トルムル王のパレード
父ちゃんに、さっそく連絡をする。
といっても直接脳内に話しかける事に。
『トルムルです。
いま、じょうくうにいます。
これからとうさんを、ひきあげます。
じゅんびは、いいですか?』
『トルムルなのかい?
直接頭の中で声が聞こえて……、頭が混乱したよ。
いつでもいいけれど、一緒にいるラーズスヴィーズルはどうするんだい?』
あ……、そういえば父ちゃんの横には、ラーズスヴィーズルの気配がする。
父ちゃんの護衛を任されたみたいだけれど、おばさんに見える……。
彼が、こんなに女装が似合っているなんて知らなかったよ。
馬に乗っている女性の二人旅だから、魔王から狙われる心配はないんだ。
『とうさんだけ、ひきあげます。
わきみちにそれて、ひとのいないところに、いどうしてください』
父ちゃん達が脇道に移動したのを確認すると、父ちゃんを引き上げた。
目の前にいるのは、確かに父ちゃんなんだけれど、アトラ姉ちゃんとそっくり……、のお姉さん……?
しかも美人で、20代後半にしか見えないんですけれど……。
俺がジッと見ていたので、父ちゃんが笑いながら言う。
「この変装かい?
王妃様が、魔王の目を欺くために私に化粧をして下さったんだよ。
王妃様は化粧をするのが上手いよね」
っていうか、父ちゃんの顔立ちが良いので、美人に変装できるんだよ。
それにしても、驚いた〜〜。
ピザが残っていたので温め直して、父ちゃんは美味しそうに残りを平らげた。
夜中にペガサスが起きて父ちゃんを見ると、しばらく動かなかない。
俺以上に驚いたみたいで、父ちゃんを見て目が点になっていた……。
◇
翌日の朝になって、やっと城が見えてきた。
街道を西に移動していた人達は、俺の国に移住してくる人達だったみたい。
こんなに多くの人達が来てくれてとっても嬉しいんだけれど、食料の問題が……。
経済が活発になるのは良いのだけれど、この冬の食料供給に支障が出る気がする。
後で、宰相と話さないとな。
城に着くと、多くの人が出迎えてくれる。
「トルムル王、間に合って良かったです」
「トルムル王のパレード、楽しみにしています」
「トルムル王、旅はどうでしたか?」
トルムル王……。
みんなが俺の事をトルムル王と呼んでくれる。
少し妙な気持ちがするんだけれど、この人達の未来がかかっているから、しっかりとこの国を導かないとな。
アトラ姉ちゃんが近付いてきて、父ちゃんを見て固まった……。
ペガサス以上に驚いたみたいで、両手で口を押さえて、大きく目を見開いている……。
しばらくして、やっと話し出す姉ちゃん。
「え〜と……。
父さんが女装をしたら、私に似るんだね……」
姉ちゃん違う〜〜!
姉ちゃんが、父ちゃんに似ているんだよ!
って、心の中で思ったけれど、もうすぐパレードが始まるみたいなので、姉ちゃんに俺は言う。
「ねえさん、トウモロコシをバケツいっぱい、よういできますか。」
「トウモロコシ?
すぐに用意できるけれど、何に使うんだい?
もうすぐパレードが始まるんだけれど」
「こどもたちに、ポップコーンをくばるんです」
「子供達にポップコーンを配るって、一体どうやって?」
「それは、みてのおたのしみです」
「トルムルは時々、奇想天外な事を言い出すね。
とにかく、トウモロコシは用意するけれど、着替えをしないといけないからこの人達に付いて行って」
姉ちゃんの後ろには、若い女性が二人居た。
自己紹介を済ませると、俺は二人に付いて行って着替えをする。
鏡の前に立って、自分の姿に唖然とした……。
「とってもお似合いですよ、トルムル王」
この衣装はキンキラキンで、眩いほど。
金箔や銀箔を服に縫いこんであって、余りにも豪華なので俺には合わない気がするんですけれど?
でも……。
せっかく用意してくれたんだから、着ないと悪いよな……。
それに、マントが長くて俺の身長の数倍はあるんですけれど?
この衣装は、この国の王家に伝わる伝統衣装なので、断る選択肢は俺には無い……。
◇
パレードが始まる。
城の正門が開けられ、鼓笛隊が先頭になってパレードが進み出した。
鼓笛隊のリズミカルな音楽に合わせて、自由参加の形で色々な人達がパレードに参加している。
木こり、火消し、漁師などの専門職の人達もいれば、学園の子供達までも。
みんなこの日が来るのを楽しみにしていたみたいで、衣装に工夫を凝らしている。
派手なのから、奇抜な衣装まで。
俺は、ヒドラの背中に特別に作った椅子の上に座っている。
ヒドラは、1才の誕生日に一緒だったヒドラのドラドラ王だ。
ヒドラの中で最も巨大で、最も長生きをしている。
『トルムル王よ、準備はいいか?』
『じゅんびはできました。
おねがいします』
俺がそう言うと、ドラドラ王はユックリと歩き出した。
ズゥ〜〜ン、ズゥ〜〜ン、ズゥ〜〜ン、ズゥ〜〜ン。
城の正門を出ると、沿道には多くの人がパレードを見に集まって来ていた。
ドラドラが正門から出ると、集まって来た人達の歓声が更に大きくなっていく。
「トルムル王が、巨大なヒドラの背中に乗って手を振っているわ」
「キラキラの衣装が可愛いわね、トルムル王は」
「こんな巨大なヒドラが居るんだな〜〜。
この国に移住してきて良かったよ」
「この人形以上に可愛いわねトルムル王は」
「トルムル王〜〜、カワイイ〜〜!」
沿道に居る人達の歓喜が伝わってきて、俺としても嬉しい。
小さな子供達もパレードを見ているので、さっそくポップコーンを作って配る事に。
『マグマーマ、お願いします』
俺がそう言うと、ドラドラ王の横の首で、火炎を吐くマグマーマが返事をする。
『任せて、トルムル王』
そう言ったマグマーマは、巨大な火炎を空に向かって吐く。
ゴォォォ〜〜〜〜〜〜〜〜!!
沿道の人たちが、超〜〜驚いている。
マグマーマが巨大な火炎を吐く度に俺は、重力魔法でトウモロコシを火炎の中を通過させると。
ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン、ポン。
トウモロコシが弾けてポップコーンになり、それを子供達に重力魔法で送り届けはじめる。
子供達は空から振ってきたポップコーンをみて、最初は驚いていたけれど、美味しい食べ物だと大人が言うと夢中で食べ始める。
「これ、おいしいよ」
「おいちぃ〜〜」
「トルムルおうが、これをくれたんだね」
「トルムルおう、ありがとう」
こうして俺の、王様になる為の行事と儀式が執り行われた。
母ちゃん、俺……、王様になったんだ。
みんなの為に、これからも頑張るよ。
読んでくれて、ありがとうございます。
今回でこの章は終わりです。
次回から、新章になります。
セイレーンが東の国に攻めて来ないので、トルムルは不審に思い始めます。
今後とも、宜しくお願いします。