ガルドール王の最後
「ツナミだ〜〜!」
「に、逃げろ〜!」
「すぐそこまで来ているから間に合わないわ!
でも……、トルムル王が先程と同じ様に動いてないから大丈夫よ!」
近くにいた若い女性隊員が俺の方を見てそう言うと、近くまでツナミが近付いているのに部隊は落ち着きを取り戻す。
俺を信用しているみたいで、とっても嬉しい。
両横に居るアンゲイア司令官とウールも同じ様に俺を信じているみたいで、不動の姿勢を崩していない。
これから俺が何をするのか2人とも興味深々で、ツナミに注視している。
ツナミを確認してから今まで、このチャンスをどの様にしたら活かせるのか考えていたのでそれを実行する事に。
部隊の周りに魔法力を使って重力魔法を発動する。
ツナミが部隊に襲ってこない様にする為だ!
シュゥーーーーーーーーーーーー!
目に見えない重力の壁を部隊の周りに張り巡らすと、ツナミが襲って来た。
ゴォーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!
予想通り重力魔法の壁に阻まれて、ツナミは部隊には到達していない。
見る間に水位が急激に上がっており、遂には城塞都市の城壁を超え出した。
俺は重力魔法を操って、部隊から城壁までの階段を作り出す。
階段の下が水で満たされたのを確認すると、今度は絶対零度の魔法を魔法力を使って、部隊の周りと階段に発動する。
ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜。
ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜。
ヒュ〜〜〜〜〜〜〜〜。
銀色の大きな塊が複数、目標に向かって行く。
塊の通った後には、太陽の光を浴びて空気中の水分が凍って、ダイアモンドダストとなってキラキラと光り輝いている。
カッキィィ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!
絶対零度の魔法は、物質を―273、15度まで急速に冷やして、全ての原子振動を停止させる。
これ以下の温度は存在しないので、一瞬の内に凍った。
重力魔法を止めると城壁まで氷の階段が出来上がっており、総攻撃の準備ができたのだけれど、もう一つ必要だ。
氷の階段は滑り易く、武装している部隊は鋭い剣とか槍、矢じりなどを持っているので滑って転んだら怪我をするかもしれない。
それに、動きが遅くなるので格好の標的になりかねない。
今度は部隊の地面が砂地なのを利用して、風の魔法を使って砂を階段の全面に撒く事に。
フューーーーーーーー!
魔法を発動すると突風が吹き荒れて、地面の砂を巻き上げ、階段に撒いていく。
周りの人達は呆気に囚われて、氷の階段を眺めているだけだった。
横に居たアンゲイア司令官だけは違っており、冷静に階段を見ながら俺に言う。
「この階段を利用して、総攻撃を開始してもよろしいでしょうか?」
さすがアンゲイア司令官で、俺が何も言わないのに階段を見ただけで真意が伝わったみたい。
「お願いします」
俺がそう言うと、アンゲイア司令官は笑顔になって言う。
「分かりました。
総攻撃を開始します」
そう言ったアンゲイア司令官は部隊に総攻撃の指令を出す。
真っ先に俺は、重力魔法で浮かんで部隊の先頭に行く。
ガルドール王が何かしないか見張る為に。
城壁の上部に行くとツナミが城壁を超えていたのだけれど、城塞都市内部に溢れた水も凍っており、ツナミから逃げ遅れた魔物達が氷漬けになっていた……。
城壁の内部から外に泳いで逃げようとしたみたいで、俺の絶対零度の魔法で凍ったみたい。
予定外の戦果で、階段を上がって来た隊員達もそれを見て感心した目付きで俺を見ている。
「流石トルムル王だ!」
「ツナミが襲って来た僅かな時間で、ここまで計算していたなんて神の技を見ている様だわ」
……。
これは俺も計算外だったけれど、戦意を高める為には本当の事は言わない方が良いよな……?
更に城壁から町までは、なだらかな氷の傾斜になっており、まるで氷の滑り台みたい……。
城壁を超えた部隊は、次々と氷の滑り台を滑って町に下りて行く。
町の中に居た魔物達は少ないみたいで、殆ど抵抗なく味方が制圧する範囲を広げている。
城壁に殆どの魔物達が居たみたいで、これで勝敗は殆ど決まったと思った途端、ガルドール王が再び増悪に満ちた魔法力を俺の方にだけ向けて来るのが判った。
条件反射で盾を魔法で出していた俺。
次の瞬間には超高温の火炎魔法が襲って来た!
ゴォーーーーーーーーー!
でも、テゥーポーンの超超高温の猛火よりは劣っており、盾には耐火煉瓦のイメージも追加していたので何ら問題なく。
盾は小刻みに震えながら耐えている……。
しばらくすると猛火は収まり、ガルドール王からは嫉妬にも似た感情が伝わって来る。
そして王の気配が、フッと消えた……。
もしかして逃げたのか……?
でも、城塞都市の周りには逃げられない様に、部隊を一定の間隔で配置しているので、猫でも逃げる事は不可能だ!
嫌な予感がしたので、重力魔法でガルドール王の居た上空に移動する。
神経を集中して王の気配を探ると、ゆっくりと移動しているのが分かったけれど、その場所は何もない道路だ!
おそらく、いざという時の為に城塞都市から外に出る抜け穴があって、そこをガルドール王は移動しているみたい。
城壁を超えて、更に移動している王。
俺はガルドール王の気配を頼りに、上空からどこまでも追跡する。
ふと前方を見ると水車小屋が目に入ってきて、その方向に王は進んでいるみたいだった。
ガルドール王が水車小屋に到達してしばらくすると、建物の中から王が怒りの形相で出てきた。
そして王は、氷で覆われた城壁の現状を見て肩を落とした。
ガルドール王からは、魔法力は殆ど感じられず、どうやら使い果たしたみたい。
ここで王を殺すのは簡単なのだけれど、王位継承者会議に相談するのが良いと判断。
間違いなく王が死刑になるのは間違いないのだけれど、人間世界の団結を高める為には必要な手順だと思ったから。
俺1人が王を殺すのを決断して実行したら、今度は俺が世界の覇者になる様で……、少し怖い。
今の俺は強大な魔法力と、各国の軍を手足の如く動かせる立場なので尚更だ!
と言う訳で、ガルドール王には石になってもらうので優しく話しかける。
「良い天気ですね。
散歩は終わりましたか?」
上空から突然俺が話しかけたので、狼狽するガルドール王。
「お、お前はトルムル王……。
何故ここに儂がいると判ったのだ!?」
あれだけの強い気配を撒き散らしながら地下道を移動するんだもの、間違うはずもないよな。
でも、気配を敏感に感じ取れるのは俺の秘密なので話したくない……。
「傲然ですよ、偶然」
「おのれーー!」
そう言ったガルドール王は、持っていた弓矢を使って俺に一矢射る。
防御魔法があるから一矢ぐらいでは問題ないので無視して、俺は王を石にする事に。
ピッカァーーーー!
グサァ!
え……、グサァって……。
俺の防具に矢が刺さっている……?
な、何で……?
ガルドール王は俺の石化魔法で石になったのだけれど、防具に矢が一本刺さっている……。
でも防具に矢が刺さっているだけで、肉体を傷付けるまで深く矢が通らなかったのでホッとしたけれど、少しだけ冷や汗が出た……。
油断大敵って言うけれど、まさかガルドール王が瞬間的に二本の矢を射るとは思ってもいなかったよ。
一本だけの矢だったら防御魔法が発動して問題なかったのだけれど……。
ヴァール姉ちゃんは瞬間的に三本の矢を射る事が出来るのだけれど、まさか魔法使いの王が矢の名手だとは、本当に予想外……。
俺の体が急速に大きくなって行くので、その都度、防具を作ってくれた父ちゃんに感謝。
軽くて使いごごちが良いので愛用しているけれど、こんな至近距離で矢が通らないって、父ちゃんて本当に凄いよな。
石になったガルドール王を、重力魔法を使って城塞都市の広場の中央に移動して置くと、又しても大歓声が巻き起こる。
部隊からは賞賛の声が多数聴こえてくるけれど、皆んなの協力で今回も勝利を収めたと思う。
ふと、親しみのある気配の方を見ると、ウールが俺の方に飛んで来る。
弾ける様な、満面の笑顔で!
読んでくれてありがとうございます。
やっとガルドール王を捕まえる事が出来ました。めでたしめでたし。
次話は、「スノートラ王女の悲しみ」を予定しています。