ツワリ
テューポーンとの戦いが終わってペガサスに乗って帰る途中、姉ちゃん達とヒミン王女、そしてスノートラ王女とウールに戦勝の報告をする。
テューポーンからの猛火を防いだ事や、岩石巨人を魔法で出してヘビ達を投げ飛ばした事などを。
その後の話がすぐに出てこなくて、少し間が空いたらアトラ姉ちゃんが聞いてくる。
『今回はトルムルでも危ないと思っていたけれど、勝ってよかったよ。
それで、最後はどうやってテューポーンを倒したんだい……?』
本当の事は言えないよな……。
テューポーンの耳掃除をしたら、いつのまにか勝っていましたなんて。
ウールも聞いているので、かっこいい所をかい摘んで言わないと……。
『お腹が空いたので、ウールの作ってくれたオニギリを食べる為に、安全に食べれる場所を探していたのです。
それで見つけたのが、家ほどもある大きな入り口のテューポーンの耳の中。
すぐにテューポーンの耳の中に入って、腰掛けるのに丁度良い岩があったので、そこで座ってオニギリを食べました。
食べた後に耳の中から攻撃をしたら、あまりの痛さにテューポーンは降参したのです。
ウールが作ってくれたオニギリを安全に食べる場所が、テューポーンの最大の弱点だったのです。
ウール、オニギリを作ってくれてありがとう』
それを聞いたウールが、何か言いたそうな……?
『ど、どういたしまして……。
お役に立てて、う、嬉しいです』
突然ウールの名前を出したからか、しどろもどろになっているよ。
とにかく、出撃する時の怒った感情がウールから伝わってこなかったので良しとしよう。
アトラ姉ちゃんが少し驚いて言う。
「へー、オニギリが今回の勝利のきっかけを作ったなんて……。
歴史に残る戦いで、オニギリが勝利に関係あるなんて、みんな聞いたらビックリするだろうな。
この戦いはバラードとなって語り継がれ、後世の人達がオニギリを食べる時は、テューポーンとトルムルの戦いを思い浮かべるだろうな』
え〜〜!?
バ、バラードで、今回の戦いが後世に残るんですか?
よ、良かった〜〜。
耳掃除していたら、テューポーンに勝ったって後世に残るところだったよ〜〜。
『それで今後の戦いは、ガルドール王が立て籠もっている城なんだろう。
強敵だけれど、トルムルの勝利を信じているよ』
そう言ってアトラ姉ちゃんは、気分が悪いので命力絆の通信を自ら閉ざした。
どうやら姉ちゃんのツワリがひどいらしく、食事も喉を通らないんだとか……。
エイル姉ちゃんが心配な声で言いはじめる。
「私達姉妹の中で、アトラ姉さんだけがツワリがひどいのよ。
母さんもトルムルがお腹の中にいた時、同じ様にツワリで苦しんでいたわ。
二人とも魔法剣士だからなのかな……?
ツワリがなぜ起こるのかトルムルは知っているの?
アトラ姉さん、食事もできないぐらいとっても苦しんでいるのよ。
食べようとするだけで吐き気がするんだって」
ツ、ツワリですか……?
新しい生命が子宮の中で育っているから、その為、母体が急激な変化についていけなくてツワリになることぐらいしか知らない……。
それに、母ちゃんもツワリで苦しんでいたとは初めて聞いたよ。
母ちゃんは天国にいるから何もしてあげられないけれど、アトラ姉ちゃんには、ツワリの症状を緩和して楽にしてあげれると良いのだけれど……。
もし魔法を使うと、どの様な作用が胎児に後から現れるのか分からないので今回は使えない……。
ツワリは、お腹の中の子供の為に無理に何かを食べようとするので吐き気がひどくなると聞いた事がある。
そして吐き気を少なくするには、ごく少量を回数を増やして食べると吐き気が少なって食べれると、前の世界で覚えている少ない情報の中の1つだ。
アトラ姉ちゃんにこの方法が当てはまるのか分からないけれど、一応言ってみようかな……?
姉ちゃん大食いだから、一度に沢山食べ過ぎている気がするので。
他の姉ちゃん達の会話が終わって、アトラ姉ちゃんにだけ命力絆を使って再び連絡を入れる。
そして、これらの事を姉ちゃんに言った。
『トルムルの言う通り、一度に沢山食べるから吐き気ひどくなるのかもしれない。
近くにビスコッティがあるから、一口だけ食べてみるよ』
そう言ったアトラ姉ちゃんは、一口だけビスコッティを食べたみたい。
『不思議だよ……。
一口だけだったら吐き気がしない。
今までは食べなければならないと思っていたから、無理に沢山食べていたからな。
こんな簡単な方法で解決するなんて驚きだよ。
後は時間をおいて、また一口食べれば良いんだよな?
まさか妊娠に関して、トルムルから的確なアドバイスをもらえるとは夢にも思わなかったよ。
これから妊娠に関して何かあったら相談するかもしれないけれど、宜しくなトルムル』
……。
たまたま、うる覚えの知識が当てはまっただけで、妊娠に関しての知識って殆ど俺……、持ってないんですけれど……?
でも、母ちゃんの意思を継いで大賢者になりたいので、そちらの方面も勉強しないといけないよな。
魔石に魔法を付与するのは父ちゃんから全て教わったので、今度は医療に関しての知識を増やさないと、医療現場で対処出来なくなる。
魔王を倒すのも重要だけれど、大賢者を目指すんだったら、俺の医療知識をレベルアップしないと。
それに、家に帰ったら手を洗う習慣の無いこの世界では、衛生面では改善の余地が多くある。
新生児の死亡率が高いのは、衛生面が悪いのが原因だと思うし……。
ふと気がつくと、眼下では多くの人が俺に手を振っている。
いつのまにか俺達は戻って来たみたい。
「みなさん、トルムル王がテューポーンに勝ったので大喜びしていますよ」
ペガサスが地上に降りながら俺にそう言った。
多くの人が笑顔で手を振って、俺の帰りを喜んでいる。
魔法で聴力を上げているので、彼らの歓喜の声が聞こえてくる。
「最強の魔物を倒すなんて、流石トルムル王!」
「トルムル王、最高っす!」
「良かったわ、無事に帰られて」
「トルムル王って、本当に可愛いわ〜〜」
か、可愛いって……。
2才だから仕方ないけれど、何才になったらカッコイイと言われるんだろうか……?
地上に降りるとアンゲイア司令官が笑顔で近寄って挨拶をするのだけれど、その後ろの方にウールの姿が……。
怒っては無い様だけれど、笑顔でも無い。
アンゲイア司令官との挨拶を終えると、ウールの方に歩いて行く。
朝見た時には髪飾りをしていなかったのに、今はしているって何か意味があるのかな……?
それに、可愛い服と髪飾りがマッチしていて、とても似合っている。
ウールは俺を、上目遣いで言う。
「お疲れ様でした」
感情を押し殺した様な言い方をするウール……。
ウールの心理が解らないけれど、今の俺の気持ちを素直に言った方が良いよな。
「髪飾り、とっても似合っていますよ」
ウールはそれを聞いて少し目線が動き、悪戯っぽい目になった。
「バーカ」
俺にだけ聞こえる様な小さな声でそう言ったウールは、踵を返して建物の中に入って行くんですけれど……。
俺……、ウールを怒らしたの……?
褒めたのに、何で「バーカ」って言われるの?
ウールが何故そう言ったのか、理解に苦しむ俺……。
誰か、教えて〜〜〜〜〜〜!!
読んでくれてありがとうございます。
ウール王女から言われた「バーカ」はどんな意味があるのでしょうか……?
女性心理は複雑なので、作者にもよく分かりません……。