最強の魔物、テューポーン
ガルドール王の国に進撃を開始して、既に25日が過ぎる。
地方都市を占領した後は、国民から愛されているスノートラ王女が率先して治安の維持に尽力を尽くしてくれたので、さしたる混乱が起きていなかった。
それよりも、ガルドール王対スノートラ王女の内乱の様相を呈してきたので、日増しに俺たちの味方が増えてきて戦いやすくなる。
スノートラ王女は7才にも関わらず聡明で、活発にあらゆる事をこなしていた。
最も、俺が瀕死の王女を命力絆で救ったので、以前よりも体力が劇的に増えたから激務にも耐えられている。
でも、王女を見ていると義務としてでは無く、心底この国の民を心配しているからみたいだ。
生まれながらにして王女だったので、それが自然体として表面に出て行動に移しているみたい。
更に、姉ちゃん達やヒミン王女、それにウール王女に何かあると相談しているみたいで、迷う事なく王女としての務めを見事にこなしていた。
そんな日々の朝、スノートラ王女とウールと同じ食卓を囲んだ。
朝食のパンには、前の世界でお爺ちゃんの経営していたパン屋でバイトをしていたので、クロワッサンの生地の上にカスタードクリームをたっぷりと使った菓子パンを思い出して作ってみた。
スノートラ王女とウールは一口食べて驚きの表情をする。
そして、スノートラ王女が光輝く様なステキな笑顔で俺に言う。
「このカスタードクリームもトルムル王が考案したのですか?
クロワッサンとビスコッティも画期的なアイデアで、私もお気に入りなったのですが、これはそれを上回る美味しさです!」
ウールも気に入ったみたいで、珍しく夢中で食べている。
俺も懐かしい菓子パンを食べながら、今後の事を思い浮かべる。
地方都市の制圧がほぼ終わったので、いよいよ明後日ガルドール王のいる王都に行く事に決まったのだけれど、今回の戦いで最大の問題と直面する事になる。
それは、ガルドール王はオレと同じく魔法門が大きく開かれており、魔法力が劇的に増えている事だ!
元賢者のリトゥルの情報によると、両親が魔物に殺されたので、それで急激に魔法門が大きく開かれたと。
俺の場合は母ちゃんが俺を生んですぐに亡くなったから、理不尽を強く感じて急激に魔法門が開かれた。
どちらも親が亡くなったのがキッカケ。
そう考えていると突然、血相を変えているモージル妖精女王が現れる。
『大変です、トルムル様!
ヒドラの部隊が、壊滅的攻撃を受けました!』
ブゥー〜〜〜!
俺はそれを聞いて思わず、口の中にあったカスタードクリームクロワッサンをウールの顔に直に吐いてしまう……。
王女は俺を睨みつけると、顔を拭きながら部屋の出口に重力魔法で移動する。
そして出て行く時に、俺の方を振り向いて言う。
「トルムル、大っ嫌い!」
そう言ってウールは出て行った。
ウールに嫌われてしまった……。
カスタードクリームクロワッサンを飲み込む直前だったので、モージル妖精女王の報告に思わずビックリして吐いてしまったのだけれど……。
そ、それよりも、ヒドラ達だ!
あの、右翼に展開していた最も強いヒドラ達が……?
とても信じられない……。
「詳しい報告をおねがいします」
『テューポーンが現れたのです。
神々にも匹敵されるその圧倒的な戦闘力で、ヒドラ達は敗走を余儀なくされました』
テューポーンだって!
神々の系譜に繋がる最も強くて巨大な魔物。
しかも、ゴルゴーン姉妹のお父さんでもあり、俺が習得した石にする魔法が使えない相手……。
メデゥーサが言っていたけれど、親族には石にならない耐性があるのだとか。
ヴァール姉ちゃんがバラードで歌っていたのを思い出す。
『テューポーンは最も怖ろしい魔物。
山よりも大きくて、神に対峙できる火炎を吐く。
100匹のヘビが足となり、その姿は恐怖でしかない。
人間では太刀打ち出来ない魔物』
え〜〜と。
ジズやリバタリアンも相当大きかったけれど、それよりも大きいってどれくらい大きいのだろうか?
でも、ヴァール姉ちゃんが歌ったバラードを思い出しても、テューポーンを怖いと思わない俺って……?
怖いと思うよりも、戦いたいと思う方が遥かに強い。
今まで強い魔物を倒してきたので、少しは自信がついたのかな……?
それよりも、ウールにカスタードクリームクロワッサンを吐いてしまって、王女と会う方が怖いんですけれど……。
ウールの事を考え始めると、モージル妖精女王が言う。
『やはり、トルムル様でもテューポーンは倒せそうにないのでしょうか?
とても真剣に悩んでいるので……』
あ……。
悩んでいるのはウールの事なんだけれど、それは言えない……。
「大丈夫ですよ。
しょうさんはありますから」
『超高温の火炎を吐くヒドラでも、テゥーポーンの超超火炎の前では赤子も同然だったのに、トルムル様には勝算があるのですね。
流石です』
勝算が有ると言えば有るんだけれど、実際に使った事が無い魔法。
ブッツケ本番で使うしかないか……。
スノートラ王女が心配そうに俺の方を見ている。
王女はモージル妖精女王が見えないので、一連の会話の内容を知らない。
それに、突然俺がクリームカスタードクロワッサンをウールに吐いたので何事が起きたのかと思っている。
俺は、モージル妖精女王のもたらした情報を王女に教えた。
「伝説上最も巨大で、神々と同じ攻撃力を持ったテューポーンが現れたのですね。
トルムル王は多くの魔物達を今まで倒してきました。
でも、トルムル王が真剣に悩んでるのを拝見しまして、少し心配です……。
私はトルムル王が勝つ事を、心から信じています。
どうかご無事で帰られますように、ご武運をお祈りいたします」
……。
スノートラ王女も勘違いしているよ。
ウールの事を真剣に考えていただけで、テューポーンではないんだけど。
でも、それが言えない……。
「お心遣いありがとうございます。
朝食を食べ終わったら出撃したいと思います」
それから王女と2人で、食事を続けた。
王女は俺の気持ちが楽になる様な、楽しい話に話題をすぐに変えてくれる。
王女の優しさと機転の早さに助けれて、俺はリラックスして食事を楽しむ事ができたのだった。
読んでくれてありがとうございます。
最強の魔物、テューポーンよりもウール王女が怖いトルムルって、一体何考えているんでしょうか……?