カモメが飛んだ
「トルムル王、もうすぐ着きますよ」
ペガサスに起こされて目を覚ますと、太陽が西の空に移動しており、もうすぐ夕方になるみたいだ。
予定通りの時間に着いたみたいで、改めてペガサスの飛行速度の速さに感心する。
「ありがとう、ペガサス。
ここの雲の中で待機していて下さい」
「了解しました。
くれぐれも無茶だけはやめて下さいよ。
トルムル王に何かあったら、怖い姉さん達から何言われるか分かりませんから」
怖い姉さん達……?
姉ちゃん達って、怖かったの……?
俺には優しいのだけれど、規律にうるさいのは間違いない。
もし今回の単独行動がバレると、姉ちゃん達から説教の嵐が来るのは火を見るよりも明らかだ!
そう考えると、身震いするぐらい怖いよな。
王様になっても、何かあれば王様ではなく弟として見て心配するから……。
「そうならないように、さいしんの注意をはらいますから、ペガサスは安心して下さい」
「約束して下さいよ。
トルムル王は、思い付きでとんでも無い事をして来たと伝説になっていますから」
……?
伝説……って……?
もう伝説になっているの?
まだ、2年と少ししか生きていないのに……。
それに、思い付きで行動してきた事は今まで一杯あったけれど、とんでもない事って……?
全ての戦闘が当てはまるような気がする……。
おっと、時間がないのでハゲワシに変身しますかね。
あ、でも……、ハゲワシに変身って、港では見かけない鳥だよな。
えーと、カモメかな?
大きさもオレが変身しても分からないぐらいの大きさだし、カモメなら港に沢山いるはず。
魔物にバレないように外見だけでなく、内面からカモメの様にならないと。
外見がカモメでも、気配でバレる可能性があるので。
魔法でオスのカモメになると、メスを探す雰囲気を内部から醸しだし、メスを呼ぶフェロモンも忘れずに追加する。
カモメのメスを探す為に港を飛んでいると、誰もが思うはず……、たぶん。
時限装置はペガサスに乗りながら既に完成しているので、12個の魔石を船にくっ付けるだけ。
時間も今日の真夜中にセットしてあるし、見つからない為に木の板に見えるようになっている。
ペガサスから離れて降下して行くと雲を突き抜けた。
眼下には外洋船の大きな船が50隻以上係留されており、モージル妖精女王達の報告通り太い縄でお互いを繋げているのが確認できる。
それに、船から船に移動できるように板を渡しており、魔物達が活発に船の上を行き来している。
半数の魔物はミノタウルスで、他の魔物達は今まで見たことが無い……。
ワニの顔をしている魔物もいれば、ゴブリンの数倍の大きさがありそうな魔物達までいる。
どう見ても強敵みたいで、普通の人間では太刀打ちできないレベル。
でも、幸いな事に上陸しても寝場所が少ないからなのか、殆どの魔物達が船上にいるみたいだ。
これだと俺の作戦はうまくいきそう。
カモメに変身しているので魔物達は俺に警戒心を抱かないんだけれど、カモメ達がざわついているんですが……?
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
どうもメスのカモメ達みたいで、俺に興味を示してこちらに大挙して飛んできている。
でも、何でこっちに来るの……?
あ、……。
内面からカモメになる様にしたからだ!
特に、メスを呼び込むフェロモンを出すイメージの魔法を使ったから強力に作用しているみたい。
でもこれは、好都合なのかな……?
魔物達には怪しまれないけれど、メスのカモメに追っかけられるのってモテ過ぎでは?
と、とにかくメスのカモメ達から逃げながら船に魔石を装着しないと……。
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
だんだんと数が増えてきているよう〜〜!
2個魔石を設置したけれど、フェロモンの効果って凄すぎない……。
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
まさか、カモメのメスに求愛を受けながら魔石を設置する事になるとは、少しだけ想定外……。
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
港中のメスのカモメが求愛しながら俺の後を飛んでいる……。
「おい見ろよあのカモメ、凄くモテているぜ」
「本当だ! 羨ましいな」
魔物達から疑われていないので良いのだけれど、これって羨ましい状況なの……?
あと1個で設置が終わるので、メスのカモメに捕まらないように飛ばないと……。
まさかこんな状況になるとは予想できなかったよ。
最後の魔石を設置すると、上空に向かって飛んで行く。
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
「ギャー、ギャー、ギャー、ギャー」
フェロモンが強力みたいで、上空にまでメスのカモメが付いて来ている……。
ペガサスが見えたので急いでそちらの方に移動する。
ペガサスは超〜〜驚いており、無数のカモメに取り囲まれて顔が恐怖で歪んでいる……?
俺がペガサスに乗ると、メスのカモメ達が求愛の目で俺を見ている……。
「ペガサス!
早くここから離脱してください」
「せ、背中に居るカモメはトルムル王なんですね。
でも、どうしてこんなにカモメが来たんですか!?」
……。
ペガサスにフェロモンの事を言っても分からないよな……。
「オスのカモメに変身したので、メスから求愛されているんです」
「メ、メスのカモメから求愛ですか……。
流石トルムル王ですね。カモメになっても女性にモテるなんて!」
え、それって……。
俺って女性にモテているの?
とにかくカモメ達から離れて一安心。
人間に戻ると、ヤールンサクサ王女の居る城にペガサスに乗って向かった。
ヤールンサクサ王女のいる城に着くと大歓迎される。
お土産のどら焼きとマニュキュアを、ヤールンサクサ王女に渡すと凄く喜んでくれた。
歓迎の食事会などを終えて就寝していると、真夜中に城が突然騒がしくなって行く。
ゴォーン、ゴォーン。
鐘が鳴り始め、緊急事態だと告げている。
魔法で聴力を上げているので、見張りの人達の声を聞く。
「とにかくあの光は、大火災だよ」
「あの方向には、港しか大きな町はないよ。
すると、港で火災が発生しているって事なのか?」
「とにかく異常だよこれは!
こんなに遠くに離れていても見えるって事は、港は壊滅状態に近いんじゃないのか?」
えーと……。
思っていた以上に、船での火災が発生したみたい。
作戦が成功したので一安心。
長旅と、メスのカモメに追われたので心身共に疲れている。
城が騒がしいにも関わず、再び眠気に襲われていった。
読んでくれてありがとうございます。
次話もお楽しみに。
って、毎回同じこと書いている気がする……。
次話は、元賢者の長リトゥルが……になる話です。
若い子が好きな彼は、若い子に化けているメデゥーサに近寄って行きますが……?