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ガルドール王の妹

 ミルキーモスラが、カゴの中で蠢いている。

 数百匹は居そうだけれど、俺が食べる訳では無い。


 メデゥーサのヘビ達が、蛾の幼虫であるミルキーモスラが大好物なので朝食で出されたものだ。

 昔、俺は見るだけで吐き気がして、飲んだミルクをエイル姉ちゃんの胸の谷間に吐いた事があった。


 でも今は、ミルキーモスラをスープにしたら何とか吐き気を起こさずに美味しく頂ける。

 俺も少しは成長したと、ミルキーモスラのスープを啜りながら思った。


「トルムル王も手伝ってくれないか?

 メデゥーサだけだと、俺達が食べる番がなかなか回ってこないからさ」


 隣にいるメデゥーサの頭に居るニッキが、懇願する様に言う。

 メデゥーサ達姉妹は、必死になって頭の上にいるヘビ達にミルキーモスラを食べさしている。

 でも彼女達の手は2本なので、頭の上にいる50匹ぐらいのヘビ達に同時には配れない。


 俺は重力魔法で、全てのミルキーモスラをヘビ達の方に平等になる様に移動させる。

 重力魔法の使い手はいるけれど、多くの物を同時に違う場所に移動させられるのは、どうやら俺だけみたいだ。


 ヘビ達は大喜びして、一斉にミルキーモスラを美味しそうに丸呑みにする。

 ニッキが食べ終わると、満足そうに俺の方を見る。


「さすがトルムル王だね。

 いつもだと俺達の食事は時間が掛かっていたのに、一瞬で終わったよ。


 メデゥーサの頭から離れたら同時に俺達は食事ができるんだけれど、お行儀が悪いってメデゥーサが許してくれないんだ」


 ま……、同時に149匹のヘビ達がテーブルの上を動きながらだと、さすがに俺達は一緒に食事できないかな……?

 ヘビ達がメデゥーサ達の頭の上に居るから、今回も一緒に食事ができる。


 ふと、長いテーブルの反対側にいるヤールンサクサ王女を見ると気分が悪そう……。

 気絶しないだけマシかもしれないけれど、必死で耐えているって感じがしている。


 メデゥーサ達は今回の戦いではかなめになるので、ヤールンサクサ王女は彼女達を無視する訳にはいかないから同席している。

 王女は近くでヘビを見なければ気絶しないと明言したので、今朝の食事会になったのだけれど……。


 朝食会なのに、この国の王女が一口も食べていないのは、かなり我慢しているみたい。

 王女は笑顔だけれど、それは表面上だけだ……。


 そんな王女の、今にも倒れそうな表情を見て、庇ってあげたい気持ちになるんですけれど……。


 と、とにかく、今回の朝食会は特別な意味を持っている。

 食事が終わると、ガルドール王の国に俺達が進撃するからだ!


 地上の司令官にはアンゲイアに既に決まっており、メデゥーサ達を引き連れて街道を南進する。

 もちろん、ヒドラやベヒーモス達も引き連れて。


 俺とウール王女はペガサスに乗って先行して、見張りを見つけ次第、石にしていく。

 最近習得した魔法はメデゥーサと同じ能力で、俺の方を見た生き物は全て石に変える事が出来る。


 魔法力マジックパワーもあまり消費しないので、一日中だって使える。

 また、ウール王女の視力はハヤブサの妖精と友達の儀式をしているので、俺よりも更に遠くがハッキリと見えるので今回の任務にはうってつけ。


 たぶん、人間の中では遠くを見る能力は1番。

 王女はまだ成長期なので、これから更に能力を高めていきそう。


 可愛さも年々増えているし、俺としても王女を見ているだけで嬉しい。

 でも、俺が好意を寄せている2人の王女が同じ空間にいると、2人の間でカミナリをぶつけあう様な感情が行き来しているのを感じている。


 今朝もそれを感じた……。


 これは、前の世界で言う三角関係ではないかと最近思っている。

 俺は2才だけれど、まさか……、こんなに早く三角関係で悩むなんて……。


 ◇


「ぜんぐん、しんげきを開始!」


 俺の可愛い2才児の透き通る声で、全軍が進撃を開始する。

 国境の町まで来ている俺達は、遂にその時を迎えた。


 国境を超えると、俺とウール王女はペガサスに乗って大空に舞い上がって行く。

 今日は曇り空なので、ペガサスは敵の見張りから見つけにくい。


 胴体が白色なので、雲と見分けが殆どつかないからだ。

 それに、見張りの視力よりも俺とウール王女の視力の方がいいので、見つかる前に彼らを石に出来る。


 こうして敵側の見張りを石にし、隠れている魔物達は後から進撃して来たアンゲイア達に魔石に変わったか、降参して捕虜になって俺達は快進撃を続けた。


 夕焼けの太陽が見える頃に、地上に降りて来た俺達に伝令が近寄って来る。

 アンゲイア司令官が至急、俺に会いたいと。


 急いでアンゲイアの待っている家の中に入ると、人が大勢いて、祈る様にしていた。

 部屋の中にウール王女と共に通されると、ベッドに横たわっている幼い女の子がいる。


 周りには軍に従属している治療師が数名いたけれど、沈痛な表情を浮かべていた。

 俺達が部屋に入ってきたのに気が付いて、アンゲイアが近寄って来る。


「お疲れ様です、トルムル王。

 実は、ベッドに横たわっている子供はガルドール王の妹、スノートラ王女なのです。


 ガルドール王は、他の王族が自分の地位を奪うのではと疑心暗鬼になり、王族の暗殺を繰り返していたのです。

 それを察知したスノートラ王女の教育係ノーラは、いち早く城を抜け出して、身分を隠して逃げていたそうです。


 しかし、体が弱いスノートラ王女は逃亡生活に心身共に弱って、ベッドからでれないほどになってしまわれて……。

 私達がこの町を解放した事によって、王女の身分をノーラが私達に明かしたのですが、治療師が言うには明日の朝まで命が持てばいいのではと。


 王女はこの国では知らない人がいない程、国民に愛されています。

 何とか命だけでも救いたいのですが……」


 何と、ガルドール王は身内までも信用しなくなり殺していたのか……。

 こんな幼い妹までも殺そうとしていたなんて、残酷にも程がある!


 フヨ〜〜、フヨ〜〜。


 ベッドの近くに重力魔法で移動すると、透き通る様な色白で、6歳ぐらいの女の子が眠っていた。

 いきなり俺の心臓が早くなりだす。


 ヤールンサクサ王女やウール王女とは違ったタイプの可愛い王女で、何としても助けてあげたいと心から思った。

 ウール王女を助けた時の様に……。


 でもあの時って、ウールに一目惚れした感覚に襲われたんだけれど、今回も同じ様な気持ちが……。

 俺って変なのかな……?


 と、とにかく、早く治療しないとこの子が危険だ!


「分かりました。

 ボクとウール、そしてアンゲイア司令官以外の人は部屋の外に退出して下さい」


 彼等が退出したので、俺はアンゲイアに言う。


「スノートラ王女は何としても助けなければなりません。

 もしかしたら、この国の未来の女王になるかもしれないからです。


 ウールは知っているのですが、最上位のちゆ魔法を上回る魔法を僕は使えます。

 僕の寿命の一部を分け与え、患者の生命力を活発にするのです。


 これは僕の最高機密に属するので、他言無用にお願いします」


 アンゲイアは驚きすぎて、目を大きく見開いて完全に固まってしまう……。

 しかも、息をするのも忘れたみたい……。


 そんなに驚く事なのかな?

 アンゲイアは我に帰ったみたいで、真剣な眼差しで俺に言う。


「あの有名な、広域治癒魔法ゴールデンパウダーを上回る治癒魔法があるのですね。

 あれ以上の治癒魔法は存在しないと思っていたので、神にも等しい技を持っているトルムル王の偉大さを改めて再確認しました。


 更に、寿命を自ら分け与える王の心の広さに感銘し、息をするのを忘れていました。

 トルムル王、スノートラ王女を宜しくお願いします」


 あ……、やはりアンゲイアは息をしていなかったんだ……。

 彼女って、珍しい驚き方だよね。


 って、早くスノートラ王女を助けないと。




 俺は意識を集中して、スノートラ王女の体を活性化させるイメージを手の中で作る。

 俺の寿命を、少し分けるのも忘れずに。


 手の中でイメージができあがったので魔法を発動した。

 俺の手の中から、キラキラ光り輝く命の水みたいな透明なものが溢れ出した。


 そしてスノートラ王女の体の中に静かに入っていく。


 ふ〜〜。

 後は、慎重に見守るだけだ。


 そのまま辛抱強く見守っていると、少しの変化が見られた。

 顔色が、……少しだけ改善したのが分かった。


 色白だった頬が少しピンク色になっていく。

 可愛らしい小さな唇も、ピンク色に。


 でも、まだ気を緩めてはいけないと自分に言い聞かせる。


 少し経ってから、スノートラ王女の眼球が動くのが分かった。

 明らかに生命力が増している。


 王女の指が少し動いた。

 そしてついに、とても愛らしい瞼がゆっくりと開いていく。


 俺は枕元に行って、スノートラ王女のつぶらな瞳を見ながらいう。


「気分はいかがですか、スノートラ王女?

 僕はメデア国の王、トルムル」


 スノートラ王女は上半身だけ起き上がって、驚きの目で俺を見ている。


「貴方様が、かの有名なトルムル王なのですね。

 お会いできて、光栄に思います。


 それで……、私の体が、羽が生えた様に軽いのですが?

 もしかして、トルムル王が私に広域治癒魔法ゴールデンパウダーで治療をしてくださったのでしょうか?」


 目の中に吸い込まれる様な、キレイなスノートラ王女の瞳……。

 おっと、返事をしないと。


「この治療は、命力絆ライフフォースボンドと言い、生命力をかっせいかさせる、治療法なのです。

 そして僕を含めた、魂の姉弟きょうだい達がスノートラ王女と心で繋がりました。


 あなたは、もう1人ではありません。

 いつでも話す事のできる、魂の友達を紹介します」


 俺はそう言うと、命力絆ライフフォースボンドを使って、姉ちゃん達とヒミン王女達にスノートラ王女の事を話す。

 スノートラ王女も当然それを聞いており、最初は何故聞こえるのか困惑した表情だったけれど、次第に笑顔になって行く。


 そして俺の話が終わると、又しても姉ちゃん達は一斉に話し出す……。


『『『『『『『スノートラ王女、何かあったら相談に……。初めまして、スノートラ王女、それで……。ひでえ奴だなガルドール王は……。スノートラ王女に会うのが……。トルムルとスノートラ王女と一緒に温泉に……。マニュキア付けると、気分が……』』』』』』』


 一緒に、温泉って……、誰が言ったの……?

 と、とにかく、これだとスノートラ王女は混乱するだけだよ。


 でも、姉ちゃん達に挨拶を終えたスノートラ王女は、ウールと共に、とても楽しそうに笑顔で会話を楽しんでいる。

 そんな王女の笑顔で、俺も思わず微笑んでいた。


読んでくれてありがとうございます。


今回、文字数が多くなってしまいました……。

途中で切るのが難しかったので。


楽しんで頂けたら幸いです。

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