スノートラ王女の悲しみ……? その1
ガルドール王を魔法で石化して捕まえたのが春だったのに、窓の外を見ると冬の気配がしている。
戦争の後処理で多忙な毎日を送っていた為で、月日が経つのは早く、俺はもうすぐ3才になる……。
大きな会議室では後継者会議が始まっており、あらゆる議題を討議してきたのだけれど、いよいよガルドール王の処罰に関しての話が始まっている。
誰もがガルドール王を極刑にすべきだと各国の法的根拠を話しており、俺の予想通りの展開になっている。
ふと悲しみの感情を感じたのでその方向にいる人物を見ると、この国で唯一の王族であるスノートラ王女だった。
まだ幼い王女は聡明だと言っても、後継者会議に参加するのは初めてなので、進行役には他の国の王子が代役で話を進めている。
ガルドール王が悪人だったとはいえ、スノートラ王女にとっては残された唯一の肉親だ。
賛成多数でガルドール王の極刑が決まると、スノートラ王女の手が小刻みに震えているのが分かった。
後継者会議の後で、どうやって王女を慰めて良いのか分からないけれど、あれから同じ屋根の下に住んでいるので何か話しかけないと……。
もっとも、ここは城塞都市の内部にある城なので、多くの人が住んでいるのだけれど……。
でも王女は王族なので、他の人達は親身になって話をしてはくれない。
俺も一国の王になって判ったのだけれど、貴族や平民の人達は俺に優しく話しかけて来るけれど、友達としては話さない。
つまり、礼儀正しく接してはくれるのだけれどある意味、上下関係の壁を超えて友達として接してくれないという事。
ここに居る後継者の人達は俺と同じ王族なので友達として俺に接してくれ、助言などは親しみを込めて笑いを織り交ぜて話してくれる。
でもスノートラ王女は、初めて会った後継者会議の王族達に萎縮してしまっている。
しかも実の兄が魔王と結託して、この大陸の覇者になろうとしていたので尚更だ!
俺1人だったらスノートラ王女を慰めるには荷が重いのだけれど、幸いな事に今回はムルマルム国の第1王子であるエイキンスキャルディ王子と一緒に、ヴァール姉ちゃんも同行している。
更にヴァール姉ちゃんは、初夏に生まれた女の子のヴォルムも連れて来おり、とっ〜〜〜〜ても可愛い赤ちゃん。
俺にとっては姪になり、目に入れても痛く無いほど。
後継者会議の人達と昼食を共にしたのだけれど、夜はヴァール姉ちゃんの家族と久し振りに一緒に食事をする予定で、スノートラ王女も招待している。
ヴァール姉ちゃんとスノートラ王はお互いに命力絆で繋がっているので、親友とはいかないまでも、それに近い関係を築いている。
ガルドール王が極刑になるのを予測していたので、予めスノートラ王女を慰める為にヴァール姉ちゃんの家族に内々に協力を頼んだという訳だ。
姉ちゃんも俺と同じ様にスノートラ王女を心配しており、喜んで身内の夕食に王女を招待してくれる事を快く承諾してくれた。
◇
「ご招待、ありがとうございます」
夕方になってスノートラ王女が部屋に入って来た。
既に正式な挨拶は数日前に交わしてあるので、簡単な挨拶だけしてヴァール姉ちゃんが言う。
「お料理は私の手作りなのよ。
母から教わった料理で、今夜の料理に是非スノーにも食べて頂こうってトルムルが言ったの。
もっと肉を使った高価な料理も出来るんだけれど、今回はトルムルの大好物で、そば粉を使った水団よ」
姉ちゃん達はスノートラ王女を、親しみを込めてニックネームであるスノーと呼んでいる。
俺は王女よりも年下なので、少し言いにくい……。
姉ちゃん達が作る料理は母ちゃんが姉ちゃんに教えた料理で、素朴だけれど飽きがこない美味しさでどれも俺のお気に入り。
しかも今回のそば粉の水団は、前の世界でよく食べていたそばを思い出し、なおかつ美味しいから俺の大好物になった。
それに、久しぶりにヴァール姉ちゃんの手料理が食べれるので楽しみしていたし。
食事が始まってスノートラ王女も気に入ってくれたみたいで、ヴァール姉ちゃんに王女は言う。
「そば粉の水団は初めてですが、とっても美味しいです。
もしよかったら、私に作り方を教えてくれませんか?」
「気に入ってもらえて嬉しいわ。
滞在期間がまだあるので、これを含めて色々な料理が教えましょうか?」
それを聞いたスノートラ王女は、目を輝かせて姉ちゃんに言う。
「本当ですか?
トルムル王の好きな食べ物を作って、王に喜んでもらいたいのです。
今まで色々気を使って頂いていたのですが、恩返しが出来なくてずっと悩んでいたのです。
宜しくお願いします」
え……?
実の兄であるガルドール王の事で悩んでいたのでは……?
スノートラ王女が予想外の事で悩んでいたので、思わず王女を見つめていた俺。
俺が見つめているのが判ると、王女の頬が急速にピンク色に染まって行く……。
ウールやヤールンサクサ王女とは違った可愛さがあるスノートラ王女……。
頬を染めて恥ずかしそうにする仕草は、俺の心に直接突き刺さるんですが……?
俺とスノートラ王女を交互に見ていたヴァール姉ちゃんが、微笑んで王女に言う。
「そういう事なのね。
ライバルはウールとヤールンサクサ王女だけれど、スノーにもチャンスはあるわよ。
それに、第二王妃も良いかもしれないわね」
「私、トルムル王に気に入ってもらえる様に、王の好物料理を作るのを頑張ります」
え……?
ヴァール姉ちゃんとスノートラ王女は……、なんて言ったの……?
余りにも予想外の言葉を交わしていたので、頭の中に入ってこないんですが?
姉ちゃんはウールとヤールンサクサ王女の名前を出して、ライバルって言った気がするんですが……。
そしてそれに答えて、スノートラ王女が頑張るって言った様な……。
まさか……、スノートラ王女も俺に……。
こ、これって……、悪い気がしないどころか、嬉しいと思う気持ちが心の中で大きくなっていく様な感覚に襲われている俺……。
それに、初めて聞く第二王妃って何なの……?
読んでくれてありがとうございます。
今回長すぎたので2回に分割しました。
一時間後ぐらいに後半を投稿します。