげですよね。
毎日、心で会話をしましょねヒーヴァ』
王妃様も少し涙ぐんでいるよ、よほど嬉しかったみたいだ。
俺もなんだか目頭が熱くなって……。
◇
翌朝、母ちゃんのお墓詣りにみんなで行く事になった。
王妃様とラーズスヴィーズル達も母ちゃんのお墓詣りに是非行きたいと言ったのでみんなで城を出たのだけれど……、あいにくの雨。
どんよりとした雲で、一日中でも降っていそうな天気だ。
せっかく母ちゃんのお墓詣りをするんだから、太陽が照って欲しかったけれど。
お墓に着くと、みんなが天国に居る母ちゃんに祈りを捧げ始めた。
俺も魔王の大陸に進撃を開始する事などの報告を終わると、突然雨が止んで太陽が照ってくる……?
よく見ると母ちゃんのお墓の周りだけ雨が降っていなくて、太陽光が降り注いでいるんですけれど……?
みんなが雨が降るのを止めて太陽を照らしたのは俺だと思ってこちらを見ているんですけれど、心当たりが全くないので顔を横に振って否定の動作をする。
その時……、母ちゃんのお墓の真上に、少しだけ年取った優しそうな、とても上品な中年のエイル姉ちゃん……?
……、が現れる……?
そして俺に向かって笑顔で言い始める。
『トルムル、みんなを頼みましたよ』
だ、誰……?
何も返答できな内に、中年のエイル姉ちゃんが消える……。
ドシャーーーーーーーー!!
突然の土砂降りで、父ちゃんが発明した魔法の傘の出現が遅れてずぶ濡れに……。
さっき雨が止んだので、自動的に魔法の傘がさっき消えていたので、突然の土砂降りには対処出来なかったみたい……。
父ちゃんの魔法の傘は便利だけれど、もっと性能を上げないとな。
でも、さっきの人はもしかして母ちゃんの幽霊……。
イヤイヤ、昼間から出る幽霊がいる筈もないし……?
でも、一度だけ見た母ちゃんにそっくりだったのは事実だよな……?
姉ちゃん達がずぶ濡れにも関わらず興奮しだして、同時に言い始める。
「「「「「「母さんが、妹達家族とトルムルを……。まさか、母さんに再び会えるなんて……。こんな奇跡が……。か、母さんに、出産おめでとうって言われ……。母さんと会話……。母さんから、みんなで一緒に温泉に……」」」」」」
マ、マジなの!
さっきの人は本当に母ちゃんだったの?
姉ちゃん達は母ちゃんと少しの間だけ会話をしたけれど、俺は中年のエイル姉ちゃんと最初思ったから、母ちゃんと会話出来なかった〜〜!
でも、母ちゃんが言った『トルムル、みんなを頼みましたよ』をしっかりと聞く事が出来たよ。
ヴォルム達も心で会話を始めており、初めて聞いたナタリーお婆さん……、の声に興奮している。
ここで起きた母ちゃんの奇跡に、ずぶ濡れになりながらもみんなの心は一丸となって行く。
母ちゃん、ありがとう。
でも……、みんなで温泉ってどう言う意味なの母ちゃん……。
ま、まさか、母ちゃんまでも……?
読んでくれて、本当にありがとうございます。
次話はトルムルの国での話になります
お楽しみに。