犯罪人達
「トルムル様、もうすぐ着きますので起きて下さい」
ヒミン王女に起こされ、気がつくとペガサスの背でうつ伏せになって寝ていたみたいで、とても気持ちの良い目覚め。
ペガサスの背ってとても暖かく、知らない間に寝ていたみたい……。
眼下を見ると、城の中にある馬房の前の広場は人だかりになっている。
エイル姉ちゃんが予め、ペガサスが来る事を知らせていたみたい。
ペガサスはどこに行っても人気者で、一目見ようと大勢の人達が集まって来る。
性格が温厚なペガサスは、希望者には気軽に彼らを乗せて空を飛んでいた。
しかし、今回はさすがに疲れたらしく、地上に降りると型通りの挨拶を済ませると、休ませて下さいと言って馬屋に直行した。
1日以上、空を駆けて来たので相当疲れたみたいだ。
でも、彼のおかげでこんなに早く東海岸に着いたし、背中で寝させてもらって、思っていたよりは疲れなかったので感謝。
ま……、1才の俺だから、ペガサスの背中でうつ伏せになって寝れたんだけれど、ヒミン王女は座ったままだったので相当疲れているみたいだ。
王女は明らかに寝不足で、目が眠そうにしている。
それもそのはずで、俺とウール王女が寝ていたので、ペガサスから落ちない様に見ていた筈だ。
ヒミン王女にも感謝。
ウール王女も俺と同じ様に寝ていたので、すこぶる元気。
いつもの笑顔で、俺としても安心できる。
「きゃー、トルムル様よ!」
「可愛い〜〜!」
「マスコット人形以上に可愛いわ、トルムル様は」
ん……?
ペガサス目当てにここに来ていた人達だけかと思ったら、俺目当ての人達もいるの……?
ここには一般市民の人達も集まって来ているみたいで、その中の若い子達が騒いでいるんですが……?
エイル姉ちゃんを見ると、申し訳なさそうに言う。
「魔物の襲撃で、一般市民の間で不安が広がっていたのよ。
賢者の長であるトルムルが実際にここに来てくれたのを、彼らがその目で見れば安心するだろうって考えて。
王子と相談して、一般市民にもここに来る許可を与えて彼らに来てもらったの。
これで、トルムルがここに居るのが国中に広まって、皆さん安心して過ごせるわ」
そうなんだ。
で……、マスコット人形って何……?
エイル姉ちゃんも、俺とそっくりな小さな人形をバッグに付けているんですけれど?
俺がその人形を見ていると、姉ちゃんが言う。
「あ、これ?
これは、トルムルのファンクラブの人達が、トルムル似の人形を作りたいと相談してきたので、苦労して出来上がった人形なのよ。
トルムルに似て、とっても可愛いでしょう?」
俺のファンクラブがあるの……?
う、嘘でしょう。
その人形は確かに可愛いんですけれど……。
何とも言えない感覚がするんですが?
驚いてエイル姉ちゃんを凝視すると、笑いながら姉ちゃんは言う。
「うふふ。
以前からトルムルのファンクラブは存在していて、世界中で広がっているわよ。
特に若い女の子達の間では、この人形を欲しがっている。
作っても、作っても、生産が間に合わないくらいなのよ」
マジですか?
全然……、知らなかった……。
それにしても……、俺に似た人形を女の子達は嬉しいのかな……?
まるで、有名人扱いなんですが……?
ある意味、俺は有名人であるのは間違いないけれど……。
エイル姉ちゃんがバッグの中から、俺に似た人形を取り出すとウール王女に渡す。
「はい、これ。
ウールに頼まれていた人形」
「ありがとうございます。
とっても、かわいいです」
ウール王女は人形を受け取ると、満面の笑顔で触りながら鑑賞……? している……?
ウール王女を見ると、恥ずかしそうに俺に向かって言う。
「これ、わたしのたからもの。
だいじにしますね」
え……?
俺に似た人形を持って、大事にするって……。
海よりも深〜〜い……、意味がある様な気がするんですが……?
「トルムル様〜〜、こっち向いて〜〜!!」
「ウールバルーン王女〜〜、可愛い〜〜」
ウール王女のファンもいるみたいで、その子は王女に似ている人形を持っている。
俺の人形と同じ様に、ウール似の人形も可愛い……。
俺だけでなく、ウール王女のファンクラブもあるみたいだ。
でも、俺のフンクラブの人達が多いのは何で……?
ウール王女はその子に手を振って、笑顔で答えている。
さすが王族で、流れる様な動作には何の違和感も無い。
俺も、王女を見習わないとな。
一般市民の要望に応えるのも、賢者の長としての務めだよな……、たぶん……。
それに、王女の様に自然に一般市民に対して答えないと。
俺は彼らの方を向くと、満面の笑みを向けて手を振って応える。
「キャー、トルムル様が手を振ってくれたわ!」
手を振っただけで、こんなに喜んでくれるなんて……。
俺はそれから、手を振りながら奇妙な気持ちを味わい……、城に入って行った。
◇
ウール王女とヒミン王女は明日、南にある別の国に移動する。
王女達と、俺の歓迎の晩餐会が開かれた。
ヒミン王女はコーヒーを何杯もお代わりし、眠気を飛ばす為に苦労しているのが目に入った。
ペガサスと同じ様に休む事が出来ないので、王族ってある意味大変。
晩餐会の後、今後の予定を話し合う為に会議室へ。
王妃様の助言で、このサンラース国の王とスイーアル第一王子に協力を仰ぐ事にした。
最初聞いた時は彼等は驚いていたみたいだけれど、最後には納得してもらって、全面的な協力をしてくれると言ってくれた。
王様はご高齢なので、息子であるスィーアル第一王子にこの件は任せると言われる。
会議室にはスィーアル王子にヒミン王女、それにウール王女にエイル姉ちゃん、そして俺が集まった。
ドアの外には秘密が漏れない様に歩哨が4名立っている。
スィーアル王子が書類を見ながら、真剣な声で言う。
「今回のトルムル様の研究に適した人を選びました。
城の最下層にある地下牢にその者達はいます。
死刑が決まっている13人の重罪犯罪者達です。
連続殺人、放火魔、婦女暴行の常習犯達などで、誰もが彼等の死を望んでいます。
一年に一回、公開処刑をする為に彼等を生かしているのですが、トルムル様の研究によって死んでも何ら差し支えありません。
この者達でよろしいでしょうか?」
そう言った王子は書類を俺に見せてくれる。
そこには犯した罪の内容や年齢、更には家族構成なども書かれていた。
事前に聞かされていたとは言え、王子の口から彼等が死んでも何ら差し支えが無いと言われても……。
魔物を殺して魔石に変えてきたけれど、人間は殺した事が無い。
殺すのが目的でなくて、精神をコントロールしたいだけなんですが……?
でも俺の研究によって、精神が狂って死ぬ可能性も否定出来ない……。
気が重いんだけれど、世界を救う為には多少の犠牲は仕方ない。
それにしても、連続殺人、放火魔、婦女暴行の常習犯達の怖い人達が相手ですか……。
平民出の俺は、そんな怖い人達と会った事が無いんですが……?
山賊や海賊達は、生活苦の為にしていたので、根っからの悪者ではなかったし……。
あ……。
この世界に来る前に、通り魔に襲われた事があった。
彼の目は怒り狂っていて、俺のお爺ちゃんにナイフで襲いかかろうとしていた。
とっさにお爺ちゃんと通り魔の間に俺は立ち塞がって、気が付いたら俺は死んでいた。
俺は興奮していて、ナイフで刺された痛みすら覚えていないけれど、彼の狂気は今でも思い出す。
そんな彼と、同類の犯罪人達を明日から相手しないといけないのか……。
「トルムル、大丈夫……?」
俺が書類を見ながら考え込んでいたので、エイル姉ちゃんが心配して聞いてくる。
「だいじょうぶです、エイルねえさん。
そのものたちで、あしたからけんきゅうにはいります」
「今回は極秘事項なのですが、何か起こった時の為に口の硬い警護を二人付けます」
警護を付ける……?
それほど、危険な人達を俺は相手をする事になるんだ。
王子がドアに向かって歩いて行き、外にいる警護の中の2人を会議室の中に招き入れる。
男女1人づつで、女性はアトラ姉ちゃんみたいに背が高くてゴッツイ体をしている。
彼女はたぶん魔法剣士で、腰には装飾が殆どされていない大剣が鞘に収まっている。
鍛えられた大きな胸が目に入って来て、思わずアトラ姉ちゃんの胸を思い出す。
俺と目線があった彼女は、優しい顔に変わり俺に微笑んだ。
彼女は体はゴッツイけれど、優しい人だと分かる。
隣にいる男性は、彼女よりも一回り大きな体をしており、腕の太さは俺の胴体と同じくらい太い……。
しかし、俺と目線が合うと恥ずかしそうな目に変わる。
こんなに大きな体で、恥ずかしそうにするって……。
警護の方は大丈夫なのかな……。
俺が男性を見ていると、俺が心配しているのが分かったのか、スィーアル王子が言う。
「トルムル様、ご安心下さい。
彼は権威のある人の前では萎縮してしまうのです。
しかし、戦闘能力はわが国でも指折りであり、警護に関しては全く問題ありませんので」
権威のある人って……、もしかして俺の事……?
自覚が全く無かった……。
と、とにかく、明日からの研究に没頭しないとな。
世界を救う為、頑張るぞ〜〜!