ヤールンサクサ王女
ヤールンサクサ王女が見送りに,ペガサスの居る馬屋まで来てくれた。
俺の髪の毛がいきなり増えて王女はビックリしたので、カツラを試作中だと説明したのだけれど……、少し疑っている。
でもヘビのニッキが頭にいるから、髪の毛が増えて見えるとは王女の前では言えない。
少し前に王女は、メデゥーサのヘビ達を見て気絶したからだ。
王女に嫌われたくないので真実は言えない……。
でも、王女を信じて全て言った方がいいのかと昨夜悩んだ。
王女は実質的に、この国の病弱な国王に変わり実権を握っている。
だから本当は今回の計画を言わなければならないのだけれど、俺は……、王女がまた気絶するのを恐れて言わない決断をした……。
ま、ヘビのニッキとの共同作戦は、今回限りなので問題は無いと思う……。
王女が俺に近寄って来る。
近くで見る王女は、いつも以上に可愛く見えるんですが……?
「ご武運を祈っています、トルムル王。
それで……、ペガサスの上に設置されている大きな筒は何なのでしょうか?
気になってしまって……。
もし宜しければ教えていただけないでしょうか?」
魔王の大陸から来た妖精達を石にするのだけれど、俺とウール王女は遠くの山にいるネズミが見えるぐらい視力がいい。
けれど、ニッキは遠くが見えないので俺達が見つけた妖精達を彼が石にできない。
直接ニッキが妖精を見る必要があるから、俺は望遠鏡を作った。
でも、誰が使用するのかは言えない……。
「これは、ぼうえんきょうといって、遠くがかくだいして見えます。
これを使って、こうはんいに妖精達を探そうと思うのです」
「これで……、遠くが拡大されて見えるのですか!?」
ヤールンサクサ王女はビックリして右手で口を押さえる。
前の世界では当たり前だった望遠鏡も、この世界では画期的なアイデアになる。
近くに居る王女の爪を見ると、俺が持ってきた試作のマニュキュアが塗られており、口紅の色と合ってとても可愛いく感じる。
それに合わせた様に薄化粧をしているみたいで、その為いつも以上に超〜〜可愛く見えたんだと納得。
王女って、化粧のセンスが良いよね。
「ぼうえんきょうをのぞいてみますか、ヤールンサクサ王女?
向こうの山を見ると、木が大きく見えますよ」
「はい、お願いします。
凄く興味があるので」
王女がそう言ったので、俺は重力魔法でペガサスの上に移動してあげる。
使い方を教えると、困惑した感情が王女からしてくる。
遠くの山に焦点を当てているので、木々が拡大して見えるはずなんだけれど……。
「山の木々が、かくだいして見えませんか?」
俺はそう言うと、王女は俺に振り向いて言う。
「言いにくいのですが……、向こうの山が……、更に遠くに見えるのです」
え〜〜!?
な、なんで……?
あ〜〜〜〜〜〜!!
逆に設置したんだ。
望遠鏡を反対から見ると、遠くの物が更に遠くに見える……。
機能だけ考えて作ったので、見た目はどっちから覗けばいいのか判らない……。
「僕が間違って、逆にせっちしたようです。
ちょっ、ちょっと待って下さい」
ここはカッコよくする場面だったのに、想定外で慌てる俺……。
すぐに望遠鏡を正常な方向で設置し直す。
ヤールンサクサ王女を見ると、弾ける様なステキな笑顔を俺に向けている。
でも、何で……?
「トルムル王も失敗する事があるので、少し安心しました。
神様みたいに完璧な方だと今まで思っていたので」
俺が失敗して、なんで王女が安心するの……?
しかも、以前よりも親近感がこもっている話し方になった気がするんですが?
ペガサスに俺は乗って、ヤールンサクサ王女に心に思っている事を素直に言う。
「マニュキュア、とっても似合っていますよ」
俺がそう言ったら、王女の頬がほんのりと赤くなった。
でも……。
そう言った途端に俺の前に座っているウールから、針の様な感情がチクチクと……、こちらに飛んで来るのは何故……?
「ありがとうございます。
トルムル王にそう言っていただけると嬉しいです」
こうしてヤールンサクサ王女との会話を終えると、俺達は大空に舞い上がって行った。
そして、魔王側の目にもなっている妖精を狩るために、俺達は敵陣地の奥深くに入って行く。
前回と違って、今回は姉ちゃん達にも報告をし渋々承諾をしてくれた。
敵陣地には近付かないという条件付きで……。
◇
「いたわ!
右側の山の上に!」
ウールが少し興奮した様に言う。
ウールの言った方を見ると、見慣れない妖精が遠くの山頂上空にいる。
ヘビのニッキには遠すぎて見えないので、早速、望遠鏡を妖精が見える位置に動かす。
望遠鏡で確認すると、ニッキに代わる。
「へー、ウール王女は凄いな!
あんなに遠くの山の上空に浮かんでいる、小さな妖精を見つけるなんて!」
そう言ったニッキはタイミングを見て、石になる光を放った。
妖精はなすすべも無く石になり、俺は重力魔法で回収する。
持ってきたカゴの中に、石になった妖精を厳重に包んで入れる。
妖精達は小さな体なので、ちょっとした衝撃で壊れる可能性があるので。
しかし、問題なのはこれからだ!
広範囲に探さなければならないので、ここからは分散して探す。
ペガサスとウール王女、それとニッキとモージル妖精女王が一緒にいてもらって、妖精が見つかったらニッキが石にする手筈。
そして俺は右側で、ハヤブサの妖精は左側に展開して広範囲に探し始める。
俺は鷹になって、怪しまれない様に変身する。
ハゲワシになると、返って魔王側に警戒心を抱かせるので。
しばらく飛んでいると、前方に敵の山城が見えてきた。
そしてそれを守るかの様に、上空に見慣れない妖精の姿も。
俺は命力絆を使って、ウールに連絡してニッキにこちらに来てもらおうとした。
けれど……、ふと懐かしい母ちゃんの言葉を思い出す。
『この世界はね、魔法が使えるのよ。
魔法は手の中でイメージできたことを、体内にある魔法力を使うことによって発動する。
そうすると、イメージと同じ事が起こるのよ』
そうだよ!
メデゥーサのヘビ達にしか出来ないと思っていたけれど、イメージができれば、俺でも妖精を石に変える事ができるはずだ!
何で今まで母ちゃんの言葉を俺は思い出さなかったんだろうか?
さっそく俺は向こうに見えている妖精を石に変えるイメージを開始する。
イメージが完了したので、妖精がこちらの方を見ているのを確認し、タイミングを見て体内にある魔法力を使って魔法を発動する。
ピカァー。
細い光が俺の目から出たと思うと、一瞬の内に妖精に届いて石になる。
石になった妖精は急速に地上に落ちて行くので、重力魔法で妖精を回収する。
石になった妖精を見て俺は、体の震えが抑えられなかった。
神々も恐れるメデゥーサの能力を俺は身に付けてしまった。
俺は……、人間の範疇を超えてしまったのだろうか……?
◇
結局俺達は、魔王から来た妖精達を214体を石にする事が出来た。
その中の88体は俺が石にした妖精達で、それを命力絆を使って姉ちゃん達とヒミン王女に報告をする。
神々も恐れるメデゥーサの石にできる能力を習得したので、俺を怖がるのではと少し心配しながら報告をした……。
報告を終えると、一斉に姉ちゃん達とヒミン王女が話し出す。
『『『『『『『『トルムル様は、神をも石にで……。誇らしいよ、弟に持って……。凄いな、これで戦争が早く終わる……。マニュキュアと同じくらいトルムルが好きで……。これで、怖いもの無し……。ね〜、いつになったら一緒に温泉……』』』』』』』』
お、温泉て……。
もう俺は2才なんだから、姉ちゃん達とは温泉に入りたくないんだけれど……。
それと……、マニュキュアと同じくらい好きって誰が言ったの……?
マニュキュアを気に入ってもらえて嬉しいんだけれど……?
って言うか、姉ちゃん達って俺がメデゥーサの能力を身に付けても全然怖がらない。
ウール王女とヤールンサクサ王女達も同じ様に怖がらなかったので、俺を心底信用してくれているのでとっても嬉しかった。
読んでくれてありがとうございます。