城塞都市
ウールに「バーカ」と言われた日から5日が過ぎた。
何でウールがそう言ったのか未だに解らないけれど、以前よりも俺に笑顔を見せてくれる……。
それに、前にも増して一緒にいる時間が多くなった。
勿論、作戦上一緒にいる時も多いのだけれど、ウールが俺の為に食事を作ってくれる回数が増えて、一緒に食べているから。
ウールは命力絆の影響で、身体能力が格段に上がっており、大人顔負けの筋力と機敏さを持ってる。
見かけは2才児の超可愛い女の子だけれど、戦闘訓練で大人を投げ飛ばすのは朝飯前……。
俺には到底まね出来ないけれど、ウールはいともたやすく大人でも息の上がる戦闘訓練をこなしている。
更に、ハヤブサの妖精と友達の儀式をしているので、空中移動が目にも留まらない速さで飛ぶことが出来る。
ウールの得意戦法は、高速接近と離脱を繰り返して魔法攻撃を繰り返す事。
魔法力は俺の半分ぐらいはあるみたいで、大人の魔法使いの5、6人分は優に超えている。
勿論、姉ちゃん達もずば抜けて戦闘能力は高いのだけれど、同時期にみんな妊娠してしまった……、ので戦闘には参加出来ない。
現状では、俺に次いでウールの戦闘能力が2番目に高い。
ガルドール王が立てこもっている城塞都市に行くまでにあった出城は、ウールの活躍で難なく攻略出来た。
俺とメデゥーサは、魔物達を石にする事ができるのだけれど、向こうもそれを警戒して姿を現さない……。
出城を壊すのは俺の得意分野だけれど、奪った後の修復を考えると最少限度に壊すのを考えなければならないからだ。
ウールは空中を高速移動して、少しでも見えた魔物達に攻撃を繰り返して、それで上手くいっていた。
しかし、目の前にそびえ立つガルドール王が立て籠もっている巨大な城塞都市は、ウールでも攻略が難しい。
外壁が高く、外からだと中が殆ど見えない。
ウールの能力を使って城壁の中には入れるのだけれど、外からは王女が見えなくなるので、もし何かあったら助ける事も出来ない。
この戦いでウールを失うわけにはいかない。
ウールのお母さんである王妃様が悲しむし、俺も幼い王女を預かっている形になっているので責任を感じるからだ。
ここは屈指の城塞都市みたいで、降参してきた魔物達からの情報によると魔王城を参考にして再築城されたと言う。
アンゲイア司令官が俺に近付いて来て、真剣な顔で言う。
「このままでは城塞都市の攻略が難しく、こちらの被害が増すばかりです!」
朝から攻撃を開始しているのだけれど、城壁が頑丈過ぎて壊す事が出来ないでいる。
城壁に有る小さな隙間から、こちらに魔法攻撃や弓矢で攻撃をしてくるので迂闊に近くには行けない。
ガルドール王との直接対決に備えて、魔法力を温存しておきたかったけれど、そうは言ってもいられない。
幸運な事に、強大な憎悪が高い塔の中程から感じるというのは、間違いなくガルドール王がそこに居るという事だ!
頭隠してシッポを隠さないみたいな……?
俺には人の気配を感じる能力が高いのだけれど、ガルドール王はそれを知らないみたいだ。
俺の胴体ぐらいある直径の魔矢は、魔王城攻略の為に開発した巨大な矢で、それを射る事に。
ガルドール王の防御魔法が発動して、致命傷にはならないにしても多少のダメージは負う筈……。
精神を集中して魔法力を使い、俺は巨大な魔矢を憎悪の中心に向かって行く様に魔法で発動した。
バシューーーーーーー!
ドッガァ〜〜〜〜ン!
頑丈な塔は魔矢で簡単に崩れて、瓦礫になったのがここからでも分かった。
周りの兵士達からは、歓喜の声が発せられている。
「おい見たか? あの巨大な矢を!」
「さすがトルムル王だわ!」
「矢だけで塔が崩壊するとは、信じられない……」
兵士の殆どは初めて巨大な魔矢を見たので、ビックリしたみたい。
この矢は魔王城を攻略する為に開発したので、その時まで秘密にしておきたかったんだけれど仕方ないよな。
でも、今回の実戦で思った以上の効果が出たので良かったよ。
あの大きな塔が、矢を1回放っただけなのに崩壊するとは……。
ガルドール王の気配を再び探ると、増悪から激しい痛みの感情に変わった。
けれどすぐにそれは収まり、前にも増して憎悪が瓦礫の近くから感じる。
強大な魔法力を感じたと思うと、城壁の外に岩石巨人が現れる……。
ズゥーーーーーーーーーン!
ミノタウルスの姿をした岩石巨人は、こちらに向かって来る。
それを見た部隊の人達は攻撃を開始するのだけれど、表面の一部が剥がれるだけで、深いダメージを与えられない……。
俺が出せる岩石巨人の数倍もあり、一体だけだと負かされると判断する。
直ぐに岩石巨人を5体、魔法力を使って魔法で作り出す。
ズゥーン!
ズゥーン!
ズゥーン!
ズゥーン!
ズゥーン!
アトラ姉ちゃん似の岩石巨人だったら1体でも十分戦えるのに、仕方ないよな……。
姉ちゃんとの約束で、姉ちゃん似の岩石巨人はもう出さないと。
岩石巨人は、最も恐怖を感じる人や魔物などが現れるのだけれど、俺が姉ちゃん似の岩石巨人を出していたのは、生まれて間もない頃に姉ちゃんによって窒息死しそうになったからだ。
ガルドール王の岩石巨人はミノタウルスなので、おそらく両親を殺した魔物なのだろう。
王にとって魔物が敵だった筈なのに、今では怒涛を組んで人間界の覇者になろうとしている。
敵の敵は味方みたいな……?
俺には理解できないけれど、憎悪に取り憑かれた人の心理は今の俺では計りかねない。
おっと、ミノタウルスの岩石巨人がそこまで迫って来ているので、戦いに集中しないとな。
俺は5体の岩石巨人を操って、手足をそれぞれ攻撃する様にした。
俺に似ている岩石巨人達は、それぞれの箇所にしがみ付き、拳で攻撃を開始。
4体は手足に攻撃をして、残りの一体は頭に這い上り、拳で攻撃!
ミノタウルスに、5人の2才児が戦をしている構図だけれど、思った以上に善戦している。
ミノタウルスの手足に俺似の岩石巨人がそれぞれしがみ付いているので、身動きが取れなくなっている。
俺似の岩石巨人が猛攻を繰り返す内に、ミノタウルス岩石巨人の右足が破壊され地面に倒れていく……。
ズゥズゥ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ン!!!!!
土煙が上がり、ミノタウルス似の岩石巨人が地面に横たわると、兵士達から大歓声が聞こえてくる。
でも地面に倒しただけなので、戦いはこれからだ。
土煙が収まってよく見ると、倒れた時にミノタウルスの岩石巨人の頭が地面に直撃して粉々になっみたい。
岩石巨が倒れたぐらいでは頭が粉々にならないのだけれど、俺似の岩石巨人の拳による攻撃が効いていたみたいだ!
でも俺の岩石巨人達も、拳による攻撃をしていたので手がボロボロになっているんですけれど……。
拳による攻撃力が低下したので、今度はジャンプを繰り返して攻撃を再開。
ミノタウルス似の岩石巨人が起き上がろうとするのを、ジャンプ攻撃を繰り返して阻止する。
起き上がるのが無理だと悟ると、ミノタウルス岩石巨人は手足を使って攻撃をしてくる。
ガラガラ、ガラァー!
ミノタウルス岩石巨人の右手が粉々になっていくのを確認。
しかし、向こうもおとなしくするはずもなく、時々俺似の岩石巨人に手足による攻撃が命中しており、その都度、手足がもぎ取られていくんですが……。
お互いに手足を攻撃を繰り返していく内に、遂にミノタウルス岩石巨人の手足を完全に破壊する事に成功する。
でも、俺似の岩石巨人も一体しか立っていない……。
それも、今にも崩壊しそうな状態。
シュゥゥーーーー!
ミノタウルス岩石巨人は、手足をもぎ取られて攻撃出来なくなったので霧散して行く。
そこに残っているのは、やっと立っている俺似の岩石巨人だったけれど、2才児がミノタウルスに勝った様に見るんですが……?
「「「「「「「「「ワァーーーーーーーーオォ!!!!」」」」」」」」」
それを見た部隊からは、大歓声が起こっている。
横に居たウールは、満面の笑みを俺に向けて言う。
「さすが、トルムルだね」
ウールの前で、かっこいい所を見せれて本当に良かったよ。
それに、久し振りにウールの超、超可愛い満面の笑みも見られたし。
しかし、ガルドール王との戦いは、これからが本番だ!
読んでくれてありがとうございます。
トルムルとウールが再び仲良くなって、作者としても一安心です。
ウールが「バーカ」言った意味を、トルムルは理解出来なかったですが……。
次話もお楽しみに!